第四話 女子大生 三浦彩花の秘密 ③
10分程度待つとスプリングコートを羽織った三浦彩花の姿が見える。「お待たせしたました。白川さんって背が高いんですね。どれくらい? 座っているせいで気が付きませんでした」歩きながら話す。
「180ちょっと、そうそう、お小遣いってどれくらい渡せばいいのかな?今、ぶっちゃけ10万くらいしかないんだけど」
「そんなに多くなくて大丈夫ですよ。5万円くらい欲しいかな」腕を絡ませながら言う。生々しい会話、都会の騒音のせいで気にならない。
「まあいいや。奥渋谷あたりでまったりしながら飲む?」
「あの辺りぶらつくの気まずいんですよ。私の家、近くにあるからそこで飲みません?」
「それで構わないなら全然いいけど」
「よかった。じゃあ行きましょう」タクシーをもう捕まえている。
赤山の同級生に遭遇したら洒落にならない。彼女なりの防御策か。いきなり初対面の人間を自宅に招くのはどうも引っかかる。
タクシーに乗り込み、あのマンションに着く。彼女の家は4階、間取りは広めの1DK。部屋に入るなり舌を絡ませてくる。
「臭っていると恥ずかしいから、続きはシャワー浴びてからにしよ」はにかんだ表情で三浦彩花が言う。引っかかっている部分は何かと考えているとシャワーを浴び終え、バスタオルを巻いた三浦彩花が出てくる。
「タオル用意しておいたんで、適当に使ってくださいね」
俺が風呂場から出ると電気も消さずに三浦彩花はベッドで待っている。
三浦彩花に近寄りタオルを剥ぎ、行為を始めようとする。その瞬間。玄関のドアが開く音が聞こえ、男が乱入し、写真を撮り始める。
「おっさん、離婚しそうなのに誰に手を出しているのかわかっているのかよ。殺すぞ、この野郎。まずは俺に対しての慰謝料。あとはこれ奥さんに送りつけたくないだろ?慰謝料たんまり取られるからな。それの口止め料。合わせて500万」
男が強気な声で言いながら、近寄って来る。冷めた目で三浦彩花が俺を見つめている。「カズ君が来なかったら私この人にレイプされていた。飲むだけって約束だったのに押し倒してきて本当に怖かった」恐怖感は全く感じない声で三浦彩花が言う。
小慣れた芝居。「レイプも追加だな。彩花怖かったろ。これも追加して全部で800万だな」嘘の離婚の話は三浦彩花しか知らない。彼女の秘密=美人局
「おっさん、わかっている? この写真ばらまいたらおっさんの人生終わりだからな。とりあえず、財布どこ? もたもたしているとむかつんだけど、びびって声も出ねーの」嘲笑されるのに苛立つ。
財布を渡すふりをして、立ち上がると無防備な男の鼻を殴りつけた。男は顔を抑えている。髪を掴み壁に何回か打ち付け、しゃがみこんだ男の顔に数発膝蹴りを入れる。頭が割れ、血が吹き出てうずくまっている。三浦彩花は何が起きたかわからない顔をしている。
「三浦彩花、確か赤山学院の学生だよな。本当は。実家は横浜だっけ?」数時間前まで話して声とは別の声色で話す。表情が強張り、怯えている三浦彩花に声をかける。
「お前のこと知っているんだよ。この女が」睨みつけ、平手で殴る。
「そのまま股広げて、終わったら四つん這い。ポーズは指定するから」男を起こし、卑猥な写真を撮り続ける。
「お前たちがしたことは立派な犯罪だ。俺のしたことを警察に言ったらお前たちのことも言う。それとこの写真を両親に送りつけて、学校中に流しておいてやる」三浦彩花は涙を流し、メイクがクシャクシャになっている。
パニックで声を上げそうだったので、頬を掴み、彼女の下着を口に入れて黙らせる。男の荷物を漁る。財布に学生証がある。こいつも赤山学院の学生だ。昼間、三浦彩花が話していた男か……。ふらふらになっている男に蹴りを入れる。
「何回こういうことしている?」
「5回くらいです」
「嘘ついたら、埋めるから。本当のこと言え、何回している?」
「本当です。許して下さい、もうしません」
「どれくらい強請った? 店を利用してこんなことしてどうなるかわかっている?」
「店の人なんですか? 本当にすいません。アヤがお金あるサラリーマンって言っていたから、どういうことなんだよ、アヤ」男は間抜けな声で三浦彩花に怒鳴っている。
三浦彩花の口は塞いでいる、うめき声しか聞こえない。
「ガキが調子に乗って、こんなことするから痛い目に合うんだよ。馬鹿が。バレてないと思っていた? あと俺店の人間じゃないから」男が安堵の表情を浮かべた。
「今、店の人間じゃないと思って安心した? そういう態度、大嫌いなんだけど」その表情がかんに障ったので、平手で殴りつける。
「そんなことないです。店の人たちには言わないで下さい。お願いします。何でもしますから許してください」男は涙をボロボロ流しながら懇願している。
美人局をしている店なんて評判が広がったら、信頼はガタ落ちだ。こいつらに対しての制裁は想像を絶するものになる。
「というか、さっきから金の質問に答えてないよな? 謝ってばかりじゃ意味ないから」
「すいません、今まで1000万くらい受け取ったと思います。残っている分は差し上げますから、このことは秘密にして下さい。まだ死にたくないです……」
「わかった。お前の言ったことを信じてやる。強請った金も全部じゃなくていい。半分寄越せ。迷惑料だ。それで今日のことは手打ちにしてやる。あと嘘ついていたらどうなるかわかっているよな?」男は首を縦に何度も振った。
男に金を持って来させると500万ほどあった。250万を頂き、男のスマホにある恐喝の証拠を奪い、ぐったりしている三浦彩花に対しても同様の念を押して家路に着く。疲れた――
タブレットを開く。メールボックスに新着通知。
[タイトル:ミッション『美しい女子大生』をクリア
本文:ミッションをクリア致しました。特典といたしまして、報酬500万円、CP1を差し上げます。]
他に変化した箇所はないか確認。変化箇所はステータス画面とミッション画面。
ステータス画面のCPとミッションクリア数が1ずつ増えている。所持金が12,274,831円。ミッション画面/《美しい女子大生》の横に【完】の文字。
50CPまで貯めるのは単純計算で2日に1回はミッションをクリアしなければならない。途中で降りること=死。500億円を手に入れるか死ぬかのどちらか――
用語解説
奥渋谷 センター街を抜けてから、NHK周辺のエリア。渋谷駅から遠いためか静かでお洒落なお店が多い。