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第二十一話 4月30日の出来事 ②

夕方になり、槇原が経営している工場から従業員たちが退社していく。会社の経営も取引先の大手のコストカットにより、彼の父が経営をしていたときよりも大幅に業績は落ちている。国内で実験に使う試作モデルの受注や取引先の商社が仕事をまわしてくれるかが会社の生命線だ。


 会社の経営もさることながら、槇原はそれ以上に夢中になっている女性がいる。たまたま接待で連れてもらったキャバクラで出会ったミサというキャバ嬢だ。工業高校に通い、そのまま家業についた彼は女性に対して免疫がなかった。ひと目で惚れてしまった彼は彼女を振り向かせるたびに何度にも店に通い、プレゼントもした。


次第に金銭的に通うのが難しくなっていったが、彼は借金をしてでも通った。ミサが言った「キャバクラを辞めたら、槇原と一緒になりたい」という言葉を信じて……。だが、それも限界に来ている。カードローンやらの枠はもう限度だ。ラインにはミサからの営業の連絡。


会いたいという気持ちと金銭の問題で誰もいなくなった工場の事務室で彼はうなり声をあげていた。それでもミサに対する気持ちは変わらなかった。会社の金庫からお金を持ち出し、ミサとの同伴の約束を交わした。


※※※


 自宅にこもりながら、俺は今抱えている3つのミッションの対策を練っていた。猟奇殺人犯のひろみの情報は今として全く掴めてない。ワイドショーではどの番組も話題にしているが、肝心な部分は全く放映しない。同室にいた女性を追っているというくらいだ。


“覗き見くん”で確認してもこれといったヒントはない。阿部愛理も学校と自宅の行き来しかしていない。KBSゲームを始めて、一週間が過ぎようとしている。ゲームのルールはわかったが、弱みがある人間でないと難しい。唯一の救いは比較的にCPをゲットしていることだけか……。

 

 今、抱えている中でクリア出来そうなのはキャバ嬢にハマっているおっさんの件。“覗き見くん”で男と女のやり取りを見ると案の定、男は騙されていた。清純ぶっているが、中身は金の亡者。インスタグラムにはブランドモノの写真。槇原の気持ち悪さを同僚にぶちまけている。


 仮に俺がこの男、槇原に金を上げても借金の返済に使わずにこの女に使うだろう。使われてしまったらミッションクリアにならず無駄使いだ。そうすると女の本性を突きつけて、現実をわからせるのが手っ取り早い。会社のほうも信用会社のデータベースによると評価は低い。他の男と鉢合わせさせるように誘導していくかと考える。


方向性は決まった。あとはタイミングだけ。岡島にこのミサという女とこういう場合、対処法を聞くかと思い、彼の店に向かう準備をする。その前にスマホの確認をしていると斉藤久美からの連絡が来ている。しかも文面的にどうしてもおかしい。


タブレットを開き、ヘルプデスクで“赤ひげ媚薬”についての詳しい説明を聞く。結論としては個人差があるが、7日前後で怠けや集中力の欠落といったなどの症状が始まり、その後症状は悪化し、15日を過ぎた頃から症状が落ち着く。症状をなくす薬はあるが現時点は購入不可。そもそもこの薬は効果が強いので一気に使うのではなく小分けにして使うようだ=アイテムの説明も不親切。


“赤ひげ媚薬”の値段は80万円。斉藤久美に使用をしていたら、破産してしまう。ただ、中毒状態にしておけば役には立つ。幸いお金にはまだ少しの余裕があり、小分けにしておけばその場しのぎは出来るだろう。19時に渋谷に待ち合わせをして返事を返す。岡島に状況を聞くために新宿に移動する。


 岡島のカフェに到着すると客はいない、趣味でやっているような店だが、経営に心配になってしまう。彼の稼いだ金額なら問題はなさそうだが。適当に挨拶をして彼のコーヒーを味わう。相変わらずの旨さ、気を利かせてくれ、一旦クローズにしてくれた。


「仁ちゃんが紹介してくれた子、頑張っているみたいだよ。見てこの出勤の多さ、気合い入っているねえ」岡島はホームページを見せ笑いながら言っている。


「借金だからね、しょうがないんじゃないの? それより悪いね。一旦店閉めてもらって」


「気にしないで、この時間だし、客も来ないし、疲れたよ」サンドイッチを頬張りながら、食器洗いを岡島はしている。


「あれ、出勤をちゃんとしているか聞きに来ただけ? 一応、俺が入っているだから信用してもらいたいんだけどね」


「悪い、それともうひとつ聞きたいことあって、このキャバ嬢知っている? ジャッジに勤めているんだけど」


岡島はスマホの写真を見ながら、記憶を探っているようだ。少しの沈黙の後に手を叩く。


「色恋女だ。この前ナンバーに入ったって他のキャストから聞いた。営業エグくてヤバくなったら、ドロン。転々虫みたいらしいけど、また歌舞伎に戻ってきたのね。でも、どうして? ハマっているの?」


「取引先のおっさんがハマっているんだよね。借金までしちゃって、どうしたら目が醒めると思う? 他の男と遊んでいるところ見ればいいの?」


「ハマり方にもよるけど、多分、上手くかわすよ。言い訳のプロだから。借金しているなら、必ず限界くるからそのときに煽ればいいんじゃないの。女も面倒だけど、モテないおっさんの方が変に純情だから厄介かもよ」


タバコを吸い、コーヒーを飲みながら岡島の話に耳を傾ける。元ホストだけあってアドバイスも的確。転々虫は知らなかった。携帯は解約すれば“情報ファイル”から削除されるみたいだ。


「仁ちゃん、儲け話なら噛ましてよ。ちょっとここ最近怪しいよ」


岡島は冗談交じりの声で俺に問いかける。俺は


「ある意味ね。そうそう、もしこの女も知っていたら教えて」ひろみの動画を上手く切り取った写真を送り、店を後にして斉藤久美の待ち合わせの場所に向かっていく。


 渋谷の待ち合わせの場所に着くと、すでに斉藤久美がそこにはいた。目の下にはクマがあり、周囲を警戒しているようでキョロキョロしている。


「お久しぶりです。お待たせしてしまいましたね。突然の連絡だったので、びっくりしてしまいました。お元気でしたか?」


「来てくれて本当に嬉しいです。突然呼び出してしまって私の方こそ申し訳ありません。あのどうしてもお願いしたいことがあって……」表情が若干崩れて、目がトロンとし、今すぐにでも襲いかかってきそうだ。


「立ち話も何なんで、お店でも入ります? 美味しいお店ありますので」俺が話していると言葉を遮るように斉藤久美は手を握ってくる。発情した動物じゃないかと内心思いながら、言葉を続ける。


「じゃあ、どこか休める場所でも行きましょうか?」そう言いホテル街の方へ進んでいく。ホテル街に入ると殺人事件の現場の規制線が張ってある。一瞬あの映像を思い出し、少し離れたホテルで飲み物に“赤ひげ媚薬”を半分ほど入れ、彼女に飲ませた枕を交わした。


 彼女はさっきまでの顔色の悪さはなくなり、初めて会ったときのような美しさに戻っている。ホテルで出前を頼み、雑談をしているとふと彼女から言葉が漏れる。


「待っているときずっと私のこと見てる女子高生がいてね。顔色悪かったから心配してくれたのかなあ。どこかで見た気がするんだけどね」


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