第十九話 リクルート活動 寺内陽菜の場合 ③
朝起きると、軽く食事だけ済ませてストレスを発散させるようにジムでトレーニングしていた。一週間前の今頃は惰眠を貪っていたのが、まるで嘘かのように今を過ごしている。
本当はこんな無駄なことをしている時間はないのかも知れない――。ただ、少しでも息抜きをしないと精神的にもたない。俺は昔と比べれば、自分では強くなっていたと思っていた。ただ、究極の暴力である殺人をためらないもなく出来る人間を目の前にして、自分の脆さに気がつく。
家に戻り、テレビをつけると昨日と同じように例の殺人事件の報道がされている。警察も一緒に入った女を重要参考人として追っているようだ。
犯罪ジャーナリストがこれは怨恨によるものだと断定したような口調で持論を語っている。確かこういう番組のコメンテーターのギャラは10万円以上だったか、美味しい商売だと思いながら、最新の情報を聞くが、役に立つようなことはまるでない。
このミッションをクリアするためにはまずひろみと言う女を何より見つけないといけない。これが最大の難関。散々と方法を考えているが妙案が全く浮かばない。唸っているとカズ君からの電話が来た。
「お疲れ様です。一通りの診断書を提出して、あの女と話しておきました。一応、100万円で和解するって言っておきましたけど、いきなり示談とかで大丈夫なんですか?」
「通常だと違うけど、多分あの女、保険入ってないでしょ? 反応はどうだった?」
寺内陽菜がこれで追い詰めてられないと何も意味がない。肝心な内容を聞く。
「泣いて謝って、慰謝料のことを話すとこの世の終わりのような感じな雰囲気を出していました。白川さんの言う通り、保険入っていなかったみたいですし、お金、全然持ってそうには見えなかったですからね」これで電話がかかってくれば何とかなるか――。
「ありがとう。昨日言ったようにお金は全部貰っていいから、ただ、必ず治療費はあの女に立て替えさせておいて」電話を切り、“覗き見くん”で彼女の携帯を見る。
彼氏には相談しているようだが、両親には相談はしていない。アイテムの情報通りに親に金銭的な負担はかけたくないようだ。まあ、100万円くらいなら泣きつけば払ってくれそうだが、性格的に出来ないのだろう……。不器用な性格を哀れに感じた。
そんなことを思っていると、電話がなる。寺内陽菜からだった。
「白川さんの携帯であってますか? 昨日、名刺頂いた寺内と申します。アルバイトの件で伺いたいことがありまして」俺は気がつくとガッツポーズをしていた。
「電話ありがとうございます。よかったです。興味持って頂けまして、詳しい話をしたいと思いますが、ご都合はどうでしょうか?」
「なるべく早めだとありがたいです。本日だと難しいですか?」
「本日でも問題ありませんよ。でしたら、新宿の伊勢丹あたりで18時で大丈夫ですか?」
「その時間で問題ないです。あのよろしくお願いします」寺内陽菜の今でも消えいりそうな声で電話が終わる。
岡島に連絡を入れ、段取りを開始する。正直、どんな仕事でも彼女がやってくれさえすれば問題はない。下手に時間をおいてしまい、考える時間を与えてやっぱり止めたとなってしまったらこれまでの努力が水の泡。客を取らせることだけが最大の目標。
このミッションがクリア出来れば、手持ちのミッションの数はふたつ。タブレットのマップを見ると、銀座と上野にマークがある。どんなミッションかは現段階ではわからない。ただ、無闇に増やすのは危険、ミッションをクリアしないと終わらない。
俺は意を決して銀座に向かう。到着すると祝日だけあって人通りが激しい。タブレットを見ながら、マークを確かめ進んでいく。目印であるタブレットの振動が出て、カメラに切り替えると今回のターゲットが判明する。
見た目は俺より少し上のおっさん、残念ながら、頭髪は少し薄くなっている。その風貌に似合わない女とブランドショッピングしたのか楽しそうに歩いている。両方の写真を撮り、横をすれ違うとミッションが発生した。
《身の丈知らず》クリア条件/対象者の借金の返済
届いたメールを確認すると、クリア条件に頭を捻る。このゲームは相手を助けることなのかそれとも地獄に叩き落とすのか俺=プレイヤー次第。情報料として10万を払い男の情報を得る。
氏名:槇原太一
年齢:30才
職業:槇原製作所/取締役
住所:東京都大田区○○
電話:xxx-xxxx-xxx/xx-xxxx-xxxx
その他:家業を継いで2年、結婚前提の交際相手あり、童貞、借金450万円……etc
“覗き見くん”でやり取りをチェックすると隣に一緒にいる女とのやり取りしかない。内容は傍から見ればキャバ嬢と鴨客との会話そのもの。女に対して免疫がないせいか完全に色恋営業の術中にハマってしまっている。今日もブランド品目当てで祝日に店外デート……。それより見た目とは裏腹に俺より年下なのかそれが驚きだ。
槇原製作所をググってみると所謂町工場、特別な技術もなくこのご時世では経営は厳しいことが予想される。俺がエンジェルのように現金を渡せばミッションはおそらくクリア。あとで調査会社の評価を確認しておくか。そうしている間に寺内陽菜との待ち合わせの時間が迫ってくる。
まだ少しだけ明るい空を見ながら、待っていると彼女の姿が見えてくる。相変わらずの辛気臭いルックス。声をかけるとカズ君が言っていた通りに表情が暗い。説明事項があるのでという理由で岡島の店に移動する。
店に着き、岡島のことを紹介して本題のバイトの話に移ろうとする。寺内陽菜は緊張からかシャツの脇の部分にシミが出来るほど汗をかいている。まずは穏やかな口調で岡島が説明をする。
「変に誤解されるとお互いのためにならないし、正直に言うね。今、紹介しようとしているバイトは水商売、風俗系。具体的に言うとキャバクラだったりデリヘルとかかな」
寺内陽菜は想像していた通りという顔付き。さらに説明は続く。
「短期間で稼ぎたいんだったら風俗系、お小遣い程度でいいんだったらキャバクラだね。もちろん、強制はしないし、選ぶのは君の自由」そう言って話を締める。
「あのお金ってどれくらいもらえるんですか?」か細い声で彼女が質問する。
「それは君の頑張り次第だけど、風俗系なら月で40万以上は確実。キャバだともう少し下がるね」
「他のこういった求人だともっと高い給料もらえるみたいなんですけど……。違いとかあるんですか? あと出来れば時間に融通きくとありがたいです」
「うーん、ああいった求人ってまずは面接に来てもらいたいから本当に頑張った人の給料体系載せてるんだよね。それとキャバだと罰金やノルマもあるし、時間の融通は厳しいかな。それに初めてだと特別に綺麗とかじゃないと中々高い時給出さないよ」
岡島としても俺としても何とか風俗を選んでほしいのが本音。彼女はうつむいたまままだ考えている。こんな決断をあっさり決めるタイプじゃない。タイミングを見計らって切り出す。
「もし、今日決めてくれるなら、前金として50万円はこちらから支払うよ。ちゃんと身元がわからないようにするし、客の質のいい店だから、悪くはないと思うけどまずは体験入店という形で働いてみないかな?」そういう言いつつ50万円を目の前に出す。
目の色が変わり、やっと彼女はお金を受け取り頷いた。善は急げと岡島は彼女を連れて大塚にあるデリヘルへと向かった。あとは客を取るだけ。今日のミッションの金策をどうしようかと考えつつ、店で時間を潰していると岡島が帰ってきた。
「仁ちゃん、なにかやっているの? あのレベルの女にお金まで払って。ぶっちゃけ、赤字で回収出来るとは思えないんだけど、弱みでもあるの?」
「まあ、色々と抱え込んでいてね。岡くん、今日はありがとうね。働いてくれることが大事だってことかな」少し気が緩んだせいか余計なことを口走りそうになる。岡島は不思議そうな顔をして笑っている。
バイブ音が鳴り、タブレットを確認すると新着のメールが届いている。
[タイトル:ミッション『リクルート活動』をクリア
本文:ミッションをクリア致しました。特典といたしまして、報酬500万円、CP2を差し上げます。]




