第二話 女子大生 三浦彩花の秘密 ①
時間に余裕があるせいか気持ちよくベッドから起きられる。納豆に卵を混ぜた白米を喰らう。野菜ジュースを飲み、朝食はおしまい。
今日からゲーム開始。早速、タブレットの電源を入れ、マップアイコンを表示。昨日と地図上のマークの位置が違う。時間帯によってミッション発生条件が違うのかもしれない。ちゃっかりと昨日、買ったアイテム分の金額が所持金から引かれている、当たり前のことか。
とりあえず、自宅から一番近くにマークがある場所に向かう。そこはミッション系有名大学の赤山学院――駅から数分歩き、到着。新年生が入学したばかりかキャンパスは初々しく賑わっている。おっさんが歩いていても何とか浮いてはいない。
タブレットのマップを見ながらマークに向かって歩いていく。突如、タブレットが震えだす。さらにマークに向けて進む。バイブの振動が強くなる。前から歩いて来たひとりの女とすれ違うとバイブの振動が止まった。
さっきまであったマップ上のマークもなくなっている。いまいちゲームの進め方がわからない。インターフェイス画面に戻ると、ミッションアイコンにメッセージが届いたように1と記入されている。触れて中身を確認するとミッションが発生している。
《美しい女子大生》クリア条件/対象者の秘密の入手
人とすれ違っただけでミッションが発生したんだ? これは公園や施設などを利用したゲームじゃないのか? 直感的に危険信号が鳴り、思考が一瞬飛ぶ。眩暈/質の悪いドラッグをキメてバッドトリップした感覚。思考を戻す。
急いでスマホから銀行口座を確かめる。ひとつの口座からちょうど200万円がなくなっている。またバッドトリップした感覚に戻る。ゲームで口座登録もしていない。手元にもカードはある。不正があれば銀行からは連絡はくる。問合せをしても不正は見つからず。
大学に着いてからおよそ30分程度。泥酔して起きたら隣にオカマが寝ていたほうがリアリティがある。こんな非現実的なことが起こり得るのか。ただ、ゲームでアイテムを購入し、その金額がそっくりなくなっている。しかも、得体の知れない方法で……。
ゲームの説明に現実とリンクしてあると記載していたが、本当なのか――
本当だとするとクリアしないと100日以内に死ぬのか――
ゲームクリア報酬の500億円は実際に手に入れられるのか――
深呼吸をして冷静さを取り戻す。まずあの女を見つけ出す。顔はおぼろげながらしか覚えていない。目印はルイヴィトンのバッグ。
時刻は正午過ぎ。来た道を戻る。あの女がどっかの建物に入ってしまったら見つけ出すのは難しい。大学の出入り口も複数あるから待ち伏せも厳しい。賭けとして食堂に向かう。
時間も相まって学生が多く、人を探すふりをして食堂内を見渡す。耳障りなほど会話が聞こえる。
いた――友人らしき女たちと食事をしている。見える距離の椅子に座り、彼女を観察しながらタブレットのショップアイコンに触れ、あるアイテムを思い出す。
“商品名:情報ファイル 価格:100万円 アイテム説明:カメラで撮影したモノの情報がわかります。”
情報はなるべくあった方がいい。今のままでは彼女の名前すらわからない高額だが購入するしかない。昨日と今日で300万円の出費。
無音のシャッターだったおかげで彼女の撮影は完了。すぐさま情報の確認をする。インターフェイス画面にフォトアイコンが新しく追加され、タッチをする。撮影した写真が保存されている。
彼女が写っている部分に触れると“情報料:20万”と表記。金ばかりかかる……。すると食事を終えたのか彼女たちが席を立つ。情報がゴミの可能性もあり得る。つけていくと彼女は食事のときにいた友人たちと講義を受けるようで教室に入っていった。
適当なベンチに座り彼女の情報を見る。これで情報がゴミだったらお先は真っ暗。情報料を払うと画面が切り替わる。
氏名:三浦彩花
年齢:20才
職業:学生
住所:神奈川県横浜市青葉区○○
電話:xxx-xxxx-xxx
しかも、タレントの宣材写真のように真正面の顔、全身、横顔が表示される。これが本当なら探偵に頼むより早い。三浦彩花が講義を終えるまで時間は90分。近くに歩いている女を撮影してみる。“情報料:10万”人によって値段が違う……。
氏名:加藤詩織
年齢:21才
職業:学生
住所:東京都杉並区○○
電話:xxx-xxxx-xxx
先ほどのように画面が切り替わり、ガセかどうか確認するために加藤詩織の番号にかける。電話を取る仕草をし、無視している。情報は本物――あり得ない状況のオンパレードでアドレナリンが止まらない状態。
喫煙所に移動し、メビウスを吸いながら今までの出来事を整理。
・ゲームで支払ったお金は現実で使ったことになる。
・ミッションは実在の人物がターゲット。
・どういう原理か不明だが、アイテムは本物。
ようやく頭が落ち着いてくる。三浦彩花の秘密とは何だ? タバコは2本目に突入。20才前後の女の秘密=風俗/AV/薬物? スマホの地図アプリで彼女の住所を検索し、家を見る。
ごく普通の2階建ての一軒家。地域柄も考え、三浦彩花の家庭環境はアッパーミドルクラス。赤山学院なら普通レベル。吸い終わったタバコを灰皿に入れ、彼女が講義を受けている教室の近くに移動する。
講義が終わるまでもう少し時間がある。三浦彩花の名前で検索すると彼女のSNSが見つかった。友人たち遊んでいる写真や食べ物と夜景やらが数十枚アップされている。今どきの女子大生ならやっていて不思議でもない。
写真を見ていると違和感をおぼえる。夜景の写真のいくつかがおかしい。どれも都内の一等地を見下ろしている。高級ホテルやタワーマンションの上層階ではないと撮れない写真。
情報を組み立てていく、彼女が持っていたルイヴィトンのバッグ。今シーズンの新作。確かパンプスはクリスチャンルブタン。どれも高級ブランド、三浦彩花程度の学生が出来る生活ではない。
講義が終わったのか学生たちがゾロゾロと教室から出て来た。その人混みの中には三浦彩花と友人たちもいる。講義を受けたときには女友達しかいなかったが、講義後には男がひとり混じっている。傍から見ればありふれたキャンパスライフ――
少し談笑し、三浦彩花と男がグループから離れ、そのまま大学の校門まで歩いている。視界から逃さないように追っていくと三浦彩花は笑顔で手を振りながら男と分かれた。そのまま三浦彩花を着いていく。傍から見ればストーカー。
大通りに出ると彼女が手を上げている。タクシーを捕まえる気だ。すぐに捕まり、俺も後を追うようにタクシーを拾う。ほぼワンメーターくらいの距離でタクシーが止まり、降りるのが見える。それを見て降りる。短い距離だったせいか、タクシーの運転手は不満顔。
三浦彩花は少し歩き、マンションに入る。アイテムで得た情報とは全く違う場所。この界隈のマンションなら最低でも家賃は15万円以上。写真を撮っておく。マンションはオートロックでこれ以上入れない。男の家かパトロンから与えられたかは不明。ただ、収穫だ。
用語解説
バッドトリップ 薬物などを使用して気分が落ち込んでしまう現象。
アッパーミドルクラス 中流階級の中でも上の層の家庭。
クリスチャンルブタン 高級靴のブランド。裏底が赤く塗られていることで有名。価格は10万円前後から。