第十七話 リクルート活動 寺内陽菜の場合 ①
懐かしいことを思い出したと心の中で思いながら、新宿三丁目に迎えっていった。日曜日ということもあり、特にアルタ前あたりはごった返している。羽を伸ばしている人々を横目に三丁目に向けて進んで行く。
タブレットを見ながら、ミッションの発生の場所を確認するとファッションビルの中にターゲットがいることがわかった。フロアの大きさ、買い物客の人数を考えると特定するのには手間がかかる。適当な場所に移動し、動きを把握しながらミッションを発生させるのが上策。
大通りの脇道に入り、地下にあるカフェ[プライス]で時間を潰す。ここは友人の岡島直光がオーナーを務めている店。店に入ると新宿の喧騒とはかけ離れた静けさが落ち着く。軽く挨拶をしてオススメのコーヒーを注文する。
「お待ちどうさま、これはエチオピア豆のコーヒーでラベンダーのような匂いが特徴。仁ちゃんの好みに合うと思うよ」
「ありがとう、ここのコーヒーは絶品だわ」昨日の嫌な記憶を一瞬だけ忘れさせてくれる。
岡島は歌舞伎町で売れっ子だった元ホスト、年齢も俺と同じ。年齢的に仕事が厳しくなり、コーヒー好きが興じて次の仕事も兼ねて店を持つこととなった。夜はバーに変わるのだが、どちらかというとそちらのバーの方が流行っているらしい。
「疲れた顔しているね。仕事関係? ゆっくりしてくださいな」優しい言葉が身に染みる。
テーブルに座りコーヒーを飲みながら、タブレットとのにらみ合い、マークが移動する様子はまだない。
2杯目のコーヒーを飲みながら、頭の中を整理していく。ミッションの期限とペナルティはわかった。ここで問題になるのが、期限が設定されているのだから、期限内にクリア出来るように設定されているかどうか。ヘルプデスクに問い合わせたが、[現時点では回答は出来ない]という返事。
今までのミッションは期限内でクリアしてきた。どれも方法を思いつき、倫理観を無視さえすれば、誰でもクリアすることは出来る内容。仮説として考えたのは、どんなミッションでも期限内にはクリア出来る仕様となっているケース。最悪なのは今までがたまたまで基本はクリア不可能でゲームオーバーが当たり前のケース。後者ならおそらく近いうちに詰む。
頭の中でぐるぐると思考していると、ミッションマークが微かに移動している。会計を済ませ、店を出る。
「あとで聞きたいことあるから、岡くん、また来る」そう言いあとにする。
ファッションビルの付近で待っていると、タブレットの振動が強くなっている。カメラ画面に切り換えると100メートル先にミッションマークが頭上にある人物が見えた。小走りでその人物に近づくと振動が止まる=ミッションの発生。メールが届く。
《甘っ酸っぱい恋》クリア条件/対象者の恋愛の成就
殺人からキューピッド役と落差が激しすぎる。急いで“フェロモン香水”をつけて対象者に声をかける。対象者が振り向く、あまりの若さに驚く。おそらく10代半ばから10代後半。
「久しぶり! この前ライブ見に来てくれたよね? 確か……」俺が喋ろうとすると冷たい反応が返ってくる。
「興味ないんで」一言だけ言い、新宿駅に向かって去って行く。
一目で未成年とわかる女に声をかけるキャッチやスカウトはいない。ナンパだとわかる前はこの方法なら少しは立ち止まる。ましてアイテムの力を得ている。それが全く効果も発揮しなかった。不思議と思いながら、写真だけ撮り、岡島のカフェに戻る。
「お帰り、ちょっと早かったね。さっき座っていた席空けておいたままだから、どうぞ」
「助かるわ。オレンジジュース貰っていい?」手を上げ岡島が作り始める。
“情報ファイル改”での情報料は15万円。必要経費として支払う。
氏名:阿部愛理
年齢:15才
職業:栗山女子学園1年生/園芸部所属
住所:東京都世田谷区○○
電話:xxx-xxxx-xxx/xx-xxxx-xxxx
その他:ファッション好き、現在片思い中、年上が好み、性格は内気、男性が苦手……etc
予想通りのティーンネイジャー。“覗き見くん”で携帯の中身をざっと見るが、恋愛の対象になるような相手とは連絡を取り合っている様子はない。むしろ同級生と部活の先輩くらい。写真も少なく、友達と撮っているとの部活関係だけ。男と写っているのは1枚もない。
恋愛対象を俺にしてしまえばミッションはクリアだが、あの対応では難しい。男性が苦手だとしてもあの反応は引っかかる。内気ならおどおどするのが普通な反応。また自然とため息が出て、頭痛もするので鎮痛剤を飲む。
「相当疲れているみたいだね。顔がヤバイよ。そうそう、さっき聞きたいことあるって言っていたけどなに?」
「ちょっと重い日々ばかり続いてね、やっぱり疲れ出ているか。ごめん。聞きたいことって風俗関係だけど大丈夫?」岡島の表情が一瞬鋭くなり、すぐに温和になる。
「答えられる範囲ならいいけど、ぶっちゃけ、仁ちゃんのほうが詳しくない?」
「いやいや、働きそうな子がいてね。女子大生でルックスは中の下くらい、スタイルは普通。どう?」
「女子大生なら若いから問題ないよ。高級店は多分無理そうだけど、普通のデリヘルとかでいいなら余裕で紹介は出来るかな、写真ある?」タブレットからスマホに移した写真を見せる。
「思ったより酷いな、でもこれくらいならメイクさせてやれば何とかなるよ。稼げるかは本人次第だけど、キャバからAVまで全部オッケー。デリヘルがこのレベルなら稼げると思うよ」
「ありがとう。本人がまだ決めかねていて、これからってところだからさ。とりあえず、需要がありそうなら一安心かな。決まったら岡ちゃんに連絡入れればいい?」
「それでいいよ。すぐ働けるところ用意しておくから、関係ないけど、渋谷のラブホテルで殺人あったらしいから、仁ちゃんも気をつけな」昨日の光景がフラッシュバックする。
お礼を言い寺内陽菜がいる場所を確認し、ある人物に連絡を入れ、薄暗くなった街に溶け込んでいった。




