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第十三話 パラフィリア・ナイト ②

 フロントの従業員が急いで警察に電話をかけている。パニックになっているせいか何を言っているのかさっぱりわからない。騒ぎを感づいたのかもう一人の清掃員も駆けつけてきた。


 現場を見た瞬間に壮大にゲロをぶちまけている。昔、ビール瓶で殴られて血が止まらなくなった事件を目の前で遭遇したこともあるが、そんなものの比ではない。部屋は血、血、血。ベッドには血溜まりが出来ている。


初めての経験と血の匂いにおかしくなりそうになりながらも、男に寄っていく。腹部に無数の刺し傷、視線を移動し、顔を見るとまた胃液が逆流してきた。右目の眼球が押し潰されている。悪寒/吐き気/眩暈めまい/酩酊/素人が見ても確実に殺人事件とわかる。


何とかタブレットで撮影をする。ふらつきながら部屋の外に出ようとする。フロントの従業員はパニック状態が継続中、泣き声になっている。清掃員の中国人二人組は揃って部屋から出て、何か話している。


 部屋を出ると、他の客たちがちらほらとこちらの様子を窺っている。興味本位か部屋を出て303号室に向かっていく男と肩がぶつかる。悲鳴が上がる――元の部屋である302号室までに戻るまで、数十分もかかったような感覚。


 トイレに向かい、便器に向けて吐く。そのまま便器の前に座り込む。タブレットには新着メールが到着、ミッションのスタートの狼煙。洗面台に行き、顔に水を当てる。まだ、頭から殺された男の姿が離れない。警察が来て余計なことを聞かれる前にホテルを出たい。


別個の事件とはいえ、2日続けて事件に巻き込まれるというのは不自然すぎる。バッグを持ってそそくさとホテルをあとにする。246号線近くでタクシーを拾い、茫然自失のまま自宅に戻る。


 自宅に帰るとそのままベッドに倒れ込む。脳内に呪文のようにミッションがぐるぐるまわる。今まではミッションは探偵のように証拠を掴み、クリアしていくものだった。ただ、今回のミッションは違う。


殺人事件を解決しろ――情報を含め、警察関係者ではないと手に入らないことが多すぎる。このミッションは見送ったほうがいいのかも知れない。そんな考えがよぎる。


受注の確度が薄いものに力を入れてもしょうがない、営業マンの鉄則。気になることがあった。ヘルプデスクをタッチ、 “情報料100万円”と表示される。これを把握していないと今までの戦略が根底から覆る可能がある。しぶしぶ支払う。回答――


ミッションの期間制限:発生してから30日以内にクリア出来ない場合は自動的に失敗となる。また、条件により、この30日以内より短くなることはある。失敗した場合はペナルティとして報酬として得られる分のCPが引かれる。


 やはり制限はあった。しかも30日以内……。ペナルティの存在は予想の範囲外。ミッションをスルーすることは出来なくなった。しかも、クリアするまでCPがどれくらいになるかわからない、CPが高いミッションを失敗すると事実上、早期に詰むこともあり得る=死。


10日ごとに起こる査定というのもゲームクリアの見込みがないと判断されたらその場でゲームオーバーというペナルティというもありかねない。ヘルプデスクに査定について質問すると“情報料1000万円”。クリア報酬と脅して奪い取れる額を上手く塩梅している価格。


 つい大きなため息をしてしまう。ミッションに関してはランダム要素が強すぎる。やはり今までのミッションをクリアが出来たのは難易度が低かっただけの幸運の賜物――おそらく攻略情報を見れば報酬などもわかると思うが、いかせん情報料金が高すぎる。


まずは今出来ることは殺された男の情報を知ること。“情報ファイル改”で調べる。男の写真を見る。正視しているのも辛い、まるでインターネットで転がっているメキシコマフィアのグロ画像そっくり。そして、“情報料80万円”に驚く。これもなにか基準がある……。


氏名:辻壮介ツジソウスケ

年齢:42才

職業:ゴールドシュミット証券株式会社/投資銀行部門ヴァイスプレジデント

住所:東京都湊区○○/東京都練馬区○○

電話:xxx-xxxx-xxx/xx-xxxx-xxxx/xxx-xxxx-xxxx

その他:19xx年東都大学卒業後、レッド証券株式会社に入社、20xx年ゴールドシュミット証券株式会社に入社、副業として不動産投資やベンチャー企業支援に注力、非常にプライドが高く社内に敵が多い、既婚、娘がひとり……etc


 しかし、外資の金融大手に勤めていてしかも役職付けの男がこんな無残な死に方をする。9割以上の確率で同室にいたもの犯行というのは間違いない。あれだけめった刺しにしていることから、殺された男、辻壮介に強い恨みを抱いて人物。


“覗き見くん”で携帯の中身をチェックする。ラインを見ていると水商売関係の女とのやり取り、ただ、どれも営業の誘い。あとは友人と職場の同僚と思われる人たち、交友関係は広め。特に修羅場になっているような内容はない。


メッセージは今日の16時以降からは一切既読がついていない。フロントの従業員の話も含めて考えると16時から俺がホテル到着する1時間前ほどに殺されたのが有力。ホテルの部屋に入ってから殺害現場の部屋から出ていたものはいない。


最後に連絡を取っている14時過ぎに吉川英雄という人物から電話を受けている。電話の履歴を見ていると頻繁にこの名前が登場する。妙な違和感を覚える――この吉川英雄という人間がラインには登録されていない。


 普通、吉川英雄が仲のいい友人なり同僚だとしてもメッセージのやり取りはする。していない方がおかしい。都度メッセージを消しているのか、関係性が怪しい。嫁さんに携帯を見られたときの言い訳のためのフェイクの名前? 疑わしい人物の現在の最有力候補。


どういうわけか電話番号にも見覚えがある。その理由は簡単だった“情報ファイル改”に乗っていたもうひとつの携帯番号と同じ――警察はホテルについている監視カメラのデータも押収する、携帯電話の探知も出来る、科学捜査もお手のもの。


何よりこれほどの人物が殺された、人員をかけ早期に解決に導く。逮捕されてしまったらミッションクリアは難しい。ペナルティのこともある。当面の目標は警察より早く吉川英雄の居場所を見つける。それしかない。


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