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第十二話 パラフィリア・ナイト ①

 寝すぎたと感じながら、ベッドから身体を起こし時計を見る。15時――シワでよれてしまったスーツを脱ぎ、部屋着に着替える。タブレットの電源を入れ、新着情報を確かめる。メールボックスに新着が1通。


[タイトル:ミッション『おかしな社長』をクリア

本文:ミッションをクリア致しました。特典といたしまして、報酬1000万円、CPクリアポイント3を差し上げます。]


今回は報酬も今まで比べ高い。


所持金25,121,103円

CP5

ミッションクリア数3

達成目録数2

アイテム数5

プレイ時間4日14時間34分


 ゲームを始めてから5日以内で目標の10分の1まで達成。このペースで進んでくれれば、期限内に終わらせることが出来る。ただ、500億が手に入るゲームがスムーズに進んでいくはずがない。


今までミッションをクリア出来たのは幸運が続いたと考えるのが妥当だろう。気がつくと逆算をしてスケジュールを作り始めている自分がいる。命がかかっているのにやっていることがサラリーマン時代と全く変わらない。


アイテムショップを開き、まだ購入していない“追跡くん”と“情報ファイル改”を買う。そして、使用した “赤ひげ媚薬”もついでに注文する。合わせて1000万円を越える買物だが、今は金銭的にも随分余裕が出てきた。


 もし、アイテムがなければどのミッションもクリアするのに時間を取られていた、如何に効率よく使えるかが攻略の糸口。バイブ音がし、メールボックスに新着メール1通届いている。


[タイトル:達成目録『顔見知り』

本文:ヘルプデスクが利用出来ます。]


インターフェイスに【?】と【T】マークのアイコンが増えた。まず、【?】マークをタッチするとチャット画面に移る。


 こちらが質問をすると返してくれる。これがヘルプデスクのようだ。問題点は回答を得るのにこれもまたお金がかかること。今あるミッション攻略の手口の料金は1000万――これは最終手段。気になったことを聞く。100万の情報料。


ミッションの発生条件:タブレットを保持していないとき、または電源が入っていない場合、ミッションは発生しない。ただし、ゲームの進行時間は止まることはない。


わかったことで戦術の幅が広がる。強制的にミッションを発生することを防げること、まだ、自身の能力を伸ばす余地があること。他のアイテムも試してみる。


【T】マークは“追跡くん”写真を撮影したモノの位置がわかる。とりあえず、まだ終わっていないミッションのターゲットの寺内陽菜の写真をドロップさせる、これはお金が発生しない。


 するとマップ画面に切り替わり、位置がわかる。どうやら、今は北区の家にいるようだ。動きはない。画面をスライドさせると、個人情報の画面になる。 “個人ファイル”に情報関連は紐付いている。“情報ファイル改”によってどれだけ情報が増えてかチェックする。


氏名:寺内陽菜テラウチハルナ

年齢:22才

職業:高田大学4年生。演劇サークル所属/ハイソン王子店にてアルバイト

住所:東京都北区○○/福島県福島市○○

電話:xxx-xxxx-xxx/xxx-xxx-xxxx

その他:奨学金にて入学、弟の大学入学と同時に仕送り額が減り金欠、バイトの掛け持ちを検討中……etc


改めてこのゲームの異様さを実感し、画面に見入ってしまう。個人情報だけではなく個人の抱えている内面的な問題もわかるようになっている。これでこのゲームの裏技が確信的になった。


【金が足りなくなったら脅して奪い取れ】


 シャワーを浴び、ミッション発生させるための行動に移る。マップを開くと近場の渋谷にマーク。渋谷だったらちょうど確かめたいことに最適な場所だ。


寺内陽菜に関してはまだ内定が出る時期ではない、甘い考えかも知れないが少しの猶予はある。サンローランのサファリジャケットをカットソーの上に羽織り、ヤコブコーエンのジーンズ、トッズのシューズ履き出かける。


 渋谷に到着、初夏が近くなっているせいかまだ明るい。実験を始める、宮益坂あたりでまずはナンパを開始。50人程度に声をかけたが、成果はなし。妥当な結末だ。次に“フェロモン香水”をつけてナンパをする。


つけてみると今回は無臭。斎藤久美や清水で試してみた結果、匂いは相手の好みによって変化するのは確定。とりあえず、同じくらいの女に声をかけまくる。結果は10人と連絡先の交換が出来た。


確率にして1割、アイテムと魅力のアップの効果は出ている。顔見知りになれば斎藤久美と同じ方法で落とせることを把握。確かめたいことはわかった。


 マップを開き、ミッションのマークが付いているところに向かう。場所的には円山町。クラブとラブホテルが密集している地域。ここを抜けると歓楽街から松濤の高級住宅街になる変わった地区。


私鉄系デパートの本店のベンチに座って位置を絞る。近くのコンビニの前にはケバい女とそれを見張る男=援デリ業者。夜に近くづくに連れていかがわしさが出て来る。場所は完全にどこかのラブホテル、立ち上がり、坂を上がりホテル街に入っていく。


 円山町は昔、岐阜県かどこかでダムを作る際に沈めた村の住人のために国が用意した土地と聞いたことがある。その名残かホテルのオーナーがそちらの地域の出身が多いらしい、誰かが言っていたことをふと思い出す。


汚いホテルもあれば改装したばかりホテルもあり、アラサーくらいのカップルが入っていくのが見えた。早い時間から元気だ。マークを頼りに進むとミッション発生場所のホテルを発見し入る。


 ラブホテルは条例の関係で建て替えが出来ないからリフォームだけ、内装はそこそこ綺麗。4階建てでラブホテルの特有のタッチパネルを適当に押す。部屋番号は302、値段は7,800円。受付で支払う。


 部屋で囲まれていてはミッションのターゲットがどこにいるかはわからない。振動を頼りにエレベーターに乗る。3階で強くなる、選んだ部屋の近くでありがたい。廊下を歩き部屋番号を確認する、隣の303号室で反応が一番強い。


 まず302号室に入室、10畳ほどの部屋にトイレと風呂は別、ソファーに座り一服。時計を見ると19時になる手前。ターゲットは3時間弱くらい部屋にいるのか、そろそろ出てもおかしくない。


入り口の扉の前で聞き耳を立てる。30分ほど経っても出る気配はない。移動し、壁に耳をあて隣の部屋の物音を探る。聞こえるのはかすかなテレビの音だけ。


待っていると1時間は経っている、マークの位置に変化はない。泊まりにでもなったら一日が潰れてしまう。内心焦る。タバコの本数だけが増えていく。


 寺内陽菜の攻略の作戦を考えながら、扉の前で待つしかすることはない。ふと廊下から隣の部屋にノックする音と女の声が聞こえる。ひっそりと扉を開けると困った様子のフロントの従業員と清掃係の男が303号室の扉の前で立っている。


「もう3時間も延長しているのに、電話も出ないんですよ、ここのお客さん。マネージャーに連絡したらリュウさんと一緒に確認してほしいって言われて、鍵貸してくれませんか?」


「なに? 扉開ける? お客さんいるよ。鍵これ」中国人のようで日本語がつたない。


「ありがとうございます。ついてきてください」フロントの従業員は恐る恐る扉を開け部屋に入る、中国人は面倒くさそうな表情。


「ギャー! ギャー!」男女の入り混じった初めて聞く叫び声。急いで扉をあけて隣の部屋に向かい、部屋に入る。異様な匂い、ベッドには血まみれになって倒れている全裸の男。白いシーツは真っ赤に染まっている。血の気が引き、嘔吐しそうになる。


「警察に電話。早く」俺は精一杯に叫ぶ。タブレットのバイブが止まる。


《昼間の立ちんぼ》クリア条件/対象者の救済


用語解説

援デリ 出会い系アプリなどを利用し、素人の援助交際かと思わせておき、裏ではちゃっかりと男性が管理し、風俗崩れのセミプロが多い。違法です。

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