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運命的な恋愛~The Worst and Beloved~  作者: ハルカ カズラ
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最悪の出会い方

恋愛と料理を組み合わせて書いてみました。

第1話 最悪すぎる男


 

 『シェアハウス・ハピネス』


 大学卒業後、しばらく就職浪人していた私は職を探しながら街を歩いていた。そんな時、目に留まったのは小さな洋食店。


 ここでこんな美味しい料理に出会うなんて――


 しばらくそのお店に通っていた私は想いを募らせた。美味しい料理を作ってくれる人と一緒になりたい―

 そんな夢を持ちながら家に引きこもってしまっていた。私を見かねた親が突き付けてきたのは、“自立”の二文字。資金を出してくれたものの、家を出ることになってしまう。


 アラサーに足を踏み入れだした私が、知らない人たちと同居することになるなんてこの時は思わなかった


 シェアハウス――


 まさに私にとっては夢のような住まいに見えた。交通の便も悪くない、6階程度の高さのマンション造りで明るめの外壁。今日からここが、私の家なんだ! 優しい人に出会って、幸せになりたい。


 指定された自分の部屋に向かう私の足取りは軽やかだ。靴をボックスにしまって、目的地に向かおうとする私の視界に、数人の女性に囲まれた男性の姿があった。


 え……なに、あれ?


「はいはい、順番に。俺の作ったご飯食べたい女の子は名前と年齢教えてね」


 偉そうな態度と口調なのに、整った顔立ちだからかむしろ顔を赤くして群がる女性達。うわ……ああいう人、無理。早く部屋に入って準備しなきゃ。急ぎ足で通り過ぎようとする私に、突然声がかかる。


「あれ? 新人ちゃんかな? ちょっと待ちなよ」


「え? な、何ですか?」


「君……! ほ……惚れた! よし、今日から俺の特別な彼女に決定!」


「は? 意味がよく分からないんですけど……」


 っていうか、いきなりそんなこと言われても正直言って、迷惑。せっかくいい気分でシェアハウスに来たのに意味不明な言葉を発する男を睨むわたし。


 無視を決め込んで、廊下を進むと身勝手な声が放たれた。


「おいおい、俺の部屋はそっちじゃないぜ」


「私はあなたの相手をする暇なんてない」


 あなたの周りにいる彼女たちと話をしていれば?


「そう怒るなって! これからお前にとって幸せな日々の始まりなんだぜ?」


 この男のセリフと声を聞くだけで、腹が立ってきた。


「うざ。ってか、キモイんですけど? 悪いけど、話しかけないで」


 女の誰もが顔だけの男に付いて行くと思ったら大間違い! 我慢できずに本音と怒りをぶつけてしまった。沈黙する空間。


「はははっ! 益々気に入ったぜ。ぜってぇ、彼女にしてやる!!」


 首を何度も横に振りながら、逃げるように廊下を急ぎ歩く。様子を見ていた入居者の人が近寄って声をかけてきた。


「あ、君、ちょっと待って」


「え?」


「今日から一緒に暮らす方ですよね?」


「男を代表してごめんなさい。悪い奴じゃないけど、気をつけて」


 優しそうな年下の男の子という感じがして、さっきまでの怒りを忘れて顔がほころんだ。


「あ……ううん、謝らないでくださいね。これから、よろしくお願いします」


 言葉を交わし終えて、自分の部屋のある6階へエレベーターで向かった。扉を出てすぐ近くの部屋で手招きしている人がいる。


「こっち、入って!」


 力強い口調で、部屋の中へ招いてくれている女性のその声に甘えて部屋に入った。


「大変だったようだね。でもここは男が入って来られないから平気」


「あ、はい」


 ホッと胸をなで下ろして、気付くと部屋の中には数人の女性がくつろいでいた。


「わたし、西尾雪乃にしおゆきのよろしく! あいつ、わたしの弟なんだ。愚弟でホント、ごめん!」


 申し訳なさそうに、両手を合わせて頭を下げる女性。


「頭を上げて下さい。わたし、天音あまねと言います。その弟っていうのは……?」


「ほら、あまねっちに失礼なことを言いやがった、あいつ。才能はあるけど自立出来なくて、家追い出されたクチでさ」


「あまねっち? それはそうと……自立出来てない、ですか。心が痛いお話です。もしかして、ここってそういう人の集まり……?」


「ん? そんなわけないでしょ。施設じゃないんだから。ま、色んな男女が住んでるからさ、気にしなくていいと思うよ」


 あ、そんな感じなんだ? ここに来て最初に出会った人は最悪だったけど、優しい人もいる。

細かいことを気にしていたら、“シェア”なんて叶わない。


 ようやく自分が入る部屋に着いて、ひと息つけた。部屋の中を見回すと、着る物以外のテレビやクローゼット、ベッド、PCがある。住むだけなら困らない物が完備されている。


 下手をすると、引きこもってしまいそうなくらい便利なもので溢れていた。さっきのお姉さん、いい人だったなー。そんな思いで、手荷物を取り出しているとドアからコンコンと音がした。


「……はい?」


「こんにちは、開けてもらっていい?」


 優しそうな女性の声にホッとしてドアを開けた。


「こんにちは、新入りさん」


 満面の笑顔で挨拶をしてきた女性は、私の顔をじっと見つめている。


「あ……初めまして。今日入居しました、天音です」


「……ふーん」


 私の顔を見ながら次第に、不敵な笑みに変わりだした。


「へえ……あんたいくつ? 何でここに住むの?」


「に、26ですけど。……いえ、特には」


「あっそう。特別って言われたからっていい気になるなよ?」


「へ? あー……。あの人のこと何とも思ってないですけど?」


「……何とも思ってないなら、黙って生活しなよ! それだけだから」


 勢いよくバンっと、ドアを閉めてそのまま立ち去ってしまった。


 何なの? 何であの男のことでそこまで言われなきゃいけないの? 何か変な所に来ちゃったなぁ……ムカムカして最悪なんだけど。


 初日の朝から変なことがありすぎて、ここの中を歩き回れなかったけど、少しでも知っておこうと、シェアハウス内を見て回ることにした。


 案内図を見ると、大勢の人が住むための設備や部屋が完備されているみたいだった。大浴場、厨房、リフレシュルーム? スタジオ? 図書ルーム……


 厨房らしき前を通ると、調理中なのか料理する音が聞こえる。“トントントン”リズミカルに野菜を切っている音が気になって覗いてみる。見ると、いかにも調理人らしき人が包丁で野菜を切っていた。


「……ん? 誰かいるの? お! どした? 夜遅くに」


「あ……! あなたは朝の……別に、見て回っているだけです」


「何だ、そうかー。てっきり俺に会いに来たかと思ったよ」


「朝の言葉、アレはどういうことなんですか? 誰にでもあんなこと言ってんでしょ?」


「いや、特別なのは君だけだ。そりゃあ、誤解だぜ?」


「他の方から聞いてますから! っていうか、彼女になった覚えなんてないです」


「誰だろうな……ま、いいけど。少なくとも、俺は君に運命を感じたぜ? 君、料理好きだろ? 今だって覗くぐらい」


「食べるのは好きですけど。それと運命に何の関係があるんですか?」


 料理している姿に一瞬、意外な一面を見れた気がした。だからといって、この人に心が動くことは無い。


「あなたには彼女、いますよね? キツく言われました……」


「あ、待ってな。火を止めるから」


 朝食に出そうなメニューを作っていたのか、お皿に盛り付けられた一品ものが並んでいる。


「特別なのは君だけだぜ。他は、まぁ……友達みたいなもんだ」


「とにかく、私、面倒なのはごめんです!」


 目の前に広がる美味しそうな料理に目を奪われながらも、ここを離れようとするわたし。


「待った! せっかく来てくれたのに、そのまま立ち去るなんて勿体無いぜ?」


「け、結構です! じゃあこれで……」


 廊下へ出て、私の腕を引っ張ったと思ったら口に甘酸っぱい感触を押し付けられた。


「むぐっ……んん? お、美味しい」


「どうだ? 俺特製の“オレンジマーマレード“は」


「……認めたくないけど、美味しいです。もしかしてどこかで料理人、してたんですか?」


「まぁな。……ま、そのうち教えるさ」


「ここの食事はあなたが?」


「名前で呼んでくれよ。俺は西尾高大にしおこうだい!こうちゃんでいいぜ」


「西尾さんで」


「おいおい、他人行儀だな。それにさん付けは無いぜ! それだと姉貴と同じだし」


「他人です! じゃあ、西尾で」


 一瞬、驚きながらも満更でもない表情で嬉しそうに笑う彼。


「君のことは何て言えばいい? 名前聞いてなかったよな?」


「何とでも」


 名前を教える気にはなれない私は、首を横に振った。


「そうか、まぁ……後で互いに呼び合うことになるから、大事にとっとくか!」

 

 昨日会った時から変わらずに、調子のいいことを勝手に話している彼。


「じゃあ、またな!」


 そう言うと、調理に戻っていった。朝に出会った時の最悪な印象は変わらない。ただ、口中に広がった甘酸っぱさは、ここでの生活に希望を見つけた。そんな気がしながら、部屋に戻ることにした。


 最悪な朝の始まりから、何かが変わりだすような予感を漂わせながら――

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