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御徒町樹里シリーズ

イケメン妖怪ハンターリックの冒険リターンズ

作者: 神村 律子

登場する人物は実在の人物と関係ありません。

 リックは古今無双のスケベな猫又です。


 美人幼妻の遊魔と賞金稼ぎの旅をしています。


(ああ、最近、ろくなものを食べていないにゃん)


 妖怪退治の依頼を何日も受けておらず、所持金も底を尽き、フラフラになっていました。


「お前様、しっかりなさいまし」


 しかし、遊魔は元気そのものです。


「遊魔、どうして君はそんなに元気にゃん?」


 リックは不思議に思って尋ねました。すると遊魔は、


「遊魔はあ、一年くらい食べなくても大丈夫なんですう」


 笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 思わず某お師匠様の口癖で応じてしまうリックです。


(僕だって、それくらい食べなくても大丈夫なんだにゃん。でも、最近可愛い子に会っていないから、それも効いているにゃん)


 結局はエロい事をしたいだけのリックです。


 早速遊魔に知らせようと思う地の文です。


「ダメ、絶対!」


 某CMの真似をして、涙ぐんで地の文に懇願するリックです。


 


 しばらく歩いていくと、城門が見えてきて、そこそこ大きな街に近づいたようです。


 城門にはいかつい顔の大男が二人門番として立っていました。


「お前ら、この街に何の用だ?」


 いきなり喧嘩腰に向かって右側の門番が詰め寄ってきました。


「僕らは妖怪退治を生業なりわいとしている者ですにゃん。決して怪しい者ではありませんにゃん」


 強い者には圧倒的に弱くて腰が低くなるリックは、揉み手をして応じました。


「猫又風情が、妖怪退治とは片腹痛い。この街には妖怪退治の先生がすでにいらっしゃる。用はないから、別の道を行け」


 向かって左の門番も横柄は態度で言いました。


「そうなんですかあ」


 遊魔はボオッとした顔で言いました。すると、向かって右の門番が、


「だが、其方は先生の好みの美しい女であるから、中へ入れ」


 遊魔を強引に引き寄せました。


「お前は用はないから、とっとと消えろ」


 向かって左の門番がリックを持っていた槍の柄で突き飛ばしました。


「にゃにゃーん!」


 空腹で女日照りが続いていたリックは地面に倒れてしまいました。


「お前様に何をする!」


 遊魔の真空飛び膝蹴りが炸裂し、向かって左の門番が吹っ飛びました。


「おのれ、貴様ら、やはり妖怪だな!?」


 向かって右の門番が槍を構えて遊魔に向けました。


「はああ!」


 リックが大好きな遊魔はそんなものには怯みません。助走をつけての踵落としが見事に決まり、向かって右の門番も倒れました。


「何事だ?」


 騒動に気づいたのか、城門が開かれ、中からドヤドヤと二十人程の兵士達が出てきました。


「遊魔、僕は大丈夫にゃん。もうそれ以上戦わなくていいにゃん」


 ようやく起き上がったリックが、遊魔を止めました。


「お前様、ご無事でしたか?」


 遊魔は涙ぐんでリックに抱きつきました。


(遊魔、可愛いにゃん)


 リックはニヘラッとしましたが、


「あら、なかなかの色男さんじゃないの?」


 中から出てきたのは、某姉妹も裸足で逃げ出す程の巨乳で、露出の多いドレスを着た長い黒髪の美女でした。


(わお! 僕のどストライクのおねいさんにゃん!)


 目がハートになる昭和の演出で心情を表すリックです。


「私は洲天呑すてんの。この街の用心棒よ、僕」


 妖艶な流し目で告げた女に、リックはメロメロになってしまいました。


「洲天呑しゃーん!」


 リックは遊魔を押しのけて、洲天呑に駆け寄りました。


「お前様!」


 遊魔がリックに真空飛び膝蹴りを見舞いましたが、リックはそれをかわして、洲天呑の手を握ろうとしました。


 しかし、洲天呑はリックの手を持っていた扇で撥ねつけて、


「貴女、私の好みよ。一緒にいらっしゃい」


 遊魔に言いました。それを聞き、リックはショックで固まってしまいました。


「そうなんですかあ」


 遊魔はいつもよりボオッとなり、洲天呑と共に城門の向こうへと行ってしまいました。


 兵士達は倒れている門番二人と引きずって中に入ってしまい、城門は堅く閉ざされ、リックはポツンと取り残されました。


「ゆうまあああああ!」


 しばらくして我に返ったリックが城門に近づいて、激しく拳を打ちつけていると、


「うるさい!」


 交代で現れた門番二人に槍の柄で殴られて、放り投げられました。


「ううう……。遊魔……」


 リックは泣き崩れました。


 でも、洲天呑にメロメロになったリックが悪いと思う地の文です。


 空腹も手伝って、リックはとうとう気を失ってしまいました。


 めでたし、めでたし。


「違うだろー! 違うだろ!」


 某議員さんのモノマネで激ギレするリックです。そしてまた気を失いました。


 


 その頃、遊魔は街の奥にある城に着き、盛大なうたげに加わっていました。


「さあ、好きなだけ食べて、好きなだけ飲んでくださいな、可愛いお嬢さん」


 洲天呑はフッと笑って告げました。


「そうなんですかあ」


 遊魔はボオッとした顔で応じると、宴席の奥へと歩き、石造りの椅子に座らされました。


 その奥には、街の守り神なのか、石像が飾られています。


 よく見ると、あちこちにたくさんの石像が飾られてます。


 観光土産でしょうか?


「違うわよ」


 ニヤリとして地の文の推理をやんわりと否定する洲天呑です。


 


 リックはまだ気を失ったままです。


「お師匠様!」


 リックは某国の僧である御徒町樹里と旅をしていた頃の夢を見ていました。


「そうなんですか」


 樹里はいつものように笑顔全開で応じました。


 周囲を見ると、いつも邪魔をしていた猿や豚や河童はいません。


 リックは樹里と二人きりです。


「お師匠様、もう僕、我慢できませんにゃん!」


 リックは樹里に襲いかかりました。


「お前様、何をしているのですか?」


 何故か突然、樹里は遊魔に変わってしまい、


「○△□×☆〰!」


 リックはこの世のものとは思えない悲鳴をあげました。


「やっと目を覚ましただか?」


 女の子の声が耳元で聞こえました。


「え?」


 ゆっくり目を開くと、リックは誰かの家の布団の中で寝ていました。


「ここはどこだにゃん?」


 リックは枕元にいた死神に尋ねました。


「違うだよ! オラは死神じゃねえだよ」


 某公共放送の落語を観た影響がまだ残っている地の文に突っ込む女の子です。


 年の頃は十代前半。リックのどストライクです。


「違うにゃん! 僕はロリコンじゃないにゃん!」


 条例違反で逮捕されたくないリックは、必死になって弁明しました。


(あと五年経ったら、会いに来たいにゃん)


 結局はスケベなリックです。


「ここはどこだにゃん?」


 リックは微笑んで女の子に尋ねました。


「ここは町外れのオラの家だ。あんたが道で倒れていたんで、鍋にして食おうと思って連れてきただよ」


 女の子が洒落にならない事を真顔で言ったので、リックは素早く布団から飛び出して、部屋の隅まで逃げました。


「冗談だあ。オラ、ゲテモノ食いじゃねえからな」


 可愛い顔をして下品な笑い方をする女の子を見て、一気に引いてしまうリックです。


「オラの名は、アンアンだ。呼びにくかったら、アンでええだよ」


 しかし、ニコッと小首を傾げて自己紹介をすると、


(可愛いにゃん、アンアンしゃん!)


 ロリコンの血が騒いでしまうリックです。


「違うにゃん! 違うにゃん!」


 必死になってロリコン疑惑を否定するリックです。


「僕はリックにゃん。妖怪退治をして旅をしているハンターにゃん」


 何故か気取って言うリックですが、アンアンは聞いていなかったようで、


「一泊金貨十枚になるだよ。払えるけ?」


 能面のような顔で詰め寄りました。


(新しい詐欺商法かにゃん?)


 嫌な汗をしこたま掻きながら思いました。するとまたアンアンはゲラゲラと笑い出し、


「嘘だよお。そんな事するはずがねえっぺ。あんたみたいないい男は、何泊でも只で泊めてやるよお」


 顔を赤らめてリックを見つめました。


(疲れるにゃん……。樹里様の親友の女の子を思い出すにゃん……)


 リックが対処の仕方に悩んでいるのを完全に無視する形で、


「ところで、あんた、どうして道で倒れていたんだ?」


 アンアンが話題を変えたので、リックは顔を引きつらせながら、事情を説明しました。


「なるほど。あの城にいる妖怪退治の先生は、確かにつええらしいけんど、妙な噂も流れているんだ」


 アンアンの話に興味が湧いたリックは、


「妙な噂って何にゃん?」


 するとアンアンは手を差し出して、


「ここから先は有料になるんで、出すもの出せや」


 また真顔で怖い事を言いました。


 リックが顔を引きつらせると、アンアンは笑い出して、


「嘘だあ。金は取らねえだよ、あんたみたいないい男からはさあ」


 リックは遂に項垂れてしまいました。


 そこから先は、アンアンも冗談を言わず、話をしてくれました。


 城の用心棒の洲天呑は、何百匹もの妖怪を退治したそうなのですが、洲天呑が城に居着いてから、街が次第に寂びれ始めたのだそうです。


 軒を連ねていた商店も次々に閉店し、何千人もいた兵士や役人も次々に姿を消しました。


「あからさまに怪しいにゃん」


 リックは腕組みをして呟きました。


「それに代わるように、街のあちこちに石像が建てられるようになっただよ。オラのおっとうとおっかあもいなくなっちまって、今はオラ一人で暮らしているんだ」


 アンアンが寂しそうに言い、涙ぐむと、


(アンアンしゃん、可愛過ぎるにゃん!)


 理性が崩壊しそうになるリックです。


(今の話を総合的に判断して、冷静に分析すると、洲天呑の正体はあいつしかいないにゃん!)


 洲天呑の正体に思い当たり、逃げ出す算段をしようと思うリックですが、


(でも、遊魔が連れて行かれてしまったにゃん。助けないといけないにゃん)


 そうも思いましたが、遊魔がいなければ、毎日酒池肉林だとも思ってしまう下衆なリックです。


(でももし、僕が遊魔を助けないで逃げて、遊魔があいつに食べられたりしたら、遊魔が夢枕に毎晩立って、真空飛び膝蹴りと踵落としを繰り出してくるにゃん)


 リックはやっぱり遊魔を助けようと思いました。


 むしろ、遊魔から逃げた方が正解だと思う地の文ですが、可愛い子が大好きなリックは、決して遊魔を見捨てる事はできないのです。


 底なしの女好きだと思う地の文です。


「僕がその用心棒を退治してやるにゃん。安心するにゃん、アンアンしゃん」


 リックは精一杯気取って言いましたが、


「でも、オラ、あんたと夫婦めおとにはなんねえだよ」


 何故か胸の辺りを隠して身をよじりながら赤面するアンアンです。


(僕、この子とはうまくやっていく自信がないにゃん)


 生まれて初めて、妙な敗北感に打ちひしがれるリックです。


「じゃあ、行くにゃん。いろいろありがとうにゃん、アンアンしゃん」


 リックはアンアンの家の玄関でアンアンにお礼を言いました。


「別に気にする事はねえだよ。あんたが思う程、オラは大した事はしてねえんだから」


 アンアンは目を潤ませて言いました。


(ここで五年我慢して、アンアンしゃんと幸せに暮らすという選択肢はないのかにゃん?)


 妄想が暴走して、訳がわからない結末を迎えようとするリックです。


「吉報を待っててにゃん、アンアンしゃん」


 リックは一歩前に踏み出してから、振り返りました。


「え?」


 そこには、ボロボロになった空き家があるだけで、人の気配はありませんでした。


「ええええっ!?」


 一瞬、この話はしめじ三郎シリーズかと思いかけるリックです。


 でも、名字は平井ではありません。


「ありがとな、リック。あんたのお陰で、オラ、やっと成仏できるだよ」


 ふと空を見上げると、光に包まれて、天に昇っていくアンアンがいました。


「アンアンしゃん……」


 リックは、アンアンの悲しい最期を感じて、泣いてしまいました。


「アンアンしゃんのためにも、あいつは退治するにゃん!」


 決意表明をするリックですが、本当はアンアンとの幸せな生活が夢と消えた恨みを晴らしたいのは内緒です。


「バラさないで欲しいにゃん!」


 知る必要のない真実まで全て明らかにしてしまう名探偵小学生のような地の文に切れるリックです。


 動機は不純ですが、リックは洲天呑を退治する決心をして、城門へと向かいました。


(遠いにゃん。いくら歩いても、城門が見えてこないにゃん)


 何も食べていないリックは、もう少しでアンアンとの天国での生活を送れそうになっていました。


「ダメにゃん! 僕は約束を守るにゃん! アンアンしゃんのために!」


 リックはふらつきながらも、城門に辿り着きました。


 本当は見捨てた遊魔の怨霊に祟られるのが怖いのが本音のリックです。


「バラさないで欲しいにゃん!」


 リックは血の涙を流して地の文に抗議しました。


 しかし、鉄の城門は堅く閉ざされ、瀕死のリックにはとても開く事ができそうにありません。


「大丈夫にゃん。僕には召喚術があるにゃん」


 リックは両手の中指にはめた指輪を合わせて、呪文を唱えました。


「出て来い、マルキュー!」


 すると、どこからともなく竜巻が起こり、某109サイズの巨大な美女が現れました。


「もう、リックの意地悪う! 最近、全然呼び出してくれないんだからあ」


 某バブルの頃のようなワンレンボディコンの美女は、リックに愚痴を言いました。


「悪かったにゃん、マルちゃん。それは後で埋め合わせするから、取り敢えず、この門を壊して欲しいにゃん」


 その美女は、以前、リックが退治した妖怪でした。今はリックの術で愛人になっています。


「あ、あ、愛人じゃないにゃん! お友達にゃん!」


 遊魔に知られるのが怖いのか、蒼ざめた顔で全力で否定するリックです。


「そんな事はおちゃのこさいさいよ」


 マルキューと呼ばれた美女は、回し蹴りで城門を粉微塵に粉砕してしまいました。


「敵襲だ!」


 すると、城の方から軍勢が現れました。


「マルちゃん、やっつけてにゃん!」


 リックが言うと、


「バブルでパッパラパー!」


 意味不明な応答をして、マルキューは巨大な扇を取り出すと、あおいで軍勢を吹き飛ばしてしまいました。


「うへえ!」


 まるで紙吹雪のように飛んでいく兵士達です。


「随分と騒がしいと思ったら、あんたかい、猫又のニイちゃん」


 そこへ洲天呑が現れました。彼女の後ろには、ボオッとした遊魔がいます。


「観念するにゃん、洲天呑。お前の正体が蛇女なのは、わかってるにゃん!」


 リックはビシッと右手の人差し指を洲天呑に向けました。すると洲天呑はフッと笑い、


「へえ。只のスケベかと思っていたけど、少しはおつむが回るんだねえ。ああ、その通りだよ。私はあの名高きゴーゴン姉妹の長女、ステンノさ」


 鋭い眼光でリックを睨みました。リックは慌てて物陰に隠れました。


(危ないにゃん。あいつの眼光をまともに食らったら、石になってしまうにゃん)


 リックは身震いしました。


「ちょっと待ちな、蛇女! リックは私のボーイフレンドだよ。下手なチョッカイ出さないでもらおうか」


 遥か上空から、マルキューが異議を唱えました。


「うるさいよ、デカ女。あんたから先に石にしてやる!」


 洲天呑の目が怪しく光り、マルキューは一瞬にして石になってしまいました。


(すまない、マルキューしゃん。君の事は忘れないにゃん)


 忘れる気満々で思うリックです。


(あいつの弱点はわかっているにゃん)


 リックは懐から鏡を出しました。


(これで自分を見て、石になればいいにゃん)


 リックは勝利を確信して、洲天呑の前に飛び出しました。


「あんたも石におなり、猫又!」


 洲天呑がリックを睨みつけました。


「残念でしたにゃん!」


 リックは素早く鏡を出して、洲天呑の顔を写しました。


「ぎゃああ!」


 洲天呑の雄叫びが木霊しました。リックは恐る恐る目を開けて、洲天呑を見ました。


「残念でした、おバカさん。自分の術が自分に効く訳がないだろう、ボケ猫」


 そこにはドヤ顔で仁王立ちをしている洲天呑がいました。


「そ、そんにゃあ……」


 全身から嫌な汗を噴き出し、恐怖のあまり、笑い出してしまうリックです。


「今度こそ、石にしてやるよ、バカ猫!」


 洲天呑がニヤリとして目を光らせました。


「にゃん!」


 リックは慌てて逃げ出しました。


「往生際が悪いよ、バカ猫! サッサと石になっちまいな!」


 洲天呑は目を光らせたままで、リックを追いかけました。


「ひいい! もう退治するのは諦めたから、許して欲しいにゃん!」


 リックは泣きながら逃げ回りました。すると、


「お前様!」


 遊魔が突然覚醒しました。


「遊魔! 早く助けてにゃん!」


 泣きながら喜んだリックですが、


「また他の女の人と仲良くして! 許しません!」


 何と、遊魔はリックと洲天呑が鬼ごっこをしていると勘違いしていました。


「ぐへえ!」


 遊魔の会心の真空飛び膝蹴りが決まり、リックは近くにあった石像にぶつかって気を失いました。


「お前が先に石になりな、お嬢ちゃん」


 洲天呑はニヤリとして遊魔を睨みました。


「そうなんですかあ」


 遊魔は笑顔全開で応じました。でも、石にはなりませんでした。


「ど、どういう事だ? 何故石にならない?」


 洲天呑は狼狽えました。


 その時、遊魔の背後に数知れない仏様が現れました。


「洲天呑よ、この者には我らの加護がある。うぬ如きの妖術など通じはせぬ」


 その中のお一人である観音様がおっしゃいました。


「うわあああ!」


 洲天呑は観音様達の唱える真言により、光に包まれて消滅してしまいました。


「よくやった、遊魔よ。我らは常にそなたを見守っておるぞ」


 観音様が微笑んで告げました。すると遊魔は、


「どちら様ですかあ?」


 会心のボケをかましました。


「観世音菩薩だよ!」


 観音様はキレ気味に自己紹介し、天に帰って行きました。


 次の瞬間、周囲にあった石像が、洲天呑が消滅したお陰で、人間に戻りました。


「何がどうなったにゃん?」


 リックはようやく意識を取り戻して、辺りを見渡しました。


「ありがとうございます。お二人のお陰で私達は元の姿に戻る事ができました」


 リックと遊魔は大勢の人々に感謝され、城主にお礼としてたくさんの金貨をもらいました。


「よかったにゃん、これでようやくおいしいものが食べられるにゃん!」


 リックが大喜びしていると、


「よろしかったら、私共の店にいらっしゃいませんか? 食堂を営んでおりますので」


 若い夫婦が声をかけてくれました。


「早く戻って、アンアンの顔が見たいわ、貴方」


 妻が嬉しそうに言うのを聞いたリックは、


「僕らは先を急ぐから、またこの街に来た時に寄らせてもらうにゃん」


 そう言って、夫婦の申し出を丁重に断ると、街をあとにしました。


「どうしたのですか、お前様?」


 遊魔は俯いたままで何も喋らないリックに尋ねました。


「何でもないにゃん。何でもないにゃん」


 リックは泣いているのを遊魔に知られたくないので、顔を背けました。


「リック、酷いわ、また私を置き去りにするつもり?」


 そこへやはり元に戻ったマルキューが追いかけてきました。


「お前様、あの女の方はどなたですか!?」


 遊魔が闘気を噴き出して尋ねたので、


「知らないにゃん!」


 走って逃げ出すリックです。


「お前様!」


「リック!」


 二人の美女に追いかけられて、リックは必死に逃げました。


 


 めでたし、めでたし。

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[一言] リックって卑怯者でちゃっかりしてるけどなんか憎めないヤツ ww まだまだ冒険はつづく!
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