トカゲ殺しの神官様
「えっと、そろそろ勘弁してほしいっす」
「反省したか? もうしないと誓えるか?」
「イエス!」
「……まぁいい。あんまり時間もないし、このくらいで許してやる。アヤメ、もういいぞ」
「………………(こくこく)」
涙目で正座する後輩の膝から飛び降りたアヤメの頭を撫でて、重石役をやってくれたことをねぎらう。アヤメって重さ的にもちょうどいいし、時折身体を揺らして痺れた足にダメージを与えてくれるという優秀な正座拷問人なのである。あ、でもアヤメみたいな癒しの塊が膝に乗ってたらセラピー効果半端なさそうだな。ダメじゃん。
「うう、その可愛い顔でなんて残酷な仕打ちをするっすか……。先輩、お子さんのしつけはちゃんとしなきゃダメっすよ?」
「子供じゃねぇよ。というか、どうして遅刻したんだ? お前にしちゃ珍しいと思うんだが?」
「あー、えっと。寝坊っすよ寝坊。その、目覚ましを付け忘れてたんす」
「……お前、確か前に目覚まし無しでも決まった時間に起きられることを自慢してなかったか?」
「えッ!? あ、あはは……せ、先輩の勘違いじゃないっすか?」
「ふぅん……、まぁいい。あんまり時間ないし、さっさと始めるか」
「そ、そうっすね。サクッとモンスターをコロコロして、レベルをガンガン上げるっす!」
うーん、確かに本人の口から聞いたと思ったんだがな……? ま、その本人が言ってるんだから、俺の勘違いだったんだろう。記憶力に自信はあるが、全部を全部覚えているわけじゃないし、こういうこともたまにはあるだろう。
「(ふぅ……。いやぁ、流石に夏休みに入ってから初めて先輩に会えたんで、テンション上がりすぎて眠れなかった……なんて、言えないっすよねぇ……)」
「何ブツブツ言ってんだよ? 俺の悪口か?」
「……先輩の中で私がどんな扱いを受けてるか聞いてみたいセリフっすねぇ……!」
「さてと、待たせて悪かったなアヤメ。そろそろ始めるか」
「………………(ふんすっ)」
「無視っすか!?」
ギャーギャー騒ぐ後輩を放っておいて、拳を打ち合わせるアヤメと渓谷を進み始める。後ろで後輩がブツブツ文句を言っているが、これも放っておこう。
さて、俺がレベル上げのために訪れているのは、『竜の溪谷』というフィールドだ。レベル上げをするならここが最適だとアポロに言われたので、さっそく来てみたわけである。
今回はあの似非関西弁野郎をぎゃふんと言わせることが重要なので、戦いを楽しむのは二の次にしよう。レベル上げに集中だな。
なんか、アポロによると「戦いを楽しみたいなら、その内とっておきのが来るぜ?」ということらしいのだが……どういうことなのだろうか?
まぁ、アポロのいうことをいちいち気にしていたらキリがないので早くレベル上げに入りましょうか。期限は三日とはいえ、今日は午後から買い物に行く予定だし、今日以外も家事を怠るわけにはいかない。似非関西弁野郎をギャフンと言わせることも重要かもしれんが、日々の生活よりも重要かと言われれば、ンなもん否に決まっている。
とはいえ、レベル上げというものは何も考えず、敵を屠り続ければいいだけなのだ。難しいことは何も無い。
「おっし、やるぞアヤメ。このフィールドに蔓延るモンスター共を一匹残らず殲滅するくらいの気持ちで行くぞ」
「………………(ぐっ)」
「物騒っすねぇ……。ま、頑張っすよ、先輩」
気の抜けた様子で手をひらひら振る後輩に若干イラっとしながら、俺は取り出したディセクトゥムを軽く振るう。アヤメも胸の前で両手を握りしめてやる気十分だ。
「お、来たみたいだな」
一分も歩かないうちに、モンスターとエンカウント。アポロがこのフィールドを進めてくれた理由は、このエンカウント率の高さ。そして……。
「……聞いてはいたが、凄い数だな」
「………………(シュッシュッ)」
「ま、それがこの『竜の溪谷』の特徴っすからね。じゃ、私はその辺に隠れときますねー」
シュバッ! という魔導士とは思えない機敏さで岩陰に隠れた後輩にため息を吐きつつ、俺はディセクトゥムを構え、アヤメも《闘気》を纏い拳を握る。
俺とアヤメが対峙するはトカゲ人間。いわゆるリザードマンというやつだ。赤褐色の鱗に全身が覆われており、手足には鋭い爪が生えている。顔はまんまトカゲで、時折チロチロと舌を覗かせている。簡素な鎧を装備し、手には曲刀を携えていた。
数は、少なくとも二十はいそうな感じである。それだけの数がいるが、渓谷の幅はそこそこ広いので、動きに支障はなさそうである。
アポロが『竜の溪谷』を勧めた理由の一つは、この通り、一度に出てくるモンスターの数が多いのだ。経験値効率がとても高いらしい。
要するに、目の前でギャーギャー言っているトカゲ共は、ただの経験値。それがいっぱい出てくるから効率的だよ! ということだ。
「…【ストレングスエンハンス】、…【ディフェンスエンハンス】、…【アジリティエンハンス】、《信仰の剣》、《信仰の盾》! 行くぞ、トカゲ共。【グランドシェイク】!」
身体能力を強化し、紅戦棍を地面に叩きつけ、トカゲ共の足元を爆散させる。何匹かが宙を舞うのを視界に納めながら、疾走を開始。アヤメは先に飛びだしている。
「シャァアアアアアッッ!!」
「うるさいッ!」
叫びながら曲刀で斬りかかってくるトカゲを、曲刀ごと紅戦棍で砕く。一撃では仕留めきれなかったので、もう一度頭部を殴りつける。ポリゴンに変換されるトカゲ。次。
爪を振りかぶって来たトカゲは、その腕をつかみ強引に振り回す。トカゲの身長は二メートルほど。体格で負けている相手を片手で振り回せてしまったとこに、ステータスの理不尽さを感じた。
振り回したトカゲを別のトカゲにぶち当て、ぶち当てたトカゲごと紅戦棍で【パワークラッシュ】。
白い粒子に変換されるそれから視線を外し、次の標的を探す。エモノはまだまだいっぱいいる。いなくなったら、また別の群れを探せばいい。全部全部経験値だ。
俺は詠唱し、自分の周りに【ソードオブフェイス】で剣を八本展開、四方から斬りかかって来たトカゲの曲刀を一本ずつで受け止め、残りで首を掻っ切り、心臓を貫く。
さぁ、どんどん来いよ、トカゲ共。
「お前らには悪いけど……俺の糧になってもらうぞ!」
感想、評価、ブックマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。




