デート④(デートします)
やっとデートだ!
散々な終わり方をしたヤマトさんとの決闘の後、何とか立ち直った俺は、サファイアの案内でトロワヴィレ中を見て回った。
トロワヴィレは、街の中心に幅の広い道が一本通っており、そこにはたくさんの店や屋台が並んでいた。『商業の街』と呼ばれているらしく、武器や防具、アイテム類などの必需品。何に使うか分からない珍しいものなど。様々なモノが並んでいた。俺の探していた本屋もあり、何冊か小説を買わせてもらった。
途中からはウィンドウショッピングみたいな感じになっていた。プレイヤーが経営している店を冷やかしたり、屋台でアイスクリームみたいなものを買って食べたり、露店でアクセサリーを買わされたり。うん、リアルでサファイアと買い物に行くのとあんまり変わんない感じだったな。
有名人なサファイアと一緒にいる俺には、プレイヤーからいろいろな感情のこもった視線が向けられた。やたらと目立っていたと思うが、サファイアが気にしてなかったので、俺も極力気にしないようにしておいた。すでに手遅れな感じもするしね。ちなみに、向けられていた視線の中で、最も多かったのは男性プレイヤーからの嫉妬の視線。サファイアは傍から見ればただの美少女だからな。俺がサファイアのことをただの妹としか見てないとしても、周りから見ればその……恋人同士みたく見えるのだろう。
そんな感じで、トロワヴィレの街を歩き回っていると、時間はあっという間の過ぎてしまい、そろそろ昼食の準備をしなければならない時間になってしまった。そのことをサファイアに告げると……。
「じゃあ、最後の一つだけ。リューにぃに見せたい場所がある」
だそうだ。断る理由もないので、その見せたい場所とやらを見せてもらうことになった。……なったの、だが。
「ん。案内する」
「……いや、案内してくれるのはいいんだが、どうして腕を組む必要がある?」
「……リューにぃが、ちゃんと付いてこれるように」
「俺は子供か。というか、これは流石に恥ずかしいんだけど……」
「わたしはとっても幸せ」
「……あっそう」
本当にうれしそうに笑うサファイアを見ていると、それ以上は何も言えなくなってしまった。結局、されるがままにサファイアと腕を組んで歩く俺。周りの男性プレイヤーたちの殺意すらこもった目線が痛い。あと、女性プレイヤーの「あらあら」とか「きゃー!」って言う視線がこそばゆい。
けどまぁ……サファイアが嬉しそうだし、多少の気恥ずかしさは我慢しようか。
「リューにぃ、リューにぃ」
「ん? どうかしたか?」
「わたしと腕を組んでいる感想は?」
「別に何も。まぁ、デート感が少し上がったかな? ってくらいだ」
「……リューにぃ、今日のこと、デートだと思ってたの?」
「え、あ、いや……。あくまで例えだ、例え。本気でデートだと思ってるわけじゃないぞ?」
「ふーん……」
「……なんだよ、その意味深なふーんは」
「ん。なんでもない」
なんでもないって割りには、随分と嬉しそうですね、サファイアさん?
そんな感じのやり取りをしつつ、サファイアに腕を引かれながら進むこと五分ほど。ついたのは、トロワヴィレを囲む外壁だった。外壁のそばは浅い林になっており、周りには人の影一つない。苔に覆われた外壁は見るものに歴史を感じさせる。
高さ二十メートルはありそうな石造りのそれは、近くで見るとかなりの迫力だった。壁を見上げ、思わず感嘆の声を漏らす。
「おお……」
「リューにぃ、こっち」
「こっちって……壁しかないぞ?」
「見てて」
俺から一度離れたサファイアは、外壁を造っている石の一つに手をかざした。すると、その石が輝き始め、外壁の一部がゴゴゴゴ……と音を立てながら扉状に開いた。
「おお! なにこのギミック。隠し扉?」
「この外壁に関係するとあるクエストをクリアすると、これの情報を教えてくれる。けど、本番はこれから。リューにぃ、付いてきて」
「わかった……って、腕は組み直すのな」
「あたりまえ」
サファイアに引っ張られて、外壁に開いた穴をくぐる。くぐった先は螺旋階段になっており、上へと続いていた。
俺ら二人が階段を上り始めると、入口の穴が自動で閉じた。こうやって隠蔽しているのか……。って、帰りってどうすんの? まぁ、内側からも開けることはできると思うけど……。
そんなことを考えながら、螺旋階段を登る。結構先が長く中々ゴールが見えない。それでも、五分もすれば、終わりが見えた。どうやら、古びた鉄製の扉がこの螺旋階段のゴールのようだ。
すぐに扉へとたどり着き、サファイアと二人で「せーのっ」と錆びついた扉を開けた。
開けた瞬間、風が流れ込んできて、俺の髪を揺らした。そして、俺の目に飛び込んできた景色は……。
「うわぁ……すごい、な……」
「ふふん、でしょ?」
「ああ……」
それは、街と空の境界線。外壁の上から見下ろすトロワヴィレの街並みと、雲一つない快晴の空。人と自然のコントラストを瞳一杯に写した俺は、言葉も忘れてその景色に見入っていた。
「……リューにぃ」
「……ん? どうした?」
「今日、わたしと一緒で楽しかった?」
「ああ、楽しかったよ。最後にこんなサプライズもあったことだしな」
「……ん、よかった」
そうホッとしたように言って笑うサファイア。
俺にはどうしてかその笑顔が、目の前の景色に劣らないほどに綺麗に見えたのだった。
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