デート回③(さすがにそろそろちゃんとデートに行こうか)
……長らくお待たせいたしました。更新でございます。はい。
うん、違うんよ。ちょっと生活リズムの崩れと季節の変わり目に対応できなかっただけなんです。
明日も、更新……するぞ!
《プレイヤー:ヤマトのHPがゼロになりました》
《勝者、プレイヤー:リュー! おめでとうございます!》
《バトルフィールドを解除します》
感情の欠片もない機会音声に祝福され、決闘開始前の巻き戻しのような感じで、草原が街に戻っていく。俺たちの周りにはいつの間にやら大勢のプレイヤーが集まっていた。え、まさかこの全員にさっきの戦闘見られてたの?
俺がバトルフィールドから出ると、野次馬たちから次々と声が上がった。
「お、神官が戻って来たぞ!」
「本当だ。いやぁ、流石は紅月の単独征伐者だな。動きが普通のプレイヤーとは全く違ったぜ」
「レベル差が10近くあっても危なげなく勝利する……。これができないと紅月の試練は難しいってことか」
「ま、要するにお前じゃ無理ってことだな。そんなことより、神官と戦ってたアイツも結構凄かったと思うぜ? 思うが……まぁ、相手が悪かったな」
「ふん、強い強い言われてるけど、それほどでもないだろ。所詮神官は後衛職。生粋の前衛を相手にすれば、すぐに化けの皮が剝がれるさ」
「お前今の試合見てなかったの? 相手戦士だったよ?」
うん、別に変なことは言われてないみたいで一安心……。
「けど、やっぱり笑ってたよな」
「ああ、途中から満面の笑みを浮かべてたな。すげぇ楽しそうだったな」
「戦闘を極限まで楽しむ……。これができないと紅月の試練は難しいってことか……うん、俺無理でいいわ」
「あの笑顔を浮かべながら凶悪なメイスを振り回し、猛然と襲い掛かってくるのか……。なにそれこわい」
「ヤマト……。やっぱりお前は勇者だよ。よくやった!」
……あはははは。聞こえなーい聞こえなーい。俺は何も聞こえなーい。笑ってた? 戦闘中に? めっちゃ楽しそうに? あはは、それは一体誰のことをいってるんでしょーね?
まぁ、ヤマトさんとの戦いが楽しかったのは否定しないよ? プレイヤーと戦うの事態が初めてだし、モンスター戦とはまた違った緊張感があった。
ヤマトさんの双剣から繰り出される連撃は結局最後まで完全に見切ることはできなかったし、最後の方の怒涛のアーツ連撃はヤバかった。【シールドオブフェイス】でがちがちに防御を固めなかったら、負けてたのは俺だったはずだ。
俺も、格闘術と【ソードオブフェイス】の合わせ技とか、新しい戦い方を試すことができたし、得るものの多い戦いだったな。最後は【ソードオブフェイス】をしこたまぶち込んでからの《インパクトシュート》が決まって俺の勝ちだったけど……。PvPを提案してきてくれたヤマトさんにはホント、感謝の念が絶えない。
俺の数歩先にて、肩で息をしているヤマトさんに近づく。足音で俺に気づいたのか、うなだれていた顔を上げて、笑みを浮かべるヤマトさん。
「いやぁ……。負けたわ。やっぱり強いな、お前」
「いえ、ヤマトさんも強かったですよ。ヒールがなかったら普通に負けてました」
「ハハッ、お前からヒール抜いたら、ただでさえ少ない神官要素がゼロになっちまうじゃねぇか」
「えー……。俺って、そんなに神官ぽくないですか?」
「自覚がないことに驚きだよ! ……えっと、悪かったな」
「え?」
罰が悪そうに謝罪してくるヤマトさんに、思わずそう聞き返してしまう。
「だから、その……。い、いきなりPvPなんかに巻き込んじまって、悪かったってことだよ。野次馬もずいぶん集まってるみたいだし……。お前、あんまり目立ちたくないんだろ? だから、その……。目立つような真似しちまって、悪かったというか……」
「……ははっ」
「って! 何を笑っていやがる! なんもおかしいとこなかっただろうが!」
「い、いえ……。ヤマトさんって、本当にいい人なんだなって思いまして……」
「は、はぁ? お、オレがいい人? ないないないない! 絶対、ない!」
「そんなことないですよ。そうやって相手のことを思いやれるヤマトさんは、絶対にいい人ですって」
「……お前、よく臆面なくそういうセリフ吐けるよな……。くっ、これがモテる秘訣だと言うのかッ! オレには無理!」
「はい?」
「あ、や。何でもない何でもない。気にしないでいいぞ」
あはは……。とあからさまな作り笑いを浮かべるヤマトさんに首を傾げていると、彼は少し慌てた様子でサファイアの方を指さした。
「ほ、ほら。お前、今からあの魔導蒼姫とデートなんだろ? 待たせるのも悪いし、さっさと行ってやれよ」
「ああ、そういえば」
「そういえばって……。忘れてたのかよ」
「まぁ、それだけバトルが楽しかったというか、何というか……。最近、全力でぶつかることができる相手がいなかったもので。だから、ヤマトさんとのバトル、すっごく楽しかったです」
「ど、どういたしまして……。…………ヤバいヤバいヤバい。あれ? オレってばいけ好かないリア充野郎に天誅を下そうと思ってたんじゃなかったっけ? こいつ全然いけ好かなくないんだけど……、普通にいいヤツなんだけど……」
「どうかしましたか?」
「な、何でもない! 何でもないぞ!?」
「そ、そうですか……?」
「あ、ああ……。じゃあ、オレはそろそろお暇させてもらうわ。デート、楽しんでこいよ。じゃあな」
「はい、ありがとうございました」
去っていくヤマトさんに、お礼と共に頭を下げる。いきなりの出来事だったけど、こうしてヤマトさんと知り合えたことは、良かったと思う。本当ならフレンドになってほしいくらいだけど……まぁ、今回は見送ろう。
ヤマトさんを見送っていると、服の裾がくいくいと引かれた。そちらを見ると、満足気な表情を浮かべたサファイアが俺を見上げている。
「待たせて悪かったな、サファイア」
「リューにぃのかっこいいところが見れたから、いい。大満足」
「そりゃどうも。俺は全力で戦えて大満足だったよ。ヤマトさん、強かったなぁ」
「……? リューにぃ、余裕だったんじゃないの?」
「え? そんなことないけど……?」
「だって……」
サファイアは不思議そうに首を傾げながら、俺の体を……正確には、着ている服を指さし、告げる。
「日常装備のまま戦うくらいだし、余裕だったはず」
「………………あ」
……装備、変えたままだった。完全に忘れてた……。ということは、ヤマトさんに言った全力で戦うという言葉は嘘ということに……。
俺はふと、ヤマトさんが去って行った方向に視線を向ける。
「…………」
「…………あ、あの……」
そこには、とても冷めた目でこちらを見つめるヤマトさんの姿が……。
「お……」
「……お?」
ポツリとうつむいて肩を震わせるヤマトさんがつぶやいたのを、オウム返しに聞き返す。彼はがばりと顔を上げると、踵を返し、叫ぶ。
「お前はやっぱり……敵だァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
「ヤ、ヤマトさんっ!?」
「チックショォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
絶叫を上げながら走り去っていくヤマトさん。小さくなっていく背中を呆然と見つめる俺の肩を、サファイアが慰めるように、ポンと叩いた。
早くデートシーンかけようつけ(みんなの声)
なんで私、男との話をこんなに長く書いてんだろ?
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