デート回②(デートになるとは言ってないんだってば)
早めの更新。夜はかけないかもしれないから。
対人戦回。
……え? デート回じゃないのかって?
《システム:決闘モードに移行します》
《モード1or1。時間無制限。勝利条件はHPの全損及び降参宣言です》
《賭けの対象は設定されていません》
《バトルフィールド:タイプ草原を展開します》
《それでは、プレイヤー:ヤマトとプレイヤー:リューの決闘を開始します》
《レディ…………ファイツ!!》
そんな機会音声とともに、パラパラと空間を流れる文字列がドームを構成する。外の景色から俺とヤマトのいる場所が切り取られる。今まで噴水広場だった場所は、文字列が通った場所から順に草原へと置き換わっていった。石畳が揺れる青草に変わり、人も家も消えてしまった。
変化した景色を見渡して、思わず「おー」と間の抜けた声が口から洩れる。何此の超技術。プロゼクションなんちゃら? ……よくよく考えれば、VRゲームやってる時点でこのくらいの技術当たり前なんだよね。うっわ、なにが「おー」だよ恥ッ!
「ふーん、その反応を見ると、決闘システムを使うのは初めてみたいだな。よし、少し説明してやる」
と、内心で羞恥に悶えていると、ヤマトさんがそう言ってきた。やっぱりこの人いい人だよな。間違いない。こういう人とフレンドになっておきたいものだ。
「よろしくお願いします」
「おう。まず、決闘システムの基本だな。決闘システムってのはプレイヤー同士の諍いの解決や腕試しのためのシステムだ。PvPを楽しむのにもつかわれている。街中だろうとフィールドだろうと、戦闘中とかを除けば使用することができる。んで、決闘には五つのモードがあって、一対一。一対多。多対一。多対多。バトルロワイアルとなっている。時間制限やレベル制限装備制限なんかの設定も可能。あと、勝利条件もHP全損、HP半損、攻撃ヒット何回と様々。あと、勝負にアイテムや金をかけることもできる。まぁ、こんな感じだ。分かったか?」
『リューにぃ、がんばれー』
「……とまぁ、周りのやつからも、こちらの様子は見えてるし、声を届けることも……可能だッ……!!」
「はい、よく分かりました。ありがとうございます。あの、どうして今にも血涙を流しそうな形相をしているんですか?」
「い、いや、何でもない。ああ、何でもないさ……ッ。……くっそ、やっぱりオレが悪いことをしてるような気が……。いや、こいつは敵なんだ。こいつは敵こいつは敵こいつは敵こいつは敵……」
「えっと、大丈夫……ですか?」
「えぅあッ!? だ、大丈夫大丈夫! な、何でもないぜ! さ、さぁ、バトルと行こうじゃないか!」
「あ、はい。頑張らせていただきます!」
相手は自分より格上。なので、胸を借りるつもりで挑もうと気合を入れて答えると、またもやヤマトさんが「くぅ……」と何かと内心で戦っているかのような反応をした。一体、何なのだろうか……?
「はぁはぁ……。コイツハテキコイツハテキ……。おし、行くぞ?」
「あ、はい!」
ヤマトさんが両腰の片手直剣を抜いて構えたのを見て、俺も紅戦棍をアイテム欄から引っ張り出す。
「へぇ、それがお前の武器か……。もちろん、紅月装備なんだよな?」
「紅月装備……? 紅月の試練の報酬でもらった装備って意味なら、その通りです」
「『理不尽兵器』と名高いソレを相手にできるなんて光栄だな」
「そんな呼ばれ方してるんですか、これ……。まぁ、いいです。とりあえず……いきますよッ!!」
「おっとッ!!」
踏み込み、振り下ろす。何度も繰り返してきた基本的なその攻撃をヤマトさんに繰り出す。メイスという武器を一番生かすこの一撃を、ヤマトさんは横に飛ぶことで回避して見せた。その動きは速く、双剣使いの基本にそれず、スピードを生かすタイプだと予想できる。
「なかなかの一撃だなっ! 次はこっちから行くぜ!」
「はい!」
律儀にそう告げてから、ヤマトさんが両手の剣を自由自在に操って攻撃してくる。右の切り下げが来たかと思えば、左の横薙ぎが。左で突いてきたと思ったら、右の回転斬りが叩き込まれる。まさしく、流れるような、という言葉が似合う攻撃だった。攻勢に回る暇もなく、防御に専念しざるを得ない。
「はぁッ! せいッ! とりゃぁあああああッ!!」
「くっ……速いッ! 反応はできるけど、防御が……ッ!」
「いや、レベル差が10あっても反応出来てる時点でおかしいわ。やっぱり、その強さは噂通りみたいだな!」
「………………」
「どうした? 俺の猛攻に、手も足も出なくなったかッ!?」
意識を集中。叫んでるヤマトさんの声も、剣戟とメイスが交差する音も遠ざかっていく。そうしないといけないくらいに、ヤマトさんの攻撃は速かった。
だから、見る。
どこに、どのくらいの、どんな攻撃が来るのか。その威力、速度、剣筋をじっと観察する。
見て、防いで、見て、避けて、見て、攻撃が当たって、見て、メイスの柄ではじいて、見て、自分にヒールをかけて、見て、見て、見て見て見て見て見て……ッ!!
右、左、左、右、突き、袈裟、逆袈裟、回りながらの連撃、両手の剣を同時にぶつける強攻撃。一息の間に数えきれないほどの攻撃を叩き込むアーツ。
すべての攻撃を裁くことなんてできない。ある程度は防御するが、あとはヒール任せである。何度もぴかぴかと体を光らせながら戦う俺。うん、変なヤツだな。
「くそッ、これだけ叩き込んでも耐えるのかよ! てか眩しい!」
「そりゃ、回復してますから。ヒット&ヒールが俺の基本戦法ですよっとッ!!」
「おわッ!?」
紅戦棍を大きくぶん回して、ヤマトさんを間合いから強制退出させる。さぁ、準備は整った。すべてとは言わないし、まだまだ隠してる手があるだろうけど、現段階でのヤマトさんの行動は大体覚えた。
反撃、開始。
「《信仰の剣》、《信仰の盾》、……【ストレングスエンハンス】、……【ディフェンスエンハンス】、……【マインドエンハンス】、……【アジリティエンハンス】」
「え、何そのえげつない強化魔法の数々……」
「行きます……よッ!」
草原を強く蹴り、草を散らしながら疾走を開始。ヤマトさんとの距離を食いつぶし、紅戦棍をで連撃を叩き込んでいく。
「うおっ! け、けど、このくらいなら……」
紅戦棍の強みは、何度言ったか分からないが、その軽さ。相手にとっては巨大な鉄塊も、俺にとっては棒切れのようなものである。棒切れを振るう速度で振るわれる連撃を、ヤマトさんは両手の剣を使って捌いていく。その捌く動きも、見て見て、見続ける。奥の奥まで見通すように。すべてを、見切る。
ヤマトさんの動きは、確かに速い。けど、俺はそれ以上に速い敵を知っている。あの時の狼野郎に比べれば、ちょっと速いかな? ってレベルだ。
「あれ、ちょ、動きにくい……ッ」
行動を見て覚え、出だしを潰す。うんうん、ごり押しだけじゃなくて、こういう戦い方もできるようになっといた方が絶対にいい。だって、力押しだけで戦ってたら、脳筋って言われそうじゃん? え? メイス振り回してる時点で手遅れ? うるせぇよ。
「え、あ、ちょッ!?」
出だしを潰し、行動を潰しを優先した俺の攻撃が、ついに、ガキンッ、という音とともに、ヤマトさんの手から片手直剣を吹き飛ばした。俺と一刀流になったヤマトさんの視線が交錯する。俺、にこり。ヤマトさん、ひくっ(頬が引き攣った音)。
ここで、全力で、打ち込むッ!
「【パワークラッシュ】!!」
「どあっはいッ!!」
……チッ、渾身の振り下ろしはよけられたか。まぁ、ヤマトさんも俺の攻撃に慣れてきた感があったし、もともとスピードでは負けてるんだから、よけられても仕方ないか。
というわけで、ここからは戦い方を変えていきましょうか。慣れられたなら、新しいものを見せてやればいい。そう思い立った俺は、メイスをアイテム欄にしまい込むと、詠唱を開始した。
「『我、真摯に主を信おもう者。我が心に宿る信仰を剣に変え、神敵を滅す』、【ソードオブフェイス】」
MPをつぎ込み、創り出す魔力の剣。計五本を宙に浮かす。浮遊剣を背後に、俺は我流の格闘術の構えをとった。なんちゃってジャッキーである。
「さぁ、続きをしましょうか、ヤマトさん」
「お、おう……。こうなったら自棄だ! やってやるぜーーーッ!!」
にっこりと笑って、ヤマトさんに向かっていく。
向かってくる俺を見るヤマトさんの顔には、何かを諦めたかのような半笑いが浮かんでいた。
別に、ヤマトが弱いわけじゃないんよ。行動を重ねるたびにそれを記憶して記憶した行動をそく潰そうとするリューがおかしいんよ。
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