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スキル屋と初クエスト

日間ランキング7位……。

白昼夢の類じゃなかろうかと自身の正気を疑っております。



 ギルド【フラグメント】への登録を終わらせたら、アポロとサファイアは「ギルメンと攻略があるから」と嵐のように去っていった。目で追えないような速度で走って、「危ない真似をするんじゃない!」と衛兵NPCに怒られていた。

 ……他のギルドメンバーには、早くに挨拶に行こう。ホント、二人が迷惑をかけていないか心配すぎる。


 さて、いったん二人のことは忘れるとして、とりあえずフィールドに出てみようか。このゲームでの戦闘がどんなものなのか試してみたい。

 一人用VRゲームでもRPGモノはあった。でも、そういうゲームはグラフィックやストーリーの方に力を入れているものが多く、戦闘はあんまりおもしろくない。きめられた技名を音声入力すると、体がシステムに勝手に動かされて技を繰り出すってのがほとんどだった。


 そこは、自由度の高さが売りのFEOである。戦闘も臨場感あふれるリアルなモノになっていると聞いているが……。ま、実際に体験してみるが吉だな。

 

 噴水広場から伸びる三つの大通り。この先にはそれぞれ東門、西門、南門とあり、そこから三つの初心者フィールドに行くことができる。

 どの初心者フィールドを抜けたとしても次の町、『ドゥヴィル』に行くことができる。まぁ、チュートリアルのようなものだと思えばいいだろう。


 三つの初心者フィールドは、『静かなる草原』と『木漏れ日の森』と『乾燥した荒野』。出てくるモンスターと採取アイテムの違いはあれど、どのフィールドも難易度に差はない。


 となると、どのフィールドに行くか迷うな……。


 うーん……。よし、じゃあ『乾燥した荒野』にするか。理由? 前の二つに比べると人が少なそうだから。


 『乾燥した荒野』は南門から行ける。南門に続く大通りは、マップによると道具屋や武具屋、スキル屋なんてモノもある。フィールドに出る前に一通り見ていくか。


 というわけで、南門までの道のりを、いろんな店を冷やかしながら進んでいく。


 やっぱり、始まりの町ということで、売られている商品もそれ相応のものだった。武器は銅製と鉄製だけ。防具も革鎧くらいしか置いていない。


 装備の更新は、次の町についてからにしようか。あ、でも回復薬のたぐいは……。って、《治療魔法》のスキルで十分か。MP消費にだけ気を付けないと。


 武具屋、道具屋と華麗にスルーした俺の足は、自然とスキル屋に向かっていた。


 このゲームでは、プレイヤーの行動を基にして習得可能スキルが増えていく。習得可能スキルを習得済みスキルにするには、レベルアップで手に入るスキルポイントを消費する。

 それ以外にスキルを習得する方法が、スキルブックというアイテムだ。

 [《○○○○》のスキルブック]と表示されるアイテムで、町のスキル屋、もしくはボスからのドロップアイテムやイベントなどでも手に入れることができる。


 そして、俺が足を踏み入れた始まりの町のスキル屋は、何というか……さびれていた。

 まず、客がいない。もうガラガラだった。閑古鳥が大合唱を奏でている。

 あと、商品も少ない。売られているスキルブックは十種類ほどしかない。それも、初期スキルとして選択できるようなものばかりだった。

 そして、店員。店のカウンターに突っ伏している女性NPCが一人だけ。長い紫色の髪がカウンターにぶわっと広がっており、顔が見えない。普通に不気味だった。最初見た時に、紫色のワカメモンスターか何かかと思ったもん。



「うぅ……。客が……こないィイイイイイ……」



 髪の毛の間から聞こえてくるのは、どう考えても呪詛。店が流行っていない理由の半分はこの店員さんにあると思う。

 とりあえず、声をかけてみようか? なんだか、見てていたたまれないというか……。



「あの……。大丈夫ですか?」


「……この状態が大丈夫に見えるなら、貴方はすぐさま回復魔法をかけてもらうべきだわ…………。……………………って、お客さん!?」



 あ、起きた。

 ……って、今気づいたのかよ!



「う、うわー……。ワタシ、お客さんにすっごい失礼なことを……。す、すみませんでした!」


「いえ、気にしてないですよ。それに、まぁ。この店の様子を見る限り、貴女がああやって嘆くのもわかりますし」



 ここまで繁盛してなきゃ、そりゃ恨み言の一つでも言いたくなるよな。人間、上手く行ってないときは誰かに当たりたくなるもんだし。

 俺がそう言うと、店員さんは涙目になって嘆くように話し始めた。



「うぅうう……。そうなんですよ~。ホントにもう、びっくりするくらいお客さんが来なくて……。来たとしても、商品をちらっと見ただけで帰っちゃうし……。一体、何が悪いのかしら……」



 店員としての言葉遣いも崩れている。よほど困っているのだろう。

 それにしても、前評判通り反応や感情表現がすごくリアルだ。本物の人間と比べても、全く遜色がないんじゃないか?



「大変なんですね……」


「そう! 大変なの! おばあちゃんから受け継いだ店なのに……。このままじゃ、つぶれちゃうよ……」


「……どうして、そんなにお客さんが来ないんです?」


「……貴方、異邦人よね?」


 

 と、いきなり店員さんは、俺の顔をじっと見つめながら、話の流れをぶった切ってそう聞いてきた。 

 俺、何かおかしなことでも言ったかな? 異邦人……確か、プレイヤーのことをそう呼ぶんだっけ?それが、お店が繁盛してない理由と何か関係あるのだろうか……?

 俺が不思議そうな顔をしていたのに気づいたのか、店員さんが慌てたように開いた手を横に振った。



「あ、えっと。別に貴方が異邦人ってこととお店に客が来ないのは関係ないのよ? ただ、こんな風に話を聞いてくれる異邦人の人って初めてだったから」


「そうなんですか?」


「ええ、異邦人の人たちって、店に来ても買い物を済ませたらさっさと行っちゃうから。異邦人が現れ始めてもう数か月になるけど、こんなに長く会話したのって初めてなの」


 

 そう言って微笑む店員さん。彼女が言ったことを頭の中で反芻してみる。

 ふむ。つまり、プレイヤーはあんまりNPCと交流をしていないってことか。NPCとの交流目当てで始める人もいるって聞いてたんだけど……。あ、そっか。そういう人たちは攻略に興味がないから、スキル屋に来ないのか。見たところ、このスキル屋で買えるのは戦闘系のスキルばっかりみたいだし。

 この店員さん、最初はパープルワカメモンスターとか思ってたけど、こうして顔が見えるとかなりの美人さんである。一度知られれば、根強いファンができるんじゃないだろうか?

 そんな人の初めての相手になれる……。おっと、今の思考は危ない。初めて長話をした相手になれたという栄光をもらったのだ。早くフィールドに行きたい気持ちもあるが、ここはもう少し話を聞いていこう。



「そうだったんですか。何でしたら、もう少し話をしませんか? 俺でよかったら、愚痴でも何でも聞かせてもらいますよ」


「本当? 最近は、友達とかと話す機会もあんまりなかったから、いろいろと話したいことがあったの。聞いてくれるならうれしいわ。……でも、どうして初対面のワタシの話なんか聞こうと思ったの?」



 店員さんが、嬉しさ半分疑問半分みたいな顔でそう聞いてきた。

 どうして、かぁ。まぁ、いきなりこんなことを言ってくる男なんて、警戒して当然だよな。なんて返すのが正解か……。と考えながら、なんとなく店員さんの頭上を見つめてみる。マーカーが表示され、そのあと、少したってから名前とレベル、職業が表示された。

 店員さん、シルさんって言うのか。レベルは5。職業は技能書職人……って、そのままかよ。

 

 ん? 職業? …………あ、そっか。俺の職業って……。


 思い付いたことをそのまま言ってみることにする。えっと、ごまかしてるってことがバレないように、それっぽい笑顔を作ってっと。



「どうして、ですか……。まぁ、俺って、見習いとはいえ神官なんですよ。神官の仕事は、何も傷を癒すことだけじゃない。貴女のように困っている人の悩みを聞いてあげることも、心を癒すという神官の立派な仕事なんです。なので、遠慮なく話しちゃってください。そのすべてを受け止めますよ」



 これぞ名付けて『エセ神官大作戦』。まぁ、ゲームの中でのリューが神官ってのはホントなんだし、あながち嘘ってわけでもないだろ。

 俺の純度百パーセントの作り話に、納得したようにうなづくシルさん。そして、にっこりと嬉しそうな笑顔を浮かべた。うっ、胸に罪悪感が……。



「そっか、神官さんだったのね。そういうことなら、遠慮なくいかせてもらうわよ?」


「はい、喜んで」



 そのあと、シルさんは十分くらい絶えまなく話をつづけた。大半は上手くいかないお店の愚痴。たまに、母親から「いい歳なんだから、恋人の一人でも作ったらどうなの?」と言われて困っている。などの日常感あふれる(?)話を聞かされた。

 俺はその間、「ふんふん、そうですか」とか「それは大変ですね」とか「わかりますよ、その気持ち」なんて感じで、適当感あふれる相槌を打っていた。

 


「ふぅ……。なんか、こうやって全部話しちゃったら、少しは楽になったかも。ありがとね、神官さん」


「お役に立てたなら何よりです。何とかやって行けそうですか?」


「うん。この、おばあちゃんから受け継いだお店を潰さないためにも、頑張ってみるわ」



 決意のこもった言葉と共にシルさんが浮かべた笑顔は、とても晴れやかなものだった。

 俺も、その笑みにつられて、クスリと笑ってしまった。どこか寂し気な雰囲気が漂っていた店内が、少し明るくなったように感じられて……。


 ピロン♪


 突然、脳内にそんな音が響いた。

 


「えっと、それでね? お店を頑張るって決めたのはいいんだけど……。最近、お客さんが全く来ないから、スキルブックを作ることもあんまりしてなかったの。だから、スキルブック製作に必要な素材で足りないものがあるんだけど、採集してきてくれないかしら? もちろん。報酬は払うわ。どう? 引き受けてくれる?」



 シルさんがそう尋ねるのと同時に、俺の目の前にウィンドウが表れる。

 そこに書かれていたこととは……。



================================

 SQ:シルの頼み事

 内容:『アンヴィレ』のスキル屋の店長シルから、スキルブック製作のための素材を集めてきてほしいとお願いされた。シルが欲しがっている素材を集め、彼女に渡してあげよう。

 クリア条件:[黒狼の牙]×5[ホブゴブリンの血液]×5[ゴブリンジェネラルの血液]×1

 フィールド:『乾燥した荒野』

 期限:なし

 報酬:[???のスキルブック]


 このクエストを受けますか?(ただし、NOを選んだ場合このクエストは二度と出現しません)。

 YES/NO

================================



 

 それは、このFEOで初めての、クエストの発生を知らせるウィンドウだった。


 

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