古城に潜みし者
【召喚『サラマンダーの息吹』】の、あまりの威力の高さに若干ビビりつつも、俺は『旧ナメルス王都跡』の探索を続けていた。
夜闇に沈む廃墟が立ち並ぶ平野は、まさに亡者どもの巣窟。次から次へと現れるアンデットモンスターの群れを紅戦棍で砕きながら、古城跡を目指して進む。
このフィールドに出現するモンスターは、スケルトン。スケルトンソルジャー。スケルトンメイジ。スケルトンナイト。スケルトンアーチャーなどの動く骨格標本共。カタカタカチャカチャとうるさいやつらだ。
メイジが放つファイアーボールとアーチャーの矢が厄介だったが、どいつもこいつも強化無しの紅戦棍の一撃で脆く粉砕されてしまうので、脅威にはなりえない。
さらに、アニマルゾンビや普通のゾンビ。その上位種であるグールなんかも出てくる。こいつらはとにかく臭い。戦ってると腐臭が漂ってくる。思いっきり消臭剤をぶん投げてやりたくなった。
こいつらは臭いが不快なこと以外はスケルトンとあまり変わらない。紅戦棍で殴れば腐肉をまき散らして死んでいく。動きが緩慢な分、スケルトンよりも弱いかもしれない。
一番厄介なのは、やはりレイス系の、霊体モンスターだろう。物理攻撃無効という時点で、もう俺にとっての天敵でしかない。攻撃手段はHPを吸収するオーラを放ってくるのと、鬼火を投げつけてくる攻撃。どちらの攻撃も、魔法攻撃に分類されるのか、MINDが高い俺には余り効果がなかった。
こいつらが出てくるたびに《召喚魔法》を使うわけにもいかない。【召喚『サラマンダーの息吹』】は消費MPが激しいだけでなく、再詠唱時間も十分と長い。気軽に使える魔法ではないのだ。
そんなわけで、レイスが現れたら、【ソードオブフェイス】で攻撃するしかないのだが、ただ剣を生み出して発射するだけでは効率が悪い。
そこで俺は、【ソードオブフェイス】で生み出す剣を一本に限定した。そして、消費魔力のほとんどを維持に割り振り、一度発動したら三十分くらいは消えない剣を創り出す。それを、紅戦棍を片手持ちにすることで空いたもう片方の手に装備した。
ここに、メイスと剣という、世にも珍しい二刀流が完成である。
このゲームは、たとえ《剣使い》のスキルを持っていないくても、剣でダメージを与えることができる。スキルがあると、そのダメージに補正が入るというだけなのだ。それに加え、【ソードオブフェイス】で創り出した剣は、本当の剣ではなく魔法である。飛ばして突き刺すか、手にもって振り回して切り裂くかの違いでしかない。十分に戦うことができた。
こうして、片手に骨と腐肉を砕く紅戦棍を。もう片方の手に霊体を斬り裂く魔法の剣を装備した俺は、道中に現れるモンスター共をばっさばっさと討伐し、やがて古城の目の前まで来ていた。
「……こ、こうしてみてみると、雰囲気があるよなぁ……」
某夢の国ランドのトレードマークの城を、規模を大きくし、石造りにして蔦を這わせ、いろいろと崩すとこの古城になる。あれだな、城と骨死集合住宅(直訳しました)を合わせた感じ。
ここまでにあった廃墟とは比べ物にならないほど形が残っている古城は、月明かりにうっすらと照らされており、見る者の背筋を凍らせるような不気味さを放っていた。というか、お化け屋敷みたいでちょっと苦手な雰囲気である。
いや、決してお化け屋敷が苦手ってわけじゃないよ? あんな子供だましに引っかかるような俺じゃないし。その証拠に、道中でアンデットモンスターを相手にしても平然としていただろ? うん、怖がってない。全然怖がってないぞ、俺は。
そう、誰に言ってんのか分からない言い訳を心の中で展開しつつ、古城跡に足を踏み入れる。悪魔をかたどった石像に見送られながら入ったのは、ホールのような場所。崩れたシャンデリアとか、錆に覆われた鎧の置き物とか、破れた絵画とか城っぽい調度品がところどころに置かれている。
それにしても……暗い。室内だから月明かりが入ってこない。ゆえに、暗い。めっちゃ暗い。《夜目》を使っても普通に薄暗い。こんなところで戦闘とかしたくないなー。
そんな、若干逃げ腰になっている俺に追い打ちを掛けるように、心霊現象染みたことが起こり始めた。ホールの空中のいたるところに、青白い光を放つ鬼火がともる。……いきなり顔の横に鬼火が出てきたことにビクッ、と肩をこわばらせたのは、しょうがないよね?
鬼火の放つ青白い光に照らされた壊れた城内ホール。どこか幻想的なその光景の向こう側には、上へと続く大きな階段があり、階段を上り切ったところ。
そこに、それは立っていた。幽鬼のように、霞のように。ただ、そこに佇んでいた。
それは、甲冑で全身を覆われた戦馬にまたがり、闇の中にあってなお暗い漆黒の甲冑に身を包む、騎乗槍を持った騎士。戦馬も騎士もうなだれた状態で動かないでいる。
その漆黒の騎士に、周囲を漂っていた鬼火が吸い込まれるようにして集まっていく。鎧甲冑に、戦馬にと吸い込まれていく鬼火は、その姿を蒼白いオーラに変えて騎士と戦馬にまとわりついた。
そして、騎士の兜の目の隙間に光がともり、戦馬が閉じていた眼を開いた。
「ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
それは、戦場に響く咆哮。戦闘開始の合図。
――――『旧ナメルス王都跡』フィールドボス。ゴーストライダーが、俺の前に立ちはだかった。
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