夜空の下に現れよ紅竜
はい、久々のバトル回です。
「さてと……。なんか、こうやって戦いのことだけ考えるのも、久しぶりな気がするな」
夕食を終え、食器洗いを終え、入浴を済ませ明日の朝食の下ごしらえを終えた俺は、本日三度目となるFEOへのログインを決行し、ドゥヴィレから出てフィールドに一人立っていた。時刻は普通に夜。もう少しでミッドナイトと言ってもいいくらいの時間である。当然のように光は月明かりと星明りの二種類だけ。後はスキル《夜目》が何とか周囲の状況を伝えてくれている。
さて、なぜ俺がこんな真似をしているのか? それはもちろん、夕食後に蒼とした約束を守るためである。明日の午前中にトロワヴィレの案内をしてもらうためには、今日のうちにそのトロワヴィレに付いておかなければならない。明日の午前中に付いてたんじゃ間に合わないからな。
俺が今立っているのは、ドゥヴィレからいける四つのフィールドの中で、最も早くトロワヴィレにつける代わりに、最も難易度の高いフィールド。『旧ナメルス王都跡』という名前のフィールドだ。
ナメルス王都という名前からして、今俺がいる場所はナメルス王国という名前の国なのだろうか? とか、ナメルス王国という過去に滅んだ国の王都の跡地なのだろうか? とか、ほどほどに好奇心を刺激されるが、今はそう言うのはすべて無視。ここを抜けてトロワヴィレに至る方法を考えよう。
『旧ナメルス王都跡』は、平野に石造りの建物や壁の残骸が残っているというような感じのフィールドであり、フィールド内に『王家の地下大墓地』というダンジョンがあることで有名なんだとか。すっげぇ行ってみたいけど、我慢我慢。
さてと、このフィールドのゴールは、この暗闇でもうっすらと見えているあの古城だったな。なお、ここまでの情報提供者は毎度おなじみの太陽だ。トロワヴィレに最短で行けるルートを教えてくれといったとき、やたらニヤニヤしていたのが気になるが、まぁ大したことではないだろう。どうせ太陽だし。
「よし、じゃあ行くか」
そう、誰に言うためでもなくつぶやくと、俺は紅戦棍を取り出した。深紅に染まる凶悪なシルエットをぶんぶん振り回しながら、進み始める。
ちなみに、今回はアヤメは召喚しない。アヤメは《夜目》や《暗視》系のスキルを持っていないので、この暗闇で戦わせるのは危ないと判断した。この上ない英断だと思っている。
そんなこんなで、《夜目》で確保した視界を頼りに、古城に向かって歩を進めていると、すぐさまモンスターが表れた。
「こいつらは……スケルトンか」
あらわれたのは、理科室にでも置いてありそうな動く骨格標本。骨格標本と違うところは、穴だけの眼孔に青白い光がともっているところと、錆の浮いた武器を持っていること。スケルトンから放たれる威圧感は、初心者フィールドで出てくるモンスターよりも、何というかこう……「殺す!」という意志に溢れてる気がする。
ま、それは俺も同じなんだけどね?
あらわれたスケルトンは八体。ははは、夜はモンスターが凶暴化するからと言って、随分と大盤振る舞いじゃないか。これは久しぶりに期待できそうだ。
俺はカタカタと骨を鳴らしながら向かってくるスケルトン共に、こちらから接敵する。まずは強化魔法無しで様子見。レベルは十二分にこちらの方が高い。
「はぁッ!!」
裂帛の気合と共に、紅戦棍を先頭のスケルトンに叩き込む。頭蓋に命中したそれは、スケルトンの頭蓋骨を砕き、一瞬で純白の粒子に変換する。チッ、やっぱり打撃に弱かったか。手ごたえなさすぎんだろ。もっとカルシウムを取りなさい。
使用者に重さを感じさせないというこの武器を存分に生かし、紅戦棍の巨大さに似合わない速度で攻撃を繰り出し続け、あっという間にスケルトン共を殲滅してしまった。
物足りない。そう思った俺の願いが天に届いたのだろうか? 廃墟の陰からぞろぞろと現れるスケルトンの集団。さらに、腐肉をまき散らすアニマルゾンビや半透明のレイス。まぁよくぞこれだけそろったなと感心してしまいそうなほどのアンデットパラダイス。
ま、何がでてこようと関係ない。全部まとめて粉砕玉砕大喝采だ。紅戦棍を構えなおし、自分に全力の強化を施す。
視界を埋め尽くすほどに現れたアンデッド共に向かって、俺は駆け出した。
まずは、先頭にいるスケルトン共。あれ? こいつらさっきのやつと違って鎧なんて上等なものを着ていた。骨の上に鎧って……。衝撃を与えればそのまま砕け散ってしまいそうじゃないか。
ということで、衝撃を与えましょう。
「【エコーブロウ】!」
放たれるのは、衝撃波を伴う打撃。振るわれたメイスは、先頭の鎧スケルトンに当たると、打撃の威力でその骨だらけの体を粉砕し、その後発生した衝撃で、後方にいたアニマルゾンビとスケルトンが吹き飛んだ。……鎧を付けていても、普通に殴れば倒せるんですかそうですか。
ちょっと物足りなさを感じつつも、こういう無双もたまにはいいかな? と自分を納得させる。納得させたら、後は殲滅作業に入るだけである。
木の枝を振ります程度の重量しか感じない紅戦棍を縦横無尽に振り回し、スケルトンとアニマルゾンビをどんどん駆逐。
だが、俺の無双劇は、レイスに向かって紅戦棍を振るったときに途切れてしまった。なんと、俺の放った攻撃が、レイスの体をするっと通り抜けたのだ。俺、唖然。
霊体モンスターに、物理攻撃は通用しない。うん、ファンタジーのお約束だよね! 何で忘れてた畜生!
ニヤリ、としてやったりな笑みを口元に刻んだレイスの放つ鬼火のような攻撃を回避し、後ろにいたスケルトン共に【エコーブロウ】を叩き込んで、いったん距離をとる。
物理攻撃が効かないとなると、【ソードオブフェイス】で攻撃するか……と、考えたところで、ある魔法の存在を思い出す。そう、《召喚魔法》の【召喚『サラマンダーの息吹』】である。使おう使おうと思っていて、結局一回も使っていないこの魔法。うん、炎属性の範囲魔法だって言うし、今の状況にピッタリじゃないかな?
視界の隅に映るMPゲージを確認。うん、発動に必要な最低MPは十分に残ってるな。というか、消費MP500とか半端ないなこの魔法。
効果範囲にモンスターの群れが入るように自分の位置を調整し、広げた左手を前に突き出す。え? この仕草の意味? 気分だよ気分。言わせんなよ恥ずかしい。
さぁ、モンスター共が近づいてくる前にっと……。
詠唱、開始。
「『我が命に従い我が前に顕現せよ。汝は火口に住まう焔の化身。灼熱の息吹にて我が眼下に蔓延る敵を煉獄の地獄に閉ざせ』」
うん、相変わらずの全力厨二の詠唱。ちょっと唱えるのが恥ずかしかったりする。
俺がそんな風に羞恥に悶えている間に、詠唱によって生み出された魔法陣が激しい灼色の光を放ち始めた。MPゲージが一気に減少した。
そして、魔法陣から姿を現す、焔を纏った紅き竜。夜闇をその光で照らし、鋭い牙の並ぶ口を大きく開くと、大気を振動させる咆哮を放つ。
なんとも大迫力な光景に、モンスターたちの足が止まる。紅き竜から放たれる威圧感に完全にビビっていた。その怯えを抱えたまま、死ね。
「【召喚『サラマンダーの息吹』】」
魔法名を俺がつぶやくと、紅き竜が大きく息を吸い込み、そして、吐き出した。吐き出されたのは灼熱の火炎。すべてを燃やし尽くす大火は、モンスターの群れを飲み込んだ。
熱気と閃光に思わず顔をそむける俺。そして、そのどちらをも感じなくなった後、再度そちらを向く。
もう、そこにいたはずのモンスターの群れの姿は、跡形もなく無くなっていた。
召喚魔法、初お披露目でございます。
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