表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/250

俺の幼馴染共

あれ? 日間ランキングに乗ってる……?

 はい、やってまいりました! FEOの世界!


 俺の目の前には、石造りの建物が立ち並ぶ、ヨーロッパの街並みに似た光景が広がっていた。正直、リアルすぎて逆に現実味がわかない。

 ここは、全プレイヤーが最初に訪れる町、『アンヴィレ』。周りを初心者用フィールドに囲まれた、通称『始まりの町』。

 右を見ても人、左を見ても人。かなりの数の人がいた。全員がゲームでしか見たことないような恰好をしている。こうして見ていても、プレイヤーとNPCの区別がつかない。

 目を凝らしてみると、人の頭上にアイコンが表れる。このアイコンが緑色ならプレイヤー。青色ならNPCだ。モンスターやPK――プレイヤーキラー。プレイヤーを殺すことを目的としたプレイヤーのこと――は赤で表示される。また、一定距離に近づくと、アイコンの横にPNとレベル、職業が表示されるシステムになっているらしい。

 こうしてみると、プレイヤーの数はそんなに多くない。まぁ、たいていのプレイヤーはもっと先の町に行ってるんだろう。

 

 俺が現れた地点は、どうやら町の広場らしい。真ん中に噴水があり、待ち合わせをしている人が結構いる。あ、あいつらカップルだ。爆発してくれないかなぁ……。


 って、怨念込めてる場合じゃない。キャラメイキングが終わったら、まずやることがあるんだったな。えっと、メニュー画面を開いてっと。

 メニュー画面のフレンド欄を開く。フレンド欄にはすでに二つの名前が登録されていた。幼馴染共の物だ。

 ゲームを始める前でも、登録IDを交換することでフレンド登録ができる。というシステムだ。これで幼馴染共と連絡を取るように言われている。

 初めての作業に少し手こずりながら、なんとかフレンド通信をつなげた。真っ暗なコール画面が開き、コール音が鳴りだす。しばらく待つと、画面が切り替わった。



『よう、リュー! ようこそFEOへ! てか、PNそのまんますぎねぇか?』


『リューにぃ、遅い。待ちくたびれた』



 ……好き勝手言ってくれるな、こいつら!


 画面に映し出されたのは、一組の男女。

 男のほうはツンツンに逆立てた赤髪に同じく赤色の瞳をしている。爽やかイケメンフェイスにやんちゃ坊主のような笑みを浮かべている。

 もう一方は、青色の髪をサイドテールにし、マリンブルーの瞳を不満げに細めている小柄な美少女。ジト目のつもりなのだろうが、背丈と相まって子供が拗ねてるように見えてしまう。

 PNは、男の方がアポロ、少女の方はサファイア。


 俺の幼馴染の、千代原太陽ちよはら たいよう千代原蒼ちよはら あおの、FEOでの姿だった。



「アポロ、サファイア……。最初から俺を怒らせて楽しいか? あ?」


『そんなにカッカすんなってー』


『リューにぃ、カルシウム不足?』


「違うわ! ……はぁ、お前らとの会話は無駄に体力を使う……」



 こいつら、アポロとサファイアは苗字からわかるように兄妹だ。それも、双子。

 俺んちのお向かいさんで、小さいころからずっと一緒に育ってきた。二人はもう、俺にとって手にかかる弟妹みたいなもんである。

 それに、小中高とすべて同じクラスという確率論を疑いたくなる腐れ縁っぷりだ。

 まぁ、リアルではそうでも、こっちでは先にゲームを始めた先輩だからなぁ……。こいつらの後輩とか、嫌な予感しかしないんだけど。



『まぁ、それはさておき、だ。リューは今、始まりの町の噴水広場にいるだろ?』


「ああ」


『ちょっと待ってろ。すぐにそっちに行くから』


『待ってて、リューにぃ』


「え、ちょ、まっ……。切れた……」



 さくっと通信が途切れてしまった。せっかちというかこっちのことなど何も考えてないというか……。とりあえず、言われた通りここで待っていよう。

 と、思ったら、



「おーい!」


「りゅーにぃー」



 早ッ!? 三十秒くらしかたってないぞ?

 駆け寄ってきたアポロとサファイアに驚愕の目を向けてしまう。そんな俺を見て、ニヤリと笑みを浮かべた二人。こいつら……。



「くははは! 大成功だぜ。見事に驚いてくれたなぁ、リュー」


「ないすりあくしょん。面白かった」


「いやいや、なんでこんなに早くこれたんだよ。通信切れてから本当に少ししかたってないぞ?」


「実はな……あのあたりでお前の姿を確認しながら通信してたんだ」


「何でだよ。見えてんなら普通に声かけてくればよかっただろ?」


「わかってない。わたしたちはただ、リューにぃの驚く姿が見たかっただけ」


「おう、サファイアの言う通りだぜ!」


「小学生の嫌がらせか!」



 まったく……。VR内でもこんな感じなのか、こいつらは。

 なぜか昔から、ことあるごとに俺を驚かせようと、悪戯やドッキリを仕掛けてくるのだ。高校生となった今でもそれは続いている。早く大人になれと言いたい。

 最近は……。ああ、朝起きたらなぜか蒼が一緒に寝てたってのがあったな。あれには驚いた。二重の意味で心臓がバクバク言ったわ。



「リューの職業は……神官か。後方支援職なんてお前らしくないものを」


「別に後方支援なんてする気はないぞ。ソロプレイで死なないために回復魔法が使える職業を選んだだけだ」


「ソロプレイ前提ってとこがお前らしいわ。ってことはサブジョブは、火力上げのために闘士にしたとか?」


「その通り。よくわかったな」


「はぁ、その様子だと、パーティープレイする気は一切なしか」


「むぅ、リューにぃ。わたしたちと一緒にやらないの?」


「俺が複数人の集団の中に入ってやっていけると思うか? それに、お前らだってパーティーなりギルドなりの一員なんだろ? 俺に構わずそっちを優先すればいいのに」



 集団行動が苦手……。そう言うと社会的不適合者に聞こえるけど、決してそんなことはないと思いたい。チームプレイが向いてないだけなんだ。



「うーん、そうかー。……じゃあさ、お前。俺のギルドに加入だけしておけよ」


「アポロのギルドに? 加入だけってことは、別に他のギルドメンバーと行動を共にしたりしなくていいってことか? それはありがたいが……いいのか?」


「もちろんだぜ。ギルドに登録しておけば、他のギルドから勧誘されることもなくなるからな。もちろん、サファイアも同じギルドだぜ」


「ん、アポロ。いいこと言った。リューにぃは別のギルドに行っちゃダメ。絶対ダメ」


「お、おう……。どうしたサファイア? 顔が怖いぞ?」


「……ダメ、だから」



 ジッと俺の目を見つめながら、サファイアがつぶやく。

 こいつがこうやってしっかりと目を合わせて言うことは、絶対に断ってほしくないことを言うとき。そんなに俺にギルドに入ってほしいのだろうか? 初心者の俺がいても邪魔なだけだろうに。



「分かった分かった。お前らのギルドに入らせてもらうよ」


「本当だな? よっしゃぁ! リュー、ゲットだぜ!」


「俺はポケ〇ンか」


「ん、リューにぃありがと。うれしい」


「はいはい。まったく、俺をギルドに入れてなんの得になるんだよ」


「リューが身内にいるってだけで、安心感が段違いだからな~」


「リューにぃと一緒。うれしい」


「あっそう……。でも、俺は基本的にソロで活動するからな? 勘違いするなよ? ……まぁ、お前らがどうしてもってときは、付き合ってやらんこともないが」


「「わぁい、ツンデレさんだぁ」」


「誰がツンデレだ、誰が!」


 

 いや、言ったあとで自分でもツンデレっぽいセリフだなって思ったよ?

 男のツンデレとか誰得だよ。



「………ところで、お前らが入ってるギルドって、どんなところなんだよ」


「露骨な話題そらし」


「サファイアうっさい。アポロ、お前もいつまでも笑うな」


「くっ、ぷぷぷ……。あ、ああ。ギルドの説明な。了解だ。俺たちのギルドは【フラグメント】って名前でな。少数精鋭の攻略ギルド、まぁ簡単に言えば、いち早く新しい町やダンジョンを見つけたり、ボスを討伐したりするギルドだな」


「なんか、二人が入ってるギルドにしては、随分とまともそうだな」


「どういう意味だそれ? ……まぁいい。んで、ここからが重要だぞ。なんと、このギルドのトップ。すなわち、ギルドマスターは…………………………………俺だ!!」


「……は?」


「ちなみに、わたしが副ギルマス」


「……はい?」



 何を言ってるんだこいつら。アポロがギルマスで、サファイアが副ギルマスだと? それはギルドとして機能してるのだろうか?

 この二人をツートップに添えた組織がうまくいく光景が、俺にはどうしても想像できなかった。


「そして、攻略ギルド【フラグメント】は、掲示板の連中が作り上げた非公式ランキング企画、題して『今一番加入したいギルドランキング』で、トップの座を手に入れています! ドヤァ!」


「……ウザッ」


「はっはっは! その反応は心にクるぜ!」


「サファイア、本当なのか? 本当に、本当なのか?」


「そんなに信じられない?」


「うん」


「……即答は悲しいの」


「俺は放置されてもっと悲しいぜ!?」


「「アポロ、うっさい」」


「……はーい」



 どうしても信じられない……というか、信じることを脳が拒否している。

 だって、普段のこいつらって、ほんとアレなんだぞ!?

 アポロ……太陽は勉強もせずにゲーム三昧。おかげで中間テストで全教科赤点という伝説を叩き出した。期末テストは俺がゲームを物質ものじちにとって無理やり勉強させ、何とか全教科平均点をマークしたことで、夏休みの補習を回避した。

 サファイア……蒼は、外面は完璧に装っているが、家ではただのダメ人間。着替えたら服は放りっぱなし。部屋の掃除も一人でやれば逆に汚し、料理なんてやらせた日にはキッチンを修理しなきゃいけなくなる。

 そんな二人がトップのギルドが、人気ギルドの頂点に立っている……だと?

 何がどうやったら、そんな天変地異が…………ああ、なるほど。



「他のギルドメンバーが、よほど優秀な人が集まってるんだな。うん、そうに違いない。近いうちに挨拶に行かなきゃなぁ……。二人がご迷惑をおかけしていますって」


「そ、それはやめて!? 必死にかっこいいギルマスを演じてるんだよ? 俺の努力の結晶を砕かないでくれ~」


「むぅ、リューにぃ。わたしはもともとお飾り。ギルドのマスコット的存在。そこにいることが仕事。よって、わたしはいつも仕事を完璧にこなしていると言える」


「あ、ず、ずりぃぞ、サファイア!」


「わたしは事実を言っただけ。アポロだけ悲惨な目にあうといい」



 ギャーギャーと騒がしく兄妹喧嘩を始めた二人に、俺は深い、それはもう深いため息を吐いた。


 ……というかサファイア。その扱いで本当にいいのか?

ブックマークに登録してくれた皆さま、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ