幼女と宿屋の一室でアレコレする話(意味深)
今日も今日とで、家事と宿題を終わらせた俺は、FEOにログインしていた。夏休みの宿題は、後二日もあればすべて片付くところまで終わっている。
……そういえば、あの二人は宿題をちゃんとやっているのだろうか? ……いや、やってないだろうな。やってるはずがない。はぁ、どっかで折を見てやらせないとなぁ、夏休み明けが大変なことになる。
そういえば、今日で、このゲームを始めてから一週間が経っていることに気が付く。始めた当初からは信じられないほどにこの世界に馴染んでいる自分に、なんとなく笑みが浮かんでくる。
昨日、ログアウトしたのは、ドゥヴィレの宿屋の一室。そこで目覚めた俺は、さっそくドゥヴィレ以降のフィールドに飛び出す……と、その前に。
「『我がうちより目覚めよ、我が使い魔。その名はアヤメ』!」
《召喚魔法》、【サモン・サーバント】を詠唱し、ログアウト時は送還しているアヤメを呼び出す。部屋の床に魔法陣が展開され、そこから俺の小さな相棒であるケモ耳少女が姿を現した。
「おはよう、アヤメ。今日もよろしくな」
「………………(ぱたぱた)」
尻尾を揺らしてトテトテと駆け寄ってくるアヤメ。可愛らしいその姿に、反射的に手がアヤメの頭に伸びていた。そのままなでなで、なでなで。
……はっ!? いかん。さらさらの髪の心地よさに飲まれるところだった。何という中毒性。アヤメ、恐ろしい子。
こちらをその愛くるしさで魅了してくるアヤメだが、その装いは昨日と変わっていた。
真夏のひまわり畑が似合いそうな白のワンピースから、動きやすそうなショートパンツ&丈の短いノースリーブシャツ。ニーソックスというスタイルに。そして、手には革製のガントレット、脚には同じく革製のグリーブを装備している。
腰まである純白の髪はポニーテールに真紅のリボンでまとめられており、完全に『戦う女の子』スタイルである。
アヤメだけでなく、俺も装備が変わっている。
今まで装備していたものよりも洗練されたデザインの神官服。要所要所に金属板が仕込んであるらしく、防御力はかなり高めである。そして、アヤメと似たデザインの金属製のグリーブ。黒のグローブ。頭にはクロブークという平べったい帽子が乗っかっている。
どれもこれも、アッシュの作ったものである。ディセクトゥムの素材で装備を作って貰うまでの代わりとして受け取ったものだ。その際、ちゃんと代金を払おうとしたのだが、『こ、こんな素材を扱わせてもらえるだけで充分ですから!』と断られてしまった。親しき仲にも礼儀あり。ゲームの中とは言え、金銭に関してはしっかりとしておきたかったのだが……。まぁ、今回はお言葉に甘えさせてもらおう。
やっぱりアッシュの作るものは、『いいもの』ばかりである。アヤメも気に入っているようで、自分の姿をきょろきょろと見下ろしていた。
で、新しい装備の性能がこちらである。まずは、俺の方から。
装備
武器右:紅戦棍【ディセクトゥム】 STR+100 AGI+50
武器左:なし
頭:バトルクロブーク MIND+10 DEF+10
上半身:バトルプリースト(上) MIND+20 STR+10
下半身:バトルプリースト(下) MIND+20 AGI+10
腕:ブラックウルフグローブ DEF+5
足:メタルグリーブ DEF+15 STR+10
アクセサリー:なし
そして、アヤメ。
装備
武器右:なし
武器左:なし
頭:スカーレットリボン INT+10
上半身:ファイターガール(上) STR+15 AGI+10
下半身:ファイターガール(下) STR+10 AGI+15
腕:レザーガントレット STR+20 DEF+5
足:レザーグリーブ AGI+20 DEF+5
アクセサリー:なし
こうして性能が表示されたウィンドウを見てみると……。なんだろう、どの装備もどの装備も、俺とアヤメに必要な要素が適格に詰まっている。これをサッと出してきたアッシュはやっぱりすごい。
しかし、MINDとSTR、AGIが一緒に上がる防具だなんて珍しいもの、よく作ってたよなー。アッシュは『え、えっと……。ちょっと変わった装備も作ってみたくなりまして……。そ、それで……』って言ってたっけ? なんで目が泳いでいたのかは分からない。もしかして、何かの拍子に出来てしまった失敗作の装備だったりするのだろうか? それを渡すことに罪悪感を覚えていた……とか? うーむ、いい子なアッシュならありえそうだな。今度会ったとき、気にしないでくれと言っておくか。
そんなことを考えていると、服の袖がくいくいと引かれた。
「ん? どうした、アヤメ?」
「………………(しゅっしゅっ)」
そちらに視線を向けると、アヤメは宿屋の扉を指さした後、シャドーボクシングをし始めた。これは……。
「もしかして、戦いたいってこと?」
「………………(こくこく)」
「あー、そうだな。アヤメもあれだけ戦闘スキル持ってんだし、戦闘系使い魔なんだよな。……決して、癒し系ではない、と?」
「………………(こくこくこくこく)」
うん、俺的にはアヤメは完全に癒し系使い魔の立ち位置にいたんだが、本人からしたらその扱いは不本意のようだ。
よし、じゃあ行きますか。と、腰掛けていたベッドから立ち上がる。アヤメはパタパタと扉の方に駆け寄ると、クルリと俺の方を振り返った。早くしろってことですね、分かりましたよっと。
扉を開けてやれば、アヤメは尻尾を揺らしながら廊下を先に進んでいった。
その小さな背中を見ながら、ふと、予感のようなものが頭をよぎった。
―――アヤメって、成長すると、大きくなったりするんだろうか?
可能性は十分にある。けどなぁ……。俺は小さいアヤメの方がいいです。決して変な意味でなく。ほら、癒し的な意味で。
……だから、変な意味はないからね?
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