正座しなさい、正座! 足突っついてあげるから!
ご報告。
67、68、69話を改訂しました。特に67話は前の物と全くの別物と言っていいものになっています。改訂前の話もあとがきに載せておきました。
70話を読む前に、そちらをご覧ください。
ハイどうも、正座をしながらのご挨拶で申し訳ございません。リューです。
かれこれニ十分くらいは正座の体勢を保っております。固い床の上での正座。そして、俺の膝の上にちょこんと乗っかっているアヤメ。これが地味にきつい。
うう、脚も痺れてるし、ちょっとくらい崩しても……。
『姿勢が乱れています。背筋を伸ばしなさい』
「は、はいっ!」
ちょっとダレた瞬間に飛んでくる淡々とした厳しい声に、ビシッ、と背筋を伸ばす。あ、危ない危ない……。
ちらりと声のした方に視線を向けてみれば、そこには金髪碧眼の美しい天使がいた。比喩でも何でもなく、背中から純白の羽根が生えており、頭には光輪が乗っかっている。その華奢ながらも豊満な身体を包むのは、ト―ガのような服。
その姿だけを見れば絵画から抜け出してきたような天使なのだが、片手に持っている竹刀のせいで違和感がとんでもないことになっている。
何故、俺がこんな目に遭っているのか。
あの高慢女を言い負かし、追っ払ったところまでは良かったんだ。うん、まさに万事解決。これでもし報復にでも出られたら、その時は本当に容赦せずにボコればいいんだからな。
人前で俺に抱き着いた恥ずかしさからか目も合わせてくれなくなったアッシュに苦笑している時のこと。
なーんか周りの視線が痛くなってきたなー、そろそろ帰ろっかなーとか思い始めていた俺の前に、唐突に竹刀を持った天使は現れた。
……いやもう、ホント驚いた。クルリって振り返ったら目の前にいたんだぜ? 思わず大声を上げてしまった俺を誰が責められようか。……責めないでね?
で、俺の前に現れた竹刀天使こと“ペナ子”さん。……いや、ご本人が自己紹介でそう名乗ったんだからね?
ペナ子さんは『断罪NPC』という特殊なNPCらしい。迷惑行為や悪質な行為をしたプレイヤーにお仕置き(一定期間のログイン停止、レベルダウン、アイテムロストetc etc……)をするためのNPCだと、淡々とした口調で説明された。
もしかして、喧嘩染みたあのやり取りは迷惑行為に入るものだったのか? と思ったら、そうではないらしい。
なんでも、街中で武器を抜くという行為がアウトだったらしいのだ。……まぁ、リアルでも街中でナイフを抜身で持ち歩いたら普通にオマワリサンの厄介になるもんね。当たり前だね。
で、そんな俺に架せられた罰というのが、冒頭の状況。要するに『正座三十分』というわけだ。
なんだろう、釈然としないものを感じる。俺って今回の件、悪くないよね? ……うん、悪くない、はず。というか、脚が痺れがそろそろ……。うん、なんとか釈明できないだろうか?
「えっと、俺って一応被害者だったと思うんですが……? ペナルティを受けるに至ったワケってなんですかね?」
『私は、貴方から暴言を受けたという通報の元現れました。しかし、通報者の姿はここにはなく、状況を理解するために過去ログを確認したところ、貴方が脅し目的で武装行為をしていたことが発覚。暴力にまでは及んでいませんので、ペナルティの中でも最も軽いものを選ばせてもらいました』
「武器を抜いたらその時点でアウトってことか?」
『いえ、購入した武器の確認や他人に見せびらかすなどではペナルティにはなりません。行動に害意や悪意が介入している場合のみペナルティ対象となります。喧嘩がしたいならPVPシステムを活用してください』
「なるほど……。ちなみにだけど、ペナ子さんはどういう経緯で俺が武器を抜いたかってわかる?」
『経緯ですか? そこまでは確認していませんが……』
「ぜひともご確認を」
俺がそう頼み込むと、ペナ子さんはメニュー画面に似たウィンドウを展開し、そこに展開された文字列を恐ろしいスピードで読み始めた。
文字列を読み始めてからウィンドウを閉じるまで約三秒。これがAIの実力か……。って、そんなことはどうでもいい。さて、俺が悪くないってわかってくれただろうか?
『なるほど……。確かに、この状況でしたら、貴方に非があるとはとても言えませんね。どちらかと言えば、このアザミナというプレイヤーがペナルティの対象。……ただ、別に武器を抜かずとも場を収めることができたのではありませんか?』
「うぐ、そ、それを言われると……」
『……まぁ、反省はしているようですね。分かりました。正座はあと五分ほどで終了としましょう。後、アヤメ? 少し来てくれますか?』
お、減刑が認められたようだ。あと五分ね、五分。……それより、アヤメになんの用なのだろうか? 何やら耳打ちをしているが……?
生産場の片隅で正座する神官と、竹刀を持った天使に耳打ちされるケモ耳幼女。……うん、何このシュールな光景?
ただ、俺が間抜けな姿をさらしていることで、生産職プレイヤーさんたちの恐怖の視線は、生暖かく優しいものに変わっていた。やめてそんな目で見ないで?
ああもう、ロリコン高慢女と続いて、何か今日は散々だったなぁ……。
「く……。ペナ子さん、恐ろしい方だったぜ。まさか最後の最後でアヤメに痺れた足をツンツンさせるとは……。運営はなんで天使型にしたんだよ……」
「だ、大丈夫ですか? リュー?」
「な、何とか……」
「………………(しょぼん)」
「アヤメも、俺は平気だからな。そんなに落ち込まないでくれ」
ペナ子さんの『ご主人様の脚をつついてあげると、楽になるんですよ?』という言葉を真に受けて、正座中の俺の足をツンツンしたアヤメは、騙されたことと俺をつらい目に合わせてしまったことで落ち込んでいた。
正直感覚がない脚を何でもないように叩いて見せて、アヤメに心配しなくてもいいと伝える。
「………………(じー)」
「本当に?」とでも言いたげな視線を送ってくるアヤメに、「もちろん」と笑顔で返す。
そうしてやっと、アヤメは尻尾を振ってご機嫌な様子に戻ってくれた。
……はは、もちろんのようにやせ我慢ですが何か? イイんだよ、アヤメに悲しい顔をさせないためなら、このくらい。脚に電流走ったみたいな感覚がながれてるけど、いいんだ。
「あはは……。リューは、今日あったばかりなのに、アヤメちゃんをすごく大事にするんですね? もしかして、小さい子の方が好きだったりします? …………(あれ? それだと私ってリューの好みから外れて……って、何を考えてるんですか、私は!?)」
「だーれがロリコンだ。そんなんじゃない。まぁ、アヤメが可愛いのは事実だけどな。そーれ、よしよし」
「………………(パタパタ)」
「ほらな? こんな可愛い子を大切にしない奴なんていないだろ? そういうことだよ」
「……やっぱり、ロリコンさん?」
「なーに言ってやがりますかこの娘さんは!」(べしっ)
失礼なことを言い出したアッシュの頭を軽く平手でたたく。ダメージも痛みもないはずなのに、「いたっ」と叩かれた場所を抑えるアッシュ。
……なんか、ちょっとアッシュの態度が気安くなった気がするな。悪い意味じゃなくて、こう、距離が縮まったって感じで。それは素直にうれしいことだ。
そんなことを思いながらアッシュを見つめていると、何故か顔を赤く染めてあわあわしだした。どうしたのだろうか?
そして、周りの生産職プレイヤーさんたちの視線が、剣呑なものに変わったのだが、これも一体どうしたのだろうか?
謎だ。アッシュと周りの反応がよくわからなかった俺は、アヤメと顔を見合わせながら、そろって首を傾げるのだった。
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