トドメ
タイトル通りです。
たくさんの感想、本当にありがとうございます。そこで書かれていたリューに対する罰則ですが……。ちゃんと考えて結論を出します。たぶん、明日の更新で。
リューにボロクソ言われて這う這うの体で逃げ出した高慢女……アザミナは、取り巻きを引き連れドゥヴィレの町を荒々しい歩調で歩いていた。
リューから受けた受入れがたい言葉の数々が、アザミナの苛立ちを加速させていた。
いくら忘れようとしてもこびり付くように離れない記憶に、アザミナの苛立ちは際限なく溜まっていく。彼女の辞書に、自業自得という言葉は存在していない。
「ふざけんなふざけんなふざけんな!! わ、私を……私をあんな目に合わせやがってぇええええええッ!! 」
「お、落ち着いてくださいアザミナ様。流石に目立ちすぎています」
「ああ!? あんた、私に意見するなんて、一体何様のつもり!?」
「い、いえ、そう言うつもりでは……」
「じゃあ黙ってなさい! リューとアッシュ……。あの二人は絶対に許さない……。どうやって思い知らせてやろうかしら? とりあえず、アッシュは生産ギルドのネットワークで吊るし上げるとして、リューは……PKギルドの連中に依頼を出して……」
癇癪を起すようにリューとアッシュへの復讐方法をぶつぶつと呟き始めたアザミナに、取り巻きたちは顔を見合わせる。尋常ではない様子で喚き散らすアザミナが、街行く人々の視線をこれでもかと集めているのだ。中には、騒ぎの中心がアザミナだと分かった途端嫌そうな顔をするプレイヤーの姿も見られた。さすがの人望の無さである。
「ほら! あんたたちも考えなさいよ! どうやったらあの二人を後悔させられるかを……」
「そんなことはさせないよ、アザミナ」
苛立たし気に取り巻きにも報復方法を考えさせようとしたアザミナに、一つの声がかかる。その声は彼女の耳元でささやかれるようして聞こえたため、アザミナは飛び上がるようにして驚いた。
「だ、誰よ!」
「ふふっ、ボクだよ」
からかうような声音と共にいつの間にか表れていたのは、モノクロ調でそろえられたノースリーブブラウスに、ショートパンツと二―ソックス。そしてこの世界に似つかわしくないカメラを首から下げた黒髪赤眼の少女だった。
ショートヘアをさらりと揺らしながら微笑んだ少女を見たアザミナは、信じられないとでも言うように目を見開いた。
「な……、ぶ、文屋がどうしてここに……?」
「はいはーい、皆のアイドル、文屋のアウラちゃんだよー!」
ビシッと敬礼のようなポーズを決めながら、可愛らしく微笑む少女―――アウラ。
だが、その笑顔とは裏腹に、アウラの瞳は一切笑っていなかった。
「い、一体何の用……? 私を取材ににでも来たわけ?」
「あははっ、面白いこと言うね、アザミナは。……キミみたいなつまらないヤツを、ボクが相手にするわけないじゃない?」
「なッ……! あ、あんたも私を馬鹿にするのね……! あの二人みたいに……!」
「まぁ、ボクの用事はすぐに終わるからねー。だって、キミの破滅を伝えに来ただけだしさ」
「……な、何を言っているの?」
明るい口調で、けれども、優しさなど一切含まれていないアウラの声音に誰かを幻視しつつ、怯えたように問いかけるアザミナ。
そんな彼女に、アウラは心の底からの笑みを浮かべた。
「アザミナってさ、さっきリューくんにしてたのと同じようなこと、いろんなところでやってたでしょ? 恐喝まがいの交渉で、素材を無理やり奪ったりとかさ。生産ギルドの幹部としての立場とか、取り巻きとかを使って文句を言えないようにして」
「……そ、それは…………」
「まぁ、そんなことはどうでもいいんだよ。一応対価自体は払ってたみたいだし? キミの防具職人としての腕がいいのは事実だしさ。けどね………ボクのお気に入りの子に手を出したのが運のツキ、だったね。リューくんは今までにないくらいに面白い子だったからさ、一目みてファンになっちゃったんだ」
どこか、恋する乙女のように、うかれた口調で話すアウラ。それとは対照的に、アザミナの顔色はどんどん悪くなっていく。
文屋、アウラ。
彼女は一度お気に入りと決めた相手が害されることを絶対に許さない。特殊職『記者』としての力を存分に振るい、お気に入りを害したプレイヤーをどこまでも追いつめる。どこかのおかしい神官と似たような思考を持っていた。
アザミナのしたことは、アウラの逆鱗に全力タッチしていたのだ。そして、アウラの考えを知っているアザミナは、自分がどうしようもなく詰んだ状況にいるのを、否応なしに自覚させられた。
完全に青くなったアザミナが固まっている中、アウラは楽しそうな雰囲気を崩さずに「そろそろかな?」とつぶやいた。
何がそろそろなのかを反射的に訪ねようとしたアザミナの耳に、コール音が響き渡る。フレンド通信の申請とは違うその音は、ギルド通信のものだった。
ビクッ、と肩を震わせたアザミナは、恐る恐る申請画面を呼び出し、申請を許可した。
そして、展開されたウィンドウに映る姿を見て、「ヒィ」と短く悲鳴を漏らした。
『よぉ、アザミナ。なんか文屋の嬢ちゃんに聞いたところによると、随分と好き勝手やってるみてぇじゃねぇか』
「ぎ、ギルマス……。どうして……!?」
通信用ウィンドウに映し出されたのは、筋骨隆々とした浅黒い肌を持つドワーフ族の男だった。男気溢れるその容姿から、無条件に『兄貴』と呼びたくなってしまう。服装が胸元を大きく開けた青色のツナギなのは、深い意味はないと信じたい。
アザミナがギルマスと呼んだその男こそ、生産ギルドを立ち上げたプレイヤーにして、生産職プレイヤーたちの英雄的存在。
生産ギルド【クラフト】のギルドマスター、ガンダールヴそのひとである。
そして、そんな彼は卑劣な行いが何よりも嫌いなことで有名だった。
『アザミナ、ちょっと話があるから本部まで戻ってこい』
「待ってくださいギルマス! 私は……」
『うるせぇッ!! いいから戻ってきやがれ!!』
「……ッ!? …………わかり……ました………」
『……フン』
ガンダールヴがアザミナを見る視線には、隠そうともしない侮蔑の色がこもっていた。一方的に通信が切れた瞬間、アザミナは呆然とした表情で、おかしそうに自分を見るアウラに「どうして……」とかすれるような声で問いかけた。
「言ったでしょ? キミの破滅を伝えに来たって。ほら、早く行ったほうがいいよ。ガンダーさん、かなりお怒りだったみたいだし」
「…………なんで……どうして……………」
「今更後悔しても遅いんじゃない? ショックを受けるよりも先に、弁解の言葉でも考えて置いたら?」
「……私は……わ、たし……は…………」
壊れたようにブツブツと呟きながら、幽鬼のような足取りで生産ギルドの本部のある方向へと進んでいくアザミナを見送ったアウラは、これにて一件落着とでも言わんばかりに、額の汗をぬぐう仕草をした。
アザミナが完全に見えなくなったあたりで、アウラはおもむろにメニューを開き、そこに一つの動画を映し出した。それは、リューがアザミナを言い負かしている光景を映したもの。アウラが最近の日課であるリューのストー……密着取材をしているときに撮ったものだ。
「うん、やっぱり最高だね、リューくん。でも、最後に武器を出しちゃったのはちょっとまずいかな……。ペナルティが来ないか心配だな……。うん、早く戻ろうっと」
動画を見て浮かべたうっとりとした表情を一転、心配そうなものに変えたアウラは、リューのいる共同生産場に戻るために駆け出したのだった。
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