防具製作依頼
タイトル通りです。
ウサギを撲殺したり、召喚魔法で新しい仲間が出来たりといろいろあったが、何とかドゥヴィレに到着した俺とアッシュ。俺としては二度目。アッシュは初めてのドゥヴィレということになる。
相変わらず人が多く、繁盛している街をアッシュはキラキラとした瞳で、あっちこっちと眺めている。
「ここが、ドゥヴィレ……。生産職の聖地なんですね……っ。わぁ、お店がいっぱいあります! 見たことないものもいっぱいです!」
「はははっ、そんなに喜んでるところを見ると、連れてきてよかったって思うな」
「リュー、ありがとうございます! 私、今すっごく幸せです!」
そういって、俺の方を振り返るアッシュの浮かべている笑顔。心の底から嬉しいですってことが溢れ出しているのが見えるような微笑みを向けられ、胸が高鳴るのを自覚する。ちょ、不意打ちは卑怯……。
「? どうかしましたか? リュー?」
「い、いや。なんでもない。それより、アッシュはこの後どうするんだ? 俺はとりあえず、アヤメの装備を何とかしようと思ってるけど」
不思議そうに顔を覗き込んでくるアッシュの疑問を躱すように、俺のそばにたたずむアヤメに視線を向ける。
俺の使い魔となったアヤメは、基本的に俺のそばから離れようとしない。俺が移動すると、一緒になっててくてくとついてくるのは見ていてなごむ。すっごい和む。
そんなアヤメだが、ドゥヴィレに足を踏み入れた瞬間から、滅茶苦茶注目を集めている。俺らとすれ違う全員が一度は振り返るほどだ。中には何度も振り返っては目をこすっている人もいた。
ただ、アヤメを見て「アエェエエエエ!? 幼女!? 幼女ナンデェエエエエエ!?」だの「ロリ神様じゃ! 白髪ケモ耳無表情っ娘なロリ神様がご降臨なさったァアアアアアア!!」だの叫んでる連中がいたのがすごい気になる。アヤメに近寄ってきたらミンチにしようっと。
アヤメの防具云々に、アッシュは「ああ」という納得したような顔で頷いた。
「アヤメちゃんの装備ですね。確かに、そのワンピース姿で戦わせるのはちょっと可哀想です」
「だよな。格闘術がメインだから、武器は無くてもいいし、防具をそろえようと思ってな。あ、でも、手甲とか脚甲とかを装備させるって手段もあるのか」
「そうじゃなくても、グローブや安全靴みたいなものでもいいと思いますよ? 手甲や脚甲を金属製にしちゃうと、機動力が落ちちゃいますから。……それと、アヤメちゃんの防具もいいですけど、リューの自身の防具をちゃんとそろえたほうがいいと思いますよ?」
「俺の防具……そういえば、ずっと初期装備なんだよな……」
完全に忘れていた。いや、だって始まりの町で買える装備って初期装備に毛が生えた程度の性能しかないくせに、耐久度が低いのですぐに壊れそうだったのだ。初期装備は耐久値が設定されてないからね。デザインはシンプルすぎるけど。
まぁ、幸いにもここは職人街。防具の一つや二つ。少し探せばすぐに見つかるだろ。
「アッシュに言われるまで気が付かなかったな。教えてくれてありがとうな」
「いえ、生産職として、目の前に装備に無頓着な人がいて気になっただけですから」
「無頓着……いやまぁ、その通りだけどね」
アッシュから呆れたようなジト目を向けられ、あははとカラ笑いでごまかしてみる。駄目? ダメですか。そうですか。反省します。
素直に「悪い」と謝れば、「しょうがないですね」と笑って許してくれるアッシュのやさしさに感謝し……ふと浮かんできたアイデアについて考える。
……うん、これは結構いい考えなんじゃないだろうか? よし、そうと決まれば……。
「アッシュ、ちょっと相談があるんだけど、いいか?」
「相談ですか? 構いませんが……。防具についてですか?」
「あー、うん。まぁ、その通りだ」
「おすすめの防具とか、そういう類の相談は、この街に来たばかりの私には力になれないと思いますが?」
「いや、そうじゃなくて。俺とアヤメの防具なんだけどさ、アッシュに作ってもらいたいなって思って」
「……私に、ですか?」
「ああ。シルさんの時の件でアッシュのセンスの良さは知ってるからな。俺はいいけど、アヤメには可愛い格好をしてもらいたいだろ? そのついでに、俺のも作ってくれないかなって」
ボーっと突っ立っていたアヤメの頭をぐりぐりと撫でながら、アッシュにそう提案する。さて、アッシュの反応やいかに?
「そ、その……。私に作って貰いたいって言ってくれるのはすごくうれしいんですけど……。えっと、わ、私でいいんでしょうか? たぶん、この街には私よりも腕のいい生産職プレイヤーがいっぱいいると思いますよ?」
「まぁ、それはそうかもしれない。それでも、俺はアッシュに作って貰いたい。理由を言えって言われても、曖昧になるけど……。……料理の時も、シルさんの時も、アッシュの作ったものを見て、いいなって思ったんだ。ホント、具体的なことは言えないけどな」
「リュー……。そ、そんなこと、まっすぐに言われたら、私……」
やんわりと断ろうとするアッシュに、俺は言葉をぶつける。情けないけど、アッシュの作るものを俺が気に入ってることの理由を、俺は上手く説明することができない。
曖昧で適当に聞こえる俺の言葉を聞いたアッシュは、一瞬だけ躊躇するような反応を見せ……それでも、次の瞬間には、困ったような嬉しいような。そんな笑みを浮かべていた。
「……分かりました。リューがそこまで言ってくれるんです。私、頑張らせていただきますね。……けど、あんまり期待しないでくださいね? その、がっかりさせたくないので……」
「分かった。アヤメと二人、全力で期待させてもらうよ。な、アヤメ」
「………………(こくり)」
「だってさ、アッシュ」
「うう……。アヤメちゃんにそうされたら、何が何でも喜ばせたくなっちゃうじゃないですか。ずるいですよ、リュー」
「それだけ期待してるってこと。じゃあ、俺とアヤメの防具、よろしくな」
「………………(ぺこり)」
アヤメと二人、アッシュに向かって頭を下げる。そうしている俺たちを見て、アッシュは思わずといったように笑みを漏らした。
「ふふっ……。はい、分かりました。二人の期待に応えられるよう。しっかりとやらせてもらいますね?」
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