召喚魔法をお披露目……する予定だったんだけどどうしてこうなった。
こんな遅い時間に失礼します。
あ、サファイア編がこの回で終わるとわたしは言ったな。あれは嘘だ。
……話しの都合上、最初からアッシュのターンです。
「……と、言うわけで、俺が《召喚魔法》を。サファイアが《砲撃魔法》を覚えることになった、というわけだ」
「へぇ、午前中はそんなことをしてたんですか……。というか、サファイアってそんなに凄いプレイヤーだったんですね」
「意外か?」
「……正直に言うと、少しだけ」
そういって、ちょっと困ったような笑みを浮かべるアッシュに、俺も似たような笑みを浮かべる。まぁ、普段のサファイアしか知らない俺らじゃ、『魔導蒼姫』と呼ばれているサファイアの姿はちょっと信じにくいもんな。
サファイアにスキルブックをあげた後、昼食を作るために一端ログアウト。今日のメニューは野菜を多めに使ったチャーハンである。冷製スープも付けておいた。今日も今日とで二人には好評でした。けど、毎日毎日料理を作っていると、レパートリーがだんだん厳しく……。うーん、ちょっとレシピ本をあさってみようかな?
そして、今現在。約束通りアッシュをドゥヴィレに連れていくために、『静かなる草原』をてくてく歩いている。時折出てくるウサギやらネズミやらイノシシはすべて俺の蹴りによって粒子に変換されている。
夜の草原というのも良かったが、こうして昼間歩いてみると、のどかでのんびりとした雰囲気があってとてもリラックスできた。時折吹く風が気持ちいい。
で、ただ歩くだけというのも暇なので、暇つぶしの雑談ついでに午前中のことを話題に上げてみたのだ。どうやら生産系一筋のアッシュも魔法には興味があったらしく、サファイアが最強魔法をぶっ放した時の話などをすると、目を輝かせて「私も見てみたかったなぁ……」とつぶやいていた。
たぶん頼めばやってくれると思うぞ? サファイアのやつ、普段はあんまり表情が動かないせいで周りからは「冷たい」とか「ちょっと怖い」とか言われてるけど、一度親しくなった相手だと結構甘かったりする。
「それで、リューが覚えた《召喚魔法》はどんな魔法なんですか?」
「うーん、俺もまだ一回も使ってないから、よくわかんないんだよなー。使い魔召喚と、威力固定の炎属性範囲魔法ってことは分かってるんだけど……。あ、そうだ。じゃあ、この後のボス戦で使ってみようか? 俺も使い心地を確かめておきたかったからさ。と言っても、使い魔召喚の方は戦闘用魔法じゃないから、炎属性のほうだけだけど」
「いいんですか? 《召喚魔法》……楽しみです」
なんだかアッシュ、とっても嬉しそう。魔法とかそういうファンタジーでジャキガン―なのが好きなのだろうか?
「ふむ、アッシュは魔法好きなのか? 中二病?」
気になったので、直接聞いてみることに。
「ち、違います! 中二病じゃありませんっ! た、確かに魔法とかそう言うのは好きですけど……」
「…………ふーん。……くくっ」
「ちょっと待ってください。今何を想像して笑ったんですかっ!?」
「べ、別に何も……くくくッ」
い、いや、オープンフィンガーグローブを付けて香ばしいポーズをキメてドヤ顔するアッシュとか、別に想像してないぞ? 服装がセーラー服に黒コートだったりもしていない。うん、断じてしてないです。
そのあと、不機嫌になったアッシュに謝りながらも、一度頭浮かんでしまったそれが中々忘れられず、その結果アッシュの機嫌がさらに悪くなってしまった。
結局、アッシュの機嫌が持ち直したのは、ボスエリアの一歩手前まで来たところだった。
「……そういえば、ここのボスはまだ倒してなかったな。どんな奴なんだろう?」
「あれ? リューは全エリアのボスを制覇したんじゃ?」
「ほら、ここのボス戦の時は、紅月の試練のボスモンスターと戦うことになったから、本来のボスモンスターがどんなやつなのかは知らないんだよ」
「ああ、あの動画の……。あれは本当に凄かったです。私だったら最初の魔物の群れですぐにやられちゃうと思いますもん。そのあとの狼との戦いもです。あんな大きくて強そうな相手と一人で戦って……。リューは怖くないんですか?」
「怖い、か。うーん、まぁここまでリアルだと、そう思うこともあるかもしれないけどさ。俺は、これはあくまでゲームだって思ってやってるから。モンスターの恐ろしさだって、ゲームを彩るスパイスの一つだって考えれば楽しいもんだぞ?」
「……そういうものなんですか?」
「まぁ、そういうもんだな」
「分かりました。要するに、リューは戦うのが楽しくて仕方がないバトルジャンキーさんってことですね」
おっと、とってもいい笑顔で何を言いやがりますかこのお嬢さんは。言うに事欠いてバトルジャンキーとは……。
いや、確かにこのゲームを始めてから、戦闘ばかりしてる自覚はあるよ? けど、別に戦闘大好き! でやってるわけじゃない。俺はただ楽しく遊ぶ方法を突き詰めているだけなのだ。このゲームはVRMMORPG。そう、RPGなのだ。RPGと言えばモンスターと戦って経験値を得てレベルを上げて最後には魔王を倒す。うん、最初から最後まで戦闘尽くし。そんなゲームをするにあたって、戦闘を楽しむのはあくまで自然なこと。うんうん、別に俺がバトルジャンキーではないとこれで分かっていただけただろう……。
「ほら、その証拠にこの動画のリュー、ものすごく楽しそうに笑ってますし」
そういって、俺がディセクトゥムと戦っている動画をウィンドウに映し出し、俺に見せてくるアッシュ。わー、俺によく似た人がとっても楽しそうな笑顔で狼さんとドンパチしてるー。不思議だなー……って、ハイ。すみません。どこからどう見ても俺ですね。何? 何なの? 俺ってこんな顔しながら戦ってたの? それ完全にやべー人じゃん。
そっかー、こんなところ動画に撮られてたのかー。そんでもって、これが広がってると? なるほどなるほど、だから今日ドゥヴィレであんな反応されたのかー。いやー、謎が解けてスッキリしたよー。あはははー。
…………なるほどな。これが動画を晒されることによるデメリットというわけか。くそ、何とかなるだろ! とかのんきに言っていた過去の自分に蹴りを入れたい気分だ。すでに広まってしまったものをどうにかするのは難しいし、今更撮影防止機能をオンにするのも、逃げたみたいで癪だし……。うん、サファイアが言ってたように、あきらめが肝心なのかもしれない。今思えば、「今更も今更」と言っていた時のサファイアは、どこか遠い目をしていた気がする。
というわけで、気分を切り替えるために、どこかでストレス発散する必要がありそうだ。おや? そういえば、この近くはボスエリアだったような。ふむ、これはもう、あれじゃなかろうか? 『ボスをサンドバッグとして使いなさい』という神のお導きだな。うんうん、きっとそうだ。
さーて、俺、ちょっと張り切っちゃうぞー!
「えっと、リュー? どうかしたんですか? なんか、いきなりすっごくいい笑顔になったりして……。ほ、本当に大丈夫ですか?」
「おう! ちょっと今の俺は殺る気に満ち溢れててな。ところで、結局ここのボスってどんな奴なんだ?」
「そ、そうなんですか……? えっと、素早さが特徴の大きなウサギみたいなモンスターです。名前はそのままでラージラビットと言います。見た目は完全にウサギでちょっと可愛い……」
「ということはウサギ狩りだな。待ってろよウサギ野郎! きゅんとも泣かせずに砕いてやるからよ!」
「全く聞いてないっ!? りゅ、リューが壊れました!? これじゃあ本当にバトルジャンキーじゃないですか! だ、誰か回復魔法を……って、そう言えばリューって神官さんでしたっけ……。…………神官って……」
なんかアッシュがブツブツ言っていたが、兎への殺意を滾らせた俺に、その声は届かなかった。
で、そのまま突入した『静かなる草原』のボス戦。ラージラビットは名前のまんま、兎を全長三メートルくらいまで拡大した感じのモンスターだった。
今まで戦ってきたモンスターの中でもかなりの敏捷を誇ったが、俺のはディセクトゥムとの戦闘経験がある。あの狼野郎と比べれば、このデカウサギのスピードなんざF1レーシングカーと原付二輪くらいの差がある。余裕で目で追えるし、そもそもレベルもステータスも俺の方が上だ。
草食動物のくせして牙を剥いて突進してきたのに合わせて紅戦棍を振りぬき、強化に強化を重ねた一撃で頭部を爆散させ戦闘終了。デカウサギの頭部をミンチに変えた後、「戦闘終了」と笑顔でアッシュの方を振り向いたら、なぜか怯えられてしまった。解せぬ。
ともあれ、ボスを倒したことで俺と一時的にパーティーを組んでいたアッシュもドゥヴィレに行けるようになった。これで依頼は完了……なのだが、何か忘れてるような……。なんだろう?
「リュー。そういえば、召喚魔法を見せてくれるという話はどうなったんですか?」
「……忘れてた」
ボス戦で《召喚魔法》使って見せると約束していたのをすっかり忘れていた。イラつきと殺意に身を任せて行動するとこういうことになるのか……。反省せねば。
ゴブ将軍「仲間だ」
ブラックウルフ「ようこそミンチパークへ」
エー「歓迎するぞ、同士よ」
ラージラビット「解せぬ」
↑リューに頭部ミンチにされたモンスターの会
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