アッシュの頼み事……の、前にちょっと空気中の糖度を上げておこうか。
最近、こんなことを思うようになった。
この小説、ソロ神官のYRMMO冒険記には、『ラブコメ』タグが付いている。
だが、作中であんまりラブコメしてないんじゃないか、と。
ちょっと前までシルさん編をやってたけど、あんまりイチャついたりしてなかったし……。
というわけで、今回はちょっと糖度を上げてお送りしたいと思います。
「おーい、アッシュ!」
「あ、リュー! 良かった、来てくれたんですね」
「そりゃ、アッシュのお願いだからな」
「え……、そ、それってどういう……」
「このゲームで最初に出来た『友人』のお願いを無下にするわけにはいかないだろ?」
「……何でしょう。嬉しいは嬉しいんですけど……。コレジャナイ感がすごいです……」
始まりの町の中央に位置する噴水広場。そこで待っていたアッシュを見つけ駆け寄った後の会話がこれである。最後の方はボソボソと小声でつぶやいていたので何を言っていたのか分からなかったけど、何だったんだ?
噴水の前に立つアッシュは、前にシルさんのスキル屋であった時と装備が変わっていた。あの時は純白のワンピースに薄紫のカーディガンという、シンプルながらとっても可愛らしい恰好だった。
今日の恰好は、作業着を可愛くしたみたいな、ポケットの多い上着。下は余裕のあるパンツルックで、ひざまであるブーツを履いている。色は全体的に黒でまとめられており、腰までを覆う純白の髪が良く映えている。
ふむ、前のお嬢様然とした恰好も普通に似合っていたが、こういう活動的な恰好もなかなか……。うん、見た目が落ち着いた感じの美少女だから、ギャップがあって大変よろしい……って、何で俺こんなアッシュの服装を必死に観察してんだよ。変態みたいじゃねぇか。
「えっと、リュー? どうかしましたか? そ、そんなにジッと見つめられると、……は、恥ずかしいんですけど……」
「あ、いや……。こないだのアッシュも可愛かったけど、今日のアッシュもこれはこれで全然アリだなってことを考えてただけだ」
「ひゃいっ!? にゃ、にゃにをいっひゃい……。……こほん。ま、まぁ、ありがとうと言っておきましょう」
「アッシュアッシュ」
「な、何ですか?」
「顔真っ赤。照れてるのバレバレだぞ?」
「……ッ!!? て、てれてにゃんてにゃいんでしゅかりゃねっ!!」
「カッミカミだなー。もうちょっと動揺隠そうぜ?」
正直に思ったことを言ってみた結果、真っ赤になって噛みまくるアッシュが誕生した。
あんまり褒められることに慣れていないのだろうか? これが蒼なら、服装を褒めたところで「ん、当たり前」とそっけなく返ってくるだけなんだがなぁ。おなじ女の子でこうも違うとは、これが女子力の格差というものか。……違うか。
さて、あわあわしてるアッシュは大変可愛いので、このまま鑑賞していたい気もするが、これ以上は話が進まないので、そろそろ落ち着いてもらおう。
「はい、深呼吸してー。吸って、吐いてー。吸って、吐いて―」
「……すぅ、はぁ。すぅ、はぁ」
「どう? 落ち着いたか?」
「……はい。す、すみません。見苦しいところをお見せしました……」
「別に、見苦しくなんてなかったけどな。にしても、あれくらいの賛辞なら社交辞令とかで言われ慣れてると思ったんだが……」
「しゃ、社交辞令……ですか。……そうですよね、私ごときが可愛いだなんて、そんなことあるわけが……」
「………………………」
俺の言った『社交辞令』という言葉に反応したのか、ズーンと沈んだ表情になるアッシュ。いや、別に俺がアッシュを可愛いって言ったことが社交辞令ってわけじゃないんだけど。
それにしても、『私ごとき』か……。
アッシュはたまに自分をひどく下に見るときがある。自己評価がトンデモなく低いんだろうけど、どうしてそうなってしまうのだろう。
俺は、アッシュと知り合ってまだまだ日が浅いし、彼女という一個人がどんな人物なのかをすべて知っているわけではない。
それでも、初対面の俺を心配してくれるくらいに優しく、料理に取り組む姿はとても真剣で、時に俺の方が心配になるくらい無防備で純粋なところがあって……。そんな、アッシュの良いところを俺は知っている。
そして、そんなアッシュが、『友達』や『家族』という言葉を聞くたびに感情を荒らしていることも知っている。
知ってはいても、俺のような……そう、『他人』が簡単に踏み入ってはいけない領域の話なんだろうってことは、容易に想像できる。ほんの一瞬だけ除く、あの暗く沈むような表情を見れば……。
……何か、何か俺に、できることは無いだろうか? このゲームで最初に出来た友人であるアッシュに、ゲームの中の事とは言え、恩人であるアッシュに、俺ができることは何だろうか?
そうだな……。うん、せめて、このゲームの中にいる間は、アッシュにはいつも楽しくいてほしい。だって、ゲームってそういうものだろ? 一人でも皆でも、楽しむことこそがゲームの本質のはずだ。
この、第二の現実とでも形容したくなるほどにリアルな世界。けど、この世界がFEOというゲームであることは変わりないのだから。
そんな決意のようなものを固めた俺は、今だ沈んだままでいるアッシュに声をかける。
「アッシュ」
「……何ですか?」
「可愛いよ」
「………………ふぇ?」
……何だろう。思いっきりセリフの選択肢を間違えた気がするのは気のせいだろうか? 確かに、『アッシュを可愛いと言ったのは社交辞令』というアッシュの誤解をどうにかしようとしたんだけど……。口説いてるように聞こえるのは俺の勘違いか? 勘違いだよな?
うーん、こっからの軌道修正は……不可能だよなぁ……。……ええい、ままよ! こうなったら、このまま突き進んでやろうじゃねぇか!
「アッシュは可愛い。それは俺の本心だし、嘘でも社交辞令でもない。仮に、他の誰かが……それこそ、世界中の誰もがそれを否定したとしても、俺だけはアッシュのことを可愛いって言い続けるよ」
「あ……え……や…………」
「俺の言い方が悪かったな。そのせいでアッシュを不安にさせて……本当に、ごめんな?」
「え、あ、い、いえ……。別にリューは何も悪くない……。と、というか、な、何なんですか何なんですかっ!? どうなってるのこれ!? 夢!? 夢なんですか!? リューは私に甘い言葉を……。ひゃ、ひゃあああああああああっ!?!?」
「落ち着けって。夢でもなんでも無い。ただ、俺はアッシュのことを可愛いくて魅力的な女の子だって思ってる。それを言いたかっただけだ」
「…………うう。あ、ありがとうごじゃいま……はぅっ!?」
あ、また噛んだ。
それで恥ずかしさとか羞恥心とか、そういうものが限界突破したのか、真っ赤になってしまった顔を両手で隠してうずくまるアッシュ。
いやまぁ、ここでこんなことを言ったらさらにアッシュの羞恥心を煽るだけなので、口には出さないけど……。
今のアッシュ、ちょっと信じられないくらいに可愛いよ。
まだだ……。こんなもんじゃダメだ。まだ全然糖度が足りない……ッ!!
と言っても、バトルとラブコメのバランスは考える必要があるし、次回とかはバトルにしようかな?
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