紅月の巨狼 激戦の果て
二刀流をやめ、一本になったメイスを構えながら、リューは疾駆。
それを迎え撃つディセクトゥムも、リュー目がけて飛びかかった。
あっという間に接敵したリューとディセクトゥム。
先手を取ったのは、ディセクトゥムの方だった。右前脚を振るい、その爪でリューを斬り裂かんとする。
リューは、振り下ろされた爪をサイドステップで回避し、反撃のメイスを振るわれたディセクトゥムの前足に向かってたたきつけた。
リューの反撃に怯みもしないディセクトゥムが、連続して前足を振るう。
上から下に、右から左に、斜めにと、縦横無尽に振るわれる爪を、リューは冷静に避けていく。
避けて避けて、隙ができたら攻撃。その繰り返し。
高速で夜闇に赤い線が刻まれる中に、白い影が舞踏を披露する。
リューがディセクトゥムの攻撃を避け続けることができているのは、一重にリューの記憶力のおかげだ。
現実でも記憶力がいいリューは、今までの戦闘から、ディセクトゥムの攻撃をある程度見切っていた。攻撃の起こりを見れば、どんな攻撃が、どんな軌道、威力、範囲で来るのかが分かる程度に、ディセクトゥムの攻撃に慣れたのだ。
どうでもいいことだが、リアルでの流が一番得意にしているトランプのゲームは神経衰弱である。
閑話休題。
持ち前の記憶力。それを頼りに爪の攻撃や尾の攻撃をよけて避けて避けまくる。たまに攻撃を打ち込むが、HPは微々たる数値しか減少していない。威力が足らず、ほとんど攻撃が効果を発揮していないのだ。
そう、ディセクトゥムのHPには、効果を発揮していない。
「ガゥウッ!?」
ガクリ。
突然、リューに向かって爪を振るわんとしていたディセクトゥムが地面に倒れこんだ。
よく見れば、ディセクトゥムの右前脚が、ガクガクと震えている。
「やっと効いたようだな狼野郎」
ニヤリとした笑みで地面に倒れこんだディセクトゥムに肉薄するリュー。
そして、限界まで振り上げたメイスを、力の限り巨狼の額に叩き込む。
「ガァァアアアアアア!!?」
「くはっ! いい声で鳴くじゃねぇか、狼野郎! けど、これで終わりなんて言った覚えはねぇぞ!」
苦し気な鳴き声を上げるディセクトゥムに、さらなる殴打が叩き込まれる。
一発、二発、三発。そこまで打ち込んだところで、ディセクトゥムの背後に紅弾の魔法陣が現れる。
「おっと、危ない危ない。【バックステップ】」
リューは魔法陣から放たれた紅弾を、後ろに一瞬で移動することで回避した。口では危ないなどと言っているが、浮かべている表情は余裕そのものだ。
一時的に距離をとったリューの視線の先で、ディセクトゥムが起き上がろうとしては、前脚に力が入らずに地面に倒れるということを繰り返していた。
リューが視線をディセクトゥムの頭上に写す。そこには残り四割ほどになったHPゲージと、見なれぬアイコンが存在していた。
アイコンには、デフォルメされた足と、その上から×が描かれている。
これは、部位破壊の状態異常を現すアイコンである。
リューが狙っていたことは、まさにこの部位破壊だった。
部位破壊とは、一部分に集中してダメージを蓄積させることで、その部分の機能を破壊するというものだ。
リューは、ディセクトゥムの攻撃を真正面から避け続けるとともに、ディセクトゥムの右前脚に何度も何度も攻撃を加えていたのだ。
一つ一つのダメージは小さくとも、それが積もりに積もれば、部位破壊を引き起こすほどのダメージになる。
その結果、リューの目論見通り、ディセクトゥムは自身の大きな武器である機動力を失ったのだった。
「さぁて、狼野郎。今まで散々いたぶってくれた礼を、たっぷりさせてくれ。なあに、遠慮なんてしてくれるな。礼は、盛大に壮絶にしてやるからよ」
有利な立場になって、調子に乗っている感は否めないリュー。
リューの挑発を受けたディセクトゥムは、大きく遠吠えを上げる。すると、背後の魔法陣の数が、倍の十個に増えた。近接戦は難しいと悟り、遠距離攻撃にすべてをかけるつもりのようだ。
ダダダダダダダダダダッ!!
十に増えた魔法陣から、激しさを増した紅弾が放たれる。
だが、紅弾はリューを捉えることができない。緩急をつけた疾走と【バックステップ】のアーツを駆使して紅弾と、それがまき散らす衝撃波を回避する。
数が増えたとはいえ、すでに見切っている攻撃だ。リューは危なげなく回避し、ディセクトゥムに接近。メイスを叩き込み、すぐに離脱。
相変わらず、一撃でも直撃を喰らったらアウトな状況は変わっていない。
珍しく、リューが安全策のためにヒット&アウェイを繰り返していることからも、それは間違いない。
しかし、当たらない。
どれだけ紅弾を放っても、近づいてきたところを尾で攻撃しても、必ず回避されてしまう。
ディセクトゥムの攻撃手段は、大きく分けて五つ。
爪での攻撃。尾を使った攻撃。噛み付き。突進。そして、紅弾。
その内、爪での攻撃と突進は封じられ、後の三つは見切られている。
ディセクトゥムが持っていたたくさんのアドバンテージ。
だが、それらはたった一つ、機動力を封じられただけで、脆くも崩れ去ってしまった。
リューの攻撃をうけ、確実にHPを減らしていくディセクトゥム。その命はまさに風前の灯火……。このままなら、リューの勝利でこの戦いは幕を閉じる、はずだった。
それが起きたのは、ディセクトゥムのHPが残り一割に達した時だった。
ヒット&アウェイで攻撃を加え、距離をとったリューの前で、ディセクトゥムの体から、紅い燐光が立ちのぼり始めた。
燐光は、徐々にその勢いを増していく。すぐにディセクトゥムの全身を包み込んで、その姿を見えなくしてしまうほどになる。
慌てて、リューがメイスを叩き込むが、燐光に阻まれて巨狼まで届かない。
そして、燐光がゆっくりと渦を巻き始める。その速度はだんだん速くなっていく。
―――やがて、その時は訪れる。
渦巻いた燐光がはじけ飛び、その残滓は空に浮かぶ三日月へと吸い込まれるようにして消えていく。
燐光が渦巻いていた場所には、部位破壊されたはずの右前脚もしっかり使って、大地を踏みしめているディセクトゥム。
その姿はところどころ変わっている。尾は二本になったし、爪も牙もさらに鋭くなっている。
そして、一番の変化は、その瞳だろう。満月のごとく輝いていたあの瞳はどこにもなく、ディセクトゥムの眼窩には、漆黒の闇を凝縮したかのような色が収まっている。
「そりゃ、あるよな……最終形態」
勝てると思った矢先の、敵のパワーアップ。それに合わせて、せっかく苦労して与えた損害も治っている。踏んだり蹴ったりとはこのことだろう、とリューは苦笑いだ。
ディセクトゥムが身を引くして突進の構えをとる。リューもそれに応えるようにメイスを構えた。
「まぁ、いい。どっちにしろやることは変わらない。来いよ狼野郎。最終ラウンドと洒落込もうぜ!!」
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