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ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
番外編

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クリスマス! サンタは赤く染まりだし……。


メリークリスマス!



……おい、クリスマスは一時間以上前に終わってんぞ。何やってんだ作者ぁ!?



「メリークリスマスっ! と、言うことで、FEOのイベントに行くぞーーー!!」


「「「おおーーー!!」」」


「……おー」



 馬鹿みたいなハイテンションで騒ぐアポロと、アポロのテンションが伝染しているのか、こちらもやたらとテンションの高いサファイア、アッシュ、マオ。


 そんな彼らを、俺はどこか冷めた感じで眺めていた。ほらあれだ。すぐそばにハイテンションなヤツがいると、やたら冷静なっちゃうアレ。そんな感じのアレ状態なんだよ。


 バカ騒ぎしているアポロへとジト目を送っていると、当の本人がそれに気づき、軽快なステップで近づいてきた。……今日のアポロは、普段の五割増しでウザいな。


 

「どうしたリュー! テンション低いぜーー!? そんなんじゃ、この聖夜を乗り越えられねぇぞー!!」


「ああ、うん。お前が今をすげぇ楽しんでるってのは十分分かったから、少し落ち着け。お前こそ、最初からそのテンションでいったら途中でぶっ倒れるぞ?」


「はっはーー! 今の俺はそんな言葉じゃ止まらないぜー!! なんせ今日はクリスマスだぞーー!?」


「お前にとってのクリスマスは麻薬か何かなのか?」



 ……そう、今日は12月25日。クリスマス。


 赤い服着たおじいさんがやって来たのは昨日の夜。今日は日本中でパーティーやらで騒ぎまわる日。キリストの誕生日とされているが、日本人でそれを気にしている人とかほとんどいないんじゃないか?


 俺たちも例にもれずクリスマスパーティーはやった。千代原家とウチとの合同パーティーで、ケーキやらクリスマスチキンやらなんやらを準備し、どんちゃん騒ぎをした。大人組に酒が入るとどんどんカオスになっていくんだよなぁ……。あっ、ちなみにパーティーの準備片付けをしたのは俺。ほぼ全部一人でやりました。


 まぁ、そんなどんちゃん騒ぎも昨日のイブの話だ。クリスマス本番たる今日は、いつものメンバーでFEOにログインしていた。


 目的は、ここで行われるクリスマスイベント。例の如くイベントの詳細は明かされておらず、とりあえず集合場所に定められたフィールド……『輝きの雪原』に来ていた。


 時刻は夜。フィールド効果として降りしきる雪が夜空に舞い、幻想的な光景を生み出していた。



「……さて、イベント開始時刻もそろそろだな」


「ん。結局どんなイベントなのかは分からずじまい」


「ここの運営は相変わらずっすね。もうちょっとプレイヤーに優しくていいと思うんすよ。……ところで、さっきからなんでアッシュはそんなに挙動不審何ですか?」



 そう言えば、後輩の言う通り、テンションが元に戻ったアッシュは落ち着かない様子でキョロキョロとあたりを見渡している。どうかしたのだろうか?


 俺、サファイア、マオと三人が「?」という視線を向けると、キョロキョロとしていたアッシュはビクッ、と肩をこわばらせて、恐る恐るといった様子で口を開いた。



「い、いえ……なんといいますか。私のこれまでのクリスマスって、基本的にクルシミマスだったので……こうして誰かと一緒に過ごすと言うのがどうにも落ち着かなく……」



 ……ああ、うん。アッシュって人生のソロプレイヤーだったもんな。というか、クルシミマスって……。


 どうしてもアッシュを見つめる視線に憐憫が混じってしまう中、後輩が「ああ」と手のひらに拳を打ち付けて納得した声を上げた。



「なるほど、ケーキが恋人ってヤツっすか」


「後輩、お前なんて恐ろしいことを」



 なんでもない顔で特大の爆弾を放り投げやがった後輩に、俺は戦慄の視線を向けた。


 見ろよ、お前の発言に胸を押さえて苦しみだした人が一人二人三人四人……男女問わず結構な数が雪に沈んでいった。


 ケーキが恋人……そのフレーズは独り身の人間には禁句なんだよ。


 そして後輩の一撃は人生のソロプレイヤーたるアッシュにもクリティカルヒットしたようで、虚ろな瞳で乾いた笑みをうかべていた。



「……ありゃ?」


「マオ、恐ろしい子……」


「ああ、自覚なくああいうことが出来てしまうそのポテンシャル……脅威の一言だ」


「なっ、なんかすさまじく不本意な評価を受けてる気がするっす!! というか、アッシュー! 戻ってくるっすよーー!!」


「あはは…………ハッ! わ、私は一体何を……」



 なんとか復活したアッシュに、マオがほっとした表情をうかべ、そんな二人をサファイアは楽しそうに眺めている。アポロ? さっきからハイテンションのままそこら中を走り回ってるよ。今は一体どこにいるのやら……。


 はぁ、やれやれ。イベントが始まる前からこうなら、始まってからはどうなってしまうのだろうか?


 と、俺が一抹の不安を胸に浮かべていると……。



「……おっ、始まるみてぇだな!!」


「お前どこから出てきたし」



 いつの間にか戻ってきていたアポロが言うように、イベントが始まる時間になったようだ。


 そして、それは訪れる。


 フィールドに集まっていたプレイヤーたちの足元に、光り輝く魔法陣が展開され、さらに強い閃光を放った。


 閃光によって目が眩み、思わず強く目を瞑る。


 やがて光が収まったのを瞼越しに感じだ。さぁて、何が始まるのやら……と思いつつ、俺は瞼を開け……………………………………おん?


















「むぅ、ここは……?」



 わたし―――サファイアは、閉じていた瞳を開き、あたりを見渡した。そこは、先程までわたしたちがいた『輝きの雪原』ではなかった。

 

 ぱっと見は、お城のホールを何倍にも広くしたような場所。広い空間のいたるところにイベントへ参加しに来たであろうプレイヤーがいた。


 足元には赤い絨毯。天井にはシャンデリアが吊るされており、煌々と明かりを灯している。よく見ると壁や柱にはクリスマスっぽい装飾がなされていた。


 ホールの奥には大きな階段があり、その向こうには観音開きの鉄の扉が見えた。


 場所の確認をしたら、今度は周りの人の顔を確認する。



「ふおぉ! なんすかここ、お城の中みたいっす!」


「そうですね……と、というか人がいっぱいでちょっと怖いです……」


「はっはっはー!! さぁ、一体ここで何が始まるのかなぁーーーー!!?」



 驚いてるマオ、人の多さに縮こまっているアッシュ、騒いでる馬鹿兄。


 ……って、アレ? リュー君は……?


 きょろきょろとその姿を探してみるも、見つからない。



「リュー君? どこ?」


「ありゃ、先輩いないんすか? 転移の時にはぐれたんすかねー?」


「いえ、私たちがこうしてそろっていますから、リューだけがっていうのも変じゃありませんか?」


「え、リューいないの? おおおーい! リュゥウウウウウウウウウウッ!! どこだァアアアアアアアアアアアッ!!」



 アポロが大声を上げる。びっくりしてこちらを見てくるプレイヤーが多数いる中……反応はない。


 むぅ、リュー君……一体、どこに?


 もう一度よく確認しようと、周りに視線を巡らせていると……突然、大声がその場に響き渡った。



『ははは、くははははは、はーっはっはっはっはっはッ!! よく来たな異邦人共!! 我が城へようこそッ!!』



 そんな声と共に、ホールの奥……二階に上がるための階段の上に、何かが現れた。


 それは、三メートルほどもある巨体を持つ、漆黒の悪魔だった。尖った尻尾、蝙蝠のような翼、山羊のような角。皮膚は真っ黒で、眼光は血のように紅い。


 そんな悪魔は…………何故か、真っ赤なサンタ衣装に身を包んでいた。ご丁寧に、白いボンボン付きの三角帽子と、膨らんだ袋まで持っている。


 ……おい、運営。クリスマス要素を出すところがぜったいに間違ってる。なんで悪魔にサンタの恰好させたし。


 いきなり現れたデビルサンタに、プレイヤーたちはぴしりと固まった。どうやら、反応に困ったのはわたしだけじゃないみたい。


 そんなプレイヤーたちのことなどまるで気にせずに、話を続ける。



『我が名はクネヒト・ループレヒト!! 世界からクリスマスを消し去るべく暗躍せし悪魔であるッ!!』



 ……なんてロクでもない設定の悪魔。



『貴様らは、我の領域たるこの城、『デモンズキャロル城』に閉じ込められている! ここから出たくば、この城を攻略し、最奥で待つ我を倒す必要がある。だが、そう簡単に城の最奥にたどり着けると思うなよ!

この城には、我の尖兵たる『ホワイト・サンタクローズ』がいたるところに存在する! やつらの妨害を潜り抜けることなど、クリスマスを謳歌しておる幸せ者には不可能であろうよ!! 聖夜を幸せに過ごすなどこの我が許さぬ! 貴様らのクリスマスを等しくクルシミマスに変えてやるから覚悟するがいいッ!! はーっはっはっはっはっはっはっはッ!!!』



 そう、言いたいだけ言って、クネヒトとかいうデビルサンタはどこかに消えてしまった。きっと、城の最奥に戻ったのだろう。


 それと同時に、二階にある鉄の扉がゴゴゴ……と音を立てて開いた。なるほど、あそこから攻略をスタートする……と。



「……ん。今回はダンジョン攻略型のイベントみたい」


「そうっすねぇ。とりあえず、あのサンタ悪魔をぶっ飛ばせばいいんすよね? あの悪趣味な外見のやつ」


「あ、悪趣味な外見……いやまぁ、確かに運営に一言申したい感じではありましたが」


「よっしゃ! 戦闘系ってこたぁ、俺らの独壇場だぜ! ……にしても、リューはマジでどこにいったんだ? あいつなら、いの一番にあのサンタ悪魔に突っ込んでいきそうなもんだが……」



 ……リュー君でも、流石にそれは……いや、ありえる………か?


 これまでの所業を考えると、ありえないと言えないのがリュー君の恐ろしいところだ。アポロの言葉に、マオもアッシュも「確かに……」という顔をしている。


 その後、ホールをいくら探してもリュー君は見つからなかった。仕方がないので、城の探索をしながらリュー君を探すことに。


 城の中は、廊下といくつもの部屋で構成されており、そこを探索して次の階への階段を探すといった感じだった。モンスターも当然のように徘徊しており、何度も戦闘が発生した。


 ……けどまぁ、そこはトップギルドのナンバーワンとナンバーツー。戦闘で困ることはなく、クリスマス使用(イルミネーションが施されていたり、サンタ服をきていたり)なモンスターを蹴散らし、順調に城を攻略していった。


 ……そう、順調だった。だったのだ。


 雲行きが怪しくなったのは、とある部屋を探索していた時のこと。



「う、うわぁあああああああああああああああ!!?」


「た、助けてくれぇえええええええええッ!!?」



 そんな風に悲鳴を上げ、わたしたちよりも先行していたはずのプレイヤーたちが、何か恐ろしいモノを見たかのような形相で部屋に飛び込んできた。



「おわっ!? ど、どうしたんだよ、一体!?」


「お、お前は……『陽光の騎士王』!? それに、『魔導蒼妃』!!」


「【フラグメント】か! た、助かった……」


「とりあえず、落ち着けって。そんなに慌てて、何があったんだ?」



 私とアポロを見て、地獄で蜘蛛の糸を見つけたかのような顔をする逃げ込んできたプレイヤーたち。……面識はないが、そこそこ実力のあるプレイヤーと噂されていたはずの面々。


 そんな彼らが、あれほど恐れる相手って……?


 考えていると、突然アッシュがビクッと体をこわばらせて、隣のマオにくっついた。そして、何かに怯えるように辺りを見渡し始めた。



「ま、マオ……何か聞こえませんか?」


「うぇ!? い、いきなり何なんすかアッシュ!? 何かって……」


「ひ、ヒィ!? や、ヤツが来る……は、早く逃げるんだッ!!」



 アッシュの言葉に過剰に反応した逃げ込んできたプレイヤーの一人が、我武者羅に走り出し、部屋の出口へと向かっていく。けれど、混乱していたのだろうか。そのプレイヤーが逃げた方向は、彼らが入って来た扉の方で……。


 アポロが「おいッ! 待てッ!」と叫ぶが……一瞬、遅かった。



「ハァハァ……こ、こんなところにいられるかッ! 俺は一人で……」






「はいどーん」





 瞬間、轟音が響く。


 それは、逃げるプレイヤーが目指していた出口の扉(金属性の頑丈そうなヤツ)が、周囲の壁ごと吹き飛んだ音だった。


 すさまじい勢いでぶっ飛んだ扉は、逃げるプレイヤーに高速で迫り……そのHPを、一瞬で刈り取った。


 だが、わたしの意識はそんな光景とは別のことに向いていた。


 今、扉が吹き飛ぶ寸前に聞こえた声は―――――


 

「リュー、君?」



 わたしは呟いた。


 それに呼応するかのように、扉があったはずの場所に出来た大穴から、人影が歩み寄ってくる。


 その姿を、わたしが見間違えるはずがない。


 首の後ろでくくった白い長髪。紫の瞳。見慣れた顔。右手に握った深紅のメイス。


 そう、イベント開始と共に消えたリュー君が、そこに立っていた。


 ……何故か、サンタクロースの恰好をして。それも、全身真っ白なホワイトサンタだ。



「……リュー君?」


「おん? ……げっ、なんでお前らがいるんだよ……。この格好見られたくなかったのに」



 そう、嫌そうな表情で言うリュー君。えっと、本当に何をしてるんだろう?


 わたしだけでなく、アポロやアッシュ、マオが突然のサンタリュー君登場で硬直していると……逃げ込んできたプレイヤーたちが、「ひぃいいいいいいいいい!?」と、悲鳴を上げた。



「アイエエエエエ!? ナンデ!? サンタナンデ!?」


「コワイッ!! サンタコワイ!!?」


「ザッケナコラー!!? スッゾオラーーー!?」


「……いや、そんなに怖がられても。まぁいいや…………とりあえず、沈んどけ」



 ――――【クイックステップ】、【フォースジェノサイド】。



 アーツによる瞬間移動によって、恐怖に顔を引き攣らせているプレイヤーたちに接近したリュー君が、紅戦棍を容赦なく叩き込んだ。すでに強化は十全だったのか、一撃でプレイヤーたちは倒れ、白い粒子となった。


 

「……えっと、リュー君?」


「おん? どうしたサファイア?」



 にっこり。笑みをうかべながらリュー君がこちらを向く。……なんか、白かったはずのサンタ服のところどころに、赤いシミが見えるんだけど……。



「……何を、してるの?」


「ん? ああ、そっか。お前らは知らないのか。ええっと、とりあえず俺から言えるのは……このイベント中、俺はお前らの『敵』です」


「「「「……敵!?」」」」



 わたしたち四人の声が重なった。え、ちょっ、それはどういう……。



「理由の説明はまた後で。とりあえず今は……」



 驚くわたしたちをほっといて、リュー君は紅戦棍を構える。そして、口元に浮かべる笑みの質を変えていく。


 そう、あれは……リュー君の神官スマイル!! 


 こんなに間近で見られる機会もあんまりない、スクショしなきゃ……って、そうじゃない!


 

「リュ、リュー君? その……冗談、だよね?」


「うーん、俺も冗談だって言いたいんだが……残念ながら、現実です」



 それは、あまりにも無慈悲な宣告だった。


 わたしたちは一瞬でアイコンタクトを交わし、瞬時に意思疎通。すなわち、「ここから逃げろ」、と。


 

「じゃ、いくぞー」



 何でもないような口調で、気の抜けた合図をしながら、リュー君が紅戦棍を振り上げた。



「お前らッ! 散開ッ!!」


「ん!」


「あっはっはー! 先輩のアホー!」


「あわわ……、ま、待ってください~~!!」


「くははッ、逃げ切れると思うなよ? さぁ、一人残らず―――――血祭りだ」


「「「「ぎゃぁあああああああああああああああッ!!」」」」




 ……結局のところ。


 このイベントで、、プレイヤーは二つの役割に分けられたらしい。


 一つは、わたしたちのように城を攻略する役割。


 もう一つは、リュー君のように、城の攻略を邪魔する役割。


 妨害側のプレイヤーは、リュー君のように白いサンタ服を着せられ、それを攻略側のプレイヤーの血で赤く染めるのが目的だったとか。


 ……まぁ、その仕組みについてはとやかく言わない。そういうイベントがあってもいいと思う。


 でも……でも……!!










「「「「リュー(君)(先輩)を選ぶのは、アウトだぁああああああああああああ!!」」」」


「はっはー! メリークリスマース!!」

感想、評価、ブックマークを付けてくださった方々、本当にありがとうございます!!



オタク式もよろしくね!!

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