表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
序章 FEO開始編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

48/250

紅月の巨狼 痛み分け

今日は早めに更新できるぜ!

 深紅の三日月に見守られた、夜の草原。


 静寂がよく似合いそうなその場所では、静寂とは程遠い、激しく荒々しい戦闘音が響き渡っていた。



「ォオオオオオオッ!!」


「ガァアアアアアアッ!!」



 雄叫びと咆哮が交差し、メイスと爪が真正面からぶつかり合う。

 ガキャンッ、と金属同士をぶつけ合わせたような音。それが、メイスの軌跡と爪の軌跡が混じりあうたびに鳴らされる。


 小さな人間と巨大な獣は、真正面から互いの武器をぶつけ合わせる。


 リューが上段から振るったメイスをディセクトゥムが爪で弾き、ディセクトゥムがメイスを弾いた方とは逆の爪で切り付けると、リューは跳ね上げた足でそれを迎撃する。


 まずは小手調べ、と始められた戦いは、両者とも一歩も譲らない近接戦の体を成していた。


 爪が振るわれ、メイスで防がれる。メイスが振るわれ、爪で弾かれる。


 そんな拮抗した戦いは、ディセクトゥムが大きく後ろに跳躍し、リューから距離をとったことで終了した。

 

 一回の跳躍で20メートル近く離れた位置に着地したディセクトゥム。

 その馬鹿げた跳躍を可能にするディセクトゥムのステータスの高さ。

 

 それを目の当たりにしたリューは、たらりと一筋の汗を流した。



「……どうした? 怖気づいたかよ、狼野郎」



 動揺を押しとどめ、馬鹿にするようにそう言い捨てたリューは、体勢を低くして走り出す。みるみるうちに、ディセクトゥムが稼いだ距離を食いつぶしていく。


 しかし、ディセクトゥムもそうやすやすと接近を許すほど甘くはない。


 ディセクトゥムが、短く遠吠えを上げる。


 それを引き金にして、巨狼の背後に紅く輝く五つの魔法陣が浮かび上がった。



「チッ、マジかよ……ッ!?」



 リューが慌てて足を止めて回避動作を行おうとするが、それよりも早く魔法陣が起動した。


 真紅の砲弾、それが五つの魔法陣から一斉に発射される。目でとらえることが難しい速度で放たれたそれは、リューがとっさに交差させたメイスに次々と直撃する。



「あぐッ!?」



 直撃した紅弾が勢いよく破裂し、その衝撃波でリューの体を吹き飛ばした。地面に倒れたリューに、魔法陣からさらなる紅弾が掃射される。


 それを転がるようにして何とか回避したリューは、急いで起き上がると視界の端に映る自分のHPを確認した。


 

「うわ、防御の上からでも三割って……。直撃を喰らうのはヤバいか」



 ダメージを【ヒール】で回復させたリュー。最初の疾走で稼いだ距離は、ふっ飛ばされたことにでゼロどころかマイナスになってしまった。

 

 もう一度ディセクトゥムに向かって疾走。今度は、紅弾の狙いをそらすように、ジグザグに移動する。

 

 だが、そんな簡単な動きでは、狡猾な狼からは逃れられない。


 ばらまかれる紅弾をよけ、時にメイスで払いのけ、徐々にディセクトゥムとの距離を詰める。

 だが、着弾と同時に破裂し、あたりに衝撃波をまき散らす紅弾は、対処がかなり難しい。

 

 回避しても衝撃波でふっ飛ばされてしまえば、後は追撃の紅弾がリューを滅多打ちにするだけだ。



「だぁ! 鬱陶しい! ……くそ、落ち着け俺。どうすればこの状況を打破できるのか。それだけを考えろ」



 声に出して自分に言い聞かせたリューは、飛んでくる紅弾を観察し始める。


 どんな軌道で飛んでくるのか。

 どのくらいの速さなのか。

 衝撃波の発生範囲は?

 紅弾を直接喰らったときのダメージと、衝撃波だけの時のダメ―ジの違いは?


 無数に飛んできた紅弾を躱す。衝撃波で吹き飛ばされる。

 今度はメイスで迎撃してみる。やっぱり衝撃波が邪魔だ。

 正面の地面に着弾する寸前に【バックステップ】。衝撃波ごと回避成功。

 


「……衝撃波の発生範囲は、半径5メートル未満っと……。そのくらいなら、大きく迂回すれば避けれるか?」



 飛んできた紅弾の軌道から着弾位置を予測。その位置から目算で四メートルほど離れた位置へと回避行動をとる。

 定めた位置にリューがたどり着くと同時に、紅弾が着弾予測位置の誤差数センチのところへ落ちる。

 落ちたと同時に、全方位に放たれる衝撃波。だが、それがリューに届くことは無かった。



「よしっ!」



 衝撃波の発生範囲を大体見切ったリューは、満を持してディセクトゥムへの疾走を開始する。

 その速度は、最初に比べれば半分しかないほどに遅い。ディセクトゥムも、それを好機と捉えたのか、紅弾を一斉に放ってくる。

 殺到する紅弾が、リューに直撃する……瞬間に、ぐっと体勢を低くして、地を這うように加速。紅弾は、一瞬前までリューがいた地面を打ち据える。

 そして解放される衝撃波。リューと紅弾が落ちた地点との距離は3メートル弱。

 加速するのが遅すぎたのか、ぎりぎりで衝撃波がリューに届いた。

 にぃ、とリューの口元が吊り上がる。


 リューは、背中に衝撃波を喰らったその勢いで、さらに加速した。


 

「ガァ!?」



 今までにないスピードで、空気を斬り裂くように突っ込んでくるリューに、ディセクトゥムは驚きの鳴き声を上げてしまう。

 それを聞いたリューがさらに笑みを深め、両手のメイスを頭上で交差させるように振り上げる。


 そして、跳躍。



「まずは一発だ。【パワークラッシュ】!」



 ドンッ!! と、鈍く響いた打撃音。

 ディセクトゥムの額に叩き込まれる、二振りのメイス。 

 柄頭がめり込み、ディセクトゥムの頭部を地面にたたきつけた。

 ディセクトゥムがダメージを受けたことで、背後の魔法陣も光を失って砕け散る。


 着地したリューは、追撃を仕掛けようとさらにメイスを振りかぶる。

 だが、それが振り下ろされるよりも早く、横から叩き付けられた何かが、リューを吹き飛ばした。



「あがっ!? な、なんだ、今の……」



 草の上を転がったリューは、そのまま顔だけ上げて、自分を襲った何かの正体を確認する。


 それは、ディセクトゥムの体よりも長そうな尾。それを振るいリューを吹き飛ばしたのだ。

 リューのHPはその攻撃で四割まで減らされていた。その威力に思わず身震いが起こる。


 減ったHP回復させつつ立ち上がったリューは、笑みをさらに深めながら、思考を巡らせる。


 恐ろしく強い敵。

 一撃一撃が強力無比。

 回避するのだって難しく、迎撃するのは苦しい。

 やっとの思いで一撃くらわしても、すぐに反撃にあう。結果は痛み分け。

 相手のHPゲージは一割も削れていない。

 今までのどの敵よりも、力強く、素早く、固く。

 難敵。そう、難敵だ。


 だからこそ、難敵であるからこそ。



「くくく……。いいなぁ、愉しくなってきた」



 


 ――――それを打ち破る快楽は、何物にも代えがたい。


感想、評価、ブックマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

感想の返信は、暇が見つかったらやりたいと思います。



……「出来たらやる」。うわーお、自分で言っていてあれですけど、まったく信憑性がねぇや。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ