紅月の巨狼 獣軍屠殺
昨日は更新できずにすみませんでした!
「…【ストレングスエンハンス】。…【ディフェンスエンハンス】。…【アジリティエンハンス】。…【マインドエンハンス】。《信仰の剣》、《信仰の盾》!」
STR、DEF、AGI。そしてMINDを魔法で強化。光の剣と盾のエフェクトが身体に吸い込まれて消えていき、さらにSTRとDEFが強化された。
ありったけの強化を自分に掛けたリューは、すぐさま疾走を開始する。
向かう先には数えきれないほどにまで膨れ上がった獣型モンスターの群れ。巨狼に従うその姿は、もはや軍隊のそれであった。
駆けてくるリューに対し、モンスターたちも進軍を始める。
先行するのは、ブラックウルフやホーンディアなどの比較的敏捷の速い魔物たち。
生意気にも向かって来るエモノを前にした獣たちは、その牙や角を突き立てんとリューを血走った目でにらみつける。
そして、ついにリューと、先頭のモンスターとが激突した。
襲い掛かったのは、鋭い牙を光らせるブラックウルフ。リューの喉笛を食いちぎらんと飛びかかる。
その後ろからは、鋭利に発達した角を唸らせるホーンディアが。
刃のような爪を持つ猫型モンスター、ソードキャットが、それぞれ殺意を滾らせている。
さらにその後ろには、無数のモンスターがエモノを狩る順番を、今か今かと待っている。
だが、
「ハァアアアアアアアッ!!!」
鎧袖一触。
その言葉が何よりも当てはまる光景が生み出される。
リューの振るうメイスがブラックウルフの牙を折り、ホーンディアの角を砕き、ソードキャットの爪を捥いだ。
後続のモンスターたちも、暴風のごとく暴れまわるリューの攻撃に、なすすべなく純白の粒子と化していく。
あまりにあっけなく砕け散るモンスターに、リューは思わず拍子抜けした顔を見せた。だが、すぐにそれを笑みに変え、モンスターを屠る速度を上げていく。
無双、と言っても過言ではないこの状況は、何もリューがそれを成せるほどに強い。というわけではない。ただ単純に、敵が弱いのだ。レベルにしたら、10かそこら。リューなら、強化せずとも一撃でHPを全損させることができるほどの弱さだ。
しかし、獣型モンスターの群れは、とにかく数が多い。倒しても倒しても、地面に描かれた魔法陣からわんさかと湧き出してくる。全く持ってキリがない。
さらに、全てのモンスターが『狂化(アーツ・魔法の使用不可。物理攻撃力上昇。思考能力低下)』の状態異常にかかっており、低レベルでも確実にダメージを与えるようになっているのが、なんとも嫌らしい。それに加え、レベル差によって倒しても微々たる経験値しか得られないという、踏んだり蹴ったりな存在である。
質を完全に捨て、量によって圧殺する。そうでなくとも、圧倒的物量でHPとMPを削ること。それこそが、獣軍の本質だった。
要するに、ただの嫌がらせ要員である。
そんな嫌がらせ要員だろうと。いや、嫌がらせ要員だからこそ、この状況においては、絶大な効果を誇る。
ただ、この獣軍を相手にするだけならば、何の問題もない。ただ、数が尽きるその時まで戦い続けるだけでいい。戦いとも呼べないような作業を繰り返すだけでいいのだ。
だが、この獣軍を退けたとしても、後に待つのはディセクトゥムとの戦い。自分こそがこの草原を統べる王であると、悠然と寝そべる巨狼との戦いだ。その強さは獣軍を相手にしているときでさえ、その事実は戦っている者の心を蝕んでいく。
消耗した状態で、あの化物に敵うのだろうか。そんな思考が、ふとした時に戦いの手を鈍らせ、その結果、さらなる消耗を強いらせる。消耗すればするほど、戦う者の中でディセクトゥムの存在は大きく膨らんでいく。それがまた隙を生み、傷を受け、消耗が増える……。見事なまでの堂々巡り。繰り返される負の連鎖。それに囚われてしまえば、後はディセクトゥムの思う壺。狡猾な狩人は、弱ったエモノの息の根をひょいと簡単に仕留めて、全てが終わる。
エモノを弱らせ、確実にその息の根を止める。それはまさしく、狼の所業。
だが、今回ばかりはエモノが悪かった。オオカミの罠に飛び込んできたのは、か弱い草食動物ではなく―――
「くははははっ! ぬるい。ぬるいぞォ!!」
――――喜々として鈍器を振り回し、蹴りでモンスターを砕く、イかれた神官である。
牙をむいたブラックウルフは、袈裟に振り下ろされた右のメイスで頭蓋を砕かれた。
突進を仕掛けたボアは真正面から額を肘で打ち据えられて沈んだ。
自慢の角で肉を貫かんとしたホーンラビットは、その角ごと足裏でへし折られ、地面のシミとなった。
ホーンディアが放つ後ろ足の蹴りに合わせるようにして蹴りを放ち、片時の拮抗も許さずに吹き飛ばす。
左右から挟撃を仕掛けてきたラットマンは、空中でメイスの迎撃に会った。
完全に戦いの中に入り込んでしまっているリューの目に、もはやディセクトゥムの姿は映っていなかった。頭の片隅にかろうじて引っかかっているレベルである。
とりあえず、何かしてくるまでは放置すると決めたリューは、哄笑を上げながら獣軍の真っただ中で思いっきり暴れまくる。
メイスを振るい、蹴りを放ち、骨を砕き、肉を潰し、獣を屠る。
時たま攻撃を受けたとしても、すぐさま【ヒール】で回復。
強化が切れた時だけは獣軍から距離をとる。
強化をかけなおしたらすぐに攻勢に。
それを、何度も何度も繰り返す。
だが、モンスターの数は減らない。ディセクトゥムが最初に展開した魔法陣。それがまだ稼働しており、次々とモンスターを輩出している。
「ちっ、キリがないな。てか、数が減ってない? もしかして……くそっ、やっぱり召喚が続いてんのか。あの魔法陣をどうにかしない限り、こいつらはいくらでも襲ってくる、と。全員雑魚だからあんま問題けど……そろそろ鬱陶しくなって来たし、ぶっ潰すか」
召喚の魔法陣が稼働を続けていることを確認したリューは、なんでもないようにそうつぶやき、攻勢の手をさらに増し、過激なものに変えていく。
殲滅速度を上げることを何より優先して動く。頭の片隅に引っかかっていたディセクトゥムは完全に忘れられた。
やがて、無数にいた獣たちも、少しづつ数を減らしていく。召喚陣がモンスターを呼び出す速度より、リューがモンスターを殺す速度の方が速くなっているのだ。
密集していた軍勢には穴が目立つようになり、その穴から覗く召喚陣は、リューのメイスによって地面ごと粉砕される。
優に三十はあった召喚陣は、一つ二つとその数を減らしていき、ついには十分の一まで数を損じた。
モンスターの影も数えるほどになり、残ったそれらもリューに襲い掛かるが、蠅でも払うような軽さでポリゴンに変換された。
今しがた殴り飛ばしたモンスターに目もくれず、リューは残りの魔法陣を手早く砕いく。
「さて、在庫切れか? オオカミさんよ。俺はまだまだいけるぞ?」
メイスをディセクトゥムに突き付け、リューが挑発的な笑みを浮かべる。
その笑みに触発されるように、紅き巨狼は、横たえていたその巨体を、ゆっくりと持ち上げた。
そして、夜空に向けて遠吠えを一つあげた。
それは、リューの挑発への返答か。それとも、生意気なエモノへの最終勧告か。
ディセクトゥムは強靭な四肢で大地を踏みつけると、三日月に向けていた眼をリューへと移した。
そこに、最初にあった傍観するような色はない。代わりに宿るのは、リューに対する確かな敵意。
リューも、その敵意に応えるように、切れかかっていた強化をすべて一新し、武器を構え笑みを深めた。
「――――行くぞ、狼野郎。第二ラウンドだ」
「【バックステップ】のアーツっておかしくね?」という意見をいただきました。折を見て直すなり注を入れるなりします……。私の力不足でした、感想で指摘してくれた読者様、本当にありがとうございます。




