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紅月の巨狼 襲撃

バトルが始まります! 

「ほいっ、せいっ、とりゃっ!!」



 右、左、もう一度右。メイスを振るい、集団で襲い掛かってきたオオカミを撃退する。このオオカミ型モンスターはグレイウルフ。戦ってみた感じ、ブラックウルフよりも弱い。

 襲い掛かって来た四匹のグレイウルフのうち、三体はメイスに沈み、残るは一体。真正面からではなく。生えている草に身をひそめるようにして、側面から駆けてくる。

 


「ガウッ!!」


「ハッ、奇襲がしたいなら啼いてんじゃねぇよ!」



 間抜けにも声を上げてしまった哀れな獣畜生を蹴りで迎撃。砕け散るグレイウルフの体。戦闘終了である。最後に蹴りを選んだのは、メイスばっかりだとスキルレベルが偏ってしまうからだ。メイスと格闘、バランスよく使ってレベル上げ!

 

 さてさて、『静かなる草原』をさまようこと三十分ほど。それなのにかかわらず、すでに十回以上モンスターとエンカウントしている。二、三分に一回ってかなりの頻度だな。荒野だとこの五分の一くらいなんだけど。

 出現するモンスターは、ホーンラビット、ステップシープ(若草色の羊)、ラットマン(二足歩行のデカいネズミ)、ボア(ただのイノシシ)、グレイウルフなどなど。哺乳類ばかりである。どうでもいいが、モンスターでも哺乳類って言うんだろうか? それとも、普通に獣型?


 夜の戦闘にもだいぶ慣れてきて、もともとのレベル差もあって、ここまでノーダメージで来ている。暗闇での戦闘は、目に頼るよりも音に注意を向けたほうがやりやすい。草原だし、動けばどうしても『がさがさ』って音がするからね。

 

 その後も命知らずにも襲い掛かってくる獣を粉砕しながら草原の探索を続ける。時たま吹く夜風と、夜空を飾る星々、そして天壌にて輝く三日月。リアルでは高山地帯にでも行かなきゃ見れないような光景を堪能しながら。てくてく。ズガッ! てくてくてく。ドゴォオ!!

 

 だが、そんな平穏(?)な時間は長くは続かなかった。代り映えしないモンスターのラインナップにいささか食傷を覚え始めていたころ、ふと、周りの様子がおかしいことに気づく。

 まず、音がしなくなった。ざわめいていた風の音。風によって揺れる草のこすれる音。遠くにいるモンスターが立てる音。それらが一切聞こえなくなった。

 風の音が消えたということは、風が吹いていないということになる。確かに肌をなぞる風の感覚が無くなっていた。さっきまでは、強風とまではいかなくとも、そよ風よりは強く吹いていたはずの風が、だ。


 何か、おかしなことが起き始めている。いや、すでに起きているのか。


 警戒を強めた俺の耳に、ザッザッと歩みを進める音が聞こえてきた。それも複数。数は……。いち、にい、さん……五人、か?



「ほう……。我々の接近に気づいていたようだな。やるではないか」


「だが、貴様は所詮、女に現を抜かす軟弱者」


「このゲーム、FEOを遊びと勘違いしているような輩は真のプレイヤーたる我々にあらゆる面で劣るのだ」


「天誅を! あの愚か者に天誅をぉ!!」


「畜生……。なんでこいつは美少女とイチャイチャできて、俺はできないんだよ……ッ!! うらやま……じゃなくて、妬ましい!!」


「落ち着け、イー、エフ。目的を忘れるな。……ふむ、スクショと同じ顔。レベルは上がっているようだが、職業は同じ……。ターゲットで間違いないようだな」



 ……六人でしたか。うわっ、何かすっごい恥ずかしい。何が『五人、か?』だよぉぉおお!? カッコつけてんじゃねぇよ! 俺!


 悶え死にそうなのを必死でこらえ、いきなり現れた六人組を盗み見る。

 全員、黒い外套で全身をすっぽりと覆っている。六人が横一列に並び、こちらを見据えている。見た感じの感想は、不気味な集団。何やらぐちぐち言っていることを聞いた感想も、不気味な集団。……結論。


 ぶきみなしゅうだん が あらわれた!


 声からして、全員男性プレイヤーなのは間違いないようだ。そして、やつらが口々に言っていたこと。言葉の端々から、何というか……『特定の人種』への恨みつらみが見え隠れしている。もしかしてこいつら……。いや、確証はない。だから、ここはお約束とやらにのっとることにしよう。



「お前ら……何者だ?」



 俺のそのセリフに、『待ってました!』と言わんばかりに、各ポージングと共に名乗り上げ始める。



「我ら、この世界に安寧をもたらすもの」


「この世に蔓延る悪をくじき」


「弱きものたちの盾となり、剣となるもの」


「お前らがいる限り、我らに安息は訪れぬ」


「ならば、我らが天に変わって、罰を下そう」


「崇高なる我らの名は―――」




「はいはい、【ラヴブレイカーズ】だろ?」




「「「「「「…………………………ゑ?」」」」」」


「まったく、人から受けた質問には、シンプルかつ分かりやすく答える。常識だぞ? 親しい仲ならいざ知らず、初対面の相手にそんな回りくどくてアホっぽいこと言うなんて、馬鹿じゃないのか?」


「「「「「「………。…………き、貴様ァアアアアアアアアアア!!!」」」」」」



 あ、怒った。



「おまっ、前口上だぞ!? ちゃんと最後まで聞くのが筋ってもんだろうが!」


「お約束ってもんを知らんのか!」


「ここでかっこよくキメなかったら、俺らただの恥ずかしい人じゃねぇか!」


「やめて。その普通なテンションやめて」


「くそう……。せっかく練習したのにぃ……」


「やはり、一筋縄ではいかぬか……。それでこそ我らの敵となりえる存在だ」



 口々に文句を言われるが、わざとらしく両手で耳をふさいで無視。さらに激しくなるブーイングを聞き流しつつ、どうしてこいつらがここに現れたかを考える。

 【ラヴブレイカーズ】の連中が狙うのは、リア充かハーレム野郎って言ってた。俺はそのどちらにも当てはまらないはずだけど……。まぁ、聞いてみるか。



「なぁ、どうしてお前ら、俺を狙ってんだ? お前らってリア充かハーレム野郎しか狙わないんだろ?」


「む? ああ、その通りだ」



 俺の質問に答えたのは、真正面にいる男。こいつがリーダーなのだろうか? ま、答えてくれるならだれでもいいか。質問を続けよう。



「じゃあ、なんで俺を狙う? 俺には彼女はいないし、ハーレムなんてもってのほかだぞ?」


「貴様には、あるプレイヤーから依頼が来ている。『意中の相手を寝取られた。復讐してほしい』と」


「人聞きが悪いにもほどがある! てか、全く持って身に覚えがないぞ?」


「貴様の意見などどうでもいいのだ。リア充は所詮リア充。我らの気持ちなど理解できん」


「いや、だから……」


「黙れ! 我々は任務を遂行し、貴様を屠るのみ! さぁ、覚悟してもらおうか!」



 き、聞く耳を持たないとはこのことだな……。誰だよ、依頼出したプレイヤーって。ふざけんなよ、そいつ。

 俺が内心で苛立ちを募らせていると、【ラヴブレイカーズ】どもは俺を囲むように陣形を整え始めた。その隙に逃げ出そうかとも思ったが、それではこのイライラは収まらない。というか、敵前逃亡なんて情けないことできるか。

 ……そうだな、あの一番隅っこのやつが俺の後ろに来た時に……。よし、やってみよう。


 そうしている間に陣形が整い始め、やつらは武器を構え始めた。俺と【ラヴブレイカーズ】との距離は七、八メートル。

 やつらは、一斉に武器の切っ先をこちらに向け、声をそろえて叫びをあげた。



「「「「「「さぁ! 憎き仇敵よ! 我らの正義にもとに沈むがいい!!」」」」」」



 俺は、その声に気おされるように一歩、二歩……と後退していき、



「【バックステップ】」



 ―――――瞬時に、背後にいた【ラヴブレイカーズ】の背中をとった。



「なっ!」


「遅い」



 そいつが驚いている隙に、ローブの襟首をつかみ、後ろに思いっきり引っ張る。動きながら《信仰の剣》と《信仰の盾》、強化魔法を発動。

 バランスを崩した【ラヴブレイカーズ】の男が仰向けに倒れる。衝撃に身をすくませたその瞬間に、胸を強く踏みつける。「かはっ」と空気を吐き出す音をを聞きつつ、さらなる追撃を。取り出したメイスを顔面に何度も何度も叩き付ける。「ヒィ!?」というおびえた声が聞こえてきたが、無視。十回殴ったところで、そいつのHPがゼロになったようで、ぐったりと動かなくなり、ポリゴンとなって霧散した。これで、一人。


 俺は油断なくメイスを構えながら、残りの五人を見渡す。



「相手がPKなら、遠慮なくやっていいんだよな? じゃあ、いくぞ?」



 戦闘、開始だ。

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