紅月の巨狼 夜の草原
ちょっと短め。調整中です。
『木漏れ日の森』を突破した俺は、夕食の準備をするために一端ログアウトしていた。今日のメニューはオムライス。子供っぽいメニューだけど、蒼直々のリクエストだったので、ちょっと張り切って作ってみる。
「うん……。百点満点中九十点ってとこか。ここ最近じゃ一番の出来だな」
軽く自画自賛するような事になったけど、それくらいよくできてたと思う。それは、夕食の時刻になって食卓に集まって来た太陽と蒼の反応を見れば、間違いない。
「流! 美味い! なんかいつもより美味いぞ!」
「ん。流にぃ、ぐっじょぶ」
「はいよ。そう言ってくれると安心する。お代わりがほしかったら言ってくれよ?」
「「おかわり!」」
「はやっ!?」
チキンライスを皿に盛り付け、そこに半熟オムレツを乗せ、真ん中に包丁で切り込みを入れる。トロリと卵が広がる光景を見ていた二人から、『ほわぁ~』と間の抜けた声が漏れる。それを二人の目の前に並べてやれば、我先にとがっつき始めた。誰も取ったりしないから、ゆっくり食べなさい。
いっぱい食べてくれるのは、作った側としてはありがたいし嬉しいけど……。そんなに急いで食べて、喉に詰まらせたりしないか? そうでなくても、お米が気道に入り込んだり……。
「ガツガツガツ……。……ムグッ!? ゲホッ、ゲホッ! み、水を……」
ほら見ろ、言わんこっちゃない。
思いっきりむせた太陽を蒼と二人でからかいつつ、今日の夕食は終わった。
夕食後、食後の休憩ということで、リビングのソファーにもたれこんでいる太陽に、ちょっと気になったことを聞いてみる。
「なぁ、太陽」
「お~? なんだ~?」
「……だらけすぎだろお前。まぁいい。今日、夜のフィールドに出てみようと思うんだが、気を付けることとかあるか?」
「お、ついに流も夜の世界に進出するのか。そうだなぁ……。うん、とりあえず、《夜目》とか《暗視》のスキルはもっといたほうがいいぞ。こういうスキルは夜だけじゃなくて、洞窟とかのくらい場所でも使えるからな」
「そうか、わかった。やっぱり太陽は、こういうときだけ役に立つな。こういうときだけ」
「なぁ、それ強調する必要あったか?」
大事なことなので二回言いました。
さてさて、本日二度目のログイン。初めてとなる、FEOの夜の世界だ。見なれたはずの始まりの町も、夜になるとまた違った風に見える。
さっそく向かうのは、『静かなる草原』。月が浮かぶ空を見上げながら、緩やかな風が吹く草原を進んでいく。確かに暗いが、月明かりに加え、太陽の進めに従って習得した《夜目》スキルが良く働いてくれているので、歩くのに困ったりはしない。
「っと、さっそくお出ましか」
闇の中からがさがさという音が聞こえてくる。モンスターが近づいてきているようだ。
立ち止まり、少し姿勢を落とす。迎撃準備、完了。
角ウサギが あらわれた!
草むらから飛び出してきたのは、額の部分に角の生えたウサギさん。正式名称はホーンラビット。このゲームのモンスターの名前は分かりやすさを重視しております。
草むらの上で後ろ足に力を入れた角ウサギは、俺に向かって飛びかかってくる。飛びかかりからの『つのでつく』攻撃だ。あの角で刺されるのは痛そうだな~。うんうん。
「そいっ」
「ぴぎゅぅ!?」
タイミングを合わせて廻し蹴り。角ウサギの側頭部につま先を叩き込む。
哀れに吹き飛んでいった角ウサギのHPは一瞬でゼロに。そして、ポリゴンとなって宙に融けた。あっけないのにもほどがある。
うーん。モンスターの強さは初心者フィールドの中でも最弱か……。まぁ、あのウサギがよっぽど弱かった。という可能性も無きにしも非ず。
ま、夜の時間はまだ始まったばかり。どんなことが待ってるのか、楽しみだ。
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