紅月の巨狼 神官とは(哲学ではない)
前回に引き続き、アウラの活躍をお楽しみください。
というわけで、やってきました『木漏れ日の森』。
なんというか、うん、名前通りの場所だな。木の葉の間から差し込んでくる日光がところどころに模様を映し出している。どこかほっこりとする光景だ。それはいいんだけど……。
「……てか、ほっこりしてんだから、襲ってくんな!」
飛びかかって来たデカい虫を蹴りで迎撃。姿形はトノサマバッタに似てるけど、全長が一メートルくらいあって、体がとげとげしてる。キモイ。マジでキモイ。うわっ、二匹目来た。とりゃぁ!!
う、うーん。虫虫虫虫……。バッタにトンボ。ちょうちょに芋虫……虫の巣窟なのか、この森は。景色だけ見ればキレイなのに。
虫は……うん、正直苦手だ。特にアレ。キッチンに出没する黒いアレ。あいつは俺の一生の天敵である。もちろん、家のキッチンには殺虫剤とスリッパが常備されている。……この森には出てこないよな?
……想像するんじゃなかった。背筋が寒くなる。うん、考えるのはよそう。さっさとボスエリアを見つけてしまおう。この分だと、出てくるモンスターも全部虫だろうし……。ボスも虫だよなぁ、きっと。
うん、いつも黒いアレを退治してる時の気持ちで進んでいこう。サーチ&デストロイ。……あれ? それって今までとあんまり変わってなくね?
そんな感じで、虫どもをメイスで叩き潰しながら進んでいく。この『木漏れ日の森』は飛び出してくる虫に目をつぶれば、中々な癒し空間。マイナスイオンが出ていそうな森の中を軽快な足取りで進む。もう虫は気にしない方向で。レベル差があるので一撃で散ってくれるから、警戒を高める必要もない。
そうやって、余り警戒心を働かせていなかったことを、俺は後々後悔することになるのだが……。
今の俺に、そのことを知る由もなく。のんきに虫を潰していたのだった。
「ひ、ひぃぃぃぃ……。何ですあれ何ですあれ! あんなの神官じゃない!」
やぁどうも、アウラだよ。
ボクは今、【ラヴブレイカーズ】を探して初心者フィールドをあっちへこっちへ探し回っていた。このあたりに出るってことは、この辺にいるプレイヤーを狙うってことだからね。初心者フィールドはそこまで広くないし、上手くいけば接触できるかも? と考えたんだけど……。その途中で、トンデモないものを発見した。
『乾燥した荒野』を一通り確認し終えたボクは、二つ目の初心者フィールド『木漏れ日の森』に足を運んだ。森の中ということで、お得意の隠密スキルをフル活用して、身をひそめながらフィールドを移動していくボク。時折出てくるモンスターも、今のボクの姿を確認することは不可能なのだ。
記者、という職業柄。やっぱり隠密系のスキルをたくさん覚えることになる。密着取材とかをターゲットのプレイヤーに気づかれずにしたりするときに便利なんだ。本気でかくれんぼさせたら、ボクの右に出る者はいない! なんてね。
『木漏れ日の森』は、木の影から襲い掛かってくる巨大な虫型モンスターが、女性プレイヤーからは不人気なフィールド。男性プレイヤーでも、このフィールドには絶対に行かない、と言っているのを耳にしたことがある。
それでも、ポーション何かを作る素材が豊富に存在するから、サービス開始当時は多くのプレイヤーが虫にひぃひぃ言いながら薬草採集をしてたっけ。
そんな風になつかしい思い出に浸りながら、木の上をぴょんぴょんはねて移動。地面を行くよりこっちの方が断然速いってことを思い出したのだ。
「【ラヴブレイカーズ】の人たちはどこにいるのかなー。そう簡単に見つかるとは思ってないけど……。ん? 誰だろ」
前方に誰かを発見。太めの枝に腰掛けて、スキル《千里眼》を発動する。これは自分の視界を任意の場所に移動させることが可能になるスキル。遠くだろうと壁の向こうだろうと、このスキルの前では丸裸なのだ。
《千里眼》に映し出されたのは、一人のプレイヤーの姿だった。一人ということは、【ラヴブレイカーズ】とは関係ないかな? あのギルドのギルメンは基本的に団体行動をしていると聞いているし。
ただのプレイヤーさんかー、と思って《千里眼》の発動を止めようとしたけど、ちょっと気になることがあってスキルを発動したままにする。
ボクが見つけたプレイヤーさんは、職業が神官だった。レベルは17。初心者フィールドにいるプレイヤーとしては、かなり高いレベルだ。同レベル帯の別プレイヤ―なら、もうすでに『ドゥヴェル』より先のフィールドで活動しているのが一般的なはず。素材採集の依頼でも受けてるのかな?
高いレベルもそうだけど、そもそも神官がソロで活動しているというのが驚きだ。神官という職業は完全な支援職。回復と強化魔法、そして後方支援が神官の華と言える。
ベータ時代には、前衛神官、という試みをしたプレイヤーもいたみたいだけど……。神官の職業効果にある『物理攻撃力低下』。これがどうしてもネックになってしまい、気が付けば前衛神官は絶滅していた。……おっと、そうしている間に、モンスターとエンカウントしたみたいだ。あれはグリーンホッパーだね。でっかいバッタだ。
さてさて、あのプレイヤーさんは、ソロでどうやって戦うのかな? 魔法を使うのが普通だけど、もしかしたら神官戦士の生き残りかも……。…………………………あれ?
ぼ、ボクの目がおかしくなったのかな? 今、ありえない光景を目撃しちゃったような………。
そうやって目をこすってる間に、もう一体グリーンホッパーが出てきた。
出てきたと思ったら、一瞬でポリゴンになった。
何を言っているのかわからないと思うけど、ボクもわからない。
その後も、次々と襲い掛かる虫系モンスターたちは、プレイヤーさんに近づくだけでポリゴンになっていく。
何度も見ていれば、プレイヤーさんが何をやっているかはわかる。ただ普通にモンスターに攻撃しているだけ。それも、蹴りや拳を使ってだ。神官……なんだよね? 間違いないよね?
もう一度プレイヤーさんの頭上を注視して見る。うん、神官で間違いないね。
……あのプレイヤーさんは、一体何を目指してるんだろう?
そのプレイヤーさんに興味を持ったボクは、そのままそのあとを追いかけてみることに。追いかけるといっても、《千里眼》の位置を移動させるだけだからね。楽ちん楽ちん。
うんうん、もうモンスターなんて眼中にないって感じで倒していくね。このままだと、すぐにボス戦だ。
そうこうしているうちに、ボスエリアに到着。ここのボスはでっかいカブトムシみたいなやつで、名前はフォレストビートル。直訳で森のカブトムシ……そのまんまだね。攻撃方法は突進と角でつく。後は空を飛ぶかな? そんな複雑な攻撃はしてこないから、軽く倒せるだろ………………う?
……………………………………はい? え? ちょ、なんでボスの攻撃真正面から受け止めてるの? 何で喜々としてボスの足をもぎ取ってるの? そのメイス二刀流は何? 何で高笑いしながらボスの甲殻を砕くの? 怖い怖い怖い!
わーん! なにあれ! あんなの神官じゃない!
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