紅月の巨狼 【ラヴブレイカーズ】
後半戦、始まります。
「では、私はこれで失礼しますね」
「おう。今日はいろいろとありがとな。助かった」
「いえ、私も楽しかったですし……。また、何かあったら誘ってください」
「ああ、ぜひそうさせてもらう。アッシュも、何かあれば遠慮なく言ってくれ」
「はいっ!」
シルさんの依頼、『スキル屋を再建しよう』をクリアした俺、サファイア、アッシュは、始まりの町の噴水広場にいた。
アッシュは、そろそろログアウトしなければならないらしく、ここで解散という流れになった。
急に手伝わせてしまったのにも関わらず、嫌な顔一つせず「楽しかった」と言ってくれるアッシュに内心感動していると、俺の隣にいたサファイアがアッシュの方に近づいていき、おもむろにメニュー画面を開くと、何かを操作し始めた。
「アッシュ。フレンド交換しよ」
「ふ、フレンド交換ですか? いいですけど……」
サファイアのいきなりな申し出に、ちょっと戸惑いつつも、嬉しそうな反応を見せるアッシュ。サファイアが送ったフレンド申請を、迷うそぶりもせずに承諾する。……やったねアッシュ、フレンドが増えるよ。メニューのフレンド欄を見て喜んでいるアッシュに、涙を禁じ得ない。
サファイアにしては気が利いた行動だったな……。それにしても、この二人、いつの間に仲良くなったんだ?
「これからよろしく、アッシュ」
「はいっ、よろしくです。サファイア」
そんな俺の疑問も、二人の仲睦まじい姿を見ていると、どうでもよく思えてくるのだった。
アッシュと別れた俺とサファイアは、始まりの町をぶらぶらと当てもなく歩いていく。二人の間には静寂が横たわっているが、剣呑さや重苦しさはまるでない。それは、隣にいるのが気が置けないサファイアだからこそ醸し出せる空気だろう。
目的地もなく彷徨うだけの散歩を続けている途中。俺は、ふと気になったことを思い出し、何気なしにそれをサファイアに問いかける。
「なぁ、サファイア」
「ん?」
「お前、始まりの町に何か用があって来たんじゃなかったっけ?」
「……ん、大丈夫。そんなに急ぎのようでもないから」
「…………お前、忘れてただろ」
そう言ってジト目を向ければ、俺と目を合わせないようにそっぽを向く。うん、絶対に忘れてたね、これは。
「はぁ……。まぁ、手伝わせた俺にも責任があるしな。で、どんな用事だったんだ?」
「ん。とあるギルドの目撃情報があったから、それを追ってた」
「ギルドの? またどうして」
「そのギルドは、【フラグメント】を目の敵にしてる。正確に言うと、アポロを、だけど」
「……アポロのやつを? また何でそんなことに。確かにアイツはウザいけど、人の恨みを買うようなやつじゃないだろ」
ハイテンションでバカでちゃらんぽらんでゲームバカで成績が悪くて頭が悪くて馬鹿なやつだが、他人が嫌がるようなことはしないし、人一倍正義感が強い。顔の作りも整っていて、誰とでも仲良くなれるくらいに気さくで。常に人の環の中心にいるようなやつだ。
そんなアポロが、目の敵にされている……? 一体何をしでかしたのやら。
「アポロを狙ってるのは、【ラヴブレイカーズ】っていうFEOでもトップクラスのPKギルド」
「……あんだって? 【ラヴブレイカーズ】? なんだそのふざけた名前のギルド。……って、いや待て。PKギルドってことは、プレイヤーを襲う集団ってことか?」
「ん。その通り。でも、このギルドは少し毛色が違う。むやみにプレイヤーを襲うことはしない。狙うのは、一部の男性プレイヤーだけ」
「……ちなみに、その一部の男性プレイヤーって?」
いや、ギルド名からなんとなく予想はつくけどさ……。
「リア充。もしくは、ハーレム野郎」
やっぱりか……。LOVEをBREAKする集団だから【ラヴブレイカーズ】。要するに、『リア充爆発しろ!』っていうプレイヤーの集まりということだろう。
サファイアの説明によれば、こいつらはFEO内でイチャコラしているカップルの男を狙ってPKする。また、他のプレイヤーからの依頼を受けてリア充を狩ることもある。ただ、一度狩った対象は二度と相手にしないとか、依頼をするには結構めんどくさい手順を踏まなくてはいけないなど、いろいろと流儀的なものがある。
「そんなことだろうとは思ったけど……。そんな連中がPKギルドのトップなのか?」
「ん。規模的にも実力的にもトップ。ギルマスは最前線のボスとタイマンはれる」
「マジか……。ん? ということは……。アポロのやつがリア充、もしくはハーレム野郎ってことか? でもアイツ、彼女ができたとか言って無かったぞ?」
「……【フラグメント】の構成人数は、リューにぃを入れて十一人」
「お、おう」
「……その内、女性プレイヤーがわたしを除いて五人」
「大体半々ってことか。それで?」
「……内、四人がアポロに惚れてる」
「………………」
えっと、それは……。何というか……。こういう時、なんていうだっけ? えっと、確か……。
「それ、なんてラノベ?」
「残念ながら、現実。アポロが無駄にかっこよく助けたり、トラブルを解決したりしてたらそうなった。どうでもいいけど、皆美少女」
「そうか……。知らないうちにアイツ、ラノベ主人公になってたんだな……」
幼馴染の思わぬ変化に、なんとも言えない気持ちになる。弟分がモテモテなのは素直に嬉しいが……。一つ、かなり気がかりで不安なことが。
「……アポロのやつ、自分が複数人から好意を向けられてるっていう自覚、あるのか?」
「……あると思う?」
やっぱり……。気づいてないのか。
何というか、感性がオコサマなあいつは、恋愛感情というものにとことん疎い。今までアイツからそういう話題を聞いたことがなかったし、もしかして初恋もまだんじゃなかろうか? そういう鈍感なところとか、まさにラノベ主人公っぽい。
大変な相手に恋をしてしまったな、まだ見ぬアポロのハーレムメンバーよ。
そんなことを考えていると、サファイアが横からなんとも言えない視線を向けてきた。
「どうかしたか?」
「リューにぃ。今、アポロのこと『鈍感なヤツ』って思った?」
「まぁ、そんな感じのことは考えたけど……。実際そうだろ?」
「それは否定しない。否定しない、けど……」
その先を濁すように、そこで言葉を切ったサファイア。
なんだか、向けられる視線が、『お前が言うな』と言っているような気がした。
今日はもうあまり時間がない。予想以上にシルさんの依頼に時間を使ってしまったようだ。となると、初心者フィールド制覇は明日以降にするとしよう。
サファイアとぶらぶらしながら、武器屋により、《鉄のメイス》を購入。予備も含めて四本買っておいた。これでゴブリンジェネラル戦みたいなことが起きても大丈夫である。
少し気になることもあったが、その後、三十分もしないうちにサファイアと一緒にログアウト。あ、一緒にって言っても、宿屋の同じ部屋でとかじゃないぞ? 当たり前だが。
現実の自分の部屋に戻り、ベッドの上でゆっくりと体を伸ばす。さぁて、今日の夕食はどうしようかな。
「うーん、冷蔵庫の中身を見てから考えるか。……それにしても、始まりの町で誰かに見られてた気がしたな……。気のせいか?」
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