紅月の巨狼 劇的ビフォー〇フター?
いつまで続くんだ……。このスキル屋再建編。
「……………………(じー)」
「…………えっと。わ、私の顔に何かついてますか?」
「……別に」
「そ、そうですか……。じゃ、じゃあ、何か言いたいことがあるとか……」
「………………………………(じー)」
「うぅ……。……り、リューぅ、助けてくださぁい……」
……何をやっているんだ、サファイアのやつ。
お店にやって来たアッシュを見るなり、サファイアは、そちらに近づいていったと思ったら、なぜか観察するようにアッシュの顔を無言で覗き込み始めた。
人見知りするタイプのアッシュが一歩下がれば、サファイアは一歩踏み寄る。アッシュが身を引けば、サファイアは身を寄せる。アッシュが横に移動すれば、サファイアもついていく。
ぴたりと張り付いて離れないサファイアに、ついにアッシュからのヘルプが来たので、サファイアの首根っこをつかんでやめさせた。もちろん、手刀も忘れずにだ。
「サファイア、やめろ。初対面の相手に失礼だろうが」
「むぅ、ごめんなさい」
「謝るのは俺じゃないだろ? ほら、アッシュに謝って、自己紹介もしなさい」
「………………ん。分かった」
「その間はなんだ、間は」
俺の質問には答えずに、アッシュの方に近づいていく。ホントに分かっているんだろうか……?
そう不安に思っていると、サファイアはアッシュの前でペコリと頭を下げて「ごめんなさい」と謝った。よかった、杞憂だったか。
「わたしはサファイア。リューにぃのお嫁さん」
「オイコラ、何さらっと嘘をついてやがる」
「お、お嫁さ……。リューの……?」
「騙されてる!? アッシュ、こんな分かりやすい嘘に引っかかるな!」
「え、あ……。そ、そうですよね。……………………良かった」
サファイアのアホなジョークにまんまと引っかかるアッシュ。慌てて否定すればすぐに嘘だと分かったよみたいなんだが……。何でそんなにホッとしてるんだ?
アッシュの妙な態度に首を傾げていると、サファイアがアッシュの耳元で何かをささやいていた。
「(……ふぅん、やっぱり)」
「(ひゃんっ!? さ、サファイアさん!? い、今の聞こえて……?)」
「(ん、ばっちし。……アッシュも、わたしと一緒?)」
「(い、一緒って……。私は別に、リューのことは何も……)」
「(別に、リューにぃのことだなんて、一言も言ってない)」
「(あ……。…………。………………ッ!!?)」
「(ないす自爆。よくわかった。アッシュはわたしと同じ)」
「(…………べ、別にリューが好きとかそう言うのじゃないです。ただのお友達ですし)」
「(ん。そういうことにしといて挙げる)」
「(~~~~~ッ!! で、ですからぁっ!!)」
………二人して、何をこそこそ話してるのだろうか?
完全に置いてけぼりになっている俺とシルさんは、「どうしようか?」「とりあえず止めたら?」「俺がですか?」「私、あそこに入りたくないし。神官さん、よろしくね♪」「……分かりました」というやり取りを、全てアイコンタクトで交わした。……なんか、押し付けられてしまった。
「サファイア、アッシュ。もういいか? そろそろ話に戻りたいんだが……」
「え、あ……。り、リュー? 今の話、聞いてました?」
「……? いや、小声で話してたから、聞こえなかったけど……。ま、まさか、俺の悪口を言い合っていたのか……?」
「ち、違います違います! そんなんじゃないです!」
「ほう、じゃあ一体何を話してたんだ?」
「り、リューには関係ないことですので……。その、黙秘権を行使させていただきたく……」
「ん。わたしもアッシュも、リューにこともがぁ!」
「さ、サファイア! 言っちゃダメです!」
何かを言おうとしたサファイアの口を、アッシュが大慌てでふさぐ。それも、自分の胸にサファイアの頭を抱え込むという方法でだ。アッシュの平均よりも豊かな胸がふにょん、とつぶれるというとても素晴らしい光景が繰り広げられた。
「もがっ! むぐむぐむぐむぐ……。ふぁにゃしぇ(離せぇ)」
「きゃっ! サファイア、くすぐったいです!」
「ぷはっ。……アッシュ、苦しかった」
「ご、ごめんなさい……」
「……おーい、お二人さん? もういいかなー?」
呆れを込めた声で問いかけると、二人はやっとこっちに意識を向けてくれた。ふぅ、これでお店の話に戻れるな……。
「さてと、まずサファイア。さっき言ったこと、覚えてるよな?」
「ん。このリストから、プレイヤーに人気がありそうなスキルを探す」
「その通りだ。すぐにとりかかってくれ」
「いえっさー」
サファイアに指示を出し、シルさんが作れるスキルブックの種類を書いたリストを読み始めたのを確認。
よし、次はアッシュだ。いきなりで悪いが、今は猫の手でも借りたい状況である。事情を説明して、可能なら手伝ってもらおう。
「アッシュ。今、時間は大丈夫か?」
「は、はい。大丈夫です」
「よし。じゃあ、少し手伝ってほしいことがあるんだ。実はな……」
説明中、しばらくお待ちください(テイク2)。
「……と。いうわけなんだ。分かったか?」
「えっと……。要するに、つぶれかけのお店を何とかしよう。という内容のクエストのお手伝いをすればいいんですね?」
「その通りだ」
「だからっ! 言い方ってもんがあるでしょうがっ!!」
「ひぅ……。ご、ごめんなさい。シルさん……」
「事実なんだから、そう怒らないでください。それで、アッシュにはシルさんの恰好を何とかしてもらいたいんだ」
「恰好……ですか?」
アッシュは首を傾げると、シルさんに視線を移した。そして、シルさんの頭の先からつま先までをゆっくりじっくりと観察し、その表情を『疑問』から『納得』に変化させた。
「なるほど……そういうことですか」
「ああ。わかってくれたか。ちなみに、アッシュから見て、シルさんの恰好はどう思う?」
「……そうですね。なんと言いますか……」
「な、なによ……。神官さん、わたし、何をされているの?」
「少し静かにしていてください。アッシュ、遠慮はいらん。はっきり言ってくれていいぞ」
俺がくいっと親指でシルさんを指示してそう言うと、アッシュはもう一度シルさんを嘗め回すように視線を這わせ、そして、ゆっくりと口を開いた。
「――――――これはないな、と思いました」
「ちょっと!? ねぇ、それってどういう意味なの!? 説明しなさい!」
「ふむ、アッシュも俺と同意見か。やっぱり、髪型と黒ローブか?」
俺がそうたずねると、アッシュは神妙そうな表情でうなずく。スルーされたシルさんが「信じられない」という表情でこちらを見ているが、丁重に黙殺させていただいた。
「はい。手入れをすれば絶対に光るのに、それをしないなんてもったいなさすぎます。なんですか、この髪型。ちょっと手入れすればゆるふわウェーブの愛され系でイケるのに。今のままじゃただのワカメですよ? 服装だって、そんなダサい黒ローブはありえません。紫髪なんて、清楚系も妖艶系もどっちでもオッケーな髪色していて。ローブで隠れてて分かりにくいですけど、体型だって十分にグラマーで……。ああもう! 本当にもったいない人ですね! もったいないお化けが集団様で襲ってきますよ!」
「うん、俺も全く以って同意見です。分かりましたか、シルさん?」
「うわぁあああああん! 神官さんとアッシュちゃんがいじめるー!!」
人聞きのわるいことをいわんといてください。
駄々をこねて逃げようとしたシルさんの首根っこをつかんで逃げられなくして、アッシュに引き渡す。なんだか、逃亡した小動物を檻に戻している気分になるのはなんでだろうね?
「アッシュは、シルさんの服装と髪型をどうにかしてやってくれ。服はシルさんが普通のやつを少しはもってるみたいだから、それで何とか」
「分かりました。服なら、《裁縫》スキルの練習でいろいろ作ってますから、それも使ってみます。『ワカメ女』から『美人店主』に進化させて見せますね」
そう言って、シルさんを引きずり店の奥に消えていくアッシュ。脳内再生されたドナドナを頭を振って追い出し、俺は俺の仕事を始めることにする。
さてと、じゃあ、店内改装と洒落込みますか!
たぶん次回で終わり、で、そのあと狼とドンパチやる(はず)
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