紅月の巨狼 集まっちゃった?
今日は書かないといったな。あれは嘘だ。
「な、なんでサファイアがここに……?」
「ん、ちょっと用があってこの辺に来てた。ついでにリューにぃの様子を見にきた」
「そうなのか……。というか、よく俺がここにいるって分かったな」
「それは、副ギルマスの権限。同じ町にギルドメンバーがいると、マップに詳細な位置が表示される」
そういえば、こいつって【フラグメント】の副ギルドマスターだったっけ? サファイアに管理職が務まるとは到底思えないが、自分でお飾りだと言っていたし、周りのギルドメンバーが頑張ってるんだろう。
俺が内心でまだ見ぬ【フラグメント】のメンバーたちに頭を下げていると、サファイアがスッと目を細めた。なんか、サファイアのやつ、怒ってないか?
「それで? リューにぃはそこの人と何をしてたの?」
「えっと、つぶれかけのこの店の再建について相談してただけだけど……」
「ちょっ……! 神官さん!? 言い方! 言い方ってもんがあるでしょうが!」
「あ、ご、ごめんなさい……」
正直に言い過ぎたのが悪かったのか、シルさんが怒った声で叫ぶ。ちなみに、赤くなった顔はまだそのままだ。
憤るシルさんを「まぁまぁ」となだめていると、くいくいっ、と神官服の裾が引っ張られた。そちらを振り返ると、サファイアが何か言いたげな顔で俺の目をじっと見つめている。
「むぅ、リューにぃ。説明して?」
「あ、ああ。さっきのじゃ分からなかったか?」
「なんにも」
「そりゃスマン。じゃあ、最初から説明するとだな……」
説明中、しばらくお待ちください。
「……と、いうわけだ。分かったか?」
「ん、大体。要するに、このお店にお客さんが全く来ないのは、そこの紫女のせいで。それをリューにぃがかっこよく何とかしようとしている、っていう理解でおーけー?」
「いろいろツッコミたいことはあるが……。おおむねそんな感じだ」
五分ほどの説明で、サファイアもしっかりと……しっかりと? まぁ、それなりに理解できていたようなので、良しとしよう。
ただ、問題は……。
「私のせい……。私のせい……。ブツブツブツブツ……」
「……おーい、シルさーん?」
「うぅううう……。もうやだぁ……。ごめんね、おばあちゃん。駄目な孫で……」
サファイアのストレートすぎる言葉が、今までさんざんダメージを受け続けていたシルさんの精神を見事に打ち砕き。結果、カウンターの下で膝を抱えて落ち込む、『うじうじシルさん』が誕生した。
シルさんのような美人系の女の人が、子供のようにいじけている姿はとても可愛らしいが、話が進まないので、さっさと普通のシルさんに戻ってもらおう。
「はいはい、シルさん。今更なことなんですから、落ち込まないでください」
「うぅ……。神官さんが冷たい……」
だが、シルさんはなかなかカウンターから出てこない。どうしようかな、と考えていると、またしても神官服の裾がくいっと引かれた。振り返ると、サファイヤがどこか得意気な表情で、ぐっとサムズアップして見せた。「任せとけ」ということだろうか?
そこはかとない不安を感じながら、カウンターに近づいていくサファイアの背中を眺める。サファイアはカウンターの下にいるシルさんを覗き込むと、ポツリ、と何かをつぶやいた。
「…………めんどくさい女」
「ッ!! ちょっと、そこのちっこいの! 今めんどくさいって言ったでしょ!?」
「……? 何のこと? あなたはいったい何を言ってるの?」
「む、むかっ。……ふっふっふ、いい度胸じゃないお嬢ちゃん?」
「ふっ、それはこっちのセリフ。乙女はすっこんでいればいい」
「何よっ!」
「むむむっ……」
がばっ! と立ちあがったシルさんとサファイアが『ぐぬぬ……』という唸り声が聞こえてきそうな表情でにらみ合う。
ちょ、なんでいきなり喧嘩になってんの!? と慌てる俺。どうやら最初にサファイアがつぶやいた言葉がシルさんの琴線に触れたようなのだが……。一体なんて言ったんだアイツ。
とりあえず、このままだと『うじうじシルさん』以上に話が進まないので、二人のにらみ合いをやめさせよう。
「いったん、落ち着け!」
「いたっ」
「あうっ」
ぽこん、ぽこん。二人の頭に手刀を一発ずつ。頭を押さえながら、二人が向けてくる恨めし気な視線はすべて黙殺。「ひどい!」とか「ゲテモノ!」とか「おに…」とか聞こえてくるのも全部スルーだ。
こほん、と咳払いを一つ。さぁて、お店の話をしなくちゃね?
「ね? 二人とも?」
「は、はい! 神官さんの言う通りです!」
「ん。り、リューにぃのいう通り。ちゃんとやる」
にっこりと微笑んでやれば、二人ともとっても素直にうなずいてくれた。うんうん、積極的で協力的。よきかなよきかな。
とりあえず、ちょうどいいところにサファイアが来てくれたことだ。こいつにはシルさんが作れるスキルブックから売れそうなものを選んでもらおう。トップギルドの副ギルマスなんだし、スキルに関しては俺よりよっぽど詳しいだろう。
「というわけで、任せたぞ」
「いえっさー」
で、シルさんは、恰好を何とかしてもらわないと。でもなぁ……。俺が言って、自分でやってくれるかなぁ? 俺の手で着替えさせるわけにもいかないし……。
「シルさん。ちなみにですけど、そのローブ以外の服って持ってます?」
「えっと、一応持ってるけど……。ま、まさか! 私にこのローブを脱げって言うの!? 神官さんの変態っ!」
「リューにぃ……。セクハラ、ダメ、絶対」
「……さぁて、俺の手刀がうずき始めたぜっ!」
「「ごめんなさい」」
こいつら……。
しかし、どうしたものだろうか? シルさんの恰好をどうにかしない限り、この店の未来は暗いままだ。逆に、シルさんが普通の恰好をしたら、それだけで客は来るだろう。特に男連中は。
だが、シルさんはローブ姿が気に入ってるようだし……。ちらりと視線を向けてみたら、ローブごと体を抱えて、思いっきり睨まれた。どれだけローブから着替えるのが嫌なんだよ……。
そう、俺が頭を悩ましていると、ガチャッ、と音がして、店のドアが開いた。え……? ま、まさか……。
「バカなッ!? 客が来た……だと?」
「何でそういうこと言うのよ! 神官さんのいじわる!」
シルさんの抗議をまるっと無視して、扉の方を見やる。そこにいたのは……。あれ? なんか、見知った顔が……。
「……アッシュ?」
「お邪魔します……って、あれ? リュー?」
店に入って来たのはなんと、昨日手料理をご馳走になったばかりの、白髪の美少女、アッシュだった。
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