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ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
四章 初イベントと夏休みの終わり編

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リバイブ・オブ・ディスピア 決戦10

遅れてマジですみません。いや、本気ですみませんでした。

「リュー君!」


「ん? ああ、お前らか。悪いなーいきなり乱入して」



 来て早々とんでもないことをやらかした張本人は、まったく悪びれていない顔で軽い謝罪を口にする。そんなリューに、駆け寄ってきた二人は呆れたように、「ああ、またかぁ」という思いを籠めたため息を吐いた。



「リュー君、今までどこ行ってたの? アヤメちゃんだけ残して……」


「グラシオン・ゲーティスはなんか聖女様のところに行って悪魔と戦ってるとか言ってたが……どうなんだ?」


「それで大体あってるな。で、悪魔はきっちり倒してきたし、イーリス様もちゃんと守ってきたよ。……ああ、そうだ。アポロに貰ったあの魔法、すげぇ役に立った。ありがとうな?」


「……へへ、どういたしましてだぜ」



 リューの言葉に、照れくさそうに頭を掻くアポロ。はにかむような笑顔からは、アポロが喜んでいるのがよく分かる。お兄ちゃんの役に立てたのが嬉しかったのだ。


 そして、そんなアポロをぐぬぬ……と悔しそうな顔で睨むサファイア。杖を握りしめる手に力が籠り、ギリッと音が鳴った。


 三人がそんな風にいつも通りのやり取りをしていると、すてててて……と誰かの足音がリューの耳に届いた。


 音が聞こえた方にリューが振り向くと同時に、彼の胸にポスンと小さな影が飛び込んできた。



「おっと……アヤメか」


「………………(ぎゅっ)」



 結構な勢いで飛び込んできたアヤメを、リューは優しく受け止める。リューの胸に顔を埋めたアヤメは、両手をリューの腰に回して、これでもかと密着する。



「あはは、どうしたアヤメ? 甘えん坊さんだな」


「………………(ぱたぱた)」



 リューの声に顔を上げたアヤメは、「褒めて? 褒めて?」というように尻尾を左右に動かす。


 そんなことをされてしまえば、リューが抵抗出来るはずもなく、くすりと優し気な笑みを溢して、ポンポンとアヤメの頭を撫でた。


 リューの手の感触が気持ち良かったのか、アヤメの耳がふにゃりと垂れ下がる。それを見て、ますます相好を崩すリュー。



「……うわぁ。ロリコンっす、ロリコンがいるっす」


「オイコラ後輩、てめぇ」



 そんなリューを、ドン引きした目で見るマオ。不名誉な呼ばれ方をしたリューがジト目を向けるも、マオはどこ吹く風とそっぽを向いた。



「………貴様らぁッ!」


「おおう、びっくりした」



 リュー達が戦場に似付かわしくないやり取りを繰り広げていると、地面に埋まっていたグラシオンが放出した魔力で周囲の地面を吹き飛ばしながら立ち上がった。

 

 誰が見ても分かるほど憤怒を滾らせるグラシオン。余談だが、埋まった状態のグラシオンに対して攻撃が行われなかったのは、誰もが攻撃をためらうほどに、その姿が哀れさに満ちたものだったからである。

 

 グラシオンが荒ぶる魔力をまき散らすと、アヤメはすぐさまリューから離れ、篭手から生やした真紅の戦爪を構えた。



「………………(きっ)」


「おっ、やる気十分だなアヤメ。おし、じゃあ俺も!」



 戦意を見せるアヤメに、リューも笑みの種類を変えて紅戦棍を肩に担いだ。



「リュー、ちょっといいか?」



 戦う準備を終えたリューにアポロから声がかかる。



「おん? どうした? アポロも混ざりたいのか?」


「いや、ちげぇから。少しの間、グラシオン・ゲーティスの相手を二人でしといてくれるか? その間に俺らは、他のアンデットを殲滅しちまうからよ」


「おう、了解」


「じゃ、頼んだぜ」


「……あ、そうだ」



 グラシオンの足止めを頼んだアポロは、何かを思いついたという感じのリューのつぶやきに、「ん?」と振り返った。


 振り返ったアポロに、リューは思案顔から一転、悪戯っぽい笑みを浮かべるとふてぶてしく言い放つ。



「足止めをするのは構わないけど……別に、勝ってしまっても構わんだろう?」


「いやそれ死亡フラグだから」



 ビシッ、と突っ込むアポロに「冗談だ」と笑うリュー。そんなリューに対してアポロも笑みを返し、アンデッドの殲滅に向かっていった。



「……ん。じゃあ、わたしたちも行ってくる」


「頑張るっすよ~、せ~んぱいっ」



 サファイアは小さく微笑んで、マオはわざとらしく甘い声を出してその後に続いた。



「おう、行って来い」


「………………(ひらひら)」



 リューとアヤメはそれを見送ると、くるりとグラシオンに向き直った。



「おしっ、じゃあやるか。骨野郎」


「………………(しゅっ、しゅっ)」


「どこまでも我を虚仮にするか……ッ! いいだろう、その無礼、もはや命以外で償えると思うなよ!」



 言うや否や、グラシオンはリューとアヤメに向けて魔法を放つ。闇色の魔弾が二人を貫かんと迫りくる。



「行くぞ、アヤメ!」


「………………(こくこく)」



 リューとアヤメは左右に分かれる様にして魔弾を回避すると、そのままグラシオンに挟撃を仕掛ける。リューは紅戦棍を掬い上げる様に振るい、アヤメは紅爪を突き立てんと迫る。


 グラシオンは飛行魔法で空へと浮かび上がりそれを回避。二人の攻撃は空を穿つに終わる。



「はっ、空に逃げればいいと思ったのかよ? アヤメ!」


「………………(こくり)」



 リューの言葉に頷いたアヤメは、ぴょんと飛び上がり、リューが広げた手のひらに乗る。



「【ブーステット・STR】!」



 視線はまっすぐグラシオンへ、強化したSTRを存分に発揮し、リューはアヤメの乗る手のひらを下から上に思いっきり降りぬいた。



「やってしまえ、アヤメ!」


「何ィ!? ぐっ!」



 二人のコンビネーション、『|強襲型≪アサルト≫アヤメ』で勢いよく上空のグラシオンへと跳んだアヤメは、《魔装》で【フォースブラスト】を纏わせた拳を、【グラビトンフィスト】で打ち出した。重く鋭い拳撃がグラシオンに突き刺さり、その身を吹き飛ばす。


 だが、グラシオンもタダでやられるような愚は侵さない。空中で身動きが取れなくなっているアヤメに杖の先を向け、魔法を討ち放った。


 しかし、その魔法がアヤメに命中するよりも早く、【ソードオブフェイス】で飛んだリューがアヤメの身体をキャッチ。そのまま魔法の軌道から外れる。


 狙いが外れたことに歯噛みするグラシオンは、攻撃範囲の広い【ダークスフィア】を連続で打ち出し、リューの逃げ場を無くそうとする。



「その魔法はすでに見てんだよ!」



 しかし、【ダークスフィア】の効果範囲も膨張するのにかかる時間も覚えていたリューは、連なる魔法の僅かな隙間を潜り抜けるようにしてこれを回避。


 高速飛翔で魔法を切り抜けたリューは、【ソードオブフェイス】の光剣を足元に作り出し、それを足場に【ハイジャンプ】を発動。グラシオンよりも高い場所に跳躍し、再度『|強襲型≪アサルト≫アヤメ』を行使。アヤメを下方のグラシオンに向かって投げ飛ばすと、自分もそれに続くように空を翔る。


 グラシオンは高速で落下してくるアヤメを何とか杖で受け止めるが、アヤメの後ろから来たリューの振るう紅戦棍をもろに喰らってしまい、そのまま地面に叩きつけられた。


 クレーターを作り地面にめり込んだグラシオンは、僅かに意識をリューからそらしてしまう。



「【メテオシュート】ォ!」


「なッ、グゥ!」



 その隙を見逃すリューではない。落下距離が長いほど威力の上がるアーツを発動し、青いオーラを纏った蹴りを叩き込もうとした。その一撃はグラシオンが動いたせいで不発に終わったが、クレーターの直系がひと回り大きくなった。


 地面を転がるようにして回避したグラシオンに、今度はアヤメが襲い掛かる。獣のように体勢を低くして加速し、速度を乗せた拳をグラシオンに叩きつけた。


 小柄なアヤメから放たれたとは思えない威力の拳は、グラシオンの身体を紙屑のように吹き飛ばした。



「うぐ……ッ! つ、使い魔風情が……! ならばこうだッ、【サモン・サーバント】ッ!」



 忌々し気に吐き捨てたグラシオンが発動したのは、使い魔を呼ぶ召喚魔法。使い魔には使い魔を、ということなのだろう。


 グラシオンの側に魔法陣が現れ、そこから漆黒の鎧をまとった騎士が現れた。一目で業物と分かる大剣を片手に持ち、もう片方の手には城壁のような巨盾を構えている。



「暗黒騎士よ、あの使い魔を殺せッ!」


「ほう、使い魔対決か? ……アヤメ、行ってみるか?」


「………………(こくこく)」


「よし、それでこそ俺の相棒だ。アヤメ、全力であの鎧野郎をぶっ飛ばしてやれ!」



 アヤメと暗黒騎士、二体の使い魔は己の主の命を受け、互いを潰すために殺意を籠めて駆け出した。


 地上で激突する使い魔と対称的に、主たちの戦いは空で行われていた。


 発動に時間のかからない魔法で牽制し、高威力の召喚魔法を放とうとするグラシオン。


 高速機動を意識し、放たれる魔法を回避迎撃して接近しようとするリュー。


 近づけたくないグラシオンと、近づきたいリューの攻防。その戦いの天秤は、徐々にリューに傾いていった。


 持ち前の記憶力でグラシオンが魔法を放つパターンを覚え、その裏を掻くように動くリュー。グラシオンの魔法は掠りすらしなくなり、逆にリューは接近する頻度が増えていた。



「……くっ、どういうことだ! 何故……何故我が押されている……!? 貴様のその異常な力は何なのだ! 何が貴様にそれほどの力を与えている!?」



 思わずといったように叫ぶグラシオンに、紅戦棍を振るいながらリューは答える。



「はっ、そんなの、この戦いが負けるわけにいかない、誰かを守るための戦いだからに決まってんだろ! てめぇにはそれが分かんねぇのか、元守護者!」



 リューの鋭い言葉に、グラシオンは怒鳴り返すように叫ぶ。



「その元守護者という呼び方をやめよ! 人間風情を……我を裏切ったクズどもを守っていたあの頃の我など、究極の汚点でしかない!」


「ほーん、そうなのか?」



 魔法をばら撒きながら、グラシオンは怨念の籠った言葉を吐き捨てる。



「あの無能共は! 我がいなければ簡単に滅ぶような雑魚の分際で! 我を罠にはめ、処刑した!! 死んで当然の塵屑どもだ! 全員が全員、虫にも劣る下賤な存在だ!!」


「……かばってくれた存在もいたんだろう? お前が護衛してた姫様とか。文献にはそう書かれていたぞ?」



 リューの言葉に、グラシオンは少しだけ考えるそぶりを見せ……地獄の底から響くような、不気味な笑い声を上げた。



「姫……? ……クククッ、あの愚か者のことか。ずっと守ってやった恩も忘れ、我が死ぬ要因になった女。あの愚か者が下らぬ嘘に騙されてくれたおかげで、我はまんまと屑どもが張った罠に捕らえられた……。そんな女に価値があるか? ないだろう? この国を滅ぼした時に、真っ先に殺してやったわ」



 おかしそうに言うグラシオンに、リューは浮かべていた笑みを消して、真剣な表情を浮かべる。



「……守るべき、存在だったんだろう?」


「知ったことか。屑を一人始末しただけだろう? 貴様は何を苛立っているのだ?」



 グラシオンが本気で分からないというように問いかけてくる。


 そう、今のリューは酷く苛立っていた。大好きな戦いの最中に、笑みを忘れるほどに、怒りの炎を燃やしていた。


 グラシオンの言葉は、リューにとっては受け入れることが出来ないものだった。


 裏切られた、罠に嵌められた。確かに恨むに値する仕打ちを受けたのだろう。悪魔に目をつけられるような絶望だ。リューには想像すらできない。


 けれど、それでも、守るべき存在に手を掛けたというのが、許せなかった。


 誰かを守る。言葉にしてしまえばそれだけだが、生半可な気持ちではそれを成すことなど不可能だ。


 何があっても絶対に……丁度、【|我が身在るべきは汝の側《ユア・スレイブ》】の詠唱のような、覚悟と決意が必要だとリューは思っている。それこそ、裏切られようと、一度守ると決めた相手なら守り続ける。そんな、覚悟と決意。



「……それが、お前の答えなのか」


「訳の分からぬことをごちゃごちゃと。まぁいい、その苛立ちを抱きながら死ね」



 そんなグラシオンを見て、リューは悟る。


 かつて、誰かを守る存在だったグラシオンはもういない。ここにいるのは、ただ絶望と復讐に囚われ、すべてを滅ぼしてしまった哀れなアンデッド。



「……分かった。なら、もう何も言わねぇよ」



 小さく呟いたリューは、全てを振り切るかのような勢いでグラシオンに突っ込んでいく。


 今、誰かを護っている者として、護ることをやめた元守護者を拒絶して、撃ち砕く。



「もうアポロたちは待たねぇ、ここで決めてやるよ!」


「やれるものなら、やって見せろォオオオオオッ!」



 グラシオンの放った魔法と、リューの振るった紅戦棍がぶつかり合い、激しい衝撃をあたりにまき散らした。


 その衝撃に弾かれ、彼我の距離が広がる。リューはこれを好機ととらえ、口元をニィと吊り上げた。



「――――『契約により我に従え魔界の徒』」



 詠唱、開始。早口に覚えたばかりの呪文を紡ぐリュー。それを見たグラシオンが焦ったように魔法を放つが、滞空させておいた【ソードオブフェイス】によって全て打ち落とされる。



「『奈落よりもなお深き場所より現れしは邪悪の化身』」



 リューの足元に巨大な魔法陣が現れる。中心となる大魔法陣に、中規模、小規模の魔法陣が重なるように存在しており、それぞれが違う向き、速度で回転を続けている。



「『光を奪い世界を閉ざす深淵より昏き存在(もの)』」



 魔法陣から闇色の魔力が吹き上がり、その余波で烈風が巻き起こる。バチバチと飽和した魔力が弾け、魔法陣の回転はどんどん速くなっていく。



「『絶望を振り撒け災禍の如く』」



 呪文の最後の一節を唱え切ったリューを、魔法陣から噴き出た魔力が覆い尽くす。天を衝くかの如き勢いで噴出した魔力は、闇色の柱のようにも見えた。


 グラシオンが闇色の柱を破壊しようと魔法を放ち続けるが、高密度の魔力に弾かれて意味を成さない。


 そうしているうちに、闇色の柱が凝縮されるように細く、小さくなっていく。魔法の完成は、近い。



「な、何なんだ……この魔法は? 悪魔召喚……? いや、違う……!」



 魔法に長けた不死の王でさえ、リューの使った異様な魔法の正体を掴み切れていなかった。


 そして、人一人分ほどの大きさまで収縮した闇色の魔力から、姿の見えないリューの声が響く。




 ――――【憑依召喚『デモニック・ディスピア』】




 瞬間、ごうっ! と暴風が吹き荒れ、それと同時に闇色の魔力が弾け飛んだ。



「くぅ!? な、何が起こって……――――は?」



 暴風を障壁で防いだグラシオンは、闇色の魔力の中から出てきたリューを見て、あっけにとられたような声を漏らした。



「……へぇ、こんな風になるんだ。面白いな」



 そう言って自分の姿を見下ろすリューは……一言で表すなら、『異形』だった。


 いつの間にか被っていたフード。その側頭部からはディーアと同じような悪魔の角が生え、フードから覗く紫紺の瞳は、獣の如く瞳孔が縦に裂けていた。


 腰のあたりからは黒く染まった悪魔の羽根が生え、時折バサリと羽ばたいている。


 左腕だけだった甲冑腕が右腕にも装着され、禍々しい装飾が増えていた。


 何よりも変わったのは、左腕。地面に引き摺るほどの長さになり、太さもリューの胴体を悠に超えている。漆黒に深紅のラインが走った甲冑に覆われており、その上から鎖が巻かれていた。手に当たる部分には五本の太く鋭利な爪が付いており、鈍い輝きを放っている。


 腕甲冑だけでなくグリーブも少し大きく、より邪悪な印象を受ける形になっていた。


 そして、全身に纏わりつく赤黒い粒子。今のリューの姿は、恐ろしいの一言に尽きた。


 自分の変化を見て、スゲーとのんきなことを言っているリューに、グラシオンは信じられないという思いをこれでもかと込めて、叫ぶ。



「貴様……悪魔を喰らったのかッ!? その存在ごと、力を取り込んだということか!」


「ん? おお、たぶんそんな感じだ。いやぁ、始めてやってみたが……すげぇなコレ。馬鹿みたいに強化されてやがる。……その分、MPの消費も馬鹿みたいなんだけどな」



 まるで、新しいおもちゃを自慢する子供のように笑うリュー。しかし、グラシオンにはその笑みが獲物を狩る肉食獣が浮かべるものにしか見えなかった。



「ありえない……! 本当に、何なんだッ! 貴様はぁああああああああああああッ!!?」



 目の前の現実から逃げるように、執拗に魔法を放つグラシオン。それを左腕の一振りでかき消したリューは、背中の羽根を羽ばたかせて一気に加速した。


 漆黒の影が軌跡を残しながら空を駆け、彼我の距離を喰らい尽くす。瞬く間にグラシオンを間合いに捕らえたリューは、異形と化した左腕を振り上げる。



「【デモンズクロウ】ッ!」



 悪魔を憑依させたことで使えるようになったアーツを発動。赤黒い粒子が爪に纏わりつき、範囲と威力を増加させた。



「セラァッ!」


「ガッ!?」



 とっさにグラシオンが杖を構え防御するが、それでもなお強力な一撃はグラシオンの身体を後方に勢いよく吹き飛ばす。優に五十メートルは後退したグラシオンは、受けたダメージに膝を付きそうになった。



「……わぁお、想像以上だ」



 というか、使った本人がその威力の高さに驚いていた。まじまじと異形と化した左腕を見つめながら、感心したように頷く。


 そんなリューの隙を突いて、グラシオンが魔法を飛ばしてくるが、先程のリピート再生の如く、左腕で簡単に払われてしまう。


 【憑依召喚『デモニック・ディスピア』】の効果により、悪魔をその身に宿したリューは、その特性を引き継いでいる。具体的には《物理大耐性》と《魔法耐性》のスキルが付与されているといった感じだ。


 そこに、リュー本来のMINDの高さが加われば、グラシオンの通常魔法程度、蠅扱い出来てしまうのである。



「おっしゃ、なら今度はこれだ。【カースウェポンズ】!」



 リューがそう呟くと、彼の周囲に闇を固めて創ったような武器がいくつも現れる。片手剣、長剣、大剣、巨剣、スピア、ランス、短槍、戟、矛、ハルバート、ナイフ、大槌、バトルアックス、ポールウェポン、メイス……種類も様々な武器が、百以上。



「いけ」



 リューは右手を指揮者のように振るい、武器群に命を降す。リューの命令を受けた武器たちはグラシオンに向けて猛然と突き進んでいった。


 【カースウェポンズ】。リューがよく使うお得意魔法、【ソードオブフェイス】が悪魔憑依によって強化、変質した魔法。邪属性の魔力で創り出した数多の種類の武具で対象を攻撃する。武具にはそれぞれランダムなデバフや状態異常が付与されており、それらが命中するたびに敵は弱体化していくというえげつない魔法だ。



「くっ!?」



 グラシオンは降り注ぐ無数の武具を魔法で迎撃し、それでも抜けてくる武具は体捌きで回避を試みる。ほとんどがまっすぐ飛んでくるだけなので回避は難しくないが、それでもいくつかの武具は骨の身体を打ち据え、貫いた。



「くそっ、一旦離脱を……!」


「させると思うか?」



 その声は、グラシオンの背後から聞こえた。即座に振り向けば、そこでは左腕を振り上げ、拳を握りしめるリューが満面の笑顔で待ち受けていた。



「【デモンズフィスト】ッ!」


「がぁあああ!?」



 情け容赦なく叩き込まれる異形の拳。打撃の衝撃と爪の斬撃による二重奏がグラシオンの身体を破壊せんとする。


 誰がどう見てもクリーンヒット。間合い、角度共に文句なしの拳撃を横っ面に喰らったグラシオンは、直線軌道を描いて地面へと墜落した。



「駄目押しだ。【ゼロ・ディスピア】ッ!」



 と、追い打ちをかけるようにアーツを発動するリュー。今度は両腕を顔の前で交差させ、僅かに体を後ろにそらせる。


 そして、一瞬のための後、両腕を左右に払うように広げ……ガパリと開いた口から、紫紺の閃光を解き放った。


 閃光はグラシオンが墜落した場所を貫き、一瞬の静寂の後に爆発した。



「……わーお、マジかぁ」



 アーツの説明欄に書かれていたモーションと、遠距離攻撃ということは知っていたが、まさかビームが出るとは……と驚くリュー。



「名前から想像しにくいんだよなー……って、あの骨野郎、またなんかしようとしてやがるな?」



 リューが下に視線を向けると、土にまみれたグラシオンが杖を掲げ、全身から禍々しい魔力が迸り、呪文を唱えていた。


 それを阻止しようと羽根を動かしたリューは、降下する直前に何かを察知し、【バックステップ】でその場を離れる。


 すると、一瞬前までリューがいた場所を斬撃が通過していった。リューはすぐに斬撃が飛んできた先に視線を向ける。そこにはグラシオンが召喚した暗黒騎士がおり、大剣を振り下ろした体勢でリューを見据えていた。


 直後、暗黒騎士は突っ込んできたアヤメの拳により吹き飛ばされ、追撃の爪撃で切り刻まれる。己の主のために、自分の戦いを投げ捨ててまでリューの妨害をした暗黒騎士は、使い魔としても騎士としても、その役目を忠実に果たしたのだ。


 ……その変わり、《化生転身》によって半獣人と化したアヤメにボッコボコにされているが、気にすることは何も無い。


 そして、暗黒騎士が稼いだ時間は、グラシオンの起死回生の一手に繋がることとなる。



「『怨念を宿し、悪意に染まり、冥府の法を犯すものどもよ。我は不死の王。汝ら統べるもの。我が命に従い、朽ちたその身、悍ましき邪気にて腐り切った愚魂を我に捧げよ。今こそ、悪徳の神への道を進むとき』」



 グラシオンの詠唱が響き渡ると、戦場全体を覆うような魔法陣が地面に描かれた。禍々しい燐光を放つ魔法陣。その上に乗っているアンデッドモンスターはその身を黒い粒子と化し、魔法陣に吸収されていった。



「な、何だ!? 何が起きてんだよ!?」


「いきなりアンデッドがいなくなった……?」


「わ、訳分かんねぇ……」



 突然の出来事に、戸惑い驚くプレイヤーたち。しかし、彼らの驚きはそれで終わらない。



「お、おい! あれを見てみろ!」


「はぁ……な、何だァ!?」



 一人のプレイヤーが、すぐそばにいた他のプレイヤーの肩を叩き、焦った様子で彼の背後を指さす。


 その声に訝し気になりつつも振り返ったプレイヤーは、瞳に映ったありえない光景に、目を見開いて素っ頓狂な声を上げた。



 ――――【禁術『不死大王(ノーライフ)屍山血河(グレーテストデッド)』】



 それは、不死の王だけが使える禁断の秘術。配下のアンデッドを己の身体に取り込み、自身の力とする。ある意味ではリューの【憑依召喚『デモニック・ディスピア』】に近い魔法。


 戦場全てのアンデッド……総数五千弱を取り込んだグラシオンは、その姿を大きく変えていた。


 二十メートルはあるだろう、巨大すぎる漆黒の骸骨。それは、数えるのも馬鹿らしくなるくらい大量の骨が集まって出来たモノだった。頭部には王冠に似た飾りが生え、全身を瘴気が覆っている。眼窩が四つに増え、燃え盛るような紫紺がそこで揺れている。手にしていた杖は骨で出来た大鎌に姿を変え、豪奢なローブはただのボロ布となっている。


 グラシオンは、死神を思わせる骸骨の巨人と化していた。

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[一言] 《》が≪≫になってたり、縦線が多すぎたりしてルビが振れてませんでした。お気を付けを
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