リバイヴ・オブ・ディスピア 決戦9
「おりゃぁあああああああああああああッ!!」
裂帛の気合と共に放たれる、袈裟の一撃。それはすでに満身創痍の魔獣の身体に深い傷を刻み込み、僅かに残っていたHPを消し飛ばした。
「ふぅ……コイツで最後か?」
「ん、他の三体もすでに倒されてる」
アポロの言葉にサファイアが答えた。
グラシオンが召喚魔法で呼びだした四体の巨大な魔獣は、それぞれが厄介かつ強力な能力を有していた。
魔法攻撃を完全吸収する『マガツ・コントン』。
とにかく耐久力の高い『マガツ・トウテツ』。
高威力の風魔法を操る『マガツ・キュウキ』。
デバフを振り撒く『マガツ・トウコツ』。
能力が厄介な上、ステータスもフィールドボスよりも強いという始末。トップギルドの面々は誰に言われるわけでなく、魔獣の排除に乗り出した。
『マガツ・コントン』の相手をしたのは、ギルド【クラフト】。
魔法攻撃が効かない? ならば砲弾を降らせればいいではないかッ! そんな感じで雨あられと砲弾を叩き込み、バリスタで鋼製の大矢を放ち、投石器で火のついた石をぶっ飛ばし……。
これでもかという物量作戦の前に、魔獣の一角は崩れ去った。
『マガツ・トウテツ』の相手をしたのは、ギルド【フラグメント】。
お前の耐久と、こっちの火力。どっちが上なのか勝負しようぜ? 的なノリを発揮し、全員で全力攻撃。少しずつ少しずつHPを削っていき、最後はアポロの斬撃によって討伐は成された。
『マガツ・キュウキ』の相手をしたのは、ギルド【ソロモン】。
魔法を使う相手なら任せろッ! と、ギルドメンバーで『マガツ・キュウキ』を囲み、攻撃役と防御役を分けたツーマンセルで見事な連携を発揮し、魔獣の攻撃を封殺。最後はマギステルが地属性の大魔法で止めを刺した。
『マガツ・トウコツ』を相手にしたのは、ギルド【ワールドフロンティア】。
……そして、なぜか空から降ってきたリューの使い魔、アヤメである。
堅実な戦い方をしていた【ワールドフロンティア】だが、『マガツ・トウコツ』のデバフは想定よりも強力かつ解除のしにくいモノだった。【ワールドフロンティア】の回復職も頑張っていたのだが、如何せんデバフがまき散らされる範囲が広い。解除がどうしても間に合わなかった。
徐々に人員が削られていく中、突如、上空から猛スピードで降って来たのが、アヤメだった。
『マガツ・トウコツ』の背に着弾したアヤメは、篭手から生やした深紅の爪でその身に深い傷を負わすと、『マガツ・トウコツ』と【ワールドフロンティア】のプレイヤーたちとの間に立つと、わき目もふらずに魔獣に突貫していった。
巨大な魔獣と、小さな少女の戦い。誰が見ても無謀と思われたそれは、予想裏切り少女の優勢で進んでいった。
アヤメの使うスキル《魔装》は、使用中は外部からの魔法を受け付けなくなるという効果がある。これにより、アヤメは『マガツ・トウコツ』のデバフを気にすることなく戦うことが出来たのだ。
そして、アヤメが戦っている間にデバフを解除した【ワールドフロンティア】が戦線に復帰し、しばらくして『マガツ・トウコツ』は討ち取られた。
その後も、アヤメは単独でアンデットたちをボッコボコにして回っている。
「しかし、デカ物は倒せたけど、肝心のグラシオン・ゲーティスはどこに行ったんだ? アンデッドの群れも、減ったとはいえまだまだいるし……」
「さっきから探してるけど、全然見つからない」
アポロとサファイアは、群がってくるアンデッドをなぎ倒しながら、敵の本体であるグラシオンを探す。しかし、どこを見渡してもグラシオンの姿はない。
「どこにいる……? なんか、嫌な予感がするんだよなぁ……」
「……わたしも」
トップギルドを率いる二人の直感は、この場に流れる不穏な空気を鋭敏に感じ取っていた。
「――――ほう、流石にいい勘をしている」
「「ッ!!?」」
背後から聞こえてきた声に、二人は弾かれたようにその場から離れた。
「【ダークスフィア】」
「くぅ!?」
「ガァ!?」
膨張する闇の球体が、アポロとサファイアを吹き飛ばす。とっさに防御態勢をとったおかげでダメージはほぼないが、それでもすぐに立て直せない程度には体勢を崩してしまう。
「【ダークランス】」
放たれた追撃の魔法を、アポロは盾を掲げて、サファイアは地面を転がることで回避した。
「ほう、今のを躱すか。見事、と言っておこう」
そんな二人の行動を見て、魔法を放った者――グラシオンは賞賛するような言葉を口にした。
すぐに立ち上がり臨戦態勢に入ったアポロ。瞳に戦意を燃やし、口元には笑みを刻んで見せる。
「ハッ、お前に褒められてもこれっぽっちも嬉しくねぇんだよ! つーか、ボスが不意打ちとかしてんじゃねぇよ!」
「これも立派な戦法の一つだぞ? 文句を言われる筋合いは無い」
「うぐっ! そ、それはそうだけど……」
ぶつけた文句をさらりと流され、アポロは言葉に詰まる。
そんなアポロに、立ち上がってローブについた砂を払っているサファイアは、ジト目を向けた。
「……何、あっさりやり込められてるの。馬鹿アポロ」
「馬鹿じゃねぇよ!? 俺は馬鹿じゃねぇ!」
「敵の言葉に耳を傾けてる時点で馬鹿。論破されてるからもっと馬鹿。結論、アポロは馬鹿」
「サファイアぁああああああ!」
「後でリュー君にも言っとくから」
「それ、リューにも馬鹿にされる奴だろ? そうなんだろ? チクショウめッ!」
敵の首魁を前にしても、いつも通りのやり取りをするアポロとサファイア。ここにリューがいれば、
「何やってんだ阿保ども……」と呆れた表情を浮かべていたに違いない。
「……くくっ、我を前にしてそこまで余裕を保てるとはな。やはりあの神官に近しいモノなだけある」
どこか感心したように言うグラシオン。しかし、同時に嘲るような色もその言葉には含まれていた。
グラシオンの言葉の裏に含まれたモノを察したサファイアは、訝し気な視線を不死の王に向ける。
「……お前は、一体」
「ギルマス! 副マス! 大丈夫っすか!?」
サファイアがグラシオンに問いかけようとした時、マオをはじめとした【フラグメント】のメンバーが駆け寄ってくる。なお、進路上にいたアンデットは、雑草をでも刈り取っているのかという気安さで吹き飛ばされていた。
近寄ってきたマオは、グラシオンを見ると「うげぇ」と嫌そうな顔をした。
「というか、なんでラスボスがここにいるんすか? 最前線に出てくるラスボスとか、先輩だけで十分なんすよ。しっしっ!」
「や、リューのやつはラスボスちゃうからな? いやまぁ、言いたいことは分かるで」
マオの言葉にツッコミを入れるライゴ。ふざけているように見えるが、マオもライゴもグラシオンへの警戒は解いていない。
そうしているうちに、【フラグメント】はボスモンスターを相手にするときの陣形を作り、グラシオンと対峙する。
彼らの表情は様々だが、その瞳に宿る意志は同じ。絶対に目の前の存在を打ち倒して見せるという、強固な決意だ。
「グラシオン・ゲーティス! どういう目的で俺らの前に出てきたのかは知らねぇけど、ここで倒させてもらうぜ!」
先頭に立つアポロが、そう強く言い放った。
『陽光の騎士王』。本人は嫌がるだろうが、今のアポロはその二つ名に何ら恥じない風格を纏っていた。
【フラグメント】とグラシオンの対峙を、固唾を飲んで見ていた周囲のプレイヤーたちは、アポロの言葉に鼓舞されて、知らず知らずのうちに笑みを浮かべていた。
『彼らなら勝てる』。そんな確信すら抱いてしまいそうなほどだ。
「ほう、大きく出たな? そんなことが出来るとでも?」
「出来る出来ないじゃねぇよ。俺がやるって決めたんだ。なら、それを全力で貫き通す!」
ビシッ、と言った後、アポロは悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。
「それに、いくらリューが凄いからって、アイツばっかが活躍すんのもなんか悔しいからな。俺らもここらでいっちょ、決めてやりてぇだろ?」
と、おどけたように言うアポロ。
「……はぁ、やっぱり馬鹿」
「最後まできっちり決めて欲しかったで、ギルマス」
「やっぱりアホっすねー、ギルマスって」
「あ、あれー? なんか酷くない?」
呆れたような三人の視線を受けて、アポロは悲しそうに肩を落とす。
落ち込んだのも一瞬、すぐに気を取り直したアポロは、グラシオンを真っ直ぐ見据え、腰を落とした。
力強い視線を受けたグラシオンも、魔力を昂らせて杖を構える。
「まぁいいや! じゃ、行くぜ!」
「どこまでも愚かな。よかろう、貴様らに絶望とは何たるかを教えてやろう」
その言葉の交差が、開戦の合図。
ダッ、とアポロは駆け出し、グラシオンは魔法陣を展開する。
「はぁあああああッ!」
「くははッ! 死ね、人間!」
【フラグメント】とグラシオン・ゲーティスが、激突する。
その戦いは、熾烈の一言に尽きた。
グラシオンが杖を振るい、骨の指を宙に躍らせれば、闇が溢れ出す。只威力があるだけでなく、様々な追加効果のある闇属性の魔法を侍らせる姿は、魔王と称するに値する。
ならば、それに挑む彼らは勇者に違いない。降り注ぐ魔法を、決して仲間に通さないと盾を構えるアポロ。そんな彼の影から近接職のメンバーが飛び出し、グラシオンに刃を突き立てんと駆ける。アポロも、グラシオンの攻撃を受け切ってしまえば、すぐに攻めに転じた。
そして、後方からはサファイアとマオがグラシオンに負けない勢いで魔法を放つ。激流と冷気が舞い踊り、多色の魔弾が空を飛ぶ。波のように押し寄せる闇を、逆に押し返すくらいの勢いで、魔法を放ち続けていた。
普通は、前衛が相手の攻撃を推しとどめ、後衛が魔法や矢を放って戦う。それが最も安定した戦い方だからだ。
けれど、彼らは違う。全員が守り、全員が攻める。そこに前衛後衛といった区別は無い。
普通なら連携なんて取れるはずのない戦法。けれど、彼らの動きは確かに調和している。
出来るはずがないと言うのは凡愚の弁。それが出来るからこそ、彼らはこのゲームの頂点に君臨しているのである。
「ふむ、あの神官ほどではないが、貴様らも十分に奇特な存在のようだな」
「はっ、褒めてもなんも出ねーぞ!」
「褒められてるかどうかは、微妙」
言葉が交わされれば、その数倍、数十倍の攻撃が交差する。
「というか、先輩と比べられるとか、不本意極まりないっすけど? あんな存在ビックリ箱と同類とか……ハッ」
「マオ、お前結構酷いこと言っとるで?」
「事実なのでもーまんたいっす」
「戦いの最中にあっても余裕を崩さないか……。くくっ、やはり貴様らは異邦人の中でも傑物のようだな?」
言葉の意味は賞賛。しかし、その声音は誰が聞いても明白なほどの嘲りに満ち満ちていた。
刻一刻と激しくなる戦闘の中で、サファイアの内心にはぬぐいきれない違和感がこびりついていた。
先ほどからグラシオンの様子を観察しているのだが、何かがおかしい。
彼らとグラシオンの戦いは拮抗していると言っていい。いや、もしかしたらわずかにグラシオンの方が不利かもしれない。
にもかかわらず、グラシオンからは危機感というモノが感じられないのだ。慢心している、という感じもしない。
しかし、その正体が何なのか。それは、考えても分からない。
どうしようもない違和感を抱えながらも、答えの出ないもどかしさに、サファイアは眉を顰める。けれどすぐに小さく首を振って思考を切り替えた。
「……しかし、やはりあの神官には及ばない。最高戦力であり、先の演説を見るに精神的支柱にもなっているのだろう」
激しい戦い。飛び交う魔法や剣戟の音が響く中で、その声はやけに大きく聞こえた。
「だからこそ……」
まるで、面白くてしょうがないと言わんばかりの声が、サファイアたちの耳に届く。
「――――あの神官が死ねば、それは貴様らにとっての痛恨になるだろうなァ?」
「は?」
聞こえてきた言葉に、サファイアは思わず動き止めてしまった。
今、あの動く骨はなんといった? あの神官が死ねば? つまり、リュー君が死ぬ?
その言葉に反応したのはサファイアだけでなく、アポロやマオ、ライゴもその場に静止している。
「やはりか。ならば絶望の追加と行こうか。あの神官は、すでに死んだぞ?」
サファイアたちの反応を見て、グラシオンは謳い上げるようにリューは死んだと言う。
「聖女の元に悪魔を送り込んだ。護衛もいたようだが、あの悪魔は強い。貴様らレベルであれど倒すのは難しいだろう。そして、聖女が危機的状況に陥れば、あの神官は絶対に聖女の元に駆け付ける。……くくっ、神官はまんまとその通りに動いたなぁ。あの忌々しき魔法を使ったのは予想外だったが……まぁ、それはどうでもいい」
グラシオンは自分を中心に【ダークエクスプロージョン】を発動。隙を作ると、近接職の手の届かない空に上がった。
「確かにあの神官は強い。だが、奴の戦い方は悪魔という種族に対して致命的に相性が悪い。勝つのはまず不可能だ。そして、奴の存在なき貴様らなど、我にとっては敵ではない」
カタカタと骨を鳴らしながら、グラシオンは嗤った。そして、杖を振り上げ空に今までの倍以上の魔法陣を展開した。
サファイアたちは、未だに静止したままだった。グラシオンの言葉に反応することもなく、下を向いている。
「理解したか? なら、絶望しろ。そして、それに飲まれて死んでいけ」
グラシオンが杖を振り下ろす。魔法陣が怪しく輝き、闇色の光弾を無数に吐き出した。
「【ダークネスミーティア】」
ズドドドドドドッ! と、絨毯爆撃を思わせる密度の攻撃が地上に降り注ぎ、そこにいたプレイヤーたちを飲み込んでいった。
その魔法は十秒以上続き、魔法陣が消える頃には地上は土煙がもうもうと広がり、視認できなくなっていた。
土煙立ち込める地上を睥睨していたグラシオンは、眼窩に納まった光を揺らした。
「ふっ……他愛ないものだな」
嘲るような声音で呟き、杖を下に向ける。そこに魔力が集まり、球体を形どる。
「では、終わ……ッ!?」
止めの魔法を放とうとしたグラシオンの元に、土煙を破って攻撃が飛来した。
飛ぶ斬撃、氷の槍、魔弾の連撃、雷を纏った刺突。それらはとっさに回避行動をとったグラシオンを掠め、空に消えていく。
それを見送ったグラシオンが地上に視線を戻すと、土煙が晴れ、無傷の【フラグメント】が姿を現した。
「まだ絶望しないというのか……! 無駄な足掻きだと何故分からん!?」
怒鳴りつけるように言うグラシオンに、攻撃を放った四人……アポロ、サファイア、マオ、ライゴはゆっくりと告げる。
「何故分からないか? だと……?」
「そんなの、こっちのセリフ」
「全く、何をアホなこと言ってるんすかねぇ……」
「ホントやなぁ、呆れてモノも言えへんわ」
さっと視線をグラシオンに向けた四人。その瞳は完全に、馬鹿を見るときのもの。
そして、アポロが四人の気持ちを代弁するように、口を開く。
「んなもん、絶望する理由がないからに決まってんだろ?」
「何!? だが、あの神官は……」
「ハッ! リューがたかが相性ゲーなんかで負けるわけないだろッ! 俺の兄ちゃんを嘗めんじゃねぇぞ!」
「ん、アポロの言う通り。私のリュー君が負けるとかありえない」
「そうっすよねぇ。先輩が負けるとか、想像するのも難しいっす。天変地異レベルじゃないっすか?」
「悔しいが、ワイも同意見や」
アポロに続いて、他の三人も口々に同じことを言う。彼らの中に『リューの敗北』ということを信じている者は、誰一人として存在していなかった。
「それに」
絶句しているグラシオンを軽く睨みつけたサファイアが、言葉を続ける。
「リュー君は今、誰かを守るために戦ってる。そういう時のリュー君は……すっごく、強い」
嬉しそうに頬を染め、小さな笑みを浮かべながら言うサファイア。その姿からはリューへの全幅の信頼が見て取れた。
サファイアに断言され、グラシオンは「くっ……!」と悔しそうに歯噛みする。
「……ならば、この場に悪魔を呼び寄せ、この戦場を先に蹂躙してくれよう! 神官と聖女を殺すのは、その後でも遅くはないからなァ!」
叫ぶように言った後、グラシオンが召喚魔法を発動し、漆黒の魔法陣を自身の背後に展開する。
「おい、悪魔よ。そろそろあの神官と聖女を排除し終わっただろう? さっさとこちらに来い。未だに抵抗を続ける人間どもに、本当の絶望というヤツを味合わせてやろうじゃないか」
魔法陣に向かってそう告げたグラシオンは、アポロたちに向き直り、両手を広げて仰々しく言い放つ。
「くはははッ! さぁ、絶望は続くぞ! 貴様らの終わりももうすぐだ!」
グラシオンの背後の魔法陣が輝きを放ち、そこから一つの影が現れる。
それ見たアポロたちプレイヤーは、「あっ」と目を見開いた。
「ふっ、ようやく己の置かれている状況を理解したようだな?」
アポロたちの反応を恐怖によるものだと解釈したグラシオンが小馬鹿にする様に言うが、誰もその言葉を聞いていなかった。
プレイヤーたちの視線は、グラシオンの背後に注がれている。
自分の言葉に誰も反応せず、固まったように一点を見つめ続ける彼らを、グラシオンは訝しむ。
「……? 貴様ら、どこを見ている? いや、それより……悪魔よ、貴様にしてはやけに静かではないか? 一体どうし……た…………?」
「よう、骨野郎。元気?」
振り返ったグラシオンが見たモノ。それは、にこやかに笑いながら手を振る、リュー。
「……なッ!? き……ッ!? なぁッ!?」
グラシオンは驚きのあまり、言葉にならない声を上げた。
そんなグラシオンを見て、「ドッキリ大成功~」とふざけたように言ったリューは、甲冑腕を伸ばしグラシオンの頭部を鷲掴みにする。
「わざわざ自分から隙を作ってくれてありがとう。これはほんのお礼の気持ちだ。受け取ってくれるよな?」
「し、神官!? 貴様、何故生きて……!?」
リューの死亡を疑っていなかったグラシオンが、酷く狼狽した様子でリューに問いかける。
「ん? ……ああ、そうか。お前は俺が負けると思ってたのか。んー……そうかぁ」
そんなグラシオンに、リューは少しだけ残念そうなつぶやきを漏らした。
「……骨野郎になる前のお前なら、俺が負けるはずないって分かってたはずなんだがなぁ? ……そうだろ、元守護者さん?」
「ッ!?」
リューの言葉に、グラシオンの眼窩の光が激しく揺らめく。
「まぁ、いいや。とりあえずこれで少しは目ぇ覚ませ。――――【エアリアルブリンガー】ッ!」
リューが叫び、甲冑腕に風がまとわりつく。そして、リューは突進系アーツの推進力を下に向けた。
「ぐっ!? は、離せ!」
「うぉおおおおおおおおおおおおおおッ!」
グラシオンの抗議を無視し、咆哮するリュー。下方に発揮された推進力により、リューとグラシオンは高速で地面に向かって落下する。
リューはグラシオンの頭部を掴む腕まっすぐに伸ばした。そして、
「どぉらっしゃあぁあああああああああああああああああッ!!!」
「ぐがぁッ!!?」
ズガァアアンッ!!
そんな轟音と共に、グラシオンの頭部が地面に叩きつけられる。過激すぎるフェイス・クラッシャーに、その光景を見たプレイヤーたちは、皆そろって頬を引き攣らせた。
半分以上頭部を地面に埋めたグラシオン。それを見下ろすリューは、紅戦棍を取り出しそれをくるくると弄んだ。
「あのクソ悪魔は倒した。後はお前だけだ」
そして、弄んでいた紅戦棍をビシッと掴み、グラシオンに突き付けながら言い放つ。
「さぁ、終わらせに来てやったぜ。骨野郎ッ!」
不死の王が猛威を振るう戦場に、聖女の守護者にしておかしな神官。
リューが、帰還した。




