リバイヴ・オブ・ディスピア 決戦7
「だぁあああ! やっと終わったぁ!」
両手で握る【ソードオブフェイス】の剣を天に突き出しながら、リューは思いっきり叫んだ。
今の今までグラシオンの作り出した杭の包囲網をしのいでいたリュー。最初の方は割と楽しく迎撃していたのだが、それがまさか五分、十分と続くとは思わなかったと、疲れた表情でため息を吐くリュー。
剣の迎撃事態は問題なく出来ており、ダメージらしいダメージは無いのだが、如何せんあの場から一歩も動けなかったのだ。迎撃が出来ていたのではない、迎撃しかさせてもらえなかった。
他の手段で強引に突破しようとすると、瞬く間に杭の豪雨を受けることになってしまう。いくら回復魔法があろうとも、相手はステータス的に優るグラシオンの魔法。どうしたって限界はある。足止めというグラシオンの目論見は、見事に達成されたのだ。
敵の術中にはまったというのに、リューはにっこにこの笑顔だった。自分が挑むべき存在が強いことが嬉しいのだろう、ホントどうしようもねぇなコイツ。
ニコニコしたままのリューはキョロキョロと周りを見渡した。リューが杭の群れと対決している間に、グラシオンはなんだかとっても強そうな魔獣を召喚して、どこかに行ってしまった。その魔獣は、今下でプレイヤーたちと死闘を繰り広げている。そこに混ざりに行こうかなーと一瞬考えたが、自分の役目がグラシオンの妨害、可能なら抹殺であることを思い出し、危ない危ないとブレーキを掛ける。
「さてと、あの骨野郎一体どこに……」
と、もう一度戦場に視線を巡らせた瞬間に、それは起きた。
リューの頭の中に、甲高い警戒音が鳴り響く。それは、聖女に危機が迫っているのを知らせる、とある魔法が鳴らしたモノ。
「なッ!? マジか……」
それに驚き声を上げたリューだったが、その行動は素早かった。
「『我がうちより目覚めよ、我が使い魔。その名はアヤメ』!」
【サモン・サーバント】を発動し、魔法陣を展開。しかし、今リューがいるのは空中であり、このまま召喚したらアヤメは遥か下方の地面にダイブである。
まぁ、下の子大好きなリューがそんなミスを犯すはずもないのだが。
「よっと」
「………………(ぴこぴこ)」
光を巻き上げながら魔法陣から現れたアヤメ。重力に従い落ちようとしたその小柄な身体を、リューは迷いなく横抱きに受け止めた。俗にいう、お姫様抱っこだ。
「さて、アヤメ。俺は今からイーリスお姉ちゃんを助けに行かないといけない。だから、こっちの戦場を頼めるか?」
「………………(こくこく)」
「よし、流石は俺の相棒だ。頼りになる」
リューがアヤメを片手で抱く形に変え、その頭をポンポン撫でる。アヤメは耳をぴこぴこと動かし、くすぐったそうに目を細めた。
ここまでなら、誰が見てもほのぼのとした兄妹のスキンシップといったところだろう。しかし、それで終わらないのがこの主従コンビクオリティ。
「よし、じゃあアヤメにどこを相手にしてもらうかなんだが……。おっ、あそことかいいかもな」
「………………(ふんす)」
どこでも大丈夫! と言わんばかりに握りこぶしを作って見せるアヤメに笑いかけたリューは、もう一度目星をつけた場所を見やる。
そこでは、グラシオンが召喚した魔獣……リューに言わせてみれば、『楽しそうな相手』とプレイヤーたちが戦っていた。だが、少しずつ押され、戦力を削られているのが見て取れる。
「アヤメ、行けるか?」
「………………(ぐっ)」
問題無いよ! と言わんばかりのサムズアップ。自信ありげな相棒の姿に笑みを深めたリューは、コクリと頷くと、ポンッとアヤメを宙に放り投げた。
ふわりと浮かび上がったアヤメは、そのまま空中でくるりと一回転。そして、それを待っていたリューの手のひらに着地した。
突然、サーカス団のようなことをし始めたリューとアヤメ。何も知らない者が見れば、ふざけているのかと思うだろうが、リューのことを知っている者たちからしたら、
――――あ、またコイツ変なことしようとしてる。
と、なる。
そして、実際リューは変なことをしようとしていた。
「【ブーステット・STR】!」
何故か、筋力強化の魔法を発動したリュー。アヤメも、何故か《錬気》――《闘気》の上位スキル――を発動して、ぐっと膝をたわませていた。
「ご覧あれ! 俺とアヤメのコンビネーション!」
「………………(ぶんぶん)」
やけにテンション高く叫んだリューに、アヤメも尻尾をぶんぶんと振り回している。本当に、何をやらかす気なのだろうか?
そして……リューは、信じられないような行動に出る。
ぐっと腰を捻り、アヤメの乗る手のひらを高く掲げる。
視線はまっすぐ目を付けた魔獣に注がれており、口元にはいつもの笑みが浮かんでた。
「行くぞ……とりゃぁあああああああああああああああああッ!」
そして、アヤメを……投げた。
何の躊躇もなく、力いっぱい、全力で。
強化されたSTRを存分に使い、思いっきり、己の使い魔をぶん投げたのだ。
リューはアヤメを溺愛している。目に入れても痛くないほどに、だ。
けれど、投げた。そりゃもう、見事な投球……否、投使い魔だった。
「よしっ、上手くいったな」
だが、投の……ではなく、当のリューは何故か満足気に己が投げ飛ばしたアヤメを目で追っていた。
この男、戦闘狂拗らせてついに鬼畜属性を身に着けてしまったのか。……という、わけではないのだ。もちろん、リューはアヤメのことを溺愛しているし、大切に想っている。
では、この行動は何なのか。その答えは、本人の口からもたらされた。
「見せてやれアヤメ……俺たちの『協力プレイ』をッ!」
協力プレイ。
そう、リューの奇行の正体はそれだったのだ。
サファイアから散々に言われ、本人も結構気にしていた、リューの他者との協力プレイの適性の低さ。それを克服するため、リューはアヤメと一緒にいろいろと試行錯誤したのだ。
その結果、生み出されたのが、この『強襲型アヤメ』である。
STRを強化したリューが、アヤメを全力で投げ飛ばすことで、相手の意表を突き真正面からの奇襲が出来るというモノ。実際に戦闘で使ってみて、すでに有効性が示されているのだから恐ろしい。
これを、サファイアやアポロ、掲示板の面々が知ったら皆一斉にこう言うだろう。
――――違う、そうじゃない。
そんな呆れをこれでもかと含んだ言葉が容易に想像できてしまうが……リューは真面目だし、投げ飛ばされたアヤメも、本気でそれを行っている。
「………………(ふんす)」
頭から高速落下中のアヤメは、両手を下に向け、篭手から《深紅の鋭刃》……否、《深紅狼の殺戮刃》を伸ばし、さらに【マテリアルブレイク】をスキル《魔装》によって爪に付与する。
そして、足の裏に【インパクト】を付与し、それをすぐに発動。ぐんッ! と加速するアヤメの身体。
音を超えそうな速度で落下したアヤメは、そのままの勢いでプレイヤーを襲っていた魔獣に突っ込んでいった。
ズガァアアアアアンッ!!
そんな音と共に、魔獣の背を貫いたアヤメ。まったくもって警戒していなかった場所からの攻撃に、魔獣は驚きと苦痛の悲鳴を上げる。
高速落下をしたアヤメは、魔獣の背中に見事に着地していた。両手の篭手から伸びる紅き戦爪は魔獣の背の肉に深々と突き刺さっている。
「………………(えいっ)」
アヤメはその状態で、爪に込めた【マテリアルブレイク】を解放した。物質相手に多大な威力を誇る魔法が、爪に刺し突かれた傷を広げ、肉をぐちゃぐちゃにかき回す。
その効果は絶大だったようで、魔獣の歩みは止まり、その場で滅茶苦茶に暴れ始めた。
アヤメはすぐさまその場で跳躍し、足裏に【インパクト】を付与して落下速度を緩めつつ、魔獣とそれと戦っていたプレイヤーたちの間に着地した。
突然空から降ってきたアヤメに、プレイヤーたちは驚き目を見開き、あんぐりと大口を開けていた。無理もない。いきなり空から幼女が降ってきたら、誰だって驚く。
アヤメはそんなプレイヤーたちの視線など思考に挟むこともせず。ただ目の前の倒すべき敵を見据え、紅き戦爪を構えた。
そんなアヤメに、ようやく冷静になった魔獣が殺気を放つ。それは、普通の幼子なら一瞬で気を失ってしまうであろう凶悪なもの。
だが、生憎とアヤメは普通ではない。そもそも、レベル90(カンスト)プレイヤーの使い魔が、普通なはずがないのだ。
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N:アヤメ
RACE:白銀狼
JOB:魔拳錬士
Lv90(countstop)
HP 1350/1350
MP 1591/1680
STR 200
DEF 46
INT 105 MIND 79
AGI 200 DEX 5
LUK 30
SP 0
SKILL:《拳闘術LvMAX》《魔装Lv53》《純魔法LvMAX》《錬気LvMAX》《回避法Lv13》《再生Lv32》《魅惑Lv21》《霊体化Lv63》《爪士Lv51》《化生転身Lv21》《重層撃Lv11》
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主が主なら、使い魔も使い魔。
――二人目のレベル90が、戦場に舞い降りた。




