リバイヴ・オブ・ディスピア 決戦5
色々と片付いたので投稿再開。覇竜の方も頑張るぞい
道化染みた行動が目立つ聖女親衛隊の面々だが、その実力は確かなモノだった。
双剣を巧みに操り、飛来する魔法を斬り裂いていくヤマト。ヒット&アウェイを中心とした安定した戦い方は、いつもの様子からは想像もできない。
火力こそ全て! とばかりに炎属性の魔法を乱射するヴァーミリオン。雨のように降り注ぐ数多の魔法を、知ったことかと吹き飛ばしていく。
冷徹な瞳で鞭を振り回すネロも負けていない。決して使いやすいとは言えない鞭を見事に操り、悪魔へと地味なダメージを与えていた。
他の面々も、時に個人で、時に隣にいる仲間と力を合わせて、悪魔に対抗していく。……奇声が聞こえてきたり、妙な奇行に走るモノがいるのは、ご愛敬だ。具体的には、どこぞの三人衆のことである。
その中でも得に活躍しているのは、
「フゥーハハハハハハ! そらそら、もっともっと燃えてしまえッ!!」
高笑いがその場に響き、同時に悪魔へと漆黒の炎が放たれる。それは『魔神焔ノ葬士』という特殊スキルから放たれる、強力無比な黒き焔。
それを操るは、燃え盛る黒き炎に巻かれながら、妙なポーズをとっている少女だった。
「貴様も中々の魔法の使い手だな、悪魔よ。しかし、魔神焔を操る我には遠く及ばぬものよ! さぁ、羽虫の如く打ち落としてやろう!」
「人間風情が……! 調子に乗らないで頂戴!」
どや顔で挑発的な言葉を吐く黒炎。悪魔の額に青筋が浮かび上がり、怒りが魔法となって降り注ぐ。
属性も種類もバラバラな魔法の雨。だが、それを前にした黒炎の瞳に焦りは無かった。
「ふっ……【魔神焔・薙】」
黒炎が両腕を左右にバサリと広げた。その動作に合わせる様に黒き火炎が舞い上がり、悪魔の放つ魔法をかき消していく。
己の魔法が消されてしまった悪魔は、苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ、黒炎をキッと鋭く睨みつけた。
悪魔のそんな視線を受けても、黒炎の表情から余裕は消えない。それどころか、ふっ、と軽く微笑んで見せる始末。「この程度か?」という言葉は、口にしなくても悪魔には伝わった。
「くっ……! 厄介ね、貴女」
「我を誰と心得る? 漆黒の炎を担いし稀代の魔導士にして『黒帝焔皇』だぞ? 悪魔風情に負ける道理がないわ」
『黒帝焔皇』。それが、黒炎が持つ二つ名。特徴的な漆黒の火炎と、本人の言動。あと、黒炎自身が『帝』とか『皇』とか好きそうという理由で付けられたものだ。
まぁ、由来が何であれ、それは確かな実力者の証拠。悪魔に対しての言葉も、決して妄想の類ではない。事実、聖女親衛隊のメンバーの中で最も強いのは、黒炎だ。
「なんですってぇ……!」
黒炎の呆れたような言葉に、悪魔はギリリと歯を食いしばる。額には青筋が浮かび上がり、双眸はこれでもかと吊り上っていた。だれが見ても怒っていると一目で理解できた。
「ふっ……ふふふ……! 人間風情にここまで虚仮にされるとはねぇ……! あのおかしな神官の相手も後に控えてるから、あまり力は使いたくなかったけど……いいわ、全力で相手をしてあげる」
ニタリ、と笑いながら、悪魔はその身に纏う魔力の質を変えた。より強大に、より禍々しく。
「さぁ、行くわよ?」
威圧感を増した悪魔がサッと腕を振るう。たったそれだけの動作で、先程とは比べ物にならない数の魔法陣が悪魔の背後に出現する。
そこから放たれるのは、威力も数も上昇した魔法の数々。殺意の嵐とでも言うべき怒涛の連撃を、親衛隊は必至に防いでいく。
黒炎も魔神焔を操りそれをしのいでいく。だが、彼女の表情からは余裕が消え去っていた。それでも笑みを浮かべるのをやめないのは、彼女の意地か。いつも阿鼻叫喚の驚愕を巻き起こす、一人の神官への憧憬か。
しかし、彼女の奮戦も虚しく、悪魔の猛攻によって親衛隊のメンバーは一人、また一人とその身を白き粒子に変えていく。
「……やれやれ、ここまでですか」
「ごめん……ちょっと駄目っぽい……」
「うぅ……リューさん……ごめんなさい……」
「あらあら……負けて、しまいました」
「「「ぐあーーー!? やーらーれーたー(ッスー)!?」」」
仲間がやられても、残された者たちは士気を落とすことなく戦い続ける。それが、先にやられていった者たちへの報いになると分かっているからだ。
「らぁああ! 【テンペスト・バースト】ッ!」
「無駄よ」
「ぐあぁ!?」
けれど、
「【スカーレットドラグーン】ッ!」
「ほいっ、と。おんなじ魔法を返してあげるわ」
「なッ! がぁあああああ!?」
それでも、
「はぁあああ! 【万鞭大華】ッ!」
「【サイクロン】、【アイシクルレイン】」
「きゃぁああああああ!?」
彼らの敗北は、避けられぬモノだった。
ヤマト、ヴァーミリオン、ネロの決死の攻撃も、悪魔の命を削り取ることは叶わなかった。その肢体にわずかながらの傷をつけたが、そこまでだった。
吹き飛び倒れ、白き粒子と化す三人を一瞥した悪魔は、もう欠片の興味もないとばかりに視線を外し、髪をかき上げる。
「ふんっ、人間風情が私に逆らおうとするからこうなるのよ。……お分かり?」
「……ハッ、まだ我を倒していないというのに、随分と余裕だな?」
視線一つ寄こさずに告げられた悪魔の言葉に、黒炎は気丈に返して見せた。
しかし、余裕なんてものは欠片も残っていない。
「……黒炎様、どういたしましょうか?」
「ふんっ、どうにかするしかあるまい。我に不可能はないのだ」
聖女親衛隊の中で残ったのは、黒炎と……アザミナだった。
《魔薬師》という戦闘向きではない職業を持つアザミナだが、薬品系アイテムによる回復や援護、バッドステータスを引き起こす魔薬での妨害とサポートに徹していたことで最後まで生き残っていたのだ。
しかし、状況が絶望的なのには変わりない。黒炎は確かに二つ名持ちの実力者だが、イベントボスを一人で相手取れるほど強いわけではない。というか、そんなことが出来るのは、リューを含めた一部の規格外のみ。
「あら、さっきまでの威勢はどこに行ったのかしら? 妙なお嬢さん?」
「…………」
からかうような悪魔の言葉に、何も言い返すことが出来ず俯く黒炎。アザミナは、そんな黒炎を背後から見つめることしか出来ない。
下を向いたせいで顔が見えない黒炎に、悪魔は上空からニヤニヤと小馬鹿にした笑みを浮かべて見せた。
「あら? もしかして……折れちゃった? ふふふっ、あははははっ! まぁそうよね。ちょっと強い力を使えるからって、ただの人間に過ぎない貴女が私に敵うはずないモノねぇ? 絶望しても仕方ないわよねぇ? ああっ、そんなに落ち込まないで! 貴女が悪いわけじゃないの! 下等種族が悪魔に逆らった、だから滅ぼされた……至極当然、自然の摂理。もはや運命によって決められたと言っても過言ではないくらいに、当たり前のことなのよ!」
踊るような大袈裟な仕草と、歌うような声音で黒炎を嘲り扱き下ろす悪魔。言葉の最後に浮かべた笑みは、万人を魅了するような美しいものだったが、真紅の瞳に宿る侮蔑の色がその全てを台無しにしていた。
「黒炎様……」
「…………」
そんな悪魔の言葉にも、アザミナの気遣うような言葉にも、黒炎は反応しない。うつむいたまま、何かをこらえるように拳を強く握りしめていた。
そんな黒炎を見て、空中でけらけらと笑っていた悪魔が、急速に表情を無にし、小さくため息を零した。
「……はぁ、つまんないわねぇ。いいわ、もう終わりにしましょう?」
そういうと、悪魔は黒炎とアザミナに向けて、スッと手を伸ばした。広げた手のひらを基点に、無数の魔法陣が重なり合うようにして現れた。
「死になさい」
短く吐き出された、死刑宣告。それと同時に、悪魔の魔法が放たれる。それは、漆黒の奔流とでも称すべき一撃。漆黒の炎を操る黒炎に対して、この魔法を選んだのは、序盤に押されていたことに対する意趣返しだろうか。
「くっ……こうなればッ!」
その一撃を前にして、アザミナが動いた。黒炎の前に立ちふさがり、腰のホルスターから取り出した魔法耐性を大幅に強化する魔薬を自身に振りかける。そして、今にも自分を飲み込もうとする漆黒に震えそうになる足に喝を入れて、毅然と前を睨みつけた。
「あら、健気ねぇ。……けど、無意味よ」
アザミナの献身を嘲笑う悪魔。その行動に意味は無いと、邪悪な笑みで一蹴する。
それでも、アザミナは目を閉じずに迫る奔流を見つめ続ける。彼女には分かっていた。今、この局面において、己がなすべきこと。戦う力を持たぬ自分よりも、強き力を持つ黒炎を生かすべきだと、何の疑いもなく決断を下したのだ。
そして、死をもたらす悪魔の魔法がアザミナに直撃――
「【魔神焔舞・龍の型】」
……しなかった。
突如出現した黒き炎で形作られる東洋竜。蛇のような体をくねらせ、鋭利な牙が揺らめく顎を大きく開いた。
『ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!』
そして、咆哮。
大気を吹き飛ばし、物理的な破壊力すら有する音の砲撃が、アザミナを飲み込もうとしていた悪魔の魔法を打ち破った。
「……は?」
その光景を眺めていた悪魔は、理解が追い付いていないのか呆けた表情で間抜けた声を漏らした。
「――くはっ」
嗤い声が、響く。
「くははっ、ははははっ、フゥーハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ、ゲホッ! ゲホッ! ゴホッ!?」
「こ、黒炎様?」
盛大な高笑いの後に、これまた盛大にむせて見せた黒炎に、アザミナが心配そうな声を漏らす。
「ごほごほっ……ふぅ、死ぬかと思った。……コホン。さて、悪魔よ。貴様、中々に面白いことを言っていたな? 我が折れた? 絶望した? ――笑止ッ! 全く持ってナンセンスだ!」
黒炎は伏せていた顔を上げ、そこに刻まれた好戦的な笑みを晒した。
その笑みを見た悪魔の脳裏に、ふとおかしな神官の顔が思い浮かぶ。黒炎の笑みは、彼女の策略を見抜いた彼の浮かべたものに酷似していた。
せり上がってくる苦々しい感情を飲み込んだ悪魔に、黒炎は言葉を続ける。
「我を誰だと心得るかッ! 稀代の魔導士にして『黒帝焔皇』! そして……とある男の在り方に憧れた、一人の小娘よッ!」
そう言い切った黒炎は、両手をゆるりと広げ、笑みを深めた。自分の心に鮮烈に焼き付く、おかしな神官の笑みの如く。
そんな彼女の背後に、『黒炎の龍』が侍る。牙をむき、紫の双眸で悪魔を睨みつける黒龍に、悪魔は少しだけ後ずさった。
「あの人に頼まれたのだ。貴様から、聖女を必ず守ってくれと。ならば我は、そのために身魂を使い果たそうじゃないか! さぁ悪魔よ、覚悟せよ。今の我は――かなり強いぞ?」
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