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ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
四章 初イベントと夏休みの終わり編

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リバイヴ・オブ・ディスピア 決戦開始

新生活って大変ね!

ということを身に染みて感じております、原初です。

今回の更新も遅れに遅れましたね、今度はもう少し早めにかけるようにしたいです(願望)

 戦いを目前に控えた戦場は、異様とも呼べる雰囲気に包まれていた。

 さっきまで晴れ渡っていた空を、重苦しい灰色の雲が覆っている。草原を揺らす風の勢いが増し、悲鳴のような風音がプレイヤーたちの耳を打つ。心なしか、気温が下がっているような気さえした。

 空気が、重い。草原に展開し、戦いの準備を進めているプレイヤーたちの心は、プレッシャーに襲われていた。

 

「……なんか、士気低くない?」

「ん、確かに」


 そんな彼らの様子を防壁の上から見ているのは、イーリスと別れこちらに合流したばかりのリューと付きそいのサファイア。

 彼らは眼下に広がるどこか暗い雰囲気のプレイヤーたちを眺めながら、怪訝そうに眉をひそめた。サファイアは、もう間もなく始まる大規模で……とても困難な戦いを臨む者たちがこれで大丈夫なのかと、これで勝つことが出来るのかと、不安混じりの疑念を浮かべる。

 当然、リューも……。


「これから楽しい楽しい戦闘(ゲーム)だってのに……なんでこんなにテンション低いんだろうな?」


 訂正。

 こいつは価値観が違い過ぎる。


「……皆が皆、リュー君じゃないからだと思う?」

「……? どゆこと?」

「分からないなら、いい。リュー君はそのままでいて」

「うん? まぁ、うん」


 納得がいってなさそうなリューを見て、ひそかにため息を吐くサファイア。この幼馴染兼想い人は、どうしようもないほどに戦闘狂すぎると、再確認する。

 ちらりと視線を彼の方に向ける。そこに在ったのは、見惚れてしまいそうなほどに素敵な笑顔。無邪気な少年のような純粋な笑みの形をしながら、その奥に秘められているのは燃え盛る闘争心。この神官にとっては、戦いの前のプレッシャーなど小石程度の重さしかありはしないのだろう。


「……リュー君は、強いね」

「んー? まぁ、レベル90だし?」


 そういうことではないのだが、とリューの返答に内心苦笑するサファイア。

 確かに、他の追従を許さないレベルは『強さ』と言える。けれど、リューの持つ本当の強さはそこではない。

 彼の強みは、その精神性。どんな強大な敵にも恐れることなく、戦いを隅から隅まで楽しむことのできる異常ともいえる戦闘意欲。

 戦いに怯えるという考えが一切ないリューには、今の士気の下がったプレイヤーたちの気持ちが理解できないのだろう。

 だが、そんなリューだからこそ、士気の低下が看過できないレベルで起きているこの現状を打破するための重要なファクターになってくるのだ。

 戦闘を心の底から愉悦するリューの在り方は、見るものに根源的な恐怖を与える。百人斬りの動画を視聴したことによって、リューへの恐怖心を植え付けられたというプレイヤーは決して少なくない数存在している。

 しかし、ただ恐怖をまき散らすだけの存在なら、『五大リュー狂い』なんてものは現れないし、リューへ協力するものがあれほど集まるはずがない。そこには、人を惹き付ける何かが確かにあるのだ。

 それは魅力というよりは魔性といったほうがしっくりくるような劇薬だが、だからこそこの状況をどうにかすることが出来る。サファイアは半ば確信をもってそう思っている。


「……ところで、結局どんな演説をするの?」

「まだ決まってない。というか、いきなり演説しろーなんて言われても、すぐに思いつくものでもないだろ? だからまぁ、ぶっつけ本番で何とかするわ」

「ふぅん。リュー君だと、『諸君、私は戦争が好きだ』とか似合いそう」

「何それ物騒。……けど、なんかいいな、そのセリフ」

「えっ」

「うん、結構気に入ったかもしれない。よーし、じゃあ演説はそんな感じにしてみるかー」

「……えぇ」


 楽しそうに笑みを浮かべるリュー。よほどそのフレーズが琴線に触れたのか、ブツブツと何度か口の中で呟いてから、うんと頷いてみせた。

 

(……あれ? もしかして余計なこと言った?)


 リューの様子を見てサファイアは、たらりと冷や汗を流すのだった。








 ……そして、その時は訪れる。

 何の脈絡もなく、唐突に世界が闇に閉ざされた。一瞬のうちに昼夜が逆転してしまったかのように、曇天の空が黒に染まる。

 いきなり訪れた闇の到来に、プレイヤーたちの間に小さくないざわめきが広がった。


『――時は来た』


 しかし、そのざわめきも、空間を伝播しその場にいる全員の耳に届いた声により、ぴたりと収まった。

 聞くものを心胆から凍えさせるような、恐怖心を煽る声音。地の底を這うようなバリトンボイスは、天から降り注ぐようにして聞こえてきた。

 次の瞬間、赤黒い光が闇に覆われた世界を照らした。昨日まで緑あふれるのどかな草原だったはずの場所は、血をぶちまけたかのように深紅に染まり、見るものを不安にさせる不気味さを有していた。

 そして、先程まで何も無かったはずの空中に、浮き出るような漆黒が一つ。杖を手にし、豪奢な装飾の成された漆黒のローブに身を包む闇色の人体骨格。すでにローブのフードは外されており、捻子くれた角も窪んだ眼窩で揺れる紫紺も晒されていた。

 

「二日ぶりだな、愚かなる異邦人どもよ」


 開口一番、痛烈な嘲りを放つは、プレイヤーたちを異界に招き込んだ事の元凶にして最大の敵であるグラシオン・ゲーティス。

 人目で異形だと分かる姿を堂々と晒し、遥か高みよりプレイヤーたちを見下す姿は、御伽噺の魔王を思わせる。


「くくっ、どうした? 恐怖で声も出ないか? ……詰まらぬなぁ。余はまだ何もしていないぞ?」


 嘲笑と共に、失望を滲ませた言葉が吐き捨てられるが、ほとんどのプレイヤーたちはグラシオンの放つ威圧感に飲み込まれている。

 二日前とは明らかに気配の密度が違う。殺気敵意冷気邪気が地獄の窯で煮詰められたかのような濃密で重苦しいオーラがグラシオンから放たれ、プレイヤーたちの精神感覚を打ちのめしていた。


「あがっ……!」

「くぅ……!」

「くははっ、そうだ。その顔が見たいのだ。絶望、恐怖、畏怖。弱者の浮かべる情けなく脆弱で愚かな感情で歪み切った顔がなぁ」


 そう言って顎の骨を鳴らすグラシオンの邪悪は、比類するものが見当たらない。貶され見下され、はっきりと馬鹿にされていながら、それでも怒りを抱くことも出来ない。プレイヤーたちの抵抗の意志を奪うだけの脅威がそこにはあった。

 怯え狼狽するプレイヤーたちを見て、グラシオンは隠すことなく嗤ってみせた。


「嗚呼、そうだ。その絶望を抱いたまま――我が糧となれ」


 そう言って、グラシオンはサッと杖を振るった。それに合わせて草原に広大な魔法陣が現れる。漆黒に輝く光によって描かれる複雑怪奇な紋章。迸る魔力が大気を軋ませ、甲高い絶叫を上げた。

 魔法陣の光は刻一刻と強くなっていき、やがて赤黒い天へ向けて黒き柱のように伸びていった。

 そして、突如としてそれがはじけ飛ぶ。飛散した光の粒子は地面に落ちるとその場に、巨大魔法陣を小さくしたものを展開する。無数の小魔法陣に覆われ、草原はもはや黒の大地とでもいうべき景色になっていた。

 その魔法陣が一際強い輝きを放つと、それを合図に『ナニカ』が這い出てくる。


「ヒィ……!」


 誰かが、引き攣ったような悲鳴を上げた。それは、酷く不気味で悍ましい光景を目撃してしまったが故の反射的な反応だった。

 魔法陣から現れたのは、カタカタと乾いた音を鳴らす動く人体骨格。ぐちゅぐちゅと湿った音を響かせる腐肉の塊。けたけたと笑い狂う蒼白い霊体。

 この世のモノとは思えない……いや、正しく現世(このよ)のモノではない、幽世の存在。

 鎧を身に着け、武器を装備したスケルトンソルジャーが、数千。

 腐肉の身体を引きずるゾンビやグールが、同じく数千。

 空中を遊ぶように動くレイスやファントムが、千と少し。

 さらにはデュラハンやスカルジャイアントといった上位のアンデッドモンスターの姿も多く確認できる。

 大地と空を覆い尽くす死の軍団。それを前にしたプレイヤーたちは、その場の空気が一気に冷たくなったような錯覚に陥った。

 怯えを隠せないプレイヤーたちを見下し、グラシオンは失笑を漏らす。


「ふっ……どうした? 我が【宵闇の死軍(ノーライフ・アーミ―)】を前にして、さらなる絶望を覚えたか?」

「――ハッ! 誰がてめぇ何ぞに絶望するかよ!!」

「……ほう?」


 グラシオンは、帰ってきた力強いセリフに面白くなさそうに呟きを漏らす。

 その声に続くように、プレイヤー軍のあちこちから声が上がる。

 

「あんま調子に乗んなよガイコツ! さっきから聞いてりゃ、随分と好き勝手言ってくれるなァ!」

「つーか、飛べるからって見下してんじゃねーよ! すぐにそっから引き摺り下ろしてやらぁ!」

「あっはっは! おらおらぁ! お前らも何ビビってんだよ! あんな死体集団なんか、ドーンとふっ飛ばしてやろうぜ!!」

「怖いは怖いが……それ以上に……ガクガクブルブル」


 グラシオンの放つ威圧感、そして現れた死軍の威容を跳ね飛ばし、闘志を露わにする幾人ものプレイヤーたち。そんな彼らには、ある共通点が存在した。


「……解せぬな。何故貴様らは余を前にして恐怖で身を竦ませ、絶望に膝を折らぬのだ?」


 グラシオンがそう不満さを声音に滲ませ、一番近くにいた怯えていないプレイヤーに問いかける。

 グラシオンの問いに対して、そのプレイヤーは「フッ……」とニヒルに微笑むと、カッ! と目を見開いてヤケクソ気味に叫んだ。


「んなもん、お前より怖いモンを知ってるからに決まってるだろーがッ! お前なんてなぁ、あの神官に比べたら、お化け屋敷以下なんだよぉ!!」

「……神官、だと?」


 その叫びを聞いたグラシオンの脳裏に、二日前に唯一自分に向かってきた男の顔が思い浮かぶ。同じ召喚魔法を扱う巨大なメイスを振り回す戦士……だと思っていたのだが、どうやら神官だったらしい。


「……神官?」

「ああ、メイス振り回して近接戦闘するけどなァ!」


 神官って何? という疑問がグラシオンの中に生まれた瞬間だった。

 グラシオンの威圧感に耐えたプレイヤーたちの共通点。それは、例の百人斬りでリューにボッコボコにされたプレイヤーたちだということ。

 あの恐怖体験を乗り越えた者たちにとって、グラシオンの放つ気配など恐れるに足るものではなかったということだ。一部、恐怖体験がフラッシュバックして着信を受けた携帯電話のようになっているプレイヤーもいるが。


「……だが、所詮は一人。矮小な一にすぎぬ。『万軍』の名を冠する我に、それだけで勝てるとでも――――」


 そこまで言ったところで、グラシオンは『ソレ』に気付いた。

 異邦人の軍列の向こう。城を囲むように造られた防壁の上から、グラシオンが展開した死軍へ向けて飛来する五条の光。それは放物線を描きながらプレイヤーの軍列を飛び越え、死軍の先頭集団へと降り注ぎ、


 ズドォオオオオオンッ!!


 轟音を響かせ、爆発した。


「なぁッ!?」


 突然の出来事に、今までの余裕をかなぐり捨てたグラシオンが驚き戸惑う。

 その爆発に巻き込まれた死軍は見事に粉砕され、骨と血肉をまき散らして消滅する。爆風によって巻き上げられた砂煙が晴れた時には、そこに悍ましいアンデッドは影も形もなくなっており、ただ抉れた地面が残っているだけだった。


「い、今の攻撃は!?」


 その問いに答える者はいない。味方の攻撃であるにも関わらず、プレイヤーたちの間にも困惑が広がっていた。

 五条の光を飛ばし、着弾点にて爆発させる。まるでミサイルが如き広範囲殲滅攻撃は、一発につき百は死軍のアンデッドを吹き飛ばした。

 合計で五百もの敵戦力を削った攻撃。こういった殲滅系攻撃手段を持つプレイヤーは、トッププレイヤーやそれにほど近い実力を持つプレイヤーの中に存在する。そういったプレイヤーの場合、殲滅攻撃を使う瞬間が動画になっていたりして、ある程度周知されているのだが……光を飛ばして爆発させるといった形の殲滅攻撃は誰も見たことが無かった。

 しかし、そのことについて思考を働かせる前に、事態は動き出す。


「……あ」


 軍列の中にいた一人のプレイヤーが、何かに気付き小さく声を上げた。

 その視線は、上……グラシオンの背後に向けられていた。

 そして、それを皮切りに、何人ものプレイヤーが『それ』を目撃し、皆一様に目を見開く。

 グラシオンの背後には、黒い影が一つ。いつの間にか現れていたそれは、紅いナニカを振り上げていた。

 

「「「「「あぁ!?」」」」」


 今度は、驚きを含んだ声を上げるプレイヤーたち。そんなプレイヤーたちに、グラシオンは怪訝そうに眼窩の奥の光を揺らめかせた。

 三日月が、裂けた。


「【フォースジェノサイド】」

「ガッ!?」


 振り下ろされる紅いメイスが、グラシオンの後頭部を捉える。

 衝撃がまき散らされ、グラシオンの身体が勢いよく地面に向かっていく。


「くっ、何が……!」


 地面に激突する直前に飛行魔法を立て直したグラシオンが、さっきまで自分が座していた場所を睨み付ける。

 空中を自在に舞うグラシオンと同じ場所に立てるプレイヤーは、一人しかいない。

 

「……貴様ァ!!」

「くくっ、お怒りだなァ。なぁ、骨野郎?」


 漆黒の衣装に、真紅の戦棍。

 フードを被り、紫紺の瞳を輝かせ、口元に喜色にまみれた笑みを浮かべる、一人の男。

 リューが、そこにいた。

更新遅れても呼んでくれた人、本当にありがとうございます!!


来月はソロ神官の四巻発売! 今回の表紙もすげぇよ! やっぱり、へいろー様のイラストは最高だぜ!

Twitterに上げときますね。

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