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ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
四章 初イベントと夏休みの終わり編

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リバイヴ・オブ・ディスピア 決戦前2

生きてますよ。作者です。

三月忙しすぎて草も生えない。執筆どころか、読書すら出来ないレベルぅ……。


というわけで、久しぶりの更新です。

 王城を囲むようにして造られた防壁は、高さ三十メートルほどあり、『星形要塞』の名の通り、上から見ると六芒星のように見える形をしていた。これを僅か二日……いや、一日と少しで造り上げることが出来たのは、ひとえに【クラフト】所属の職人プレイヤーたちの尽力といえるだろう。

 星形の防壁は地上から二十メートルほどの場所に、遠距離攻撃を放つための小窓が付いた小部屋があったり、星型の頂点の部分には高見台の役割を果たす塔があったり、防壁の上部にはバリスタとカタパルトが等間隔で並んでいたり……正直、今回の戦闘でその全てを使うかどうか分からないような施設もある。

 何故ここまでベストを尽くしてしまったのか。【クラフト】の職人たちに聞けば、こう返ってくるだろう。『自分たちは、己に出来る最高を追及したまでだ』と。

 彼らは妥協を絶対に良しとしない。自らの力で成しえる最高を常に出し切ることを信条としている。その分、やり過ぎることも多々あるのだが……今回は敵が敵である。相手の底が見えない以上、念を入れることに越したことはない。ただ、その代償に要塞造りに精を出していた職人プレイヤーたちは、疲労でぶっ倒れているのだが。この世界に肉体的疲労は存在しないはず……要するに、精神的にぎりぎりになるまで無茶をしたということだ。

 そんな尊い犠牲のもと創り出された要塞の上、戦場が一望できるようになっている場所には、この戦いのまとめ役であるトップギルドの面々が集結していた。

 チャット機能を使い指示を飛ばす者、アイテムの配給具合を確かめる者、戦いに備えて精神を落ち着ける者、緊張からか無駄に騒いでいる者。様々なプレイヤーたちが集まって出来た喧噪の一角に、やけに華やかな空間があった。


「いやぁ、ついに来たっすねぇ。二日とかあっという間だったっす」

「ん、確かに。もっとリュー君と一緒にいたかった」

「……えっと、どうして私はここにいるんでしょうか?」


 けらけらと気楽な笑みを浮かべるマオ、どことなく不満そうな空気を漂わせるサファイア、オロオロとあたりを見渡すアッシュ。【フラグメント】所属の美少女たちが一堂に会していた。

 マオとサファイアは緊張した様子もなく、自然体でいるのに比べ、アッシュは見るからに緊張していた。背中を丸め縮こまり、周りを気にして二人の影にこそこそと隠れようとする。


「ところで、アッシュはなんでそんなに挙動不審なんすか? ぶっちゃけ、すげぇ怪しいっすよ?」

「あやっ……!? だ、だって、ここには人付き合いをほとんどしない私でも知っているような有名プレイヤーがわんさかいるんですよ!? そんなところに私みたいな木っ端プレイヤーがいると思うと、場違い感がですね……!」

「あー、悪い感じに拗らせてるっすねぇ。そんなこと、気にする必要ないっすよ。アッシュだってトップギルドたるウチのメンバーなんすよ? もっと堂々としてればいいんすよ」

「そ、そんなことできるわけないじゃないですかぁ!?」

「アッシュ、声が大きい。逆に注目集めてる」


 サファイアに言われ、ハッとしてあたりを見渡すアッシュ。すると、瞬時に視線を逸らすプレイヤーが一人二人三人……。結構な人数がそっぽを向いた。そして、それは何よりも雄弁に注目を集めていたという事実をアッシュに伝えることになった。

 その結果、


「あ……あわっ……あうぅ………」

「わーお、顔真っ赤」

「……何故わたしの後ろに隠れるのか」


 急速に顔を赤く染めたアッシュは、両手で顔を隠し、サファイアの背中に隠れた。そんなアッシュをマオは悪戯っぽい笑みでからかい、サファイアは呆れを含んだ声で不満げに呟いた。

 

「サファイア……マオ……今からは私をいない者として扱ってください……。もう視線に耐えられそうにありません……。人の目怖い、お外怖い」

「……なーんか、アッシュの人見知りというかボッチ体質というか。その辺が悪化してないっすか? 前はもうちょっと耐性があったと思うんすけど……」

「……完全に一人になれる個人工房を手に入れたことで、ボッチレベルが上がった」

「その結果、人間耐性が下がったってことっすか? レベル上がって耐性下がるとかボッチってクソジョブっすね」

「ん、だから社会からも爪弾きにされる。さっさと転職すべし」

「神殿で一発ってわけにはいかないっすけどね」

「うぐぅ……!?」


 サファイアとマオの容赦ない言葉が、アッシュの胸にぐっさぐっさと突き刺さる。ついでに、美少女三人の姦しい会話を盗み聞きしようと聞き耳を立てていた者たちの中にも、「ぐっ……!」と苦し気に胸を押さえる者が続出した。

 恐るべき範囲精神攻撃を行った二人は、背後から聞こえてきた呻き声に、「しまった」という顔をして、慌ててアッシュの方へと振り返った。


「ぐすっ……ひぐっ……」

「ガチ泣き!?」

「そう言えば、割りと豆腐メンタルだった」

「完っ全にやり過ぎたっすね。先輩にやるつもりでやってたっす」

「リュー君は精神力もつよつよ。だてにわたしたちの幼馴染をやってない」

「……自分たちが面倒っていう自覚はあるんすねぇ。っと、そんなことより、今はアッシュが先っすよ」

「ん」


 ついにその場にしゃがみこみ暗雲を背負い始めたアッシュを、あの手この手で宥めること、五分。アッシュは何とか暗黒面に落ちることを免れたのだった。

 

「……そういえば、リューはどこに? 要塞の上にはいないみたいですけど……」

「おやぁ? アッシュは先輩がいなくて寂しいんすか? いやぁ、愛されてるなぁ、先輩。羨ましいっす」

「からかわないでください! もう、マオはいつもそうなんだから……。えっと、サファイアはリューがどこにいるのか知ってますか?」

「……んー、はっきりとは分からないけど……多分、聖女様のところだと思う」


 サファイアがそう言うと、アッシュとマオは「あー……」と微妙そうな顔をする。


「リュー……本当にずっと聖女様と一緒でしたね。これでもかってくらいべったりして……」

「まぁ、先輩ってだけで納得といえば納得っすけど……」

「「……なんか、ズルい(っす)」」


 聖女様が今回のイベントに置いて重要な役割を果たしていることも、そんな聖女様の護衛が必要不可欠なことも、護衛が護衛対象の側を離れられないことも、理解はできる。

 だが、納得できるかといわれれば話は別だ。恋する乙女の内心はペタミンクスよりも複雑怪奇なのである。


「大体、先輩はソロが好きすぎるんすよ。同じギルドになったってのに、これじゃあ何の意味もないじゃないっすかー。なーんであそこまでソロ特化何すかねぇ……アッシュじゃあるまいに」

「マオ? 聞こえてますからね? ……けど、マオの言うことも一理あります。せっかくのMMOなんですから、もっと他のプレイヤーとの接点を持つべきだと思います。ぐ、具体的には……その……わ、私と一緒に……」

「アッシュ、欲望が駄々洩れ。……けど、わたしだってもっとリュー君と一緒に遊びたい。リュー君分が足りてない」


 異口異音に自由気ままに一人を謳歌する神官の皮をかぶった戦闘狂への不満を口にする。唇を尖らせたり頬を膨らましたり、それぞれの方法で不機嫌さをアピールする三人。


「先輩、たった二日で聖女様と随分と仲良くなったっすよね。聖女様が先輩に注ぐ視線、これでもかってくらいあっつあつだったっす」

「ん。私の見てないところでも色々と好感度上げてた」

「……リューって、聖女様みたいな子が好きなんでしょうか?」


 ぼそり、とアッシュの口から呟かれた言葉に、三人はピシリと固まった。

 聖女様みたいな子……つまり、幼い女の子。本当だとしたらとんでもない。いやいや流石にそれは……と否定しようとするが、ここ二日間のリューの様子や、常日頃からの使い魔(アヤメ)に対する態度を見ていると、即座に否と断ずることが出来なかった。


「前に全力で否定してたっすけど……」

「強く否定するほど怪しいともいいますよね……」

「ということは……リュー君は、ロリコン?」


 シン……、と痛いくらいの静寂が三人の間に流れる。そんなはずはない……いやでも、もしかしたら……と、疑心暗鬼に陥ってしまう。

 

「おーい、お前らー……って、なにこの空気?」

「あら? なんだか、とっても愉快な気配がするわ」


 黙りこくってしまったサファイアたちは、聞こえてきた声の方に視線を向けた。そこには、三人の様子に驚いているアポロと、心底愉しそうな笑みを浮かべたアテネがいた。

 

「アポロにアテネ? どうかしたの?」

「いや、リューのやつがどこにいるか知らないかって聞きに来たんだけど……知らなさそうだな」

「先輩に用事っすか?」

「ええ、神官さんにちょっとやって貰いたいことがあるの」

「「「やってもらいたいこと?」」」


 きょとん、とする三人に、微笑んだアテネは、その『やって貰いたいこと』の内容を説明した。


「――って、わけなんだけど、どう?」

「……それは」

「……なんというか」

「……とっても」

「「「面白そう(っす)!」」」


 とってもいい笑顔で言う三人に、アポロは拒否権が消滅した幼馴染を思い、静かに黙禱を捧げるのだった。

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