リバイヴ・オブ・ディスピア 真相・上
新年あけましておめでとうございます。
……はい、クリスマス短編ぶりですね。お久しぶりです。
ここ最近、ネット環境のないところに旅行に行ったり、コミケに参加したり、アイパッドを買ったのでFGOを始めたりと大忙しでした。
新年最初の更新がこんな中途半端な時間で申し訳ございません。
ソロ神官はまだまだ続きます。今年も頑張って書きますので、応援よろしくお願いいたします。
ちなみにですが、FGOの正月限定福袋で出たのはマーリンでした。やったぜ。
会議室に、緊張した空気が流れる。
「……それで? 神官は何故こんな真似をしたんだ?」
体の周りに無数の魔法を展開した状態で、マギステルがリューへ問いかけた。その表情には特大の疑念と、僅かばかりの恐怖が宿っていた。突飛な行動にでたリューを訝しむと同時に、その鬼畜外道な行為に恐れをなしたのだ。
マギステル以外にも、アテネやレイは油断なく武器を構え、すぐにでもリューを制圧できるように備えている。アポロとサファイアが浮かべる表情は、困惑がその大部分を占めている。その他のプレイヤーも武器を取り出してはいるが、リューへの恐れが勝っているのか、体が強張っていた。
リューがここまで恐れられているのは、訓練場での百人斬りを映した動画が掲示板に上げられたことが原因だった。
今まで、リューの実力は噂になっていたものの、本人のソロプレイ思考からの交友関係の狭さのせいで、あくまで噂レベルでとどまっていた。リューの掲示板の住人が、動画の拡散などをしない……もとい、どこぞのブン屋の手によって止められていることも、リューの情報が不明瞭な理由の一つだったりする。また、噂の内容が『ボスのソロ攻略』や『空を飛ぶ』や『神官系の職業のプレイヤー』や『ロリコン野郎』といった信じがたいモノだったことも事の一端である(一つ以外真実だが、信じ難いことに変わりはない)。
リューのことを直接知らないプレイヤーにとって、リューは『いろいろと噂は聞くけど実物を見たことはないし、噂の内容も信じられないものが多いし……』といった感じに評価されている存在だった。
そこに投下された、リューによるプレイヤー百人斬りの動画。圧倒的な実力によってなされた多数対一という状況下による『一』の蹂躙。
イベント攻略用の掲示板に投稿されたその動画は、リューの圧倒的な力をこれでもかとプレイヤーに知らしめた。そして、始終笑顔で戦い続けるその戦闘狂っぷりと、巨大なメイスを振り回し並み居るプレイヤーを手あたり次第に叩きのめす狂戦士っぷり見たプレイヤーたちは、皆一斉に思った。「こいつ、やべぇ」、と。
動画を見たプレイヤーの中には、視聴後しばらく体の震えが収まらなかった者もいたとかいないとか。リューの戦闘風景は、他者の根源的な恐怖―――肉食獣を前にした小動物が抱く、被捕食者の恐怖―――を呼び起こす作用があるらしい。
この会議室にいるプレイヤーたちは、全員がトップギルドの上の立場にいるプレイヤーであり、そんな彼らは戦力確認の目的でリューの動画を視聴済みだった。
そんな彼らの前で、リューが暴挙としか言いようのない……それも、いきなり女性に襲い掛かるという特大の暴挙をやらかしたのだ。その結果、動画を見た時の恐怖が蘇ってしまったというわけである。
「そうですね……説明の前に、保険をかけておいてもいいですか?」
「……保険? なんのだ?」
「万が一、拘束が解かれた時の保険です。…………【ソードオブフェイス】」
「ッ!!」
無数のプレイヤー……それも、FEO内でも指折りの実力者たちに囲まれているというのに、リューの顔に緊張は無く、あくまで冷静だった。冷静に、ガッチガチに拘束した女性プレイヤーの周りを囲むように、いくつもの光の剣を待機させた。
リューがいきなり攻撃魔法を使ったことに顔をこわばらせたプレイヤーたちだが、出現した剣が動く気配を見せないことに、困惑を浮かべながら動き出すのをやめる。
「さて、これで万が一があっても大丈夫でしょう」
そう言って、にっこりと微笑んで見せるリュー。本人としては警戒をやわらげようという意図の行動だったのだが、それを受けた者たちの反応は――――ビクッ! ガタガタガタガタ……完全に逆効果だった。『神官+笑顔=恐怖』という、リュー公式が彼らの中にしっかり刻み込まれている証拠である。
「……あれ? 俺、なんでこんなに怯えられてるの?」
「リュー様は別に怖くありませんよ? 安心してください。彼らはきっと、自らが置かれていた状況に気が付き、今更ながらに怖くなったのでしょう」
「「いや、確実にリュー(君)が怖がられてるから」」
双子からの鋭いツッコミに、「何ッ!?」と驚愕の表情を浮かべるリュー。真面目に無自覚だったらしい。
そんなリューに対して、アポロとサファイアからジト目ビームが送られる。呆れ成分が多大に含まれたその視線を受けたリューは、キョロキョロと視線を彷徨わせると、誤魔化すようにコホンと咳払いをした。
「ま、まぁ。やり方が少しばかり強引だったかな。うん」
(((((……あれで、少し)))))
不意を突いて、巨大なメイスを顔面へフルスイング。さらに追撃を加えようとし、それが失敗すれば即座に滅殺から束縛に路線を変更し、ガッチガチの雁字搦めにする。おまけに、少しでも抵抗した途端に襲い掛かってやる! と殺意を滾らせた浮遊する魔法の剣で完全包囲。
これだけやっても、それを『少しばかり』と宣うリュー。リューを取り囲む面々に恐怖が追加される。
「……リュー君、とりあえず、説明。今のままじゃ、わたしたちは何も分からない」
「そーだぜ、リューが意味もなくあんなことをするとは思えな…………い……? ……いや普段のリューなら兎も角、イベントってことで気がたってるリューならあるいは……?」
「……アポロ、ちょっと黙れ」
「あぐっ!?」
いらんことを言うアポロを杖で殴って黙らせたサファイアは、視線でリューに説明を始める様に促した。
その視線にコクリと肯定を返したリューは、傍らに立つイーリスと視線を合わせると、小さく頷き合った。
「では、どうして俺がこれを襲ったのかに関しての説明をさせていただきます。その前に、いきなりこんなことをして、皆さんを驚かせてしまったことを謝らせてください。すみませんでした」
「私からも、申し訳ございません」
リューとイーリスがぺこり、と頭を下げ謝罪する。深々と頭を下げた二人のその姿に、会議室に流れていた緊迫した空気が幾分か和らいだ。
きっかり十秒間頭を下げたリューは、頭を上げ、自らの背後―――拘束された女性プレイヤーを、くいっと親指で指し示した。
「話すと少しばかり長くなりますので、簡単に言うと……これが、敵だからです」
「……敵、だと? どういうことだ。その人はどう見てもプレイヤーじゃないか!」
レイがそう声を荒上げた。その言葉に賛同するかのように、うんうんと何人かのプレイヤーがうなずいた。そんな彼らに、リューがさっと視線を向ける。レイの言葉に賛同していたプレイヤーたちは、サッと顔を逸らした。
そんなプレイヤーたちの反応は気にせずに、リューはレイへと視線を固定し、決定的な一言を淡々と告げた。
「では、レイさん。これがどこの誰か、分かりますか?」
「……? いや、僕は知らないが……」
そう言ってレイは隣のプレイヤーに、お前は知っているのかと視線で問いかける。だが、そのプレイヤーも知らないと首を横に振り、また別のプレイヤーに知っているかと問いかける。
ざわめきが会議室に広がり、あちらこちらで拘束された女性プレイヤーの素性確認が行われた。
だが、
「……あれ?」
最初におかしいと気づいたのは、サファイアだった。
自身がまるで女性プレイヤーを知らなかったので、他のプレイヤーへの確認をアポロに任せ、自分は会議室で交わされているやり取りに耳を傾けていたサファイアは、ある違和感を覚えた
その違和感の正体には、すぐにたどり着いた。
「……誰も、知らないの?」
どこからも、誰からも、女性プレイヤーのことを知っている、という声が聞こえてこない。違和感に気付いてからさらに注意して声を聞くも、一向に女性プレイヤーの素性に関する情報が出ない、
今現在、この会議室の中にいるのは、トップギルドのギルドマスターに副ギルドマスター。そして、各ギルドの幹部たち。それ以外の者は一切の立ち入りを禁止している。
それはすなわち、この場にいるプレイヤーの素性ははっきりしているということだ。他のギルドのメンバーにまで意識が回っていなかったとしても、同じギルドのメンバーなら間違えようがない。それが下っ端ではなく幹部であるならなおさらだ。
しかし、会議室にいるプレイヤーたちは、誰一人として拘束された女性プレイヤーの正体を言うことが出来なかった。
サファイアが感じていた違和感は、すぐに会議室中に蔓延した。いつまでたっても正体の分からない女性プレイヤーへと、彼らは視線を向けた。
「……ねぇ、リュー君」
「なんだ、サファイア」
「……それは、誰なの?」
それの部分で拘束された女性プレイヤーを指さしながらサファイアがリューに問いかける。
その言葉を待ってました、とでも言うようにリューは満足げに微笑み、会議室中に聞こえるような声で告げた。
「これは――――『悪魔』です」
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