リバイヴ・オブ・ディスピア 伝承
更新です。
「フハハハハ! こちらは何だ? ほう……【グラスリーパー】か。一体どんな魔法なのやら……って、草刈り魔法ではないか!」
「何の役に立つんですかね、それ。農家さんとかは重宝しそうですけど」
「いや、農家には使えんだろう。必要技能が風系統第二階位スキル30だからな」
「流石にそこまで風魔法育ててる農家はいないでしょうね。ほんと、何の役に立つんだか……」
「所謂ネタ魔法というわけだろう。面白くていいではないか!」
「はいはい、そうですねー。どーでもいいですけど、そろそろ調査に戻りません? さっきから寄り道ばっかりで肝心な方がまるで進んでないじゃないですかー」
「今、どうでもいいとか言ったぞこやつ。……まぁいい。しかしてセイよ、肝心の方とは一体何のことだ? 魔導書を集める以外に肝心なことなんてあったか?」
「忘れてるよこの人!? ですから、僕たちがこの書庫に来たのは、魔導書を探すためじゃなくて、イベントの攻略に役立ちそうな本を探すためなんです!」
「な、なんだってーー!」
「……ふざけてるとブチ転がすぞ、オラ」
「う、うむ! そうだったな! では、ここにある魔導書の確認が終わったら、そちらの作業に移るとしよ……」
「……【フレイムボール】」
「――――と、思ったが気が変わった! 先に調査を終わらせてしまおうか!!」
……という、漫才かとツッコミたくなるようなやり取りをするマギステルとセイ。リューとイーリスが聞いた「ミツケタ」という声は、マギステルが探索中にこの本の山を発見し、その時に叫ばれたモノだったようだ。
とりあえず、謎の声が書庫を彷徨う亡者のものではないと分かったので……。
「「……はぁ~~~~~~~~」」
リューとイーリスは、気の抜けた声を出し、ずるずるとその場にへたり込んだ。無駄に緊張していた分、徒労に終わった時の疲労感が大きい。
二人はどちらからともなく顔を合わせると、「あはは……」「えへへ……」と力なく笑い合った。
「お、お化けじゃなくて良かったです……」
「あのタイミングでしたからね。もしかしてって思いましたよ。はぁ、こんなオチでよかった」
「……というか、リュー様があんなことを言うから、こんなに怖い思いをしたんですよ!」
「うっ……、す、すみません。反省します」
「ええ、しっかり反省してください」
イーリスにぷんすか! と怒られ、素直に謝るリュー。事の発端が彼の悪ノリにあるため、弁明のしようがなかった。
「……お前ら、そんなところで何をしているんだ?」
「あれ、聖女様にリューさん。どうかしたんですか?」
それなりの騒がしさで話していた二人の声は、当然近くにいたマギステルとセイにも聞こえていたようで、本棚の側にへたり込む二人の元へとやってきて不思議そうに問いかけた。
そう聞かれたリューとイーリスは何と答えようかと顔を見合わせる。流石にそのまま事情を説明するのは恥ずかしい……という思いを一瞬で共有した二人は、コクリと頷きあった。
――――よし、誤魔化そう。
そうと決まれば行動が早かった。素早く立ち上がったリューは見惚れるような動作でイーリスへと手を差し伸べ、その小さな体を優しく支える。
リューの手を借りて立ち上がったイーリスは、マギステルとセイに向けて綺麗に一礼。頭を上げ、聖女然とした微笑みを浮かべたイーリスが口を開く。
「驚かせてしまってすみません。実は今、事態の解決に向け動いてくださっている異邦人の方々の元を訪ねて回っているのです。その一環としてこの書庫にも足を運んだんです。代表者の方に挨拶をと思ったのですが……お姿が見えなかったので、探していたんです。やっと見つかったので、ほっとしたら少々疲れてしまいまして、それで少し休憩をと」
「俺はイーリス様の護衛ですから。常にご一緒させていただいています」
にっこり笑顔の仮面で堂々と誤魔化そうとするリューとイーリス。二人の、さもそれが真実であるかのような物言いに、何かがおかしいと思いつつも、マギステルは頷きを返すことしかできなかった。
「そ、そうか……。それはすまなかった。ついつい魔導書探しに熱中してしまってな。調査の方がおろそかに……」
「ギルマス、疎かじゃないでしょう? 報告はきっちりと行ってください」
「……すまん、ほとんど進んでいない」
セイに言われてがっくりと項垂れながら言い直すマギステル。その様子は隠していたことが親にばれた子供の様だったが、リューたちもマギステルたちの声を亡霊のモノと勘違いしてビビっていたことを誤魔化した負い目があるので、ツッコむこともできず曖昧に微笑む。
がみがみとマギステルへと説教するセイを「もういいですから」と止めて、イーリスは聖女スマイルのままマギステルに尋ねる。
「お気になさらないでください。ほとんど、ということは少しは進歩があるんですよね? まずはそれを教えていただけませんか?」
「おお……この慈悲深さ、まさしく聖女だな。どこぞの副ギルドマスターにも見習ってもらいたいものだ……」
「ギルマス、ここにある魔導書、全部燃やしますよ?」
「ごめんなさい」
セイの脅しにあっさり屈したマギステルが深々と頭を下げる。二人の力関係が分かりやすいくらいに分かる一幕だった。
頭を上げ、咳払いをしたマギステルはこれまでの調査で分かったことを話し始めた。
「まず、あのボスモンスター……グラシオン・ゲーティスだったか? あいつの正体が大体分かった」
「正体……というと、アンデッドになる前のグラシオン・ゲーティスのことが判明したと?」
「ああ。あいつの生前は、この城があった国……ナルメア王国に仕える宮廷魔導師だったらしい」
「宮廷魔導師ですか!? それならば、あの魔法の腕前も納得です」
この世界の宮廷魔導師といえば、辺境にある農村の住民でも知っているほどの力を持つ魔導士だ。プレイヤーのレベル換算で100……といえば、その力がどのくらいか分かるだろうか?
宮廷魔導師の実力を正しく理解しているイーリスは驚きに目を見開き、理解していないどころか宮廷魔導師が何なのかよく分かっていないリューは、内心で「宮廷魔導師って?」と首を傾げていたが、場の空気を読んで質問を自重した。
アイテム欄から一冊の本を取り出し、ペラペラとめくって見せたマギステル。開いたページには、魔物の軍勢を従える一人の魔導士の挿絵が白黒で描かれていた。
「そして、周辺国からはこう呼ばれていたらしい。『最強の召喚士』、『ナルメア王国の矛にして盾』、『孤高の万軍』……たった一人で他国の軍隊と渡り合えるほどの実力を有していた……と、俺らが見つけた歴史書には書いてあった」
「そ、そこまでの相手なのですか!? そんな……」
これから戦わなければならない敵が予想外に強力なことに、イーリスは表情に軽く絶望を滲ませる。
話をしているマギステルも、そばで聞いているセイも、表情は険しかった。
「……歴史書に書かれていたかつての戦いの記録を元に考えるに、グラシオン・ゲーティスが有する戦力は、一万や二万で収まるとは思えない。人の状態でそうであるならば、魔導に精通し膨大な魔力を誇るリッチになっている今、どれほどの力を持っているか……あまり、考えたくはないな」
「…………」
「……分かっているのはここまでだ。その後、グラシオン・ゲーティスがどうなったのかが書かれた歴史書の後半はまだ見つかっていない。あまりに見つからないもんだから、俺も魔導書の方に気がとられるようになって……」
「魔導書に気を取られるのはお前の本能だろうが。歴史書が見つからないせいにしないでください」
「ぐぅ……」
ぐぅの音しか出ないマギステルの様子に、沈んだ表情を浮かべていたイーリスも思わずクスリと笑みを溢した。
それで少し気持ちを持ち直したイーリスは、悪い方向に行こうとする思考を引き留め、気合を入れ直した。
敵が想像以上に強いのは分かった。ならば、すべきことは悲嘆に暮れることではなく、どうすれば勝てるのかを考えること。
そのためには、もっと詳細な情報が必要になるだろう。せめて、グラシオン・ゲーティスの最後がどうだったのかが分かれば……。
と、イーリスがそこまで思考を進めた時、ふと、さっきからリューが一言も話していないことに気が付く。
どうしたのだろう、と隣に視線を移すと……そこに、イーリスの身長ほどもある、本の塔が出来上がっていた。
いきなり隣に建設されていた本タワーにぎょっとしたイーリスは、それを築いたであろう人物へと視線を移す。
「リュ、リュー様? 一体何をしているんですか?」
「探し物です。えーっと、確か……あれ、違う。じゃあこっちか……? これでもない。あれー? たしかあったと思うんだが……」
床に山積みした本の中から、あれでもないこれでもないとお目当てのものではない本を横に積んでいくリュー。イーリスの隣に建設されたモノと同じモノが、すでに三つは出来ていた。
それは、マギステルたちを見つけるまでに、リューが倒した本型モンスターからドロップした本の数々だった。かなりの数を倒していたことと、一体から二冊三冊と手に入ることもあったので、リューの足元に積まれた本は三桁を優に超えている。そこからお目当てのモノを見つけるのはかなり大変だろう。
「おっ、あった!」
それでも、数分のうちにリューがそう言って一冊の本を掲げた。三人の視線が、リューの持つ本に注がれ……大きく目を見開いた。
「……! リュー様、それ……!」
「おお……! やるではないか神官!」
「なんたる偶然……。いや、これもまた、リューさんの実力なんですかね?」
リューが見つけた本。それは、マギステルたちが見つけた歴史書の後半部分だった。
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