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ソロ神官のVRMMO冒険記 ~どこから見ても狂戦士です本当にありがとうございました~  作者: 原初
序章 FEO開始編

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将軍様、討ち取ったり

ゴブリンジェネラル戦、決着です。

「……【ストレングスエンハンス】。……【ディフェンスエンハンス】」



 効果の切れた強化魔法をかけ直し、ゴブ将軍に殴りかかる。

 まずは、右手。[初心者メイス]を横薙ぎに叩き付ける。その攻撃は大剣で簡単に防がれてしまった。だが、本命の攻撃は左。[鉄のメイス]で狙うは、ゴブ将軍の肩。



「グギャァッ!!」



 よし、命中だ。肩を抑えて後退しようとするゴブ将軍に追撃の蹴り。次いで、殴打、殴打、殴打ァ!!

 連続でメイスを叩き込むが、ゴブ将軍は怯むことなく大剣での斬撃を繰り出してくる。俊敏で重い一撃を喰らうまいと、大剣……ではなく、大剣を握る腕を狙って右足を跳ね上げる。腕に命中した襲撃は、斬撃の軌跡を上手くそらし、大剣がわずかに掠るだけの結果に。

 そのわずかですら俺のHPを五分ほど持って行ってしまう。まったく、馬鹿げた攻撃力だ。


 だが、こうやって戦っていると、大剣の弱点のようなモノも見えてくる。それは、間合いだ。

 大剣は、俺の使っているメイスに比べると、倍以上の攻撃範囲を誇る。だが、その分接近され過ぎるとどうしても威力は落ちてしまう。

 そうとわかれば、俺が選ぶべき戦闘スタイルは近接でのインファイト。大剣の攻撃を阻害しながら、メイスの振るいやすい間合いに常に居続けることで、ダメージを最小限に減らす。


 だが、相手もそれでどうにかなってしまうほど甘くはなかった。大振りの一撃で俺を吹き飛ばしたと思ったら、返す剣が俺の腹を一文字に斬り裂く。がくんと減るHP。


 VRなので痛みはかなり軽減されているとはいえ、腹を斬り裂かれるのはあまり気持ちいいものではない。いや、気持ちいいとか言い出したら、それただのやべぇヤツだわ。

 慌てずに【ヒール】を発動させ、確実にHPを回復させていく。ダメージは多いとはいえ、【ヒール】二回で完全回復する程度。DEFに多めにSPを振り割っておいてよかった。


 回復しながらも、こちらから攻める手を休めることはない。攻撃こそ最大の防御という言葉を体現したかのような戦闘スタイルは、ゴブ将軍のHPを確実に削っていた。やっぱり、俺にはこの戦い方が一番しっくりくる。


 細かいダメ―ジを喰らうも、一瞬で回復。大振りな攻撃は極力出だしを潰すことで対処する。そして、近距離でのメイス乱舞。加えて蹴り。

 殴り、蹴り、妨害し、回復する。自画自賛したいほどに隙が無い。

 気になるのはMP消費くらいだが、毎回毎回MINDにSPを振っておいたおかげで、MPにはかなり余裕がある。それに、ゴブ将軍の動きに慣れてしまえば、被弾はほとんどなくなると思っていいだろう。


 そう、全ては順調に進んでいる。その、はずだった。



「グガァァアアッ!!」



 それは、ゴブ将軍が雄たけびを上げながら繰り出した袈裟斬りを[鉄のメイス]にて受け止めた瞬間だった。


 バギンッ!!


 そう、不吉な音を立てながら、[鉄のメイス]が砕け散った。



「はい?」



 思わず、そんな間抜けな声を上げてしまう。ポリゴンとなって消えていくメイスを、ポカーンと見つめていた。

 えっと……。なんでいきなり壊れたの……? 

 ………………あ。そっか、耐久度……。すっかり忘れて……へぶっ!?


 唖然として、完全にゴブ将軍への注意を忘れるという大失敗をした俺は、大剣をモロに喰らってしまった。

 一気に削られるHP。体勢を崩された俺に、さらなる追撃が降り注ぐ。それを何とか[初心者メイス]で受け止め。地面を転がるようにしてその場から離れる。


 ああ、もう! なんかホブゴブにボコられた時と似たようなミスしてんじゃねぇよ、俺ェ! 

 内心で自分に罵倒を浴びせながら、三割まで減ったHPを【ヒール】で回復させていく。


 しかし、耐久度かぁ……。なんか、記憶の片隅に引っかかってはいたんだけど……。まぁ、そんなのは言い訳に過ぎないか。


 連続で【ヒール】を使用して、HPを全回復させる。さてと、優秀な火力が無くなっちゃったんだけど、どうするかなぁ。

 ゴブ将軍の残りHPは四割ほど。[初心者メイス]でちまちま削っていけば、倒せないこともない。


 でもなぁ、それだと、あんまりおもしろくないというか……。

 俺は別に、効率よく勝ちたいとか、楽して勝ちたいと思っているわけではない。これはゲームなのだから、楽しめればそれでいいのだ。


 で、今のこの状況。俺の大ポカで、装備を失うというアホをやらかした。メイス二刀流での連続攻撃があったからこそ、ゴブ将軍の行動を制限できていたのだ。それが無くなった今、あの大剣での猛攻を防ぐすべは……無い。

 はっ、わかりやすく危機的状況じゃないか。一旦死に戻ってから、装備を整えて再戦するという手もあるにはあるが……。自らあきらめという選択をするのは、か~な~り~、癪だ。

 それに、こういう困難な状況だからこそ、打ち破ってやりたくなる。


 くくっ、さぁて、どうこの状況を切り抜けるかな……?


 そうやって思考している間にも、ゴブ将軍は攻撃の手を緩めてはくれない。[初心者メイス]でなんとかしのいでいるが、しのぐのが精一杯という感じだ。

 攻撃力、防御力、回復力。これらは申し分ない。足りていないのは、手数。

 なら、足りていない手数を補うには、どうしたらいい? よく考えろ、俺。

 

 ………………ふむ、一応思いついたのだが……。俺の職業的にこれは……。まぁ、つべこべ言ってられないか。それに、今思い付いた作戦とも呼べないような考えは、俺的にかなり面白い。


 まぁ、やるだけやってみようか。ダメだったら、また別の作戦を考えればいい。何事も、トライ&エラーってね。


 そうと決まれば、思い立ったが吉日。さっそく実行と行きますか。



「【パワークラッシュ】!」



 攻撃と攻撃の間隙を縫って、威力を高めた打撃をゴブ将軍の胸に叩き込む。打ち据えることじゃなくて、吹き飛ばすことを目的とした一撃は、ゴブ将軍をある程度後退させた。


 その隙に、アイテム欄から取り出したMPポーションを二本、自分の体に振りかけて、MPを八割近くまで回復。ついでに、微妙に減っていたHPも、HPポーションで回復する。


 

「……【ストレングスエンハンス】。……【ディフェンスエンハンス】」



 いつもの強化魔法をかけ直す、だが、今回はそれだけじゃない。もう一つの強化魔法を、次いで発動させる。



「……【アジリティエンハンス】」



 使用するのは、敏捷強化魔法。さぁ、これですべての準備は整った。

 俺は、こちらに向かって来ようとしているゴブ将軍を見据え、右手に握った[初心者メイス]を、呼び出したアイテム欄に放り込んだ。


 無手となった俺は、拳を握り、体勢を低くして、地面を強く踏みしめる。これが、俺の思い付き。メイスを捨てて、攻撃力を犠牲に機動性と手数を手に入れる策。

 素手喧嘩ステゴロだ。

 

 

「行くぞ、将軍様ァ!!」


「グガァッ!!」 



 俺の挑発に、ゴブ将軍が横薙ぎの一撃を見舞ってくる。ここはバックステップか何かで避けるのが正解なのだろう。

 だが俺は、そこであえて前に踏み込む。地面を強くけって、タックルするような形でゴブ将軍に突っ込んでいく。

 当然のように、俺に横薙ぎの一撃が命中する。だが、距離を詰めたことによって一番速度の遅い鍔あたりが命中したことで、ダメージは最小限に抑えられる。

 接近してしまえば、こちらの攻撃が有効になってくる。だが、胴体は鎖帷子でおおわれているため、ダメージが少なくなってしまう。

 なら、狙う場所は……。



「喉ッ!!」


「グギッ!?」



 ゴブ将軍の喉仏を潰すように、中指の第二関節を立てた拳を叩き込む。これが一番えげつなく効くって、ロクでなしのおじさんが言ってた。


 俺の拳は、確かなダメージを与えられたようで、ゴブ将軍が喉を抑えて後ずさった。それに追いすがっての蹴り。狙いは大剣を持つ手。うまく命中すれば、大剣を奪えるかもしれないと思ったが、残念ながら回避されてしまった。


 拳と蹴りの猛攻と、大剣の剣技がぶつかり合う。戦いは。ちょこまか動ける分俺が有利に進んでいく。

 

 だが、ゴブ将軍のHPが二割を切った時に、その優位性は覆される。


 ゴブ将軍の体が深紅のオーラに包まれた。この現象は事前に太陽から聞いている。倒されそうになったボスがパワーアップするという、ゲームのお約束的なあれだ。発狂モードって言ったかな?


 発狂モードのゴブ将軍は、攻撃の威力と速度が上がり、防御が下がっているようだった。俺は、さらに集中力を高めながら、発狂したゴブ将軍の懐にもぐりこむ。


 さぁて、将軍様。最終ラウンドと洒落込みましょうかねぇ!!


 防御も回避も選択肢から排除して、ただただゴブ将軍に攻撃を叩き込む。腹、胸、首、肩、腕、足、脛、顔、目。体中に打撃という打撃を加えていく。確実に0に近づいていくゴブ将軍のHP。

 だが、それは俺のHPも一緒だ。防御も回避もしなければ、ダメ―ジは蓄積していく。

 

 そのダメージを相殺するのが、絶え間なく唱える【ヒール】。再詠唱時間リキャストタイムが終わると同時に詠唱時間キャストタイムを開始することで、ダメージを何とかなかったことにしていく。MPが無くなるその時まで、攻撃と回復を繰り返す。これぞまさに、ヒット&アウェイならぬヒット&ヒール。


 そしてついに、その時は訪れる。俺の放った蹴りが、ゴブ将軍の手から大剣を弾き飛ばした。思わず視線をそちらに向けたゴブ将軍の頭部を目がけて、跳躍。右の拳を力いっぱい握りしめ、振り上げる。


 そして、渾身の鉄鎚でそのこめかみを、打ち抜くッ!!


 ドゴッ! という音ともに、仰向けにぶっ倒れるゴブ将軍。俺はすかさずその胸を踏みつけ、動きを封じる。


 ゴブ将軍のHPゲージは、ほとんど真っ黒に染まっている。それを確認した俺は、アイテム欄を開き、しまっておいた[初心者メイス]を取り出す。

 握りしめたメイスで肩をポンポンと叩き、自分のMPを確認。うん、ちゃんと一回分残ってるな。


 それじゃあ、これで……。



「くたばれ、将軍様! 【パワークラッシュ】!!」



 全身全霊を込めたとどめの一撃。それを、ゴブ将軍の頭部に叩き込む。

 グシャリと、まるでスイカのように砕け散るゴブ将軍の頭部。赤いポリゴンがまき散らされ、そして、HPゲージが完全に黒く染まった。


 ゴブ将軍の体がポリゴンに変換されていくのを見送り、俺は、その場にへたり込み、大きく息を吐いた。



「勝った……。けど、疲れたぁ~……」



 うん、大変だった。本当に大変だった……けど、まぁ、楽しかったから良しとしよう。

 メニューを開いてっと。うん、ちゃんと、[ゴブリンジェネラルの血液]がドロップしてるな。目標達成だな。


 何はともあれ、これで俺は、シルさんのクエストをクリアするために必要なアイテムを、すべてそろえることができたのだった。

 

なお、ゴブリンジェネラルは挑む人数によって能力値が変化するタイプのボスモンスターです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] たしか、中指の第2関節を曲げて殴るのはダメージはおおきくなりますが、その分指1本にかかる負荷も上がるので簡単に骨折するはずなので、折れるまではいかなくとも、痛がる程度の描写が、あるとも…
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