リバイヴ・オブ・ディスピア 書庫
お久しぶりです、原初です。
……ええ、本当にお久しぶりです。一か月振りくらいですかね?
今回はテストやら体調不良やら、なんかいろいろ重なりに重なって、こんなことになってしまいました。申し訳ございません。
というわけで、久しぶりの更新ですね、どうぞお楽しみください。
訓練場にて百人斬りという偉業を成し遂げたリューは、【フラグメント】の面々や死屍累々となったプレイヤー達と別れ、イーリスと一緒に次なる目的地に向かっていた。
「はぁ……」
「あれ? どうかしましたか、リュー様」
「いやぁ、さっきの模擬戦の疲れがちょっと……。楽しかったですけど、やっぱり百対一は大変でした」
「ふふっ、戦っている時のリュー様は、本当に楽しそうですよね。とても素敵な笑顔を浮かべていますし」
なお、戦闘中のリューの笑顔……通称『神官スマイル』を素敵と評価するのは極々一部の者だけである。常人の感性では恐怖しか覚えないだろう。
自分の笑顔が一部を除いた他者に恐怖を与えるなどまるで思っていないリューは、イーリスがにこやかに告げた賛辞に、少し頬を染めた。恥ずかしそうに頬を掻くと、はにかみながら「ありがとうございます」と言う。
「ところで、素朴な疑問なのですが……」
「はい、何でしょうか?」
「いえ、リュー様って戦いが大好きじゃないですか」
「そう言われると戦闘狂みたいでアレですが……まぁ、そうですね」
「ではなぜ神官職に就いたのですか? 確か異邦人の方々はこちらの世界に来る際に、才能適正関係なしに基礎職を選ぶことが出来るんですよね?」
「……えーっとですね、本職の方に言うと怒られそうであれなんですが………」
「……怒られるような理由なんですか?」
「あはは……まぁ、そうですね。なんせ、一人で戦うために回復魔法を使える職業ってだけで選びましたから」
「神官の存在意義に真っ向からケンカを売ってますね!? 人を癒し救うことが神官の使命であり在り方なんですよ!?」
「あはは……」
誤魔化し笑いをするリューに、イーリスは軽く攻めるような視線を向けた。
「もうっ! 敬虔な教徒にそんなことを言ってしまったら、間違いなくお説教なんですからね!」
「分かってます分かってます。自分が神官として異端なことくらい分かってますってば。今の俺の職業を見てもらえば分かるでしょう?」
「……えっと、あれ? 異邦人の方は頭上を注視すると、名前とレベルと職業が表示されるのですよね? リュー様の頭上には、何も見えないのですが……」
「え? ……あ、そう言えばアクセサリーで隠蔽してたんだっけ。えっと……これで見えますか?」
「はい、見えます。『狂戦士ん官』……神官系の職業であることは間違いありませんが、やっぱり聞いたことのない職業です。これでも職業柄、神官系には詳しいのですが……」
「まぁ、そうでしょうね」
なにせ、運営がリューのためだけに作ったような職業なのだ。情報がある方がおかしいだろう。というか、教会に保管されているだろう職業についての書物なんかに、『狂戦士ん官』なんて書かれているとか嫌すぎる。
ちなみにだが、イーリスがリューの職業を確認できなかったのは、リューが隠蔽能力を持つアクセサリーを装備していたからだ。このアクセサリーはリューのレベルが90になったと知ったアポロとサファイアが慌ててリューに装備させたものである。ただでさえ悪目立ちをすることの多いリューが、レベルカンストしたなどと知られれば、騒ぎになるのは目に見えている。それを事前に防ぐための対処であった。
なお、リューのレベルカンストに対して一番はしゃぐであろうどこぞのブン屋が、特に何もせずにおとなしくしているのは、サファイアが先回りしてブン屋にくぎを刺していたからである。その時に、いろいろとリューの情報やらスクショやらの取引があったとか無かったとか……真実は闇の中である。
「僧兵とは……また違ったものなんですよね?」
「そうですね。僧兵は神官系のデメリットである物理攻撃の低下が無くなったもの。俺の職業はデメリットの消失どころか物理関係に関しては強化されてますからね。回復や補助といった魔法も同じくです」
「……助ける力と壊す力が両立しているというわけですか。なんといいますか……すごく、規格外です」
「き、規格外?」
「はい。そもそもですよ? 神官系の職業は、回復や補助……つまりは、助ける力に特化しているわけです。聖と魔で言えば聖なる力ですね。ですので、戦闘技能……特に直接破壊をもたらす物理攻撃とは相性がとても悪いんです。聖なる力と魔なる力……相反する力を同時に内包しつつ、そのどちらもが均衡を崩すことなく力を発揮している。普通であれば、ありえないことなんです。リュー様にその自覚はないかもですが、これはすごいことなんですよ?」
「そ、そうだったんですか……」
ただ運営の嫌がらせだと思っていたら、何やら大層なモノだったらしいと、名前以外完璧な己の職業についての解説を聞くリュー。
聖なる力と魔なる力とか、なんとなくアッシュが聞いたら喜びそうな話だなぁ。ぴんと人差し指を立て、したり顔で話すイーリスを見つめながら、リューはそんなことを思ったのだった。
重要なのかそうでないのか判断の付きにくい会話をしつつ、二人が向かったのは城の書庫。
この城は、健在だったころの様子が再現されているらしく、書庫にも大量の本が収められた本棚が所狭しと並んでいる。
メタい話をすれば、イベント的にこの書庫から何らかの情報を得ることが出来るのだろうと、現在も探索が進められている。
そう、『探索』なのだ。流石にただ本を探すだけで情報が手に入ると言うほど甘くはない。
書庫自体が一種のダンジョンとなっており、そこに出現する本型の魔物を倒すことで書物がドロップする仕組みになっている。と言っても欲しい情報が載っている本が必ず手に入るわけではなく、ただの小説や画集のようなモノが見つかる確率の方が高い。
同じ敵との、終わりの見えない作業のような戦闘は、この書庫を攻略しようとする者たちのやる気を容赦なく削っていった。
しかし、どこにだって物好きはいるもので。
精神耐久の修行場のような書庫の攻略を喜々として行う一団が、書庫に足を踏み入れたリューとイーリスを出迎えた。
「本……本……本……。もっとだ……もっと本をよこせぇ…………」
「アハぁ……感じる……感じるわぁ……! 紙の匂い……インクの香り……そのどちらもが私を高ぶらせるぅ……!」
「一冊二冊三冊四冊ゥ!! まだまだ足りなぁい! 五冊六冊七冊八冊ゥ!!」
「ほう、これは……! って、三巻!? 一巻と二巻は!? 無いの!? ……ははははははははッ! やってくれるじゃねぇか……! いいだろう、最後の一冊になるまで狩り尽くしてやる……!!」
……なんというべきか。
二人を出迎えたのは、血走った眼を爛々と輝かせ、本型のモンスターを次々と屠っていくプレイヤー達。ある者は砂漠にて水に飢える遭難者の如き形相で本型モンスターを火祭りに上げ、またある者は恍惚の表情を浮かべながら風の魔法で周囲の本を斬り裂いている。
集めた本をひたすら自分の周りに積み上げその数を狂ったように数える者や、突然書庫の奥に爆走していく者など、実に個性豊かな集団だった。
オブラートに包まずに言うのなら、『狂人集団』だろうか? なんにせよ、見ているだけで正気が削られそうな光景だった。書庫に入るべく開いた扉をリューが、中を見た途端に反射的に閉じたくなったのも仕方がないというものだ。
「これは……み、皆さん、すごいやる気ですね!」
「そうですね……。やる気というか殺る気というのか……。なんにせよ、執念染みたモノがひしひしと伝わってきます」
二人して顔を引き攣らせながら、言葉を選んでその場に対する感想を述べる。善人気質な二人をもってしても、この光景は擁護のしようがないものだった。
少しの間呆然としていたリューとイーリスは我に返ると、とりあえず書庫調査を任されているプレイヤー達の、まとめ役になっているプレイヤーに挨拶をしようと、その姿を探す。
「えーっと、あの人は一体どこに……」
「見当たりませんね。奥の方にいるのでしょうか?」
本棚の間を進み、時折現れる本型モンスターを叩きのめしながらその者を探すも、中々見つからない。
リューとイーリスと二人でキョロキョロとあたりを見渡すも、視界に映るのは変わり映えのない本棚ばかりである。
その者を探して、奥へ奥へと進んでいくと、人影がだんだん少なくなっていく。やがて、人がいなくなり、静寂があたりを支配する。静かで薄暗い空間は、ただそれだけで不気味であった。
「……それにしても、この書庫は広いですねー」
背筋が寒くなるのを誤魔化すように、近くの本棚の背表紙をくるりと眺め、イーリスは努めて明るくふるまう。
こういう時は鋭いリューは、イーリスがわずかに震えていることに気づくと、その頭にポンと手を置き、自分がここにいるから大丈夫だと言うように、ゆっくりと撫でる。
それだけでふんにゃりと安心しきった笑みを見せたイーリス。そんな彼女を見て、もう大丈夫だと判断したリューは、ふと口元に悪戯っぽい笑みを刻む。
「確かに。それに、同じ景色がずっと続きますからね。…………そういえば、さっきドロップした本に書いてあったんですが……この書庫には、『出る』、そうですよ?」
「で、出る……?」
「ええ。こうして迷宮と化している書庫では、度々行方不明者が出たそうで。まぁ、景色も変わらない。どこまで続いているのか分からない。……そんな場所ですからね。迷い人が出てもおかしくないでしょう。問題は、その迷い人たちが、その後どうなるか、というところです。……イーリス様、どうなると思いますか?」
「え、ええ? えっと……その……」
「分かりませんか? ではお答えしましょう。……迷い人は、未だにこの書庫迷宮に捕らえられ、出口を探して彷徨っているそうです。…………ほら、丁度、あの人のように」
そう言って、リューはイーリスの背後を指さした。
ビクッ、とイーリスの肩が跳ねる。慌ててバッと振り返ったイーリスは、そこに何も存在していないことを確認すると、大きく安堵のため息を漏らした。
そして、きっ! と柳眉を吊り上げ、むぅ、と頬を膨らませてリューの方へ向き直った。聖女様を怖がらせた下手人は、クスクスと面白そうに笑っていた。
「こ、怖いこと言わないでください! リュー様のばかぁ!」
「あはは、すみません。……ちなみに、話自体は本当らしいですよ?」
「ひぃ! ど、どうしてそういうこというんですかぁ!?」
「イーリス様が可愛いから、ですかね?」
「………………………そ、そんな言葉で誤魔化せると思ったら、大間違いです!」
と、二人が甘さ漂うやり取りをしていた、その時だった。
―――――――――――ケタ。
ふと、遠くから聞こえてきた声に、リューとイーリスは顔を見合わせる。
「……いま、何か聞こえませんでした?」
「はい……誰か、いるんでしょうか?」
誰か、とイーリスが口にした瞬間。二人の頭に、今しがたしていた話の内容が思い浮かぶ。
――――書庫迷宮には、過去の迷い人が、未だに彷徨っている。
「……あはは、まさか。そんなこと、ありえるはずが……」
「そ、そうですそうです。きっと、聞き間違いか何かで……」
―――――――――ミツケタァアアアアアアアアアア。
「……」
「……」
さっきよりはっきりと聞こえてきた声に、思わず無言になる二人。
今、この不気味な声の主はなんと言っただろうか?
「ミツケタ」と、そう、はっきりと言っていた。
ここで、先程の話をもう一度詳しく思い出してみよう。
――――書庫迷宮には、過去の迷い人が、『出口を求めて』彷徨っている。
――――『出口を求めて』。
それを思い出した途端、リューとイーリスは全く同じ結論に至った。
『もしかして、彷徨っていた迷い人が、ついに出口を見つけたのではないか?』
と。
「……あ、あはは、まさか。そ、そんなこと……あ、ありえるはずが……」
「そ、そそそそうですそうです……。き、きっと……き、聞き間違いか、何かで……」
一つ前の発言のリピートだが、さっきよりも格段にどもっているし、二人の表情は暗がりでも分かるくらいに強張っていた。
「……と、取り合えず。声がした方へ行ってみましょう。正体だけでも確認しておいた方がいいでしょうし」
「そ、そうですね! あ、悪霊の類ならどんとこいです! 聖女の本領を見せてやりましょう!」
そう、努めて明るく言った二人は、ゆっくりと声のした方向に歩を進める。
断続的に聞こえてくる声を頼りに、一歩一歩慎重に進んでいき、ついに声の発生源と思われる場所にたどり着いた。
「……この、向こうですね」
「……はい」
息をのむ二人の前には他よりも大きめの本棚があり、その反対側は少し開けた空間になっている。そこからはわずかだが光が漏れており、確かに何者かがそこにいることを示していた。
意を決したリューとイーリスは、せーのの合図で、一斉に本棚の向こうを覗き込んだ。
そして……
「見ろセイ! この魔導書の数々! ここは天国だぞ!!」
「あーはいはい、そうですね。どうでもいいですけど、調査に戻らないでそんなことしてていんですか?」
「調査? ………………………………ああ」
「オイコラ。忘れてたでしょう。完全に忘れてましたね? ……たっく、これだから魔法バカは……」
「わ、忘れてなどおらぬぞ! し、しかと覚えておったわ!」
二人の視界に飛び込んできたのは、数え切れぬほどの本の山と、その前に立つ二人の男。
本の山を前にして、喜びに満ちた表情を浮かべる魔導士の男―――マギステルと、そんな彼の隣で呆れたようにため息を吐く苦労人感あふれる男―――セイ。
ギルド【ソロモン】のナンバーワンとナンバーツーにして、この書庫迷宮調査の監督を任されている二人……つまり、リューとイーリスが探していた人物が、そこにいたのだった。
誤字報告してくれた方々、助かりました!
感想、評価、ブックマを付けてくださった方々も、本当にありがとうございます。
……あと、テスト期間中にストレス発散のために書いた新作がありまして。よかったらそちらも呼んでくださると幸いです。
内容としては、チート特典貰ったイケメン眼鏡なオタク君が無双する現代ファンタジー侵食系となっております。
タイトルは『オタク式、終わった世界の攻略法』です。
https://ncode.syosetu.com/n9483fd/ ←こちらから読めます。




