リバイヴ・オブ・ディスピア 蹂躙
前回の最後でちょっとピンチ演出してみたのに誰も心配してないのはなんで?もっとリューくんの心配してよ!(今回のタイトル)
リューが自身に降りかかったデバフ―――『魔法封印』に驚いている姿を見て、オロボスは内心で勝利を確信した。
オロボスは、【ライトイーター】というギルドのギルドマスターだ。【フラグメント】のような攻略ギルドで、掲示板で行われている非公式ランキングでの順位は七位と、トップギルドまであと少しということろまで来ている。メンバーの数もそれなりに多く、知名度もかなりのモノ。
それでも、トップギルドと比べてしまえば、どれも見劣りしてしまう。オロボスはそのことをずっと気にしていた。ギルドマスターとして、【ライトイーター】を高みへと押し上げたいと、常日頃から考えていた。
そんなオロボスにとって、今回のイベントは絶好のチャンスだった。このイベントで【ライトイーター】が活躍すれば、間違いなくFEO内でのギルドの知名度は上がり、加入者も続出するだろう。そうすれば、トップギルドのどこかを蹴散らし、晴れてトップギルド入を果たすことができるかもしれない。
そう意気込んでイベントに参加したオロボスだったが……三日に渡るイベントの一日目は、完全に一人のプレイヤーに活躍を取られてしまった。
神官、リュー。オロボスもウワサだけは知っている人物だった。
一応ギルド【フラグメント】に所属しているが、パーティープレイを一切せずに、ソロプレイを貫き続ける異端の神官。その戦い方も異端の一言に尽きる。巨大なメイスを振り回し、空を飛び、ドラゴンを召喚し……。見ていると、あれ? 神官って何だっけ? といいたくなる。味方の回復、補助が主な役割であるはずの神官職に真っ向からケンカを売る存在。リューのウワサを聞いた【ライトイーター】に所属する神官職の面々も、「……え? コイツ神官なの? 俺たちと同じ? マジで?」と驚いていた。
そんなリューは、イベントが始まった途端、重要キャラであろう聖女を救い、そのまま護衛役になり、遠くのフィールドへの転移陣を設置し、その際にボスモンスターを二体討伐している。正直、やりすぎなくらい活躍している。
このままいくと、イベントのMVPは間違いなくリューになってしまう。オロボスはリューに【ライトイーター】が活躍する機会を奪われたように感じた。もともとギルドとして完全に【ライトイーター】の上位互換のような扱いを受けている【フラグメント】のことをあまりよく思っていなかったオロボスは、どこかではその感情が理不尽だと分かっていても、それを止めることができなかった。それに加え、ギルドのことを抜きにしても、とある理由でオロボスはリューのことが気に入らなかった。
そうは言っても、オロボスたちにできることなど無いに等しかった。闇討ちのような真似はできず、悪評判を流そうにもリューが聖女を救ったシーンはプレイヤーの全員が見ているので、説得力が皆無である。
これはもう、決闘でコテンパンにするしかねぇ。結局、オロボスたちはそんな短絡的な結論にたどり着くことしかできなかった。
しかし、そうは言っても相手はソロでボスモンスターを屠るような本物の実力者。【紅月の単独征伐者】の称号は伊達ではない。真正面から向かっても負けるのは目に見えている。
どうすればいいのか、と考えていたオロボス。そこに、とある人物が声をかけてきた。
――――ねぇ、あの神官を倒したいのよね? なら、いいものがあるのだけれど。
ローブのフードで顔を隠した怪しい人物だった。声から女であることは分かったが、ローブが隠蔽効果を持っていたのか、プレイヤーネームもレベルも分からなかった。
怪しいと思いつつも話を聞くと、その人物はリューに個人的な恨みがあるらしく、一矢報いたいと思っていたらしい。リューを倒して『【ライトイーター】が【フラグメント】のプレイヤーに勝利した』という事実を作りたいオロボスとは利害が一致し、協力することになった。
オロボスは、その人物からリューのことを色々と聞いた。
曰く、リューは近接戦闘を行っているが、それは補助魔法の存在があってこそである。
曰く、リューの手札の中で最も強力なのは【召喚魔法】である。
曰く、リューが飛行するのは、剣を創り出す魔法を使わなければならない。
曰く、リューが得意としている戦法は、ダメージを受けた端から回復魔法で癒し、損傷を気にせず戦うというもの。
つまり、リューの戦力はその大部分が魔法によるものであると、オロボスとその人物は結論付けた。
そして、オロボスが受け取ったのが、[悪魔の封魔薬]という強力なデバフアイテム。これをかけられた相手は一定時間魔法が使えなくなる。戦い方の大半を魔法に頼っているリューにとって、この上なく効果を発揮するアイテムだった。
だった……のだが、
「へぇ、こんな感じにデバフを付与するポーションもあるのか。初めて見たな」
――――リューは、興味深そうに言うだけで、驚きもしていなかった。
「なるほどなー。こういう手もあるわけね。勉強になったわ」
「……ハッ、強がりもそのくらいにしといた方がいいんじゃねぇか? お前、魔法が無いとただの雑魚何だろう?」
「んー……? まぁ、そうだな。強化も出来ないし、空も飛べないか。召喚も無理だなー。まぁ、さっきかけた強化はまだ残ってるし、問題ないかな」
つらつらと自分が出来ないことを述べていくリュー。だが、その表情はどこまでもにこやかで、自分がピンチに陥ったなんてまるで思っていない様子だった。
オロボスは、それを嘗めているととったのか、苛立ちに眉を吊り上げた。そして、その感情のままに吐き捨てる。
「ケッ、状況も分かんねぇのかよお前。今のお前は雑魚でしかねぇんだよ。分かったらさっさと俺らにやられちまえよ。ハハッ、そしたら見ものだよなぁ。なんせ、天下の【フラグメント】様のメンバーが俺ら相手に負けるんだぜ? くくっ、こんな簡単に勝てんのかよ! もしかして、【フラグメント】も雑魚ばっかりなのかァ!? 例えば……ギルマスのアポロとかもよ……」
オロボスは、逆鱗に触れた。
「【クイックステップ】」
リューの姿がオロボスの前から消え去った。
「【インパクトシュート】、【パワークラッシュ】」
リューが出現したのは、魔導士ウディタの眼前。
リューは左足を地面にたたきつけるようにして震脚すると、右足の廻し蹴りをウディタの膝あたりに叩きつける。
足払いと呼ぶには威力のありすぎる蹴りは、ウディタの体を宙に浮かした。
そこに叩き込まれる紅戦棍の一撃。体勢を崩したことにより防御もできずに直撃を許してしまったウディタは、HPを全損させた。
「なッ!? クソッ、お前ら! あいつを止めろ! 今のあいつはただの雑魚野郎だ!」
オロボスの指示に従って、リューへと攻撃が放たれる。アーツによって一瞬でリューの元へ移動したレージンが、納めた刀の柄に手を添え、居合の構えをとる。
「喰らえッ! 【居合一閃】!」
放たれる神速の抜刀術。だが、リューはそれを紅戦棍を盾に簡単に受け止めてしまった。
「何!」
「それ、さっきと軌道がまるで変わってないぞ。分かりやすすぎる」
そう言うとリューはレージンの襟元に手を伸ばし、ガシッと掴む。
そして、「フンッ」と力を籠め、後方へとぶん投げた。
レージンが飛んでいった方向には、丁度リューへ奇襲を仕掛けようとした暗殺者アディがいた。突然飛んできた仲間に驚いて、すぐに飛び退こうとするが間に合わず、レージンと衝突してしまう。
もつれあいながらゴロゴロと転がっていくレージンとアディ。リューは一度跳躍してから空中で【バックステップ】を使用。瞬間移動でリューが表れた先は、レージンとアディが二人仲良く転がっている場所だった。
「【タイラントプレッシャー】!」
降り注ぐ衝撃の鎚が二人を打ち据え、HPを削り、着地と共に連続で振り下ろされた紅戦棍がトドメとなる。
レージンとアディを同時に倒したリューは、耳に聞こえてきた『ヒュッ』という音を頼りに、その場に身をかがめる。その頭上を強弓士アイゼンの放った矢が飛んでいった。
リューは目視することなく体勢を下げたままアイゼンの方向に駆け出した。
「ぬぅ! 二度はやられんぞ! 神官よ!」
リューの前に再度立ちふさがる守護騎士オルダ。どうやらアイゼンはオルダの背後に隠れているらしく、姿が見え隠れしていた。
「こいッ! 【ガーディアンシールド】、【フォートレス】、【イモーバブル】ッ!!」
どっしりと盾を構え、次々にアーツを発動させるオルダ。その決意に満ちた眼差しは、「絶対にここは通さんッ」と何よりも雄弁に語っている。
だが、それを裏切るのがリュークオリティ。リューはオルダへと正面から突っ込み、彼の構える盾の上部を片手でつかむと、跳び箱を跳び越すような形でオルダの頭上を飛んだ。
そして、着地した先にいたのは、オルダの背に隠れるようにして攻撃の準備をしていたアイゼン。突如、頭上から現れたリューに、驚愕の視線を向ける。
空から強襲してくる深紅に染まった巨大なメイスを持つ、めっちゃ笑顔な漆黒の影。アイゼンの目にはどう映ったのか。驚愕の後に浮かべられた恐怖に引き攣った顔を見れば答えは言わなくても明白だった。
「ヒィッ!?」
「人のこと見て悲鳴上げるとか失礼な奴だなー。おら、《獣撃》、【スケイディングシュート】ッ!」
繰り出されたヤクザキックがアイゼンの腹にめり込み、その体を宙に浮かせる。次いで放たれたメイスの打撃が浮いた身体を地面にたたきつけ、バウンドしたところを腕甲冑の手刀が襲う。
「【スラッシュ】」
「アガァアアアアアアアアッ!?」
「あ、アイゼン!?」
リューがいきなり消えたことの驚いていたオルダは、そこでやっと背後で行われていた凶行に気づく。だが、それは遅すぎた。
リューがオルダの頭を背後から掴み、グイッと引いた。そうすると、重心が後ろに傾き、踏ん張ることもできずに仰向けに倒れてしまう。
「オルダ! クソッ、【エアロリッパー】!」
アイゼンがやられ、オルダが倒されているのを見て、今までリューが味方に密着しすぎていて攻撃ができなかった風導士エフォスが風の刃を放つ。素早さに優れた一撃だが、リューが《黒刃展開》で腕甲冑に生やした黒き刃を振るうことで霧散させられる。
リューは生やした刃で倒れているオルダを何度か斬り付け、追加のメイスを雨あられと降らせる。紅戦棍の打撃は重く速い。オルダのHPはみるみるうちに削られていく。
だが、順調に削れていたHPが、オルダの体を包む光と共に回復していく。リューはとっさに視線を巡らすと、自分から離れた場所に立つ司祭クートルの姿を視認する。
彼とリューとの距離は十数メートル。その間には誰もいない。それと、こちらに向かってくる炎戦士オッドムの姿が確認できた。
「一撃で……《獣撃》、【ハイジャンプ】」
リューはオルダへの攻撃を中断し、置き土産とばかりに《獣撃》込みでオルダの顔面を踏みつけ、【ハイジャンプ】で宙へと舞い上がる。少しばかり前方に跳躍することで数メートルを稼ぎ、次いで【クイックステップ】を発動。前方五メートルのところに瞬時に移動し、そこでくるりと体の向きを変え、さらに【バックステップ】を発動した。
クートルの頭上四メートルほどに出現したリューは、落下の勢いをそのままに、クートルの頭頂部に【フォースジェノサイド】を発動した一撃を叩き込んだ。
ズドンッ! と闘技場の床が揺れるほどの衝撃が走り、クートルの身体とHPが吹っ飛んだ。
「これで回復役は全部殺ったから……おっと、危ない危ない【タイラントプレッシャー】」
横薙ぎの紅戦棍から発生した衝撃波がリューに迫っている風の魔法とぶつかり、宙で爆ぜた。
「くそッ、なんで気付けるんだよ!」
風導士エフォスが悪態をつき、次の魔法の準備をする。リューはそれを見て、すぐさまそちらに駆け出した。
「く、来るな! 【ゲイルストライク】!」
「やなこった」
エフォスから放たれる風の砲弾を、横っ飛びで回避したリュー。「だからなんで避けれるんだよ!」とエフォスが叫ぶが、リューがそれを教えるわけがない。
実際は、エフォスが魔法を放つ時に、照準を付ける様に伸ばされた腕の延長線上を避けているだけなのだが、それに気づけないエフォスにとっては、不可視で回避がしづらいはずの風魔法を、まるで見えているかのように回避するリューの存在は、理不尽以外の何物でもなかった。
「ほい、【エコーブロウ】」
「うぐっ」
「そらっ、【インパクトシュート】」
「ぐはぁッ!?」
結局、三発目の魔法を放とうとしたところで、接近したリューにぶん殴られ、蹴り飛ばされてHPを全損させた。
と、そこでリューにかかっていた強化の数々が切れる。「おろ?」とそのことに少しだけ反応するが、すぐになんでもないように笑みを浮かべるリュー。その笑顔は、獲物を前にした獣のそれである。
紅戦棍を片手で弄びながら、自分を見つめる三つの視線の主に視線を送る。
魔戦闘士オロボス、炎戦士オッドム、守護騎士オルダ。リューに睥睨された彼らは、びくり、と体を震わせた。
オロボスは内心で悲鳴を上げた。なんだこれは、どういうことだ! あいつは魔法だけじゃなかったのか! どうして十二人もいて一人が倒せない! 強い焦燥を浮かべる表情からは、そんな言葉が聞こえてきそうだ。
そこに、リューはさらなる絶望を与える。今まで発動させなかった手札を、ここで切った。
「《狂信の聖戦士》。……残り、三人。さぁ、もっと俺を楽しませてみろ」
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