リバイヴ・オブ・ディスピア 訓練
サファイアから一通りの説教を受けたリューとイーリスは、城を出て草原に出ていた。
「よっしゃ! 行くぞリュー! サファイア! 覚悟しやがれ!」
「あはは……。ま、私も全力でやらせてもらうっすよ、先輩」
そういって、フル装備に身を包んだアポロとマオが笑う。その笑みは喜色を現すそれではなく、闘争に心を躍らせる好戦のソレだ。
その二人だけでなく、【フラグメント】のメンバーの全員が装備に身を包んで隊列を組んでいる。彼らが浮かべる表情もアポロたちと大して変わらない。これから始まる戦いを心待ちにする、ゲーマーの笑顔だ。
「ははッ、まぁ、言いたいことは山ほどあるが……それらは全部、この戦いでぶつけさせてもらうぞ」
「ん、リュー君。全員やっつけちゃおう。皆殺し皆殺し」
「ああ、皆殺しだ」
それと対峙するは、リューとサファイア。
こちらも浮かべる表情は笑み。リューは戦いに飢えた獣の笑みを、サファイアはリューのそれを見て恍惚の笑みを浮かべている。
しかし、二人の様相というか体勢というか、そう言ったものは、ちょっとおかしなことになっている。
まず、二人がいるのは空中。リューが【ソードオブフェイス】で作り出した長剣を片手に持ち、それで浮いているのである。
そして、サファイアはリューに片手で抱えられ、首に腕を絡ませるようにして抱き着いている。まるで木にしがみつくコアラのようである。ぎゅっと体を寄せて、その密着度は特Sランク。下で見ている後輩の笑顔がピクリとひきつる。ついでにパルケルの顔から表情が消え去ったりもする。
「み、皆さーん! 怪我には気を付けて、頑張ってくださいねー!」
闘志のオーラ全開でにらみ合う両方に、アヤメをそばに控えたイーリスからの声援が送られた。イーリスの後ろには、トップギルドの面々が戦うということで集まった野次馬プレイヤーたちが、そわそわと戦いの開始を待っていた。
イーリスの声援に長剣を掲げることで答えたリューは、視線をアポロに注ぐと、二ィと笑みを深めた。
「そんじゃ、始めるか。そっちから来ていいぞ、アポロ」
「へっ、そんな余裕、一瞬で崩してやるぜ! 行くぞお前ら、作戦は……『ガンガン行こうぜ』!」
「「「「「了解ッ!!」」」」」
アポロの合図で、【フラグメント】の面々は戦闘態勢に移行した。それを見て、リューとサファイアも動き出す。
「――――【ソードオブフェイス】」
「――――【マギカバースト】」
リューが魔力の剣を無数に宙に浮かべ、サファイアが杖の先に魔力を集めていく。
そして、【フラグメント】に剣の切っ先が向けられ、サファイアが照準を付けた。それが、合図。
「貫け!」
「発射ッ!」
一斉に放たれる魔力の剣。閃光となりて暴威を放つ魔力の砲撃。
それが【フラグメント】の面々に襲い掛かる。
「くはっ、マジで手加減する気ゼロかよお前ら! 【ガーディアンシールド】!」
真っ先に前にでたアポロが、大型の盾を構えてアーツを発動させ、サファイアから放たれた砲撃を受け止める。
「上空からの攻撃……思ったよりも厄介っすねぇ。【フレイムガトリング】」
マオの放った炎の弾丸の群れが、降り注ぐ剣群を弾き、そらしていく。他の面々も、それぞれの方法で剣を対処した。
「そらそらッ、追加だァ!」
「んっ!」
上空の二人は容赦なく攻撃をばら撒き続ける。時折、地上から放たれる攻撃はリューが見切って躱すか、サファイアの防御魔法によって防いでしまう。
だが、二人の攻撃も中々通らない。一人一人の練度が高い【フラグメント】のメンバーは、上を取られているにも関わらず、的確な対処でHPを守り続け、隙を見て反撃を入れている。
さて、そもそもこれは何をやっているのか。そろそろそれについての説明に入ろう。
空飛ぶリューにだっこされたサファイアVSアポロ率いる【フラグメント】、というこの戦いは、実はとある存在に対する対策のための訓練なのだ。
その『とある存在』とは、勿論のこと、このイベントのボスであるグラシオン・ゲーティスだ。
アポロたち【フラグメント】は決戦の三日後まで、このボスへの対策を徹底することを決めていた。相手は空を飛び、高威力の魔法をまるで児戯のような容易さで放ってくる難敵だ。対策を重ねに重ねることも当然と言えよう。
グラシオンを相手にするに置いて、もっとも注目しなくてはいけないのはどの部分か。その問いに対してアポロが出したのは、『常に上を取られていること』という答えだった。
常に相手よりも高い位置で攻撃できるというのは、戦闘に置いてすさまじいアドバンテージと言える。相手からの攻撃は届きにくく、こちらの攻撃は通りやすい。それに加え、相手の行動を俯瞰的に観察できる。人間の兵器の歴史を見ればわかるだろう。人類は戦いのステージを地から天へとステップアップしているはずだ。
で、だ。そんなグラシオンの対策として、どんな訓練をすればいいだろうかと考えた時、その答えは結構あっさり出た。何せ、彼らのギルドには存在しているのだ。何をどうしたらそうなったのかは理解できないが、なんか普通に空を飛んでいる普通じゃない神官が。リューを相手にすれば、対飛行系モンスターの訓練になるという訳である。
サファイアがくっついているのは、リューだけではグラシオンの魔法攻撃を再現できないからである。決してサファイアが私的な理由でくっついているわけではない。無いったら無いのだ。
「よぉし! アポロ! そろそろ大技行くぞ!」
「げっ、マジかよ。お前ら、デカいのが来るぞ!」
サファイアを抱えたリューが笑みを深めて言い放つと、アポロがひくっと口元を引き攣らせた。だが、リューの行動は止まらない。
「『我が命に従い我が前に顕現せよ。汝は火口に住まう焔の化身。灼熱の息吹にて我が眼下に蔓延る敵を煉獄の地獄に閉ざせ』!」
詠唱を奏で、天に坐すは深紅の魔法陣。リューの眼前に現れたそれは、不可視の圧力を放ちながら魔法の完成を待つ。
「焼き尽くせ! 【召喚『サラマンダーの息吹』】!!」
あらわれるは深紅の巨竜。開かれる牙の生えそろった口。喉奥で光るアカ。殺意に濡れる瞳。
そして、火炎はまき散らされた。
「おわっ!? 予想以上に強力……!? 【ガーディアンシールド】、【フォートレス】、【マジックレジスト】、【レッドタリスマン】!」
迫りくる炎の波を前にしても、太陽の騎士はひるまない。しっかりと盾を構え、複数のアーツを発動し、背後の仲間を守る。
そして、やがて火炎が晴れて、それに耐えきったアポロが見たものは……。
「ん。取り合えずアポロが厄介。今のうちに倒す」
杖の先をこちらに向けた、サファイアの姿。
さらに、サファイアの言葉に同調したリューまでもが、いつの間にか創り出していた【ソードオブフェイス】の大剣を、アポロの方へ向けていた。
「「覚悟しろ、アポロ」」
二人が声をそろえ、まったく同じ笑顔を浮かべて見せた。
数瞬後。
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああッ!!?」
そんな悲鳴と共に、宙に吹っ飛んだアポロの姿があったとか無かったとか。
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