期待はずれなリベンジマッチ
更新が遅くなって申し訳ございません。しかも、ちょっと短めです。
「グギャァアアアアアアアッ!!」
えい、ぐしゃっ! という感じで、ゴブリンの頭蓋を砕く。ゴブリンの頭にめり込んだ[初心者メイス]を引き抜きつつ、左側から迫って来た別のゴブリンに[鉄のメイス]をぶち当てる。光が散るようなエフェクトが表れ、こめかみに[鉄のメイス]が沈んでいるゴブリンのHPが全損した。クリティカルヒットだ。
両手のメイスを絶え間なく振るうことで、ゴブリンへの牽制と、攻撃の阻害を行い。隙を見て頭部に強力な一撃を叩き込む。いつの間にか広がっていたレベル差のおかげで、ゴブリン相手ならほぼ一撃で倒せるようになってきた。まぁ、レベル差があるともらえる経験値が激減するので、レベル上げにはならないんだけどな。
「これで、ラストォ!!」
両手をクロスするようにして両方のメイスを叩き込み、最後の一体をポリゴンに変換。戦闘終了である。
さてと、これで二十五体ゴブリンを倒した。昨日と同じなら、これでホブゴブリンとエンカウントできる。今度は負けたくないから、しっかりと準備をしてから挑もうか。
頭の中で、昨日のホブゴブリンとの戦闘を思い返す。記憶力はいい方なので、その光景が鮮明に思い返せた。
どこから、どんな角度で、どんな攻撃が、どんな威力を以て襲い掛かってくるのか。攻撃していた時のホブゴブリンの動きは? それ以外の行動のパターンも思い出し、どう対処すればいいのかを考える。相手の行動ルーチンを丸裸にするつもりで、記憶から情報を掘り起こしていく。
まぁ、所謂イメージトレーニングってやつだ。ゲームのエネミーって、行動パターンが大体決まってるやつが多いから、それを分析してしまえば、まぁ、大抵は何とかなる。
と言っても、一人用のVRゲームの話だからなぁ。FEOでも通用するかは不明だ。
思い返してみる限り、ホブゴブリンは単調で分かりやすい行動ルーチンをしている。ゴブリンはホブが頭についてもゴブリンってことか。攻撃パターンが四種類て……少なすぎるだろ。それでいいのか、中ボス。
そうやって昨日のことを思い返していると、当然のようにあの光景のことも思い出す。空腹状態で動くことができない俺。それをニヤニヤしながら見下ろすホブゴブリン。そして、フルボッコにされる俺。
……ああ、思い返すだけでも腹立たしい。いや、百パーセント俺の油断が生んだ結果で、自業自得だとはわかっている。わかっているのだが……。
攻撃パターンが四種類しかないようなヤツに見下されたって言うのが、すっげぇムカつくんだよなぁ。
というわけで、だ。
「八つ当たりに付き合ってもらうぞ、ホブゴブリン」
そういって、エンカウント早々、メイスの先端をホブゴブ(片手斧装備)に向ける。ホブゴブは、いきなり八つ当たり宣言に、ビクッ、と驚いたような反応をした(気がした)。
さぁ、驚いてる暇など与えんぞ。タコ殴りにしてくれるわ!
妙なテンションで、頭頂部を狙ってメイスを叩き付ける。先手必勝だ。
その打撃は片手斧で防御される。だが、俺にはもう一本メイスがあることを忘れてもらっては困る。
片手斧と拮抗するメイスをそのままに、もう片方のメイスを思いっきり胸板に叩き付ける。衝撃に後退するホブゴブリンに、さらなる殴打をプレゼントフォー・ユー。さらに、体勢を整える前に蹴りを加える。
くくく……。反撃の隙をもらえると思うなよ? さぁ、デストロイタイムの始まりだぜ!
「ハァアアアアアアアアッ!!」
「グギャァアアアアアアアァァァッ!!」
やられっぱなしでは終わらないとでも言いたいのか、ホブゴブリンも反撃をしてくる。そう、四種類しかない攻撃パターンを使いながら。
まず、片手斧で唐竹割りをしてくる攻撃。片手を大きく振りかぶるというわかりやすい準備モーションがあるので、一番対処がしやすい。メイスを振り上げた腕に叩き付けることで攻撃をキャンセル。
どうやら、モンスターは攻撃を阻害されると、硬直時間のようなものが発生するようだ。その隙に連撃を叩き込む。
次の攻撃は、横薙ぎ。これも準備モーションが分かりやすい。斜めに片手斧を振り上げたところで、グイッと接近。ほぼ密着するような位置に陣取り、膝蹴りをホブゴブのどてっぱらに叩き込む。硬直時間が発生、メイスを握りしめた拳を顔面、鳩尾、腹と三連発。少し距離が離れたところで左右のメイスを同時に叩き込む。
さぁ、次の攻撃は………………って、あれ?
「グ、グフ……。グガァ……ァ……」
バタリ(ホブゴブが地面に倒れる音)。パァアアアア(ホブゴブの体がポリゴンに変換される音)。
あ、あれぇ……? 死んだ……? あいや、俺が撲殺したんだけど……。あれぇ?
そういえば、ホブゴブのHPゲージ全く見てなかったけど……。まさか、こんなに簡単にKILLっちゃえるなんて思ってなかったな。もう少し根性見せろよ軟弱者(理不尽)。
それにしてもなぁ……。あれだけ意気込んで挑んだのに、結果がこれって……。なんだかなぁ。
うん、すっごく消化不良です。胸中がすっごくもやもやする。このもやもやを解決するには、アレしかないよな。
というわけで……。
「次のホブゴブぅ! 早く俺に次のホブゴブをよこせェええええ!」
別のホブゴブでストレス発散じゃい! ホブゴブ狩りだ! ……って、その前にゴブリンの乱獲しないと。じゃあ、ゴブリン狩りだな。
とまぁ、そんな感じで。
こらえきれない欲求の波に乗りに乗った俺は、自分でもよくわからないテンションを維持しながら、笑顔でゴブリンをデスりまくり、楽し気にホブゴブリンを殴殺しまくった。
我に返ったのがお昼前。昼食の準備をするという使命が、何とか俺を正気に戻してくれた。我に返り、自分がしでかしたことを思い返してみて…………俺は、頭を抱えてその場にうずくまった。
な、何してんだ……。すっげぇ恥ずかしいことしてたぞ、俺ェ……。
ストレスに負けて、あんな醜態をさらしてしまうなんて、アホ二人に知られたらどれだけ馬鹿にされるのやら……。いや、二人だけじゃなくて、誰にも知られたくないな、うん。
幸い、ここは人気の少ない『乾燥した荒野』。他のプレイヤーの姿は見てないし……。大丈夫大丈夫、キットバレテナイヨ。
そんな風に羞恥に悶えながら、俺は安全地帯から、逃げ出すようにログアウトするのだった。
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