リバイヴ・オブ・ディスピア 休憩
更新が遅れてしまい、すみませんでした!
今回は休憩回です。
防壁の建築は順調に進んでいた。
築かれる防壁は、『星形要塞』という中世ヨーロッパで実際に使われていたものを原型にして作られている。火砲……つまりは銃撃や大砲などの遠距離攻撃に対する防壁である星形要塞を選択した理由を、見学に来ていたリューがガンダールヴに聞いてみると、「なんかカッケェだろ?」という言葉がイイ笑顔とセットで返って来た。
なんとも不安になる感じだが、そこは天下の生産ギルドの職人たちが総出で作っているおかげで、防御性能はかなりのものになっていた。ガンダールヴに頼まれたリューが紅戦棍を叩き込んでみても、強化無しだと壁面に少しひび割れを作る程度だった。
「……え? 強化無しで神官職があの壁に罅入れた?」
「バカな……オーガの一撃でも無傷になるようにしこたま強化したんだぞ……?」
「これが神官(笑)と呼ばれるリューの実力か……。確かに、神官が何たるか分かんなくなってくるな」
そんなことをヒソヒソと話す野次馬には、にっこり神官スマイルが向けられる。ビクッと肩をこわばらせて散って行く野次馬たちを見て、リューはため息を吐き、ガンダールヴは大笑い。イーリスは笑いをこらえるために顔を逸らしていた。
建築中の防壁を見学し終えたリューとイーリスは一度、城の執務室に戻っていた。HPがゼロになったプレイヤーが復活する祭壇の設置はガンダールヴの謝罪の後、すぐに終わらせているので、現在の二人にやらなくてはいけないことは特にない。
というわけで、休憩タイムに突入である。
執務室に備え付けられたティーセットを使って、リューは紅茶を淹れる。魔道具であるポットで湯を沸かし、ティーポットに茶葉を入れる。この程度なら料理スキルが無くても普通にやることができる。
紅茶はリアルでもたまに淹れることがあるリューの手つきは淀みない。茶葉の量、湯の温度、蒸らす時間。カップを温めておくのも忘れない。
そうして淹れられた紅茶は、ダージリンに似た良い香りがした。
「イーリス様、どうぞ」
「ありがとうございます、リュー様。すみません、こんなことまでさせてしまって……」
「いえ、好きでやっていることですので。……それに、あの二人の世話に比べたら、こんなの仕事のうちにも入りませんよ」
「へ、へぇ、そうなんです……ね」
テーブルに乗せられたソーサーにティーカップを音もなく置きながら、遠い目をするリューに、イーリスはどう返していいか分からず困ったような笑みを浮かべる。
「……っと、すみません。なんか、愚痴っぽくなっちゃいましたね」
「構いませんよ。リュー様のいろんな一面が見れて、嬉しいです」
「うぐっ……」
悪戯っぽく笑みを浮かべてからかうように言うイーリスに、恥ずかしそうにそっぽを向くリュー。その頬は少しだけ朱が刺しているように見える。イーリスが「くすっ」と笑い声を漏らすと、朱に染まる範囲が広くなった。
「くっ……あんまり人をからかうのはよくないと思いますと、イーリス様?」
「ハヤテ様の背中の上でされたあれやこれやを、私は忘れてませんよ。リュー様?」
「ちょ、人聞きの悪い言い方はやめてください!? それじゃあ俺がイーリス様にセクハラしたみたいじゃないですか!」
「セクハラ……というのが何かは分かりませんが、辱められたのは事実ですもの」
「さらに酷くなった!? いや、確かにイーリス様の反応があんまりいいから、調子にのって楽しんだ感がありましたけど……!」
リューとイーリスが口論……と呼ぶには和やかさが勝ちすぎるやり取りに熱中していると、執務室の扉がノックされ「たのもー」と気の抜けた声が扉越しに聞こえてきた。
「大体、リュー様は……」
「いや、そこはイーリス様が……」
その声に、ヒートアップしている二人はまるで気が付かない。
声の主は、いつまでたっても返事が無いことを不思議に思ったのか「入ります」と断ってから、ガチャリ、と扉を開けて部屋の中に入って来た。
「リュー君?」
声の主の正体はサファイアだった。リューの名前を呼びながら遠慮気味に執務室に足を踏み入れる。
そして、そんなサファイアの目の前では……。
「リュー様! さっき森でリュー様にすごく密着されたこと、私は忘れてませんからね!」
「まるで俺の方から迫ったみたいな言い方ですねぇ!? あれはイーリス様が俺を押し倒したんでしょう?」
「わ、私はそんなはしたないことはしませんっ!」
「…………ねぇ、リュー君?」
聞こえてきた声に、口論を続けていた二人がびくりと肩を震わせる。その声は、地の底から響いてきたかのように重いものだった。
ぴたりと動きを止めたリューとイーリスは、恐る恐る声の聞こえてきた方へと振り返る。
そこには、暗く澱んだ瞳で二人のことを見つめるサファイアの姿があった。その眼光に晒されたイーリスが「ひっ」と小さく悲鳴を漏らす。
「さ、サファイア? どうしてここに……?」
「ん、ちょっとリュー君に用事があった。……それより、さっきから、何の話をしてる、の?」
「な、何のって……世間話?」
「ふぅん……。押し倒すとか、はしたないとか、そういう言葉が出てくる、世間話?」
「………………」
サファイアの声には、いつもに増して抑揚が無い。淡々とした口調で行われる詰問に、リューは流れるはずのない冷や汗が背中を伝うのを感じた。このままじゃ、ヤバい。そう直感的に悟ったリューは、何とかこの状況から脱しようと思考を巡らせる。
だが、その隙にサファイアが動いた。サファイアは彼女の迫力に当てられて青ざめ震えているイーリスに音もなく近づくと、その耳元でそっと囁く。
「……聖女様、何が、あったの?」
「ひゃ、ひゃぁいッ!? べ、別にこれと言って特筆すべきことなど何もありませんよ!?」
聖女様、焦り過ぎである。
「……ふぅん」
スゥ……、とサファイアの目が細められる。それだけでその小さな体から発せられる迫力が五割は増した。
リューとイーリスはぐっと言葉を詰まらせると、数瞬のうちにどちらからともなくサファイアの前にそっと正座すると、どちらからともなく口を開く。
「「…………ちゃんと説明しますので、話を聞いてください」」
「……ん、許す」
「「ありがとうございます」」
素直に平伏するリューとイーリス。今のサファイアにはそれをさせるだけの凄味があった。
その後、サファイアを納得させるだけの説明をするのに、実に三十分を有するのだった。
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