リバイヴ・オブ・ディスピア 儀式
赤鬼は、リューの想像以上にタフだった。
拘束されながら紅戦棍と大剣でボコボコにされても中々減らないHP。そして、HPが減少するにつれて上がっていく防御力。終いには拘束すらも振り切って暴れ出したバーサクモード。
炎のブレスは拡散するようになり、六角棒が二本に増えたりと、弱らせれば弱らせるほど厄介になっていくという特性を持っていた赤鬼を倒しきるのに、実に三十分以上もの時間を必要とした。
とはいえ、バーサクモードになり回復した赤鬼の両足をもう一度へし折り、アヤメも加えてボッコボコにし始めてからはあっけなかったが。
そうして、岩山フィールドに『転移陣』を設置した二人は、それを使用して一度城に戻った。城の『転移陣』から出てきた二人を見て、「え、はやくない?」という顔をしたプレイヤーがいっぱいいたとかいないとか。
「と、いうわけで。今度は森フィールドですね。イーリス様、もうハヤテにのっても泣いたりしませんか?」
「さ、さっきだって泣いてなんかいません!」
「そうですねー、泣いてないですもんねー」
「リュー様! 目が笑ってます!」
「おっと、これは失礼」
そんなやり取りを挟みつつ、今度は森フィールドを目指す二人。ハヤテの背に乗り、襲い掛かってくるモンスターを片っ端から斬り捨て御免。もしくはハヤテの踏み台となり潰れていった。
森フィールドへの道のりが岩山フィールドへのそれより短かったのと、最初からイーリスの強化魔法を使っていたおかげで、最初よりもずっと早く到着することができた。
そうして、森フィールドにたどり着いたリュー達を待ち受けていたのは……。
「キャシャァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
案の定、フィールドの入口をふさぐボスモンスター。
森フィールドのボスモンスターは、『モータプルヘッドサーペント』。十三の頭部を持つヒュドラのような蛇のモンスターだった。
攻撃方法は鎌首をもたげてから、勢いを付けた噛み付きと、長い首を鞭のように振るう攻撃。さらり、十三の首を連続で叩きつけてくる攻撃に、口から吐き出される毒弾と厄介なモノばかり。
極めつけに、HPゲージが首の一本につき一本ずつ存在し、一つでもHPゲージが残っていれば、他のHPゲージが恐るべき速さで回復していくという嫌がらせのような特性。
リューは【ソードオブフェイス】で剣を十三本創り出し、チクチクと同時にダメージを与え続け、止めは【召喚『サラマンダーの息吹』】で一気に焼き払うことでこのモンスターを降すことに成功した。
「……なんか、ボスモンスターの采配に悪意を感じるんだよな……」
粒子に変換される多頭蛇を眺めながら、そうつぶやくリュー。
HPが減るにつれて防御力が上がったり、倒し方が厄介だったりと、あまり時間をかけていられないというこの状況に、的確にぶっ刺さるような特性を持つ二体のボスモンスター。そこに誰かしらの意図が絡んでいる気がしてならない。
「どう思いますか、イーリス様?」
「……確かに、そう言われると気になりますね」
「ボスモンスターの種族が、フィールドにあってないような気もしますし……。まぁ、詳しく考えるのは『転移陣』を設置してからにしましょうか。お願いしますね、イーリス様」
「はい! お任せください!」
力強く言い切ったイーリスは、ボスエリアだった森の広場の中央に移動すると、膝をついて胸の前で手を組んだ。
そっと顔を伏せ、瞳を閉じると、桜の花弁のような唇をゆっくりと開く。
「『天上に住まう神々に願い奉る―――』」
詠唱が始まる。それは、神に向けた祈り。
「『聖女たる我、イーリスが、汝らに望むは門の力―――』」
祈るイーリスの身体から純白の光子が現れる。それは静かに、されど確実に世界に浸透していく。
「『此方を彼方へ、彼方を此方へ。二つを一つに繋ぎ給え―――』」
一度空に舞い上がった光子は地面に降り立ち、そこに模様を描いていく。少しづつ少しづつ、複雑な模様が現れていく。
「『開け開け、開き給え。次元を超える奇跡の御力、今此処に』!」
最後の言葉が紡がれ、世界に光が満ち満ちた。
光子が創り出した紋章が広場いっぱいに広がり、幻想的な七色の光をまき散らす。
辺りを照らした光が収まると、イーリスを中心に、光を放つ幾何学模様が地面に刻まれていた。
これこそが『転移陣』。教会の持つ、空間跳躍の秘術。
儀式が終わるまでを、じっと見つめていたリューは、ほぅと感嘆の声を漏らした。七色の光に包まれ祈りを捧げるイーリスの姿は、聖女の名を知らしめるかのように神秘的だった。
閉じていた瞳を見開いたイーリスは、『転移陣』に問題が無いことを確かめると、安堵のため息をつく。
「……ふぅ、成功です」
「お疲れ様です、イーリス様。これでクエストクリアですね」
「はい!」
満開の笑みを浮かべるイーリスに、側に近づいたリューは柔らく微笑みながら、手を差し伸べた。
「掴まってください、イーリス様」
「……ふふっ、はい。リュー様……きゃっ」
リューの手を取り、立ち上がろうとしたイーリスは、バランスを崩して前のめりに倒れる。
「おっと、危ない」
そして、お約束の如くリューの胸にボスン、とダイブした。
リューの胸板に顔を押し付ける形となったイーリスは、一拍遅れて己の現状を把握すると、頬と言わず顔全体を真っ赤に染め上げた。
「す、すすすすみません! す、すぐにどきますぅ!?」
「あ、ちょ、あんまり暴れると……うおっ!?」
「きゃっ!?」
イーリスがじたばたと暴れたせいで、リューまでもがバランスを崩し、二人一緒にどてーん! と倒れてしまった。
「いたた……、大丈夫ですか、イーリス様?」
「は、はい。私は……って、ひゃあ!?」
目を開き、思いのほか近くにあったリューの顔に、顔を赤くするイーリス。ついでに言うなら、今イーリスとリューの状態を客観的に表すと……『幼女に押し倒される青年』である。どこぞの変態紳士が見たら血涙を流して怒りと嫉妬で狂いに狂いそうな光景だった。
「はわわわわ……」
「えっと……イーリスさまー? 取り合えず、俺の上からどいていただけませんか?」
あわあわと慌てるイーリスと、そんなイーリスに馬乗りになられながら苦笑を浮かべるリュー。
二人の強行軍は、なんとも締まらない感じで終わりを迎えるのだった。
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