リバイヴ・オブ・ディスピア 草原
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ひとしきり、じゃれついてくるハヤテの相手をしたら、ついに出発である。ハヤテを見て唖然としていたイーリスも復活済みだ。
リューがハヤテの鼻先をポンポンと叩くと、ハヤテはその巨体を地面に横たわらせ、「いつでも乗ってくだせぇ!」とでも言うように一鳴きした。
「完璧に飼いならしてますね……」
数多く存在するモンスターの中でも、その力とプライドはトップクラスといわれる竜種が完全に服従している光景に、イーリスは感心半分、呆れ半分の乾いた笑みを浮かべた。
「イーリス様、こちらに来てくれますか?」
「は、はい」
リューに呼ばれて、イーリスは恐る恐るハヤテに近づいていく。リューに服従している姿を見ているが、三メートルを超えるドラゴンを前にして、恐怖心が中々ぬぐえない。
そんなイーリスの微笑ましい様子に、リューはくすりと笑みを漏らした。
「イーリス様、そんなに怖がらなくても、ハヤテは噛み付いたりしませんよ」
「うぅ、分かってはいるんですけど……やっぱり、少し怖いです」
「グァ!?」
イーリスに怖いと言われたハヤテが、ショックを受けたような鳴き声を上げた。
「大丈夫ですよ、イーリス様。ほら、こうしても……」
リューは尻込みするイーリスの手をそっと取ると、そのままハヤテの背中に導いた。
「ひゃっ」
可愛らしい悲鳴を上げるイーリス。いきなり怖がっていたハヤテに触れさせられたことよりも、リューに手を握られたことに驚いたのは、ご愛敬というやつだろう。
イーリスは掴まれている方の手と反対側の手でとっさに口を押えると、クスクスと忍び笑いをしているリューをじとりと睨みつけた。
「もうっ! リュー様! いきなり何するんですか!」
「すみません。けどほら、大丈夫だったでしょう?」
そう言って、優し気に微笑むリュー。ハヤテに触れるイーリスの手は、恐怖に震えることもなく、平然としていた。
リューに言われて、それに気づいたイーリスは、ゆっくりとハヤテの背中に乗せられた手を動かしてみる。手のひらに冷たくすべすべした感触が返ってくる。撫でられたハヤテは気持ちよさそうに「グァアア」と鳴いた。
「ふわぁ……。こうしてみると……可愛いですね」
「そうでしょう? では、実際に乗ってみましょうか」
「はい!」
まず、リューがハヤテの背に乗る。そして、一人で乗るには少し背の足りないイーリスの手を取り、自分の前に座らせた。
しっかりとまたがったのを確認したリューがハヤテの背を二回叩くと、それを合図にハヤテが立ち上がった。いきなり上昇した視界に、イーリスが「きゃっ」と可愛らしい声を漏らす。
「け、結構高いですね……」
「怖くないですか、イーリス様」
「だ、大丈夫です」
「そうですか。では、出発……の前に、道中のモンスター対策をしておきましょうか」
「モンスター対策?」
不思議そうに首を傾げるイーリスに、「見ててください」と言って、リューは【ソードオブフェイス】を詠唱し始めた。
最後の一節が唱えられると、ハヤテの周りに刃渡り二メートルを超える大剣が四本現れた。光で形作られたそれは、リューの意志に従って宙を縦横無尽に駆け回り、また元の場所に戻った。
「これでよしっと。それでは、出発しましょうか」
「は、はい!」
自分を守るように宙に浮かぶ大剣に目を奪われていたイーリスは、話しかけてきたリューに慌てて言葉を返した。
「しっかりつかまっていてくださいね、イーリス様」
「え、あ、はいっ」
「では……。飛ばしていくぞ、ハヤテ。ゴーーッ!」
「グァアアアアアアッ!!」
リューの合図に高らかに答えたハヤテは、後ろ足にぐっと力を籠め、地面を蹴って走り出した。急な加速にイーリスが背後のリューの胸にもたれかかるように倒れた。
「ひゃっ、ご、ごめんなさい!」
「気にしないでください。その体勢の方が楽なら、そのままいてくれて構いませんよ。それに……ハヤテの本気は、ここからです!」
そう言って、リューがハヤテの腹を蹴って加速を命じる。ハヤテは主の命令に忠実に従い、さらに走る速度を増した。リューはそれに合わせて浮遊させている四本の大剣を付随させる。
景色がものすごいスピードで後ろに流れていき、あっという間に出発地点である城から離れてしまった。
「へ? え、あ、ひ、ひゃぁあああああああああ~~~!?」
まったく未知のスピードに悲鳴を上げるイーリスは、思わず後ろのリューの体に抱き着いた。平時なら近すぎるくらいの密着具合に赤面しているところだが、そんな余裕は微塵もない。
「リュー様!? 速い速い速い! 速いですぅううううう!?」
「そうですか? けど、速いに越したことはありませんし……」
「それはそうですけどぉ~~~~!!」
「大丈夫ですよ、イーリス様。怖いなら、そうして掴まっててくれて構いませんから」
胸元に縋りつき、涙目になっているイーリスに微笑みかけ、優しい言葉を囁きつつも、速度は一切緩めないリュー。
「ひゃぁあああああああああ~~~~~~~!! リュー様のばかぁあああああああああっ!!」
聖女様の悲鳴を靡かせ、進路上に現れるモンスターを大剣の錆にしながら、草原を爆走していくのだった。
走る、走る。
途中で出てきたグレイウルフをすれ違いざまに上下に分断し、飛来するシークホークを刺し穿ち、ゴブリンの群れは大剣の上にハヤテをのせ頭上を通過。高速で走るハヤテと、その背に乗り殺戮をまき散らすリューの姿は、まさしく『殺戮ライダー』であった。
岩山フィールドに向かう道のりは、おおむね順調であると言っていいだろう。
問題らしい問題といえば……。
「リュー様! 聞いていますか!? イーリスは怒っているのですよ!」
「聞いてますよ。確かに先ほどは悪ふざけが過ぎました。イーリス様に怖い思いをさせてしまい、申し訳ございません」
「こ、怖がってないです! ちょっとびっくりしただけです!」
「あはは、そうですね~」
「真剣に聞いてください! リュー様!」
前置きのない急加速に思いっきり怖がってしまった聖女様が、ぷんすかしていることくらいだろうか?
恥ずかしそうに頬を染め、それを誤魔化すように眉を吊り上げ、背後のリューを睨みつけるが、残念ながら迫力がまるで足りていない。リューも真剣な表情を装っているが、口元が少し引き攣っていた。笑いをこらえているのである。
それに目ざとく気づいたイーリスが、不満げにぷくぅと頬を膨らませた。
「あー! リュー様笑ってますね!? 酷いです!」
「……何のことですか(にっこり)?」
「リュー様!」
キャーキャーと騒ぐイーリスと、それを温かく見守るリュー。
楽し気な声を靡かせながら、二人は草原を駆け抜けていく。




