悪戯はほどほどに
総合評価9000越え、ブックマ4000越え、達成。
皆さま、本当にありがとうございます!
チュンチュンと聞こえてきた雀の鳴き声が、俺に朝の訪れを伝えてくれる。
薄目を開けると、目に入ってくるのは見慣れた天井。それと、何か温かいモノが体に引っ付いている感触がした。
何だろう、と霞がかかった頭で思考しつつ、まだ薄暗い部屋のベッドの上で体を起こし、固まった体をほぐすように伸びを一つ。両腕をくんで上に伸ばす。コキコキッと軽い音が鳴った。
まだうすぼんやりとしている目をこすりながら、ベッドから起きようとしてシーツに手を付き―――
ふにん。
………………まさか。
すぅ、と頭が冷えていく。クリアになった視界を、下に向ける。そこには、予想通りの光景が広がっていた。
「むにゃぁ……」
気持ちよさそうに寝息を立てる、パジャマ姿の蒼。俺の手は、その膨らみに乏しい胸の上にあった。手のひらに感じる感触は、薄くとも柔らかく、そして暖かい。
だが、その温もりとは反対に、俺の視線はどこまでも冷え切っていく。静かに蒼の胸から手のひらをどかすと、ゆっくりとベッドから降りる。
そして、あおむけに寝ている蒼の額に手を持っていき、人差し指を親指で押さえつけ、思いっきり力を入れる。準備、完了。
さぁ、全力のデコピンを喰らうがいい!
「さっさと起きんか……このアホがッ!!」
バチコンッ!!
いい音が鳴り響き、親指に遮られていた力が蒼の額を直撃する。ナイスクリティカルヒット。
「きゃんっ! むぅ……流にぃ、いたい……」
額への衝撃で目を覚ました蒼が、涙目でこちらを睨んでくる。
そんな蒼に、にっこりと笑顔を浮かべて見せると、蒼はびくっと体を震わせて目をそらした。
「なぁ、蒼。お前、ここで何をしているんだ? お前の部屋は隣のはずだろ? なのになんで俺の隣で寝てるのか、俺が納得するような理由があるんだよなァ?」
「えっと、その……ね、寝ぼけてた。だから、しょうがない」
「…………なぁ蒼。そんな嘘くさい理由で、俺が納得すると思うか?」
「……そう、思いたい」
「そうか……。というわけで、お仕置きの時間だ」
「あぅ~~。頭が割れるぅ~~~~」
頭頂部をぐりぐり。力を込めてひたすらぐりぐりする。逃げられないように顔をがっちり抑えるのも忘れない。
前におなじ悪戯をされた時も、このぐりぐりの刑をしてやったのだが、蒼は全く反省していないご様子。今回は念入りにやってやろう。
そーれ、ぐりぐり~。
「流にぃ、ぎぶ、ぎぶぎぶ。それ以上は死んじゃう~~」
「大丈夫だ、蒼」
「ふえ?」
「ちゃんと、痛み“だけ”を与えるように調整してやるから、な? 安心してお仕置きされるがいい」
「にゃああああああああっ、ごめんなさぁあああああああああいっ!」
五分後。
俺のベッドの上には、水揚げされた魚のような状態で、蒼が横たわっていた。頭頂部を抑えながら、体をだらーんと弛緩させている。
地味に抵抗し続けたせいでパジャマは乱れに乱れて、汗で肌に張り付いた黒髪とか、ちらりと覗いている胸元とか、思春期男子なら思わず反応してしまいそうな光景が広がっている。まぁ、相手が蒼な時点でそういう欲求はかなり薄れてしまうがな。
俺にとっての蒼は、「同い年の異性」というより、「手のかかる妹」という感じなのだ。考えてもみろ。どこの世界に、妹に欲情する兄がいるというのかね?
だらーんとしてる蒼を見下ろしながら、はぁ、とため息を一つ。
「まったく……。朝っぱらから無駄な体力を使わせるな、馬鹿者」
「うぅ……。流にぃに傷物にされた……。これは責任を取ってもらうしか……」
「ん?」
「なんでもない。悪戯してごめんなさいでした」
うん、素直でよろしい。
たっく、悪戯にしても、ベッドにもぐりこんでくるのはやりすぎじゃないか? 男女七歳にして同衾せずという言葉を知らないのだろうか?
それだけ信頼されているととるか、一緒に寝ても何もできないヘタレだと思われているのか……。まぁ、手を出すなんてありえないんだが。
「とりあえず、今後こういう悪戯をしたら、お前だけ千代原家に戻ってもらうからな」
「うぅ……。それは嫌」
「嫌なら最初からやるな。まったく、お前も女の子なんだからさぁ。もうちょっとこう、慎み深くなってくれるとありがたいんだが……。はぁ、アッシュさんを見習わせたいわ」
「……流にぃ。アッシュさんって、誰?」
「あれ、言ってなかったっけ? 昨日、空腹状態の俺に食べ物を分けてくれた親切なプレイヤーさんだよ」
「ふーん。……その人って、女の人?」
「ああ、そうだけど……。それがどうかしたか?」
「……何でもない。じゃあ、わたしは部屋戻って二度寝してくる」
「二度寝て……。まぁいいや。朝ご飯ができたら呼ぶからな?」
「ん、分かった」
蒼は俺のベッドから降りると、トテトテと部屋から出ていった。ふむ……? 蒼にしては反応が素直すぎる気もするが……。まぁ、いっか。
さて、俺も早くやるべきことを終わらせないと。
まずは朝ご飯だな。今日は何を作ろうかなっと。
流の隣の部屋。蒼はそこで、敷かれている布団にぼふっ、と倒れこむと不満げに頬を膨らました。
そして、じとぉ…とした視線を流の部屋の方角に向けると、ポツリとつぶやいた。
「………………むぅ、流にぃのばか。鈍感、にぶちん、とーへんぼく」
朝ご飯を用意し、爆睡中だった太陽を叩き起こし、二度寝からなかなか帰ってこない蒼を覚醒させ、朝食の席に着かせる。
二人が朝ご飯を食べ終わり、各部屋に戻っていったあと、使った食器を洗い、調理の後片付け。それが終わったら、掃除洗濯その他諸々の家事を一通り終わらせていく。人が三人に増えたので、洗濯物の量がも三倍になったのが、結構大変だった。
すべての家事を済ませ、ちょっと一息とリビングのソファに体を沈めたのが、午前十時。やらなきゃいけないことは大体終わったかね。
今までなら、ここで「この後何しよっかなぁ」とか考えるのだが、今の俺にはFEOがある。昼飯の準備をするまで、ログインするとしますか。ホブゴブリンにリベンジマッチを挑む……前に、食料を買っておくとしよう。
というわけで……。
はい、ログインしました。ログイン地点は始まりの町にある宿屋の一室。昨日ログアウトした部屋と寸分変わらない場所だ。
宿屋から出て、最初に向かうのは道具屋。
別に何かを買うわけじゃない。昨日倒したモンスター共からドロップしたアイテムを売ろうとしているだけだ。ポーション類はまだ余ってるからな。
[黒狼の毛皮]、[ウルフミート]、[黒狼の爪]、[黒狼の尾]、[黒狼の耳]、[ブラックウルフの魔石]、[錆びた剣]、[ゴブリンの爪]、[ゴブリンの魔石]。
それらを全部売ったところ、なんと四千フランにもなった。初期所持金の実に四倍である。ちょっと小金持ちになった気分だ。
続いて向かうのは、武具屋だ。こちらは買い物目的である。
武具屋にて購入するのは、[鉄のメイス]。装備するとSTRに+5される。お値段は千フランとちょっと高めだ。
[初心者メイス]でも十分に戦えていたのに、なぜもう一本メイスを買ったのか。
それは、『メイス二刀流』をするためである。
神官のデメリットである『物理攻撃力低下』。これをどうにかするには、どうすればいいのかを、昨日いろいろと考えてみたのだ。
STRをさらに上げる。新しいスキルを習得する。様々な考えが浮かぶ中で、ふと思いついたのは、「火力が足らないなら、手数を増やせばいいんじゃない?」という案だった。
与えるダメージが低いなら、ダメージを与える回数を増やせばいいじゃない、ということである。
と、言うわけで、手っ取り早く手数を増やすために、空いていた左手にもう一本メイスを装備してみた。両手に持った二本のメイスで敵を殴り殺すというバトルスタイルが、すでに蛮族のそれに近くなっていることに関してはノータッチです。
これで確かに攻撃回数は増えるんだろうけど……。手を使った攻撃ができなくなるな。まぁ、《格闘》スキルは足を中心に使っていくことにしよう。
武具屋での用事を終えたら、門に向かう途中の屋台で[ウルフの串焼き]を十本購入。これで食料も良しっと。
さぁて、待ってろよホブゴブリン。自業自得とはいえ、タコ殴りにされた恨みを晴らしてやる。
流は、蒼を主人公とした乙女ゲーの場合、攻略難易度が跳ね上がる仕様となっております。
 




